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エコノミスト便り

REPORT

【世界経済】「スロー・トレード」は終わったか?
~世界貿易にはアップサイドのポテンシャル~

2017年12月28日

  •  世界経済の回復を背景に世界的に貿易活動が活発化している。2012年~2016年は、世界経済の成長ペースに比べて貿易が低迷したが、世界は「スロー・トレード=貿易の停滞」を脱したのか。
  •  日銀の分析によれば、スロー・トレードをもたらしたのは、①潜在成長率の低下、②投資から消費へのシフトや、耐久消費財から非耐久消費財やサービスへの需要のシフトなどによる貿易の所得係数の低下などの構造要因、③負のGDPギャップや他の短期ショックに起因する循環要因に分けられる。
  •  足元、先進国の潜在成長率の低下は一服、GDPギャップも改善している。先進国中心に投資需要も回復、ITやAIを社会実装する動きも貿易を活性化しており、「スロー・トレード」に変化が生じている。

 

 

世界的に製造業が好調である。11月のグローバル製造業PMIは54.0と5カ月連続で改善、2011年3月以来、6年8カ月ぶりの高水準となった(図表1)。地域別に製造業PMIを見ると、先進国が特に好調で、ユーロ圏では、ドイツが欧州債務危機が本格化する前の2011年2月以来、6年9カ月ぶりの高水準、フランスも2010年11月以来、7年ぶりの高水準である。米国、日本も改善傾向にあり、12月についても、現時点までに公表されている米、欧、日の速報値を見る限り、製造業セクターの好況は続いている。その背景にあるのは世界経済の回復だが、足元で特徴的なのは、貿易量の拡大を伴っていることである。ドイツのライプニッツ経済研究所(RWI)と海運経済研究所(ISL)が世界のコンテナ港の活動を集計したRWI/ISL Container Throughput Indexは、足元、2011年以来の拡大ペースで(図表2)、オランダの経済企画庁(CPB)の作成する世界貿易統計でも、世界の貿易量(実質輸入)は2011年以来の拡大ペースとなっている。日本の輸出にも、足元、勢いがでてきている(図表3、4)。

 

2012~2016年は、世界的に貿易活動が低迷、日本の輸出も冴えない動きとなり、「スロー・トレード=貿易停滞」という言葉が盛んに使われた。足元、貿易が再び勢いを取り戻しているのは、「スロー・トレード」の終焉を意味しているのだろうか。本稿では、CPBの世界貿易統計、国連のComtrade、日本の通関統計などの各種データから、足元の世界貿易の好調の背景を探るとともに、今後の世界貿易を展望したい。結論を先に述べておくと、「スロー・トレード」が完全に終焉を迎えたかどうかの判定は難しいが、足元の活発な貿易活動はそれなりに持続性で、一旦は収束したのではないか、というのが現時点での筆者らの見立てである。今後も世界的に活発な貿易活動が続けば、日本の輸出ならびに景気の回復をサポートする要因となる。

 

まず、「スロー・トレード」について、日本銀行のリサーチペーパー(『スロー・トレード:世界貿易量の伸びの鈍化』)などを参考に振り返る。2003年から2007年までのいわゆるリーマン危機以前、世界の貿易量(実質輸入)の伸びは世界の実質GDP成長率を上回っていたが、2010年代には、貿易量の伸びは鈍化し、世界GDP成長率を下回る状況が続いた。この状況を指して、「スロー・トレード=貿易の停滞」と言われた。この「スロー・トレード」の動きが顕著だったのは新興国で、2003年~2007年の同地域の成長率が平均7.9%、貿易の伸びが平均11.8%であったのに対し、2012年~2016年の同地域の成長率は平均4.8%、貿易の伸びは平均2.0%にとどまった(図表5)。前述の日銀のリサーチペーパーによれば、2003~2006年と比較した2013~2015年の貿易の伸びの鈍化にうち、7割程度が潜在成長率の低下や貿易の所得係数の低下などの構造要因、残る3割程度が負のGDPギャップや他の短期ショックに起因する循環要因によりもたらされたとのことである。このうち、貿易の所得係数の低下をもたらした要因として、①シェール革命による米国の原油輸入の減少、②先進国を中心とした投資から消費へのシフト、消費の中で耐久消費財から非耐久消費財・サービスへの需要のシフト、③現地生産比率の上昇、といった先進国側の事由、④国際的な分業体制の広がりの一服に伴うアジアを中心とした設備投資の増勢鈍化と、それに付随した資本財やその川上の中間財の需要の鈍化、⑤中国を中心とした中間財や資本財の内製化の進展、などの新興国側の事由、⑥保護主義的な動きの強まり、などが挙げられている。

国連のComtradeで2012年~2016年の世界輸入の動きを確認すると、2012年から先進国の輸入が減少、その後、2014年からは新興国の輸入が低迷し、2015年、2016年には幅広い地域で輸入の減少が観測されるようになっていく。財別には、この間、設備投資に関連する機械類の輸入の減少が目立つが、2015年、2016年は電気機器類や輸送機器類など広範な財の輸入の低迷が確認できる(図表6、7)。

また、日本の直接投資の動きを見ると、2012年~2013年に、加工組立型の製造業を中心に、アジアへの直接投資が活発化した(図表7)。大幅な円高による輸出採算の悪化が後押しした側面が非常に大きかったのだが、同時にアジア新興国の最終需要地としての重要度が高まる中で、地産地消の動きが広がり、また部品などに関しても現地調達の比率が高まった。リーマン危機を挟み、世界経済に貿易を抑制する様々な複合的な変化が生じる中で、負の貿易乗数が働き、世界的なスロー・トレードの状況が作り出されたということであろう。

2017年に入り、世界の貿易量の伸びがGDP成長率を再び上回ってきた(前出図表3)。程度の差はあれ、欧米を中心とした先進国、アジアや中東欧などの新興国のいずれにおいてもこうした動きが確認される。国連のComtradeで国別、財別の輸入の動きを見ると、2017年は、先進国、新興国を問わず幅広い国で輸入は高い伸びとなり、財別では、卑金属(鉄鋼など)の素材関連や、機械類、電気機器類と言った加工関連など幅広い財で輸入が増加し、2012年~2016年の「スロー・トレード」の時期と対照的な動きとなっている(前出図表6、7)。

日本の輸出も回復傾向にあり、財別に見ると、素材関連では化学、加工組立では半導体製造装置などの一般機械、半導体等電子部品などの電気機器の輸出が堅調に増加しているほか、自動車などの輸送用機器の輸出も緩やかに増加しており、回復の裾野は幅広い。地域別に見ても、中国、ASEANなどアジア向けの輸出の増加が特に顕著ではあるが、米国、EU向けの輸出も増加基調で、広範に回復している(図表9、10)。

グローバルの景気が回復しているから、貿易量も増えていると言ってしまえばそれまでだが、背後にあるグローバル経済の動向をもう少し俯瞰して見ると、まず、構造的に「スロー・トレード」をもたらしていた潜在成長率の低下は、先進国では一服し、むしろ足元は持ち直してきているようである(図表11)。潜在成長率は、あくまで推計値であり、幅をもって解釈する必要はあるが、リーマン危機や欧州債務危機後の様々な調整圧力が和らいでいることは確かであろう。後述する先進国の設備投資の持ち直しの動きも、自然利子率(≒潜在成長率)の回復の裏付けではないか。中国については、潜在成長率のデータはないのだが、2000年代の10%を超える高成長からの成長ペースの急低下に、足元で歯止めが掛かってきているように見える(図表12)。また、景気の循環的な側面に焦点を当てて見ても、日米欧で景気の回復傾向が続き、日本、米国はGDPギャップがプラスとなり、ユーロ圏についても、負のGDPギャップが急速に縮小、2018年にはプラスに転じる見込みである(図表13、米国については暦年で見ると2017年のGDPギャップはマイナスだが、四半期で見ると2017年3Qにプラスに転じた)。中国についても、2017年の成長率は2016年から若干だが上向いた。潜在成長率の低下に伴う構造面からの貿易活動への下押しが和らぎ、先進国でGDPギャップの改善傾向が続くなど、循環要因も上向く中、貿易乗数もポジティブに働き始めたということではないだろうか。

緩和的な金融政策が続く下、欧州では自動車販売が好調、世界最大の自動車需要地である中国の自動車販売も増加基調にある。また、日米欧の設備投資関連指標にもポジティブな動きが観測されるようになってきた(図表14、15)。そして最近、筆者がもっとも驚いたのが、世界の半導体の売上の動向である(図表16)。2017年以降、中国、中国・日本を除くアジア、米国で売上が急増している。iPhoneXに関連した需要もあると思われるが、それ以外でも、欧米におけるコネクテッドカーの販売や、AIスピーカーの登場、企業側でもIoTに対応するためのデータセンターやコールセンターにおけるAIによる自動応答の導入など、ITやAIを社会に実装する動きが広がり始めているように見える。

 

「スロー・トレード」は終わりを迎えたのだろうか。米国第一を掲げるトランプ政権が、保護主義的な政策を推し進めれば、国際的な分業体制に逆向きの影響を与えることなどを通じ、貿易活動を抑制する要因となる可能性があろう。しかし一方で、日欧EPAの交渉妥結や米国抜きTPPの大枠合意、今後もRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の交渉進展などが見込まれ、自由貿易を推進する流れは続いている。上述の通り、潜在成長率の低下に歯止めが掛かり、GDPギャップも改善、グローバルで資本財に対する需要の高まりが観測されるなど、貿易活動への様々な調整圧力が和らいていることも事実であり、またITやAIを社会に実装する機運がグローバルで強まっている可能性も踏まえると、世界貿易のアップサイドのポテンシャルは小さくないように思われる。ITやAIの分野では、変化が非常に早く、かつ急激で、持続性が読みにくいというのは事実だが、社会実装の動きはまだ緒についた段階と見られ、「スロー・トレード」が終わったかどうかの判断は難しいが、少なくともしばらくは貿易の活発な動きが続くのではないか。

 

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