ホームマーケット身近なデータで見た経済動向7月のトピック「消費税率引き上げの一時的落ち込みから景気持ち直しへ、巨人首位浮上など身近なデータも持ち直し示唆」

7月のトピック「消費税率引き上げの一時的落ち込みから景気持ち直しへ、巨人首位浮上など身近なデータも持ち直し示唆」

2014年7月2日

 日本の景気はアベノミクス効果で、12年11月を谷とする戦後の景気サイクルでは第16循環の拡張局面にある。4月の消費税率引き上げによる反動減も想定の範囲内におさまった模様だ。4・5月分の家計調査の数字の弱さから、4~6月期の実質経済成長率の悪さを懸念する向きもあるが、昨年初め時点で、個人消費が落ち込むことを主因にGDPは前期比年率▲5%程度落ち込むことは想定されていた。4月の消費税率引き上げの影響はこれまでのところ一時的な落ち込みで、設備投資や輸出が出てくることもあり、景気後退にはならないという、想定の範囲内の動きになっているようだ。

 輸出は米国経済がしっかりしてくることを前提に見通しされているが、懸念材料もある。米国の1~3月期の実質GDPが前期比年率▲2.9%に下方修正され、4・5月分の実質個人消費の前月比がマイナスになったので、4~6月期の個人消費は今のままなら前期比年率+1%台と低調になる見通しになった。消費者信頼感指数など他のデータに比べて弱い状況だ。実質GDPは7月30日に4~6月期分発表と同時に過去3年分がリバイスされるので、その内容の見極めが必要だろう。

全国百貨店売上高前年同月比は駆け込みがあった3月分の+25.4%のあと、4月分▲12.0%と2ケタ減少したが、5月分は▲4.2%と1ケタの減少になった。7月1日に発表された6月分の大手百貨店売り上げは天候不順の影響もあり1ケタの減少で、減少率が縮小したところと拡大したところと各社まちまちだった。

同じく7月1日に発表された6月分の新車新規登録届出台数は前年同月比+0.4%と、4月分同▲5.5%、5月分同▲1.2%の減少から僅かだが3カ月ぶりに増加に転じた。うち乗用車は前年同月比+0.1%の増加で、4月分同▲5.1%、5月分同▲1.3%から、こちらも3カ月ぶりに増加に転じた。消費税の自動車販売への悪影響は、大きくなかったと言えよう。

こちらも7月1日に発表された6月調査日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIが3月調査の+17から5ポイント悪化し+12になった。6期ぶりの悪化だが、5期連続「良い」超を意味するプラスである。消費増税前の駆け込み需要の反動減などが、企業景況感の悪化に作用したと言えそうだ。しかし、6月調査の大企業・製造業の業況判断DI+12は3月調査の「先行き」見通し+8を4ポイント上回る数字になった。一時的落ち込みに関する事前予想より足元の景況感が良かったということになり、景気は基調的には上向き局面にあることを裏付ける数字であろう。大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は6月調査では8%と3月調査と同じだった。大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+15と「最近」の+12より3ポイントの改善が見込まれている。

大企業・非製造業・業況判断DIでは、6月調査は+19と3月調査の+24から5ポイント悪化した。6期ぶりの悪化であるが、12期連続のプラスであることは、内需の底堅さを反映していると言えよう。大企業・非製造業では「先行き」は+19と「最近」の+19と同水準が見込まれている。非製造業12業種の中で「先行き」が「最近」より悪化すると慎重にみている業種は7業種である。大企業・製造業では16業種の中で「先行き」が「最近」より悪化すると慎重にみている業種は4業種にとどまっている状況と比べると、非製造業では資材の高騰や人手不足による人件費などのコスト高がより大きく影響しているのかもしれない。

中小企業・製造業の業況判断DIは、12月調査では+1となり07年12月の+2以来のプラスになり、3月調査では3ポイント改善し+4になった。6月調査では3ポイント悪化し+1になったが3期連続プラスを維持した。3月調査時点の「先行き」▲6を7ポイント上回った。一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは12月調査で+4と92年2月の+5以来21年ぶりのプラスになり、3月調査では4ポイント改善し+8になった。6月調査では6ポイント悪化し+2になったが3期連続プラスは維持した。3月調査時点の「先行き」▲4を6ポイント上回った。中小企業は製造業、非製造業とも予想以上にしっかりした景況感だったと思える。

生産・営業用設備判断DIは09年6月調査では、大企業・製造業が38、中小企業・製造業で38と「過剰」超の高水準であった。前回3月調査では各々6、4と、そこから5年間弱の間概ね改善傾向にあった。今回6月調査では各々7、5と若干上昇したが、「先行き」は各々5、2となっている。生産・営業用設備判断DIが先行き低下傾向であることは、企業が設備投資を実施する環境に近づいていることを示唆していよう。また、雇用判断DIは09年6月調査では、大企業・全産業が20、中小企業・全産業で23と「過剰」超の高水準であった。大震災の影響などで雇用判断が一時的に悪化する局面もあったが概ね改善基調で、前回3月調査では、大企業・全産業は▲6と3ポイント低下し「不足」超幅が拡大、中小企業・全産業は▲15とこちらも3ポイント低下し「不足」超幅が拡大していた。6月調査では、大企業・全産業は▲6と「不足」超幅は横這い、中小企業・全産業は▲12と3ポイント上昇し「不足」超幅が縮小した。景気の一時的落ち込みにあわせて、雇用の改善基調は一服したが、「先行き」をみると大企業・全産業は▲6と「最近」比で「不足」超幅は横這い、中小企業・全産業は▲17と「最近」比で5ポイント低下し「不足」超幅が拡大する見通しである。

生産・営業用設備判断DIと雇用判断DIを加重平均したものはGDPギャップと似た動きをする。4~6月期は一旦GDPギャップの改善が後戻りするが、7~9月期以降は再びプラス方向に向かうことを示唆していると言えよう。

6月24日安倍総理は新成長戦略と骨太の方針を閣議決定した。長いデフレの時代に日本の潜在成長率は低下してきた。潜在成長率は資本、労働、生産性の3要素の伸び率で決まる。デフレ下では企業が借入れをして設備投資を実施する動機に乏しく資本ストックの伸びは鈍化した。少子高齢化の流れの中で労働力の伸びも低下した。

アベノミクス第3の矢の成長戦略は、日本の潜在成長率を高め、経済の可能性を開花させるのが主目的だ。投資減税に加え、法人減税を実施すること、さらにコーポレートガバナンスを強化することで、真に必要な企業の設備投資を増やし、資本の伸びを高める。働き手として女性や外国人を重視し、女性の働く意欲を高める政策や、技能実習制度の拡充を通じて日本で働く外国人労働者を増やすなどの政策で、労働力の伸びを確保する。岩盤規制と言われるような分野の規制緩和への踏み込みや、ロボットの活用などで、生産性を高めることを考えているのだろう。

「ESPフォーキャスト調査」13年7月の特別調査で、アベノミクスの短期と長期の効果についてオールジャパンのエコノミストの意見を調べたことがある。1年以内の短期では、金融政策・財政政策の効果で、成長率の押し上げ、物価上昇、失業率改善、円安、株高になるといった見方が約9割以上でコンセンサスとなっていた。

しかし、1年超の長期に関しては、そうした見方は6割程度に低下し、どちらとも言えないという意見が3割強になっていた。長期の効果に影響を与える成長戦略は、民間の経済主体が政策による環境整備を自分の問題として前向きに捉え活用して初めてプラスに働くことになる。

今回の消費税引き上げと97年を比べて、非製造業の景況感と企業の在庫コントロールの面の2つで大きな違いがみられる。

非製造業の景況感を日銀短観の業況判断DIでみると、97年3月調査では大企業、中小企業とも「悪い」が多いマイナスだったが、13年12月調査以降、14年6月調査にかけ「良い」が多いプラスだ。中小企業のプラスは92年2月調査以来約22年ぶりだ。

金融政策効果で大幅に円安(円高修正)が進んだ。本来であれば製造業にはプラスだが、非製造業には輸入コストが上がるなどでマイナスの影響が出る状況だ。それにもかかわらず、非製造業の景況感が改善したのは、円安により大幅な株高が生じ、資産効果で個人消費が伸びたことと、アベノミクス第2の矢で公共投資が伸びたことが相俟って、内需が堅調だったことが大きく影響していよう。非製造業は売上が伸びたことで景況感が改善したとみられる。

様々なデータでみて雇用は大きく改善している。非製造業は雇用吸収力が大きいので、雇用の数字は大きく改善している。5月分の失業率は3.5%と16年5カ月ぶりの低水準になった。有効求人倍率は1.09倍になった。いざなみ景気時の06年7月に一度だけ記録した1.08倍を上回り、92年6月の1.10倍以来21年11カ月ぶりの高水準だ。

雇用改善は限界的な雇用関連社会現象にも現れている。自殺者は減少を続けている。消費税率の引き上げ後も、4月は前年同月比▲7.2%、5月同▲11.3%と減少になっている。

また、企業行動が慎重で在庫コントロールがうまくいっている。ESPフォーキャスト調査では13年の初めから14年4~6月期は4~5%減の大幅マイナス成長になるという予測が出ていて、マスコミ等を通じて広く世の中に報じられた。こうしたことから企業の在庫管理に関する行動が97年当時と比べ慎重になっている。出荷に対する在庫の割合の鉱工業在庫率指数は直近5月分でも13年9月分に比べ低い水準にある。

但し、企業は慎重に行動しているといっても、萎縮していない。身近な例として大相撲の懸賞をみよう。今年は初場所1198本、春場所1166本、夏場所1165本で初の3場所連続1100本台となった。増税前後で1本6万円から1本6万2千円に値上がりしたが、本数はほぼ同じだった。不景気なら広告を節約するはずで、景気の底堅さが感じられる一例だ。

消費者のマインドも底堅い。日本テレビ系列で日曜の夕方放送されている「笑点」の視聴率は4月以降、毎週「その他娯楽番組」の中でランキングの1位になったのは6月29日までの週1回である。日曜の夕方に人々が外出し、買い物やレジャーを楽しんでいることを示唆していよう。

6月になって明るい身近な社会現象が出ている。交流戦直前ではセ・リーグ第3位だった巨人が、交流戦で優勝し、交流戦終了時にセ・リーグ首位になり、7月1日現在首位をキープしている。人気球団が優勝する年は景気が上向いていることが多いので、消費税率引き上げの一時的落ち込みから景気が持ち直すシグナルとして注目したいところだ。