ホームマーケット経済指標解説2017年5月分鉱工業生産指数・速報値について

2017年5月分鉱工業生産指数・速報値について

2017年6月30日

-5月分鉱工業生産指数は予想通り前月比減少、前年同月比は増加基調継続-
-基調判断は7カ月連続して「生産は持ち直しの動きがみられる」-
-4~5月分の在庫サイクルは「在庫積み増し局面」、在庫の前年比はマイナス-
-5月分一致CI前月差下降も3カ月移動平均上昇、景気判断8カ月連続「改善」-
-4~6月期実質GDP前期比は、かなりしっかりした伸び率になりそう-

(鉱工業生産)

●鉱工業生産指数・5月分速報値前月比は▲3.3%と2カ月ぶりの減少になった。4月分前月比が+4.0%と大幅増加になった反動と言えよう。鉱工業生産指数・5月分速報値の季節調整値は100.4に低下した。ちなみに4月分の103.8はリーマン・ショック時08年10月分107.4以来の水準である。

●5月分速報値の前年同月比は+6.8%で4月分の同+5.7%から伸び率を高めた。7カ月連続の増加で、16年12月分の同+3.1%をボトムに3.7ポイント上昇してきた。最近の鉱工業生産指数は、均してみると増加基調が続いてきたことを示唆している。

●鉱工業出荷指数・5月分速報値前月比は▲2.8%と2カ月ぶりの減少になった。鉱工業出荷指数は前回4月分で季節調整値が101.1となった。こちらは生産と違いリーマン・ショック時の水準にはまだ遠かったものの、消費税率引上げ直前の14年3月分107.4以来の水準に回復していた。

●4月分の生産をみると、15業種のうち輸送機械工業、はん用・生産用・業務用機械工業、金属製品工業など14業種が減少し、石油・石炭製品工業1業種だけが前月比増加となった。

●経済産業省が公表している鉱工業生産指数の先行き試算値で、5月分の前月比は最頻値で▲3.5%、90%の確率に収まる範囲で▲4.4%~▲2.5%とマイナスの伸び率となっていた。5月分前月比実績の▲3.3%は試算値の予想範囲内でも最頻値に近く、製造工業生産予測指数前月比(▲2.5%)より下振れた。

●製造工業生産予測指数6月分前月比は+2.8%、7月分前月比は▲0.1%で、引き続き増減を繰り返す見込みだ。

●鉱工業生産指数の先行き試算値では、6月分の前月比は最頻値で+1.7%、90%の確率に収まる範囲で+0.7%~+2.7%とプラスの伸び率となっている。製造工業生産予測指数前月比+2.8%は試算値の上限を0.1ポイント上回る伸び率だ。

●先行きの鉱工業生産指数6月分を製造工業予測指数前月比(+2.8%)で延長した場合、4~6月期の前期比は+2.5%の増加になる見込みだ。一方、6月分を先行き試算値最頻値前月比(+1.7%)で延長した場合は4~6月期の前期比は+2.1%の増加になる見込みだ。16年4~6月期以降17年4~6月期にかけ前期比プラスは5四半期連続になりそうだ。

●経済産業省の基調判断は16年8月分では「総じてみれば、生産は緩やかな持ち直しの動きがみられる」という判断に2カ月ぶりに上方修正された。15年5月分から1回を除き続いてきた「一進一退」の表現がなくなった。16年9月分、10月分でも「総じてみれば、生産は緩やかな持ち直しの動きがみられる」という判断は維持された。16年11月分では「緩やかな」がとれて「総じてみれば、生産は持ち直しの動きがみられる」という判断に上方修正された。16年12月分・17年1月分・2月分・3月分・4月分に続き今回17年5月分でも「総じてみれば、生産は持ち直しの動きがみられる」という同じ判断になった。この判断は7カ月連続だ。

●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体で縦軸に在庫の前年比を、横軸に出荷の前年比をとった在庫サイクル図をみると、16年4~6月期(出荷の前年比が▲1.9%、在庫が同▲0.5%)までは45度線を上回ったままだった。16年7~9月期で出荷の前年比が▲0.5%、在庫が同▲2.7%と45度線を下回った。10~12月期では出荷の前年比が+1.8%、在庫が同▲5.3%とさらに右下に動いた。17年1~3月期では出荷の前年比が+3.7%、在庫が同▲4.0%と、1~3月期まで生産が増加しやすい「意図せざる在庫減局面」に入っていた。17年4~5月分では出荷の前年比が+5.2%、在庫が同▲1.2%と右上に動いた。現在、在庫循環図からみて、「在庫積み増し局面」に入ったと言えよう。

(5月分景気動向指数予測)

●5月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差+0.7程度と2カ月ぶりの上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列で、6月30日午前9時時点で数値が判明しているのは、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの8系列だ。最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、消費者態度指数、日経商品指数、東証株価指数の5系列が前月差プラス寄与に、新規求人数、マネーストック、中小企業売上げ見通しDIの3系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る、新設住宅着工床面積1系列は前月差寄与がほぼゼロになると予測した。

●5月分の一致CIは前月差▲1.7程度と2カ月ぶりの下降になると予測する。最近、前月差は交互に上昇・下降を繰り返しているが、採用系列の生産指数(鉱工業)の影響を受けているとみられる。速報値からデータが利用可能な7系列中、投資財出荷指数、商業販売額指数・卸売業の2系列が前月差プラス寄与に、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、商業販売額指数・小売業、有効求人倍率の5系列が前月差マイナス寄与になると予測した。

●一致CIを使った景気の基調判断は16年10月分から基調判断が景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」になっている。5月分も、一致CIの前月差が予測通りなら3カ月移動平均の前月差が上昇するので、「改善を示している」という判断が8カ月連続で続くことになろう。

●5月分の先行DIは44.4%程度と景気判断の分岐点の50%を下回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、6月30日午前9時時点で数値が判明している8系列中、新規求人数、消費者態度指数、東証株価指数の3系列がプラス符号に、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、日経商品指数、マネーストック、中小企業売上げ見通しDIの5系列がマイナス符号になることが判明している。先行DIは33.3%以上44.4%以下と50%割れになることが確定している。残る、新設住宅着工床面積1系列はプラス符号になると予測する。

●5月分の一致DIは57.1%程度と4カ月連続して景気判断の分岐点の50%を上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な7系列は、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の4系列がプラス符号に、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数の3系列がマイナス符号になると予測する。

(4~6月期のGDP予測)

●個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の4~5月平均の対1~3月平均比は+4.5%の増加になった。同じく供給サイドの関連データである非耐久消費財出荷指数は同+3.0%の増加だ。同じく供給サイドの関連データである商業動態統計・小売業販売額指数は名目値ではあるが4~5月平均の対1~3月平均比は+0.8%の増加になった。一方、需要サイドの関連データでは、家計調査・二人以上世帯・実質消費支出(除く住居等)4~5月平均の対1~3月平均は+1.0%の増加になった。乗用車販売台数の4~5月平均の対1~3月平均は+9.4%の増加になった。4月分が強いので5月分が若干減少しても4~5月平均の水準が高い状況だ。GDP統計の実質個人消費と関連性が高い消費総合指数(月次ベース)4月分の対1~3月平均比は+0.7%の増加である。総合的に考えると、4~6月期第1次速報値で6割弱のウエイトがある個人消費は、前期比でかなりしっかりした伸び率になる可能性が大きいとみられる。

●設備投資の関連データである資本財出荷指数の4~5月平均の対1~3月平均比は+2.7%の増加になった。資本財(除.輸送機械)は同+5.0%の増加になった。また、建設財は同▲0.2%の減少になった。総合的に考えると、最終的に供給サイドから推計される4~6月期の実質設備投資は前期比で増加になる可能性が大きいとみられる。

●公共投資も4月分の建設業活動指数などの関連データからみるかぎりかなりしっかりした動きが予想される。建設業活動指数の4月分の対1~3月平均比は+6.5%もの増加になっている。公共・土木が増加に大きく寄与している。

●4~6月期は1~3月期に落ち込んだ民間在庫変動のうちの原材料在庫の反動増が見込まれる。ARIMAモデルにより内閣府が現時点での情報を使って算出・公表した、4~6月期の原材料在庫の季調済実質値前期差は+1兆8821億円、仕掛品在庫の季調済実質値前期差は+910億円である。

●実質GDP前期比にとってマイナス寄与になりそうなのは外需だ。実質輸出入の動向をみると輸出の4~5月平均の対1~3月平均比は▲0.6%の減少になった。控除項目の輸入は同+2.1%の増加になっている。4~5月分のモノだけをみると外需はマイナス寄与になると思われる。

●現段階で4~5月分のデータや、民間在庫変動の反動増などから総合的に判断すると、8月14日に発表される4~6月期の実質GDP第1次速報値はかなりのプラス成長になる可能性がありそうだ。