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アジア拠点最新レポート
第16回 あらためて注目されるオーストラリア産の食材
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榊原 秋彦 執行役員 兼 アジア中国運用グループヘッド    東京・上海・香港の各拠点から、毎月、最新レポートをお届けします。現地スタッフならではの生きた情報を、ぜひアジア・中国投資にお役立てください。
 
あらためて注目されるオーストラリア産の食材

過去1年あまりの内に現地企業取材のため5回ほどオーストラリアに出張しましたが、その都度感じることが2つあります。一つは入国時の検疫の厳しさ、そしてもう一つは美味しいレストランが目立つことです。これら二つは一見全然関連性の無いことのように思えますが、オーストラリアの特徴を表す重要なキーワードで繋がっており、かつオーストラリアへの投資を行うに当たっての重要な示唆が隠されていると思われます。そのキーワードとはずばり“豊かな自然環境”ではないでしょうか。

まず、入国時の検疫の厳しさですが、ご存知の通りオーストラリアは他の大陸と隔離された環境にあり、独自の生態系を守るために極めて厳しい検疫が実施されています。入国時の細かい書類申請、検疫のための長蛇の列などは旅客にとってある意味迷惑なものですが、その厳格な管理姿勢は守られる側(自然環境)から見れば非常に信頼出来るシステムだと考えられます。こうした厳しい管理体制は食の安全性にも現れており、例えば日本でも地名度の高い牛肉(オージービーフ)については従来から全頭検査・牛の総識別制度が導入され、人間と同じようにその出身がわかるように徹底されています。BSE・口蹄疫など世界を襲った家畜の病気がオーストラリアでこれまで発生してこなかったのは、オーストラリアの肉牛は自然環境を活かした放牧による飼育が中心であることに加えて、こうした官民挙げての厳格な品質管理の成果と考えられます。

一方の美味しいレストランが目立つことですが、食に関しては人それぞれ好みがあり一概には言えないかもしれません。ただ、豪快に焼いた赤身のステーキ、タスマニア島から直送された脂の乗ったサーモンや身の詰まったカキなど、オーストラリアの美味しいレストランの特徴は素材の良さにあり、シンプルな料理ほど美味しいと思います。そしてその素材の良さは、恵まれた自然環境によって育まれたものと言えるでしょう。

このように、世界的に食の安全問題への意識が高まっている現在においては、厳格な安全基準をクリアし、かつ大自然に恵まれた環境で作られた食材に対して益々注目度が高まって行くと思われます。日本などアジア地域へ安全性の高い食材を提供するという観点において、オーストラリアは極めて重要な位置付けにあると考えられます。

以下で、より具体的にオーストラリアの食料業界について見て行きましょう。

(牛肉)
オーストラリアでは総人口(約2000万人)を大きく上回る約2800万頭の牛が飼育されており、年間牛肉輸出額19億豪ドルでブラジルに次ぐ世界第2位の牛肉輸出国の地位にあります。最大の輸出先は日本であり輸出全体の40%強を占めます。一方、日本にとってもオーストラリアは牛肉の輸入先として極めて重要な国であり、特に米国でBSE問題が発生して以降は日本の輸入牛肉の実に80%以上がオーストラリア産となっています。

日本の国別牛肉輸入量

前述の通り、オーストラリアの牛肉輸出の強みは安全性が極めて高い点にあります。オーストラリアは国際的にBSEと口蹄疫の無い国であるとOIE(国際獣疫事務局)の認証を得ており、その品質には定評がありますが、一方で極めて割安な価格は大きな強みと言えるでしょう。

また、オーストラリアでは広大な牧草地で栄養豊かな草を食べさせる牧草飼育が中心であり、例えば業界最大手のAustralian Agricultural社は合計で日本の面積の約20%に相当する合計800万haの広大な土地で57万頭の牛を飼育しています。更に近年では霜降り肉の生産にも力を入れており、穀物飼育も増加基調にあります。既にオーストラリア産の和牛である“Wagyuビーフ”はオーストラリア国内でも極めて人気のあるブランドとなりました。脂肪分が少なくヘルシーな牧草飼育牛から霜降りのWagyuビーフまで幅広いラインアップがオーストラリア産の特徴です。今後も高品質の牛肉に対する需要は国内外ともに堅調に推移すると見込まれます。

(サーモン)
牛肉に比べ小規模ながら、今後成長の余地が大きいと見られるのがオーストラリアの水産養殖であり、その中でも特にサーモンが有望と考えられます。サーモンは心臓病・高血圧などの予防に効果があるとされるオメガ-3脂肪酸を多分に含んでおり、かつ刺身・フィレ・スモークなど調理法が多岐に亘る点が魅力と言えるでしょう。

オーストラリアの水産養殖業の市場規模は7.5億豪ドルですが、政府は2010年までに25億豪ドルへ拡大させるべく積極的な取り組みを行っております。その中でサーモン養殖は現状品目別で第3位の地位にありますが、足元では年率+20%を超える生産量増加が続いており、今後も見通しは良好と見られます。

オーストラリアで養殖されるサーモンの95%はタスマニア産です。南極海に面したタスマニアはまさに自然の宝庫とも言うべき場所であり、そこで養殖されるアトランティックサーモンは脂の乗りが良く、世界最高品質とも言える評価を得ています(シドニー出張時に立ち寄った鮨屋の板前さんもベタ誉めでした)。

サーモンの養殖市場ではノルウェー産(世界生産シェア47%)、チリ産(同31%)、カナダ産(同8%)などの割合が大きく、タスマニア(オーストラリア)産は現在1%程度に過ぎません。しかしながら、主要生産国でサーモンの疫病、水質汚染による養殖環境悪化が広がる中、隔離された環境下で厳しい安全基準を守るタスマニア産のサーモンの需要拡大余地は極めて魅力的と言えるでしょう。

タスマニア産養殖サーモンの生産量並びに販売額

タスマニアBruny島にあるTassal社のサーモン養殖場実際にタスマニアにあるTassal社というサーモン養殖業者の養殖場まで足を運んだところ、@抗生物質やワクチンを一切使わない、A自動投餌システムによる過剰投餌・水質汚染の回避、Bきれいな海水を保つための毎年のいけす設置場所変更、C広々とした育成環境(世界平均の1m3に25kg超に対してわずか9kg)など、まさに手塩にかけてサーモンを育てる様子が実感できました。同社は国内サーモン生産シェアの70%弱を持つ最大手であり、2015年までに生産量を現在の15000トンから30000トンへ倍増させる一方、投餌の自動化などIT化で生産コストを25%削減するべく積極的な努力を続けています。

(おわりに)
今回は牛肉、サーモンの二品目のみ取り上げましたが、他の品目についても豊かな自然環境と厳格な食品安全管理のもとで品質基準が保たれている、というのは広くオーストラリア産品の特徴と言えます。

またオーストラリアにとってこれまで食品の主要輸出先は日本でしたが、今後は人々の食生活の変化を反映して韓国・台湾・香港、更には中国も含めたアジア全域への事業拡大の余地が十分にあると思われます。牛肉におけるブラジル・アルゼンチンなどラテンアメリカ諸国、サーモンにおけるノルウェー・チリなどの競争相手に対して地理的に近く、輸送コストが相対的に割安である点もオーストラリアの大きな強みと言えます。過去2年オーストラリアを襲った干ばつ、穀物価格上昇、豪ドル高は引続きリスク要因と言えますが、高い競争力と魅力的な市場拡大余地を勘案すると、オーストラリア食料関連銘柄の中長期的なポテンシャルは極めて大きいと思われます。

自己紹介:村井 利行、東京本部シニアアナリスト
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