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8月分鉱工業生産指数・速報値について

2015年9月30日

- 8月分鉱工業生産指数・前月比▲0.5%で2カ月連続の減少 -

- 基調判断は「総じてみれば、生産は弱含んでいる」に下方修正 -

- 8月分景気動向指数の判断は、「足踏み」で据え置きの見通し -

(鉱工業生産)

●鉱工業生産指数・8月分速報値前月比は▲0.5%となった。2カ月連続の減少である。一方、前年同月比は+0.2%と2カ月ぶりの増加になった。

●8月分の生産を業種別にみると、15業種のうち増加が5業種、減少が10業種だった。プラスチック製品工業、石油・石炭製品工業、化学工業(除.医薬品)等が増加し、はん用・生産用・業務用機械工業、電気機械工業、輸送機械工業等が減少した。

●前回の製造工業生産予測調査によると、8月分前月比は+2.8%増加であったが、実現率は▲4.2%と大きく下振れた。予測調査の提出期日は10日で、8月11日からの人民元の基準値切り下げ、天津の大爆発、中国発世界同時株安の影響が含まれていなかったからだろう。中国ショックの影響は大きかった。

●今回の製造工業生産予測調査によると、9月分前月比は+0.1%増加、10月分は同+4.4%の大幅増加である。10月分で生産が増加基調に戻れるかどうかが注目される。

●業種ごとにみると、輸送機械工業の生産は前月比▲0.7%、出荷が前月比+1.7%、在庫の前月比が▲7.2%、在庫率指数が前月比▲3.4%だった。8月分で在庫の調整が進んだ業種と言えよう。製造工業予測指数では9月の生産は前月比▲1.6%とまだ減少だが、10月の生産は前月比+9.0%と大きく伸びる見込みとなっている。

●電子部品・デバイス工業の生産は前月比▲1.0%と4カ月連続の減少、出荷は前月比+0.2%と4カ月ぶりの増加、在庫率指数が5カ月連続上昇している。製造工業予測指数では9月の生産が前月比+3.4%、10月の生産が前月比+4.8%それぞれ増産の見込みとなっている。

●先行きの鉱工業生産指数の9・10月分を製造工業生産予測指数の前月比で、11・12月分を前月比ゼロで延長して計算すると、7~9月期は前期比▲1.1%と2四半期連続の減少だが、10~12月期は前期比+4.3%と3四半期ぶりの増加基調に戻る見込みだ。

●8月分速報値の鉱工業出荷指数・前月比は▲0.5%と2カ月連続の減少になった。鉱工業在庫指数は前月比+0.4%と2カ月ぶりの増加になった。鉱工業在庫率指数は119.1、前月比+6.1%と3カ月ぶりの上昇となった。

●経済産業省の基調判断は14年3月分まで、「総じてみれば、生産は持ち直しの動きで推移している」とされていたが、消費税率引き上げがあった14年4月分で「総じてみれば、生産は横ばい傾向」と下方修正された。5月分でも同じ判断継続となった。6月分で12年8月分以来の表現である「総じてみれば、生産は弱含みで推移している」に下方修正され、7月分・8月分と判断継続となった。9月分で「総じてみれば、生産は一進一退にある」に上方修正され、10月分・11月分と据え置かれた。8月分を底に生産は増加傾向だったので、12月分で判断は「総じてみれば、生産は緩やかな持ち直しの動きがみられる」に3カ月ぶりに上方修正された。

●15年1月分・2月分・3月分・4月分でも「総じてみれば、生産は緩やかな持ち直しの動きがみられる」で据え置きだった。しかし、5月分では「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」に11カ月ぶりに下方修正された。「一進一退」の表現は14年11月分以来6カ月ぶりだった。6月分に続き前回7月分でも判断は「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」に据え置かれた。今回8月分で14年8月分以来の「弱含み」に下方修正された。表現は「総じてみれば、生産は弱含んでいる」となった。

●鉱工業全体での縦軸に在庫の前年比をとった在庫サイクル図をみると、14年1~3月期では、出荷の前年比が+7.4%、在庫が同▲1.2%、と45度線を下回っていた。しかし、14年4~6月期では、在庫が前年同期比増加に転じ、出荷の前年比が+0.9%、在庫が同+3.1%、と45度線を上回ってしまった。14年7~9月期で、出荷の前年比が▲0.8%、在庫が同+4.1%、と45度線を上回り、14年10~12月期で、出荷の前年比が▲1.9%、在庫が同+6.2%、15年1~3月期で、出荷の前年比が▲2.4%、在庫が同+6.2%、15年4~6月期で、出荷の前年比が▲0.3%、在庫が同+4.0%、と45度線を上回っている。15年7~8月分では、出荷の前年比が0.0%、在庫が同+2.2%とまだ45度線を上回っている。在庫サイクル図からは、依然、在庫積み上がり局面にあると言える。

(7~9月期のGDP予測)

●個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の7~8月平均の対4~6月平均比は反動増で+2.8%の増加になった。同じく供給サイドの関連データである非耐久消費財出荷指数は同▲0.3%の減少だ。同じく供給サイドの関連データである商業動態統計・小売業販売指数の7~8月平均の対4~6月平均比は+1.6%の増加である。一方、需要サイドの関連データでは、家計調査・二人以上世帯・実質消費支出(除く住居等)の7月分の対4~6月平均比は0.0%の横這いだ。乗用車販売台数の7~8月平均の対4~6月平均比は+1.9%の増加になった。GDP統計の実質個人消費と関連性が高い消費総合指数(月次ベースの)7月分の対4~6月平均比は0.0%の横這いだ。雇用・所得環境が緩やかに改善している中、関連データから総合的に考えると、7~9月期第1次速報値の個人消費は、前期比で若干のプラスの伸び率になる可能性があるとみられる。

●設備投資の関連データである資本財出荷指数の7~8月平均の対4~6月平均比は+0.3%の増加になった。資本財(除.輸送機械)は同▲1.4%の減少になった。また、建設財は同▲0.2%の減少になった。総合的に考えると、最終的に供給サイドから推計される7~9月期の実質設備投資・前期比はプラスの伸び率になったとしても低い伸び率にとどまる可能性が大きいとみられる。

●実質輸出入の動向をみると輸出の7~8月平均の対4~6月平均比は▲0.3%の減少になった。輸入は同+1.2%の増加になっている。7~9月期のモノだけでみると外需はマイナス寄与になる可能性がありそうだ。

●現段階ではまだ7・8月分のデータしか出ていないがそれらをもとに総合的に判断すると、11月16日に発表される7~9月期の実質GDP第1次速報値・前期比はゼロ近傍の成長率の可能性が高そうだが、これからでる9月分のデータなど、予断をもつことなく注視していきたい状況だ。

(8月分景気動向指数予測)

●7月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差▲1.7程度と2カ月連続の下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列で、9月30日午前9時時点で数値が判明しているのは、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの7系列である。これらのうち消費者態度指数、マネーストックの2系列は前月差プラス寄与に、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、日経商品指数、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの5系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る、新規求人数と新設住宅着工床面積の2系列は前月差プラス寄与となると予測した。

●8月分の一致CIは前月差▲1.1程度と2カ月連続の下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列で、9月30日午前9時時点で数値が判明している、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業の6系列全て前月差マイナス寄与となっている。残る2系列の、中小企業出荷指数、有効求人倍率も前月差マイナス寄与になるとみた。

●一致CIを使った景気の基調判断は、7月分の「足踏みを示している」という判断が8月分でも継続になろう。機械的な景気の基調判断が「足踏み」から「改善」に上方修正されるには、前月差が上昇、かつ3カ月後方移動平均が3カ月連続上昇することが必要だ。今回予測通りなら、3カ月後方移動平均の前月差はゼロで、9月分も下降が見込まれることから、10月分以降の3カ月連続上昇が最短になろう。最も早い「改善」への上方修正は12月分が発表される2月上旬になる可能性が大きいだろう。

●なお、判断が「下方への局面変化」に下方修正される条件は、一致CIの7カ月後方移動平均の前月差が、1カ月、2カ月、または3カ月の累積で1標準偏差分(0.85)以上のマイナスになることである。8月分が予想通りなら7カ月後方移動平均の前月差は3カ月ぶりの下降になるが、▲0.40程度のマイナスなので▲0.85には届かない。11月6日発表の9月分で「下方への局面変化」に下方修正されるためには9月分が前月差▲2.5程度大幅に下降になることが必要だが、製造工業生産予測指数の9月分が前月比+0.1%であることからみてその可能性は小さいと思われる。「足踏みを示している」という判断が当分続きそうだ。

●8月分の先行DIは50.0%程度になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、9月30日午前9時時点で数値が判明している、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの7系列のうち、消費者態度指数、マネーストックの2系列がプラス符号に、鉱工業生産財在庫率指数、日経商品指数、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの4系列がマイナス符号に、最終需要財在庫率指数1系列が保合いになることが判明している。先行DIは27.8%以上50.0%以下が確定している。残る新規求人数、新設住宅着工床面積の2系列はプラス符号になると予測する。

●8月分の一致DIは37.5%程度と2カ月連続50%割れになると予測する。足元の景気もたつきを示唆する数字となってしまおう。速報値からデータが利用可能な8系列では、9月30日午前9時時点で数値が判明している、耐久消費財出荷指数、商業販売額指数・卸売業の2系列がプラス符号に、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業の4系列がマイナス符号になることが判明している。一致DIは25.0%以上50.0%以下が確定している。残る、有効求人倍率がプラス符号、中小企業出荷指数はマイナス符号になるとみた。