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2018年6月調査 日銀短観

2018年7月2日

―大企業・製造業・業況判断DI+21で2四半期連続悪化、但し高水準は継続―
―中小企業・製造業・業況判断DI+14とやや鈍化するも+10台の水準は維持―
―「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベース全産業・全規模の設備投資」の18年度+9.1%―

●6月調査日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが+21程度と3月調査の+24から3ポイント低下した。12年12月調査以来5年半ぶりの2四半期連続の悪化で、筆者の予想通りとなった。16業種中、鉄鋼や非鉄金属など10業種が低下した。3月調査時点から円相場は円安・ドル高方向に進んだものの、資源価格上昇に伴う原料高の影響や米国のトランプ政権による保護主義政策などの影響が悪材料として出た。但し、13年6月調査以降21期連続して「良い」超のプラスであり、息の長い緩やかな景気拡張局面が継続していることを示唆する数字と言えよう。
 
●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は16年3月調査・6月調査とも10%だったが9月調査で9%、12月調査と17年3月調査で7%に、6月調査・9月調査で5%に低下し、17年12月調査で4%になったが、前回18年3月調査で5%に戻り、今回6月調査でも5%になった。

●なお、「悪い」と答えた割合は「最近」では5%だが、「先行き」では3%だ。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では26%、「先行き」では24%で、どちらも変化幅が2ポイント減だ。

●6月調査の調査期間は5月29日~6月29日である。

●6月調査の大企業・製造業の業況判断DI+21は3月調査の「先行き」見通し+20より1ポイント改善した。足元の景況感が予測よりは良かったということになる。

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+21と「最近」の+21と同水準が見込まれている。6月調査の18年度想定為替レートは107円26銭で前回3月調査の109円66銭や、足元の実際の為替の動き(7月2日9時1ドル=110円73銭)より円高に置いている。このため、為替レートの今後の動向次第では業況判断DIが上振れることも予想される。

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、17年12月調査は15年9月調査・12月調査と並ぶ+25で91年11月調査の+33以来の高水準だったが、前回18年3月調査で+23と2ポイント低下した。今回6月調査で+24にやや改善した。

●18年6月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは28期連続のプラスである。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は16年6月調査・9月調査・12月調査で6%だったが、17年3月調査で5%に低下、6月調査で3%となった。しかし9月調査では1ポイント上昇し4%に、12月調査、18年3月調査に続き今回6月調査でも同じ4%になった。

●大企業・非製造業では「先行き」は+21と「最近」の+24から3ポイントの悪化が見込まれている。但し、「悪い」と答えた割合は「先行き」は4%で「最近」と同じである。何か大きな悪材料があってDIの悪化が見込まれているわけではないことがわかる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では28%、「先行き」では25%で変化幅が3ポイント減だ。先行きの不透明感からDIは悪化する見通しになっていることがわかる。

●中小企業・製造業の業況判断DIは16年9月調査で▲3と3四半期連続マイナスになったあと16年12月調査では+1とプラスに転じ、17年12月調査で+15と9月調査より5ポイント改善し5期連続プラスになった。+15は91年8月調査+20以来の水準である。前回18年3月調査でも+15で変わらなかったが、今回6月調査で+14とやや低下した。なお、6月調査の「最近」+14は3月調査の「先行き」見通しが+12になるとみていたのに対し、2ポイント上回った。足元の景況感が予測より改善するという結果である。中小企業・製造業の景況感がしっかりしている内容と言えよう。

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになっていた。17年12月調査では9月調査の+8から1ポイント改善し+9となった。18年3月調査では12月調査の+9から1ポイント改善し91年11月調査+13以来26年4カ月ぶりの水準である+10となったが、今回6月調査では+8に低下した。19期連続でマイナスになっていない。3月調査時点の「先行き」+5を3ポイント上回った。予測よりは良かったということになる。

●業種ごとに見ると、前回3月調査で▲5と12月調査の▲8からマイナスながら改善した小売は、今回6月調査で▲6とやや悪化した。冬場に寒波・大雪の影響が出たとみられる小売だが3月になって桜が早く開花するなど春物が売れる環境になったことで一時改善したが、価格・物価動向などに関して消費者心理のもたつきが続く中、再びやや低下したとみられる。

●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は+12と「最近」+14から2ポイント悪化する見通しである。また、中小企業・非製造業は+5とこちらは「最近」+8より3ポイントの悪化見通しであるもののプラスの数字になった。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回9月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性が大きいのではないかとみられる。

●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。その後は消費税率引き上げによるもたつきなど様々な動きがあったが緩やかに改善し前回18年3月調査では+17になった。しかし、今回6月調査では+16へと若干だが悪化した。但し、全規模・全産業という全体の景況感は20期連続してプラスの水準だ。景気が底堅いことを示唆する数字だろう。

●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+13と、「最近」+16から3ポイント悪化する見通しである。全体としてみた、企業の景気の先行きには不透明感が強いことを示唆していよう。

●18年度の売上高計画は、大企業・中堅企業・中小企業、製造業・非製造業の、組み合わせ6つで中小企業・非製造業の▲0.3%のマイナス以外はすべてのカテゴリーで増加になっていることは明るい数字と言えよう。

●雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は人手不足感の強まりが足元ではやや一服したことを示唆する数字となった。前回3月調査で大企業・全産業の雇用人員判断DIは▲22で92年2月調査の▲24以来26年1カ月ぶりの水準であったが、今回6月調査では▲21になった。前回3月調査で中小企業・全産業では▲37で91年11月調査の▲38以来26年4カ月ぶりの水準であったが、今回6月調査では▲35になった。バブル景気の「山」直後の人手不足感になった3月調査よりやや落ち着いたことがわかる。

●18年6月調査の18年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+13.6%。一方、18年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲11.8%だった。18年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は+7.9%になった。6月調査としてはしっかりした計画と言える。

●一方、ソフトウエア投資額と研究開発投資額は、2018年度計画・前年度比は製造業・非製造業と大企業・中堅企業・中小企業を掛け合わせた6カテゴリー全てで増加となっている。

●このためGDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2018年度計画・前年度比は、大企業・全産業で+11.0%。一方、18年度の中小企業・全産業で▲4.7%だった。18年度の全規模・全産業では+9.1%になった。18年度は設備投資の伸びが期待される。

●「上昇」-「下降」の割合を示す、販売価格判断DIは、大企業・中小企業、製造業(うち素材業種)・製造業(うち加工業種)・非製造業の、企業規模・業種6つのカテゴリーで、前回からの変化幅で見て、拡大したものが5つ、縮小したものが1つで、物価上昇圧力が出てきている感じがする内容だと思われる。仕入れ価格判断DIは企業規模・業種6つのカテゴリーで前回からの変化幅で見て、拡大したものが5つ、縮小したものが1つだった。しかし、中小企業・製造業(うち素材業種)と中小企業・非製造業で上昇超幅が5ポイント上昇している。原材料高の影響が大きいことがわかる。

●7月3日に発表される「企業の物価見通し」の内容が注目される。

●今回の日銀短観は、原材料高、保護主義の台頭などで、景況感がやや悪化したものの、水準に注目すると意外と底堅さも感じられる。先行きに関する不透明感が大きく、企業の判断も慎重にならざるをえない状況だが、詳細に見ると、設備投資計画などはしっかりで、引き続き企業の景況感の堅調さや、緩やかな景気拡張継続を示唆する数字が散見される内容と言えそうだ。