ホームマーケット身近なデータで見た経済動向5月のトピック「景気拡張局面続く。長嶋茂雄氏・松井秀喜氏への国民栄誉賞授与も景気支援材料に」

5月のトピック「景気拡張局面続く。長嶋茂雄氏・松井秀喜氏への国民栄誉賞授与も景気支援材料に」

2013年5月1日

 景気は、海外景気などの下振れリスクはあるものの、経済政策効果への期待、90 円台後半のドル円レート、量的・質的金融緩和の継続、株高の資産効果、消費税増税前の駆け込み需要などが支援要因だ。海外景気も概ね緩やかに回復基調にあり、わが国の輸出にとってプラス要因だろう。

 エコノミストのコンセンサス調査である「ESP フォーキャスト調査」4 月調査によると、回答した40 名中、「09 年3 月の景気転換点(谷)の次の転換点(山)を過ぎていない」という者は5 名いる。筆者もこの立場である。2 月調査より2 名増えた。ブライボッシャン法で昨年山をつけた系列は生産関連データが多いが、生産に類似した動きになるはずの大口電力使用量は山がまだ付いていない。商業販売額卸売業・前年同月比のように12 年9 月が谷であるという系列も出てきた。さらに今年は5 年に一度の鉱工業生産指数の基準改定の年で、基準改定次第で生産関連データの山・谷も変わる可能性もあるとみている。また、「転換点(山)は過ぎたが、次の転換点(谷)も過ぎた」とみるフォーキャスターは35 名である。ミニ後退局面があったという立場である。いずれにしても40 名中40 名全員が、現時点に関しては谷から山に向かう拡張局面にあると見ていることになる。

 また同調査によると民間エコノミストの予測平均値で、13 年度の実質GDP 成長率は+2.3%だ。「ESP フォーキャスト調査」ではエコノミストの景況感の総意をみることも可能だ。総合景気判断DI を4 月調査で見ると、13 年4~6 月期は景気判断の分岐点50 を大きく上回る97.4 となった後、7~9 月期には全員が景気は良いと判断する100.0 になり、10~12月期も100.0、さらに14 年1~3 月期96.1 と高水準が続く。ほとんどのエコノミストが13 年度の景気を上向きとみていることがわかる。但し、消費税引き上げが予定されている14 年4~6 月期には19.7 まで一気に落ち込むという見通しになっている。

 鉱工業生産指数・3 月分速報値は前月比+0.2%と、4 カ月連続増加になった。1~3 月期の鉱工業生産指数・前期比は+1.9%と4 四半期ぶりの増加になった。また、製造工業生産予測調査によると、製造工業生産指数3 月分実績の前月比は+1.8%、4 月予測は前月比+0.8%の増加、5 月予測は同▲0.3%の減少の見込みだ。3 月の実現率は+0.8%、4 月の予測修正率は+1.1%で、両者が揃ってプラスになったのは2010 年2 月以来だ。先行きの鉱工業生産指数を4 月・5 月の予測指数の前月比で延長し6 月分の前月比をゼロとすると、4~6 月期は前期比+0.9%と2 四半期連続の増加になる。3 月分速報値の鉱工業出荷指数・前月比は+0.3%と2 カ月連続の増加になった。鉱工業在庫指数は前月比▲0.2%と8 カ月連続の減少になった。鉱工業在庫率指数は前月比▲1.2%と6 カ月連続の低下になった。在庫や在庫率が低下を続けており、鉱工業全体での出荷・在庫の関係が非常にいいかたちとなっている。輸出産業の在庫減少などが好感できよう。

 日本銀行は4 月26 日に黒田総裁になって初めての「展望リポート」を発表した。2 年で2%の物価上昇率を目指すという目標を意識した内容となった。リポートで示した14 年度の消費者物価の上昇率の見通し(中央値)は消費増税の影響を除く場合では+1.4%で「ESP フォーキャスト調査」の民間エコノミストの予測平均値+0.5%と乖離がある。今回のリポートは見通しの期間を従来よりも1 年延ばし、15 年度+1.9%という見通し(中央値)を示すことで2%の物価目標の達成時期を示した。但し、発表されたレンジのデータから15 年度+0.8%、+0.9%という見通しを出した審議委員がいることがわかり必ずしも政策委員会の見通しが一枚岩ではないことが明らかとなった。日銀の実質GDP 見通しの中央値は13 年度+2.9%、消費税引き上げがある14 年度は+1.4%、15 年度は+1.6%である。強気の見通しであるが、3 年間の単純累計では+5.9%になる。潜在成長率を+0.5%程度とみると3 年間の単純累計では+1.5%程度になる。両者の差、+4.4%分がGDP ギャップ(需給ギャップ)改善要因になる。GDP ギャップは12 年10~12 月期に▲3.0%だった。13 年1~3 月期はもう少し小幅マイナスだろう。日銀見通しでは15 年度にはGDP ギャップが+2%程度になっていると思われる。リポートで示した96 年以降のフィリップス曲線は、「CPI コア前年比=0.28×需給ギャップ(2 四半期先行)+0.3」という式で表される。需給ギャップに大きめな数値である+2.5%を代入してもCPI コア前年比は+1.0%にとどまる。2%の物価上昇率実現には期待インフレ率上昇により、フィリップス曲線が1%分ほど上方にシフトする必要があろう。4 月3 日が締め切りだった「ESP フォーキャスト調査」4 月特別調査で2015 年3~4 月頃までに2%の物価上昇率を達成できるとしたエコノミストは40 名中2 名にとどまった。

 東京23 区内のホームレスは13 年1 月時点で1,117 人と95 年の調査開始以来最少となった。最大は金融危機の後の99 年8 月時点の5,798 人であった。このようなホームレスの減少傾向、大学生内定率2 年連続改善、求人広告掲載件数の前年同月比が2 月分は+15.4%、3 月分は+20.3%というように2 ケタ増加基調継続、3 月分の完全失業率が4.07%とリーマンショック直後の08 年11 月分の4.00%以来の低水準に低下、3 月分の有効求人倍率が0.86 倍とリーマンショック直前の08 年8 月分と同レベルまで改善するなど、雇用面は底堅い。

 身近な社会現象も景気支援材料が多いようだ。CD 売り上げをみると景気拡張局面の目安となる初動50 万枚超が続いている。2 月20 日発売のAKB48 の「So long!」が初動103.6 万枚。3 月6 日発売の嵐の「Calling/Breathless」が初動75.6万枚。4 月3 日発売のEXILE の「EXILE PRIDE ~こんな世界を愛するため~」が初動56.5 万枚となった。4 月27 日のEXILE のライブに安倍首相が来場した。ライブ後、安倍首相は自身のフェイスブックで「彼らの歌う『Rising Sun』の歌詞。『So,Rising Sun 陽はまたのぼってゆくSo,Rising Sun 夜明けはそばに来てる』まさに、今から復活を遂げてゆく日本を象徴するような、元気になる曲でした」と感想をつづっている。また、株価上昇による資産効果もあり、百貨店売上高で美術・宝飾・貴金属は増加している。3 月分は+15.6%の増加となった。

 但し、ガソリン価格・灯油の上昇とともに節約の動きが出たのだろうか、中央競馬売上高の年初からの累計前年比が、1 月は増加であったが2 月は後半になると減少に転じた。さらに2 月から3 月初めにかけ、「笑点」が「その他娯楽番組」で最高視聴率を続けたことは景況感の悪さを示したが、ガソリン価格・灯油が下落基調に転じる中、4 月は全て1 位回避となり景況感改善を示唆した。中央競馬売上高の年初からの累計前年比は雪で福島競馬が休止となった特殊事情を除くと2 月末・3 月初めの▲1.9%の減少から、4 月29 日までの週での▲1.1%まで減少率が縮小した。

 政府は、プロ野球の巨人軍終身名誉監督の長嶋茂雄氏と、巨人や米大リーグのヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏に、国民栄誉賞を授与する。授賞式は5 月5 日に東京ドームで開く。長嶋氏のプロ野球入り55 年という節目、昨シーズンで引退した松井氏の背番号55、こどもの日などを考慮したようだ。巨人や阪神など人気球団の活躍と景気拡張は重なることが多い。中でも長嶋巨人軍が日本一に輝いた94 年・00 年は、日銀の短期景気観測調査(短観)の12 月調査で、大企業・全産業の業況判断指数がいずれも前年差で20 ポイント台の大幅改善だった。

 国民栄誉賞は俳優や歌手など文化人が受賞した時の景気局面は拡張と後退が半々だが、スポーツ選手の場合は多くが拡張局面に当たる。景気局面が確定している期間で受賞したのは過去7 回。このうち、大相撲の千代の富士関が受賞した89 年9 月など、5 回が拡張期だ。唯一、後退期だったのは王貞治氏の77 年9 月。だが同年10 月が景気の谷で、すぐ拡張期に転換した。スポーツ選手は大記録を樹立したり、記憶に残る活躍をしたりしたタイミングで受賞することが多い。祝賀ムードから選手ゆかりの商品が売れ、内需拡大が期待できる。今回は師弟での受賞という珍しい事例だ。「次代につなげる」という明るいメッセージも、景気を下支えするだろう。

 引退・師弟・「次代につなげる」というキーワードは、プロレスでも旬である。正統派の人気レスラー小橋建太が5 月11 日に日本武道館で引退試合をおこなう。小橋は盟友かつライバルだった秋山準らとタッグを組み、元付き人のKENTA、潮崎豪らと8 人タッグで対戦する。見せるスポーツであるプロレスでは、小橋のような正統派レスラーが大きなリーグ戦などの大会で優勝した時は、景気は拡張局面という傾向がある。全日本プロレスの春の祭典チャンピオンカーニバルで優勝した2000 年も景気拡張局面だった。今年のチャンピオンカーニバルでは、正統派レスラーと言える秋山準が10 回目の参加で初優勝した。4 月25 日には、日本で一番古い歴史のあるアジアタッグの王者に、小橋からバーニングというユニットを託され再結成した秋山ら5 人のメンバーの中の若手の鈴木鼓太郎と青木篤志がついたことも象徴的だ。陽はまたのぼってゆくように、新しい日本を若い力で作っていく、そんな前向きな雰囲気がプロレスでも見られることは、景気下支え要因と言えるだろう。

 4 月10 日に発表された「エルニーニョ監視速報」によれば、「エルニーニョ現象もラニーニャ現象も発生していない平常の状態が続いている。今後夏にかけても平常の状態が続く可能性が高い」と気象庁は予測している。その後に発表された4 月上旬、中旬の監視海域の基準値偏差は0.0℃、▲0.1℃と概ねゼロである。今夏の猛暑が回避されれば、増加傾向にある生産の抑制要因になる可能性が低くなり、景気にプラスに働くだろう。