ホームマーケット身近なデータで見た経済動向8月のトピック「英国・EU離脱決定、金融資本市場の動向への懸念乗り越え、景気が「足踏み」から「改善」へ向かうことを期待」

8月のトピック「英国・EU離脱決定、金融資本市場の動向への懸念乗り越え、景気が「足踏み」から「改善」へ向かうことを期待」

2016年8月3日

(7月29日は、東京市場、NY市場ともに寄付から終値にかけて1円超の円高に)

 7月の最終営業日29日の為替市場は東京市場、NY市場ともに寄付から終値にかけて1円超の円高に動いた。東京市場の変動要因は、日銀の金融政策決定会合だ。この会合で日銀は、ETFの購入額を年間3.3兆円から6兆円に増額する追加の金融緩和を決めた。緩和は1月のマイナス金利政策の導入決定以来、6カ月ぶりだった。また企業・金融機関の外貨資金調達環境の安定のための措置も決定した。しかし、3次元の緩和手段のうち、国債買い入れ増額やマイナス金利の深掘りなどは見送られ、ETF増額にとどまったため、外為市場では一気にドル売り・円買いが広がり、今年に入ってから何度も見たような光景となった。但し、29日に発表された多くの6月分の日本の経済指標は5月分に比べ詳細を見ると明るい内容のものが多かった。28~29日にかけて行われた日銀の金融政策決定会合での政策委員の見通しやリスク判断などには当然こうした指標は織り込まれているということであり、今回は金融資本市場の動向等への懸念に対する対応としてETFの購入増額が最も適していると考えたのではないか。日銀は9月の決定会合でマイナス金利などの政策効果を総括的に検証する。


(昨年の入着原油価格は6月下旬がピーク、全国消費者物価指数・コア・前年同月比の下落基調に変化が・・・)

 デフレ脱却を目指し、2%の物価目標を掲げている日銀だが、目標となる全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合(コア)の前年同月比は3~6月分で4カ月連続マイナスになってしまった。原油価格が前月比で上昇しても前年比のマイナス幅があまり縮小しなかった。昨年の入着原油価格が6月下旬速報値の50334円/ℓまで上昇していたためだ。なお、最近は原油価格が再び低下し円高も進んでいる。昨年の入着原油価格は6月下旬をピークに低下し、9月下旬速報値37511円/ℓ、12月下旬速報値32722円/ℓとなった。電気代やガス代などの価格は原油市場の動きに遅れて動くものの、この動きからみてエネルギー価格の前年比は夏場をすぎるとマイナス幅の縮小が期待される。ESPフォーキャスト調査・7月調査・予測平均値では、全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合の前年同期比は、16年4~6月期に▲0.33%まで下落したあと、7~9月期は▲0.17%、10~12月期は+0.10%、17年1~3月期は+0.51%と緩やかに上昇していく見込みだ。東京都区部消費者物価指数の生鮮食品を除く総合の7月分前年同月比は▲0.4%で6月分の同▲0.5%から下落率が縮小した。エネルギー全体の前年同月比は▲13.7%で6月分の下落率の同▲15.3%からマイナス幅がやや縮小した。総合指数の前年同月比に対する寄与度差は+0.13%で、上昇要因になった。物価下落の動きに少しずつ変化が出てこよう。


(米国実質GDP4~6月期は前期比年率+1.2%の増加にとどまったが・・・)

 7月29日のNY市場の変動は主に米国実質GDPによってもたらされた。4~6月期は前期比年率+1.2%の増加にとどまった。前日に発表された貿易や在庫関連の統計を受けて下方修正するまでは、アトランタ連銀のGDPナウは2%台の成長を予想していた。さらに、年次改定により、15年10~12月期は+1.4%から+0.9%に16年1~3月期の成長率は+1.1%から+0.8%にそれぞれ下方修正されたことも、GDPが想定よりも弱いと市場で判断され、FRBもなかなか利上げが出来ないのではないかと受け止められたようだ。但し、在庫投資が全体の伸びを1.16%圧縮している。在庫のマイナスは将来にとって明るい材料であろう。また、実質個人消費は前期比年率+4.2%と高めの伸び率である。さらに8月2日に発表された6月分の実質個人消費は前月比+0.3%となり、7~9月期へのゲタは前期比年率+1.1%と、4~6月期へのゲタの同+0.3%に比べ高めの伸び率になった(図表1)。7~9月期の実質GDPは前期比+2%台に持ち直しそうだ。


(6月前半の消費者マインドの改善をぶち壊した英国・EU離脱決定、7月は日曜の夕方「笑点」をみる人増加か)

 6月前半の調査をみると、消費者マインドは意外に改善していた。リサーチ総研の「消費者心理調査」6月調査で生活不安度指数は128になり前回4月調査から8ポイント改善、今世紀で一番良い数字となった。また内閣府の消費者態度指数6月分(15日が調査時点)が5月分より改善するなど、日本時間6月24日午前に英国の国民投票でEU離脱が決まり、円高・株安が進むまでは、消費者心理に改善の動きがみられていた。しかし、6月24日の午前中には1ドル106円台後半から99円台まで急激な円高が進んだ。株価も急落した。こうしたことが人々の不安を高めたようだ。

 調査期間が6月25日~30日と、英国のEU離脱決定直後となった「景気ウォッチャー調査」の6月調査の現状判断DIは、前月比1.8ポイント低下の41.2となった。なお、このDIの景気判断の分岐点は50.0だ。6月調査の先行き判断DIは、前月比5.8ポイント低下の41.5となった。「英国」または「EU離脱」のキーワードを含むコメントから「英国・EU離脱」関連DIを作ると、現状判断DIが69人で30.8、先行き判断DIが357人で28.4と6月調査の景況感の下振れ要因になっていることがわかる。357人は回答者1882人の2割近くにあたる。ちなみに「為替」関連DIは現状判断DIが62人で31.4、先行き判断DIが255人で27.7とこちらも下振れ要因になっている。英国のEU離脱に伴う円高が先行きさらに進むことへの不安が、足元の景況感の悪化につながったようだ。

 また四半期ごとに消費関連企業の景況感を示す7月調査の日経消費DI・業況判断DIは▲18と、前回4月調査の▲2より16ポイント悪化した。なお、新聞で「日経DI、7月悪化 消費冷え込み警戒感」などと伝えられたため悪材料視されたが、これまでの全84回の調査の業況判断DIの平均は▲24、最高が8、最低が▲67であることから、それほど悪い水準ではないとも言えよう(図表2)。

 景気の補助信号に当たる身近な社会現象のデータでは、「笑点」の視聴率が7月の5週のうち4回「その他娯楽番組」の第1位となった。日曜日の夕方に、買い物やレジャーに出かけずテレビを見ている人が増えた可能性があり、英EU離脱をきっかけとした金融資本市場の動向が消費者心理に悪影響を及ぼしている可能性がある。


(7月10日時点の製造工業生産予測調査、予測修正率2年5カ月ぶりプラス、深刻な悪影響の感じはしない)

 しかし、企業の動向をみると足もと英国のEU離脱が深刻な悪影響をもたらしている感じはしない。
 
 英国が国民投票でEUからの離脱を決めたことと、それに伴う円高を織り込んでいる調査として、7月の「QUICK短観」特別調査の「英国のEU離脱の業績に及ぼす影響」についての回答をみると、業績への影響には「マイナスへ大きく影響」は2%にすぎず、「マイナスへ少し影響」が46%、「特に影響なし」が51%だった。また、「業績予想の前提となる想定為替レートの変更」を考えているかどうかを尋ねると、「円高方向への想定為替レートの変更を考えている」のは25%で、「変更は考えていない」が74%である。不透明さは強まったが、直接的なマイナスの影響は免れると考えられそうだ。

 鉱工業生産指数6月分速報値の前月比は+1.9%と予想外に上振れた。先行きの鉱工業生産指数を、7月分製造工業生産予測指数前月比(+2.4%)で、8月分も予測指数(+2.3%)、9月分横這いで延長した場合、7~9月期の前期比は+4.4%の増加になる見込みだ。4~6月期の前期比は0.0%と横這いだったので、7~9月期の前期比がプラスになれば3四半期ぶりのことになる。製造工業生産予測の調査時点は為替レートの動きが少し落ち着いた7月10日なので、予測指数は英国のEU離脱による円高基調の影響などが織り込まれた数字である。7月の予測修正率は+0.6%とプラスになったがこれは、消費税率引き上げ前の14年2月以来2年5カ月ぶりの明るい数字だ。英国EU離脱による円高基調の影響が足元の生産にそれほど悪影響を及ぼしていないと受け止められよう。

(乃木坂46のシングルCD初動売上、五稜郭タワーの利用者数など、底堅いものが依然多い身近な社会現象)

 足元は、景気の補助信号となる身近な社会現象のデータを詳細に見ていくことが必要だろう。先月指摘したように、世の中の閉塞感の動向を読み説くためにも目が離せないのは新日本プロレスのリーグ戦GIクライマックスだ。IWGP王者のオカダ・カズチカが王者として優勝するか、はたまた内藤哲也が優勝するかどうか8月14日の優勝戦が注目される。両者とも初戦は黒星発進となったが、8月2日時点でオカダ・カズチカは4勝1敗・勝ち点8と真壁刀義と並びAブロック首位、Bブロックの内藤哲也は3勝2敗だ。勝ち点6に6人が並ぶ混戦になっている。

 大相撲名古屋場所の懸賞本数は当初1550本の見通しと前年比プラス見込みで初日は+3.2%だったが、横綱・鶴竜、大関・琴奨菊の途中休場で1478本にとどまり、前年比▲2.1%と16場所ぶりの減少になった。企業収益が足元頭打ち傾向にあることを示唆していよう。

 しかし、身近なデータは底堅いものが依然多い。乃木坂46のシングルCD『裸足でSummer』は7月27日発売された。初動売上(発売最初の一週間)は72.8万枚と50万枚という景気判断の分岐点を上回った。ファンの財布の紐は締っていないようだ。また中央競馬の売得金の年初からの累計前年比は7月31日までで+4.3%と4週連続今年最高の伸び率が続いている。

 北海道新幹線効果で、五稜郭タワーの利用者は函館で地震があった6月分でも前年同月比+52.7%と堅調だ(図表3)。名古屋城も6月分同+40.2%の増加だ。熊本地震発生後1596年の慶長豊後地震・伏見地震との連想で姫路城は入場者が減少し4月分以降前年比マイナスとなったが、7月分・前年同月比は▲18.7%で6月分の同▲33.5%から減少率が縮小した。佐賀の吉野ケ里歴史公園の入園者も4月以降前年同月比マイナスが続いていたが、7月分は同+2.8%とプラスに転じた。熊本地震の悪影響は徐々に薄れてきているようだ。

 中小企業設備投資の先行指標・機械受注代理店受注・前年同月比は5月分まで10カ月連続増加した。ドラマ「下町ロケット」「あさが来た」「とと姉ちゃん」と経営者が主人公のドラマの人気と整合的である。「とと姉ちゃん」の視聴率は7月20日で25.3%を記録し、「マッサン」の最高視聴率25.0%を抜いた(図表4)。

 鉱工業生産指数は景気一致指標で、これが上向いていくことは景気判断が現在の足踏み状態から改善に戻ることを示唆しよう。政府の「未来への投資を実現する経済対策」の効果も期待される。足もとの景気がしっかりしていることが確認されれば、消費者心理も改善方向に向かうことだろう。