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2015年12月調査日銀短観

2015年12月14日

●12月調査日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIは9月調査と同じ+12となった。11期連続で「良い」超を意味するプラスであり、10期連続で2ケタのプラスであり底堅い数字と言えよう。若干悪化を予測していた市場予想を上回る内容になった。内訳をみると、素材業種は9月調査と同じ+9、加工業種は9月調査から2ポイント悪化し+12になった。四捨五入の関係で製造業全体は横這いになったようだ。

●造船業・重機等、化学などは改善し、中国景気減速の影響で非鉄金属、生産用機械などが悪化した。

●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は6月調査・9月調査では7%だったが、12月調査でも7%である。9月調査と12月調査とも、「良い」と答えた割合が19%、「さほど良くない」と答えた割合が74%と変わらなかった。

●今回12月調査の調査期間は11月11日~12月11日である。

●12月調査の大企業・製造業の業況判断DI+12は9月調査の「先行き」見通しが+10に悪化するとみていたのに反し2ポイント上回る数字になった。足元の景況感が予測より良かったということになり、景気が足踏み状態ながらも底堅いことを裏付ける数字と言える。

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、12月調査は+25と9月調査と同じであった。9月調査の+25は91年11月調査の+33以来23年10カ月ぶりの高水準だが、12月調査も同じ高水準継続になった。雇用吸収力が大きい非製造業の・業況判断DIが良いことは、有効求人倍率の23年ぶりの高水準、さらに12月調査の全規模全産業の雇用判断DIが▲19と、前回9月調査からマイナス幅が3ポイント拡大し、92年5月調査以来、23年ぶりの水準になったことと、整合的だろう。

●12月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは18期連続のプラスである。これは、内需の底堅さを反映し、足元までは底堅い動きが続いていることを示唆していよう。雇用・所得環境が改善していることに加え、訪日外国人のインバウンド消費の増加などがプラスに働いていよう。小売は9月調査の+25から+22へと3ポイント低下した。通信は9月調査の+33から+44へと11ポイント改善した。

●12月調査の大企業・非製造業・業況判断DI+25は、9月調査の「先行き」+19を6ポイント上回る数字で、景況感が思ったより良かったことを示唆している。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は6月調査・9月調査では4%だったが、12月調査でも4%で同じであった。

●大企業・全産業・業況判断DIは、12月調査は+18と9月調査の+19から1ポイント低下した。製造業、非製造業とも横這いなので、四捨五入の関係で僅かに低下したようだ。それでも9月調査の「先行き」+14を4ポイント上回る数字で、景況感が思ったよりやや良かったことを示唆している。

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+7と「最近」の+12から5ポイントの悪化が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では7%だが、「先行き」では1ポイント減って6%になる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では19%、「先行き」では13%で変化幅が6ポイント減だ。このため「さほど良くない」と答えた割合は「最近」では74%だが「先行き」では81%へと変化幅が7ポイントも増加している。依然、中国経済をはじめとする新興国の状況、米国の利上げの動向、ISのテロなど、世界経済の先行きに対する様々な不安感が広がっていることが感じられる内容だ。

●大企業・非製造業では「先行き」は+18と「最近」の+25から7ポイントの悪化が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では4%だが、「先行き」でも4%である。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では29%、「先行き」では22%、変化幅が7ポイント減。このためDIは悪化見通しになる。小売の「先行き」は+14と「最近」の+22から8ポイント悪化している。先行き国内消費に対して不透明さを感じているのだろうか。但し、「先行き」見通しのこのパターンは9月調査でもほぼ同様にみられた現象だ。

●中小企業・製造業の業況判断DIは、昨年12月調査(新ベース)で+4とプラスに戻り、15年3月調査でも+1とプラスを維持していたが、6月調査・9月調査に続いて12月調査でも0になった。なお、12月調査の「最近」0は9月調査の「先行き」▲2より上振れた。思ったよりもやや良かったという結果になった。

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになり14年6月調査まで3期連続プラスを維持した後14年9月調査は0になった。しかし、12月調査(新ベース)で+1とプラスに戻り、15年3月調査は+3、6月調査では+4、前回9月調査は+3、今回12月調査で+5と5四半期連続のプラス継続となった。9月調査時点の「先行き」+1を4ポイント上回った。予測よりはだいぶ良かったということになる。雇用吸収力がある業種が多い、非製造業のDIが久し振りにプラス継続となっていることは、9月分・10月分の有効求人倍率が1.24倍と92年1月分の1.25倍以来23年9カ月ぶりの高水準になっていることと整合的だろう。

●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。消費税率引き上げ直前の14年3月調査では91年11月の+12以来の水準である+12まで改善していた。消費税率引き上げにより悪化し14年9月調査で+4になっていたが、その後横這いを含みつつ改善し15年9月調査で+8、今回12月調査で+9と2期連続改善した。全規模・全産業という全体の景況感は10期連続してプラスの水準だ。景気が底上げされてきたことを示唆する数字だろう。

●中小企業・製造業の「先行き」業況判断は▲4と「最近」0から4ポイント悪化する見通しである。世界経済の不透明さが影響していよう。また、中小企業・非製造業は0と「最近」より5ポイントの悪化見通しである。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回3月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性があるのではないかとみられる。

●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+3と、「最近」+9から6ポイント悪化する見通しである。企業の景気の先行きには不透明感が強いのであろう。但し、来年どこか早い時期に景気の好循環が再認識されれば、「足踏み」から脱却し、先行き、業況判断の持ち直しが期待されよう。

●今回12月調査では、2015年度の想定為替レートは1ドル=119円40銭と9月調査の1ドル=117円39銭よりは円安になったものの、15年度下期の想定為替レートが1ドル=118円00銭と現在の121円前後の水準よりは僅かに円高で、現在の水準が続けば、輸出企業の景況感にとって若干のプラス材料になる可能性が大きいだろう。

●大企業・製造業の2015年度の売上高経常利益率は7.64%と前回9月調査から0.05ポイント上方修正され、過去最高を更新した。2014年度は7.38%だった。資源価格の下落などで交易条件が改善したことなどでプラスに働いたとみられる。

●大企業・製造業の仕入れ価格DIは12月調査では▲2になった。9月調査の+4から6ポイント低下しマイナスになった。国際商品市況の低下などを反映していよう。大企業・非製造業の仕入れ価格DIは12月調査では+10で9月調査の+13から3ポイント鈍化した。また中小企業・製造業の仕入れ価格DIは+14となった。9月調査は+22であったので8ポイントの低下だ。中小企業・非製造業の仕入れ価格DIは12月調査では+16で9月調査の+18から2ポイント低下した。

●一方、12月調査の販売価格判断DIは、大企業・製造業全体では▲11と9月調査の▲7からは4ポイント低下した。大企業・非製造業では+4で9月調査+4と同じだった。中小企業・製造業では▲9で9月調査の▲6からは3ポイント低下した。中小企業・非製造業では▲5と9月調査と同じだった。非製造業の販売価格判断DIが、仕入れ価格DIが低下しても変わらないという動きは、デフレ脱却の動きが出ている感じがする。

●12月調査の2015年度の大企業の設備投資計画は前年度比+10.8%になった。製造業は+15.5%と2桁の高い伸び率を維持し、非製造業が+8.5%へと伸び率を高めた。中小企業の設備投資計画は例年3月調査が弱く、その後は調査の度に改善していく傾向がある。全産業の設備投資計画は前年度比▲0.2%。修正率は+6.3%となった。一方、GDPの設備投資の概念近いソフトウェアを含み土地投資額を除くベースでは、2015年度は大企業では前年度比+10.7%、中小企業は+0.3%である。2015年度の全規模・全産業の経常利益は前年度比+5.4%の伸び率が見込まれている。企業収益の伸びを背景に全産業・全規模の設備投資計画は前年度比+7.8%で、2014年度の前年度比+4.3%の伸び率を上回るしっかりした計画になっている。

●生産・営業用設備判断DIは09年6月調査では、大企業・製造業が38、中小企業・製造業で38と「過剰」超の高水準であった。そこから振れを伴いつつも概ね改善傾向にあり、前回9月調査では各々1、3まで低下した。今回12月調査では各々3、4とやや「過剰」超幅が拡大した。「先行き」は各々3、2と低水準が継続する見込みだ。生産・営業用設備判断DIで「過剰」超が0に近い低水準にあることは、企業が設備投資を実施しやすい環境であることを示唆していよう。

●雇用判断DIは09年6月調査では、大企業・全産業が20、中小企業・全産業で23と「過剰」超の高水準であった。大震災の影響など雇用判断が一時的に悪化する局面もあったが、概ね改善基調で推移してきた。前回9月調査では、大企業・全産業は▲9、中小企業・全産業は▲19となった。今回12月調査では、大企業・全産業は▲12、中小企業・全産業は▲21となった。「不足」が増えた。「先行き」をみると大企業・全産業は▲12と「最近」比で「不足」超幅変わらず、中小企業・全産業は▲23と「最近」比で2ポイント「不足」超幅が拡大する見通しである。雇用の改善基調は継続すると言えよう。

●資金繰り判断DIや金融機関の貸出態度判断DIは、09年6月調査以降、横ばいの時期もあったものの、概ね改善傾向が続いてきた。9月調査では、全規模・全産業で資金繰り判断DIが13で、9月調査比1ポイント上昇し「楽である」超幅が増えた。一方、全規模・全産業の金融機関の貸出態度判断DIは20で、こちらは9月調査比横這いだった。総じてみれば、金融環境は概ね良好な状況が継続していると言えよう。

●今回の短観は、全規模・全産業ベースの「最近」業況判断が9月調査に比べ1ポイント改善するなど、総じて事前の見通しにくらべ足元は底堅い内容になった。目先の日銀の金融政策にとっては、どちらかと言えば現状維持の判断材料と言えそうだ。但し「先行き」に関しては中国経済をはじめとする世界経済の動向が不透明な状況は依然続いており、企業の不安心理の高まりが確認できる内容だと言えよう。