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エコノミスト便り

REPORT

【欧州経済】ユーロ圏はどのように財政を再建したか
~ユーロ圏19か国のほとんどの国が3%基準を達成、財政は健全化~

2018年01月24日

  • ユーロ圏の財政収支は改善している。ユーロ圏では08年に発生した金融危機の後に景気が大幅に落ち込み、財政収支が悪化する中で、11年~13年にはGDP比で4%相当の財政緊縮が実施され、景気が悪化した。しかしながら、14年以降は、景気が回復、拡大する中で、財政収支も改善している。特に最近では、財政緊縮を強化しなくても、景気拡大による税収の増加などから財政収支が改善するといった好循環がみられるようになっている。
  • ユーロ圏の財政再建については、数年前にはその効果や持続性に懐疑的な見方が少なくなかったが、振り返ってみれば、財政緊縮のペースが緩められるとともに、財政緊縮や構造改革によるデフレ圧力がECBの金融緩和によって軽減され、景気拡大や財政収支の改善を可能にしたと考えられる。
  • ユーロ圏の事例からみると、財政再建を進める上では、景気面への配慮だけでなく、構造改革によって供給力を引き上げるとともに、金融緩和によってデフレ圧力を軽減するという政策の組み合わせをスムーズに行うことが重要と考えられる。

ユーロ圏の財政は改善傾向

ユーロ圏では08年のリーマンショック後に景気や財政が急速に悪化し、財政収支のGDP比は08年の▲2.2%から09年に▲6.3%に悪化した。しかしその後の財政収支は改善傾向にある(図表1)。

欧州委員会の最近の見通しによれば、17年時点でユーロ圏諸国の財政赤字は日本(▲4.3%)よりも小さい。また18年には19の加盟国の全ての財政赤字のGDP比が3%以下になる見通しだ。財政緊縮が強化された11~13年の頃は、財政赤字のGDP比を3%以下に縮小させることは不可能だという意見がよく聞かれたが、実際には、かなり進展した。

ここでは、ユーロ圏がどのように財政を再建したのかについて、その特徴などを検討する。

そもそも財政再建が必要になるのは、財政赤字の状態を長く続けると、国債を保有している投資家の信用が低下して金利が上昇し、財政赤字を解消することが益々困難になると考えられるからである。特に、ユーロ圏の財政再建は財政規律である安定成長協定に基づいて進められた。

財政赤字を減らす方法としては、増税や政府支出の削減、経済成長によって税収が回復するのを待つ方法、デフォルト(債務再編)などが考えられるが、ユーロ圏の場合はどのように財政赤字を削減したのだろうか。

ユーロ圏全体でみると増税よりも支出削減に重点

図表2はユーロ圏の周辺国の財政赤字GDP比がリーマンショック後のピークから2017年までにどのように縮小したのかを要因分解したものである。財政赤字のGDP比がピークだった時期は国・地域によって異なるが、ユーロ圏周辺国の場合は09年か10年である。たとえば、ユーロ圏の財政赤字GDP比はピーク時の09年には6.3%だったが、17年には1.1%に縮小しており、8年間で5.2%ポイント改善した。改善幅の内訳をみると、支出(利払い費除く)で2.7%、利払い費で0.8%、収入で1.7%となっており、支出削減による改善が大きかったことがわかる。ただし、周辺国の中でも改善方法は国・地域によって異なった。ギリシャでは、付加価値税の引き上げや脱税の取り締まりを中心とした収入面の改善が大きく寄与した。一方、アイルランドについては金融危機によってピーク時には政府による資本注入が21.7%もかかったため、財政の改善幅が大きかった。

2011~13年にはGDP比で4%に上る財政緊縮

ところで、ユーロ圏で本格的な財政緊縮策が実施された時期は11年から13年である。この時期の緊縮は債務の持続可能性を維持し、過剰赤字を削減するために必要とされた。支出面では、社会移転の減少、政府消費(公務員給与等)や政府投資の削減、収入面では、消費に対する課税(VATなど)などが強化され、3年間でGDP比4%相当の財政緊縮が実施された(図表3)。当時は金融システムが不安定な中でユーロ圏の財政緊縮によって、景気が悪化してかえって税収の減少や財政赤字の拡大をもたらすのではないかという懸念が根強かった。実際、11~13年の財政緊縮(GDP比4%相当)が成長率に与える影響については、ユーロ圏の実質GDP成長率を8%程度押し下げるという試算もあった。しかし、振り返ってみればこうした懸念は行き過ぎだったと考えられる。

 

初期は緊縮強化による改善、最近は景気拡大による改善

それでは、ユーロ圏の財政収支は緊縮策によってどうなったのか。財政赤字の変化を構造的な財政収支の変化による部分と景気循環の影響を受ける財政収支の変化に分けてみる。

ここでは赤字のピークから13年までの数年間(第1期)と、13年から17年まで(第2期)の2つの時期に分ける。

まず、第1期は財政緊縮が強化された時期である。この時期は景気が比較的早く回復したアイルランドを除けば、どの国でも構造的収支の改善が全体の財政収支の改善に大きな役割を果たした(図表4)。ギリシャ、スペイン、イタリアでは循環的要因がマイナスに寄与しており、景気の悪化が財政を悪化させた側面があったと考えられるが、財政緊縮によって(景気が悪化して)財政赤字が拡大するという見方は正しくなかったことが推察される。

実際、ユーロ圏の実質GDP成長率は12年、13年がそれぞれ▲0.9%、▲0.2%と2年連続でマイナスとなり、景気は厳しい状況だった。この間の周辺国の名目成長率をみると、09年からマイナス成長だったギリシャでは11年▲8.4%、12年▲7.6%、13年▲5.5%とマイナスが継続し、スペインやイタリアも13年までマイナスだった。しかし、その他の国については、アイルランドは11年、ポルトガルは13年に名目GDP成長率がプラスに転じた。

次に、第2期(財政の改善期)についてみると、ギリシャでは構造的要因による改善がほとんどであるが、その他の国々では、循環的な要因による改善効果が大きいことがわかる(図表5)。つまり、ギリシャ以外の地域では、14年頃から景気が回復・拡大するなかで、財政収支が景気循環の影響を受けて改善したことを示唆している。スペインやイタリアでは構造的収支がむしろ悪化しており、景気に配慮した財政運営だったことを示唆している。

2014年以降の景気と財政の改善の背景

それでは、14年以降、ユーロ圏の景気や財政が周辺国を含めて改善した理由は何であろうか。主に3つ指摘できよう。

第1は、ユーロ圏が景気に配慮した財政再建を意識するようになったことである。ユーロ圏の財政政策スタンスをみると、最も財政緊縮の度合が大きかったのが11年であるが、その後は徐々に緊縮ペースが緩められた。13年にはユーロ圏全体の財政赤字GDP比が3%まで縮小するなかで、14年にはユーロ圏全体の財政政策スタンスが中立的になった(図表6)。もちろん個別の国をみればギリシャやスペインのように財政赤字GDP比がなお高い国もあったが、ユーロ圏全体で政策スタンスが中立になったことで、域内の景気が安定した。また周辺国の中には政府が企業の雇用主負担を軽減する措置を導入した国もあり、14年以降、雇用が増加したことも景気の安定につながった。

第2は、ユーロ圏周辺国の多くでは金融危機後に、財政再建と合わせて構造改革が強化されたことで、中期的には供給力を低下させるどころか、引き上げることができたとみられることである。特にEUの金融支援を受けた周辺国では生産市場、労働市場、金融システム、税制などの幅広い分野で改革が進められた。特に労働市場では単位労働コストが低下し、対外競争力が回復した。図表7をみると、アイルランドやギリシャ、スペイン、ポルトガルでは、単位労働コストが低下したが、この間は、ドイツが逆に単位労働コストを上昇させたので、域内の競争力格差が縮小した。周辺国が単位労働コストを下げたことで物価に対する下落圧力を強めた面はあるものの、同時に海外の貿易相手国との相対物価を下落させることで価格競争力が改善し、輸出が増加した。なお、11年から17年にかけての実質為替レートの減価(競争力上昇)を要因分解してみると、多くの周辺国では名目為替レートの減価による部分よりも、相対物価の引き下げによる減価の部分の方が大きかった。

ところで周辺国の潜在成長率の推移をみると、財政再建や構造改革が強化された11~13年頃よりも数年後の17年の方が高くなっており、構造改革が長い時間をかけて少しずつ供給力を上昇させている可能性が示唆される(図表8)。なお欧州委員会によれば、13年半ばまでに実施されたEUのサービス指令やビジネス環境の改革によって周辺国の労働生産性は大きく上昇したと試算されている。

第3は、ECBが金融緩和を強化したことである。ユーロ圏では、財政緊縮や構造改革によってデフレ圧力が強まるなかで、12年頃からコアインフレ率や期待インフレ率は鈍化傾向が続いた。こうしたなか、ECBは14年6月にはTLTRO(貸出条件付きの長期資金供給オペ)とマイナス金利政策の導入を発表、さらに15年3月には国債購入の開始と、相次いで金融緩和を強化した。この頃、ECBが単一の銀行監督機能を担うようになった中で、EUの金融機関に対する包括的なストレステストも実施され、金融機関の資本増強が進んだ。

こうしたなかで14年になると、ユーロ圏の銀行の企業向け貸出基準の緩和がみられるようになり、特にイタリアでは大きな改善がみられた。この結果、周辺国では貸出金利がさらに低下して、借入需要が高まり、内需が拡大した。たとえば、ユーロ圏企業の新規借り入れ金利の推移をみると、12年頃から低下傾向にあるが、14年6月にマイナス金利政策を導入してから、イタリアの借入金利は特に低下している(図表9)。

欧州の周辺国の借入金利は日本に比べても水準が高かったために、金利低下が資金需要や内需を刺激した面が大きかったと考えられる。

またECBの金融緩和によってユーロ安が進んだことで競争力や輸出が伸びたことも、構造改革や財政再建の進展をサポートした側面があったと考えられる(図表10)。

14年頃にはデフレが懸念されたが、最近のインフレ率は1%台半ばで安定している。

以上のように、リーマンショック後の流れを単純化すれば、金融危機のショックによる景気や財政収支の大幅な落ち込みに対して、ユーロ圏では財政緊縮、構造改革が実施されたが、その結果生じたデフレ圧力をECBが金融緩和によって軽減するという側面があった。財政緊縮のデフレ圧力がECBに対して大きな負荷をもたらしたことは否めないが、14年以降のECBの金融政策が柔軟に運営されたことでユーロ圏の経済や財政が安定した点を軽視することはできないだろう。

最近では、財政緊縮を強化しなくても、景気拡大による税収の増加などから財政が改善するといった好循環がみられるようになっている(図表11)。特に最近のユーロ圏の景気拡大は外需よりも内需(個人消費や固定投資)が中心であるため、税収の増加につながりやすく、財政収支の改善をもたらしていると考えられる。

財政再建と景気拡大で政府債務残高GDP比も低下傾向

以上、ユーロ圏の財政の改善についてフローの側面をみてきたが、最後に累積財政赤字に相当する政府債務残高のGDP比(ストックの面)の変化をみておく。

最近では多くのユーロ圏の国で政府債務残高GDP比が低下しはじめている。欧州委員会によれば、アイルランドは13年、スペインやポルトガルは15年にそれぞれ低下に転じた。またギリシャやイタリアでもそれぞれ17年、18年に低下する見通しであり、財政赤字が発散していく可能性は低下している。

図表12はユーロ圏全体の政府債務残高GDP比の増減を要因分解したものであるが、これをみると、リーマンショック後の09年、10年に拡大した財政赤字に対して、11年以降、プライマリーバランスの赤字を減らすことを優先した上で、13年以降は名目成長率を上昇させてきたという特徴がみられる(財政再建⇒景気回復の順番)。こうした中で15年以降、政府債務残高GDP比が低下したのである。

以上みたように、ユーロ圏の財政再建については、数年前にはその効果や持続性に懐疑的な見方が少なくなかったが、結果的には、財政再建や構造改革によるデフレ圧力がECBの金融緩和によって軽減され、景気拡大や財政収支の改善を可能にしたと考えられる。またECBの金融緩和が財政再建や構造改革を側面から下支えした面も否定できないだろう。

構造改革は国民の反発を招き、政治を不安定にするというコストを伴ったことは否定できないものの、中長期的にみるとマクマクロ経済のプラス効果をもたらしたといえよう。
 
ユーロ圏の事例からみると、財政再建を進める上では、景気面への配慮だけでなく、構造改革によって供給力(競争力や成長可能性)を引き上げるとともに、金融緩和によってデフレ圧力を軽減するという政策の組み合わせをスムーズにうまく行うことが重要と考えられる。

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