ホームマーケット身近なデータで見た経済動向12月のトピック「このところ、為替レート・物価・景気などに変化の兆し。広島カープに絡んだ身近なデータなども示唆」

12月のトピック「このところ、為替レート・物価・景気などに変化の兆し。広島カープに絡んだ身近なデータなども示唆」

2016年12月2日

(米大統領選挙の結果が、ドル高・円安の流れへの転機に)

11月9日の東京市場のドル円レートは1ドル=105円10銭で始まった後、米大統領選挙で事前の大方の予想に反しトランプ勝利となったことから当初はドル安・円高が進み、一時1ドル=101円18銭を記録した。しかし、その後トランプが勝利宣言の中で「私は全てのアメリカ人の大統領になる」、「今こそ私たちは、一致団結した国民の姿を見せるべきです」と発言したことや、トランプ次期大統領が米国経済に恩恵を与えるという見方が強くなったことから、一転してドル高・円安の流れが始まった。11月半ば過ぎには1ドル=110円台前半の水準になり、11月30日のOPECの8年ぶりの減産合意を受け、12月1日の東京市場で一時、約9カ月半ぶりの1ドル=114円台後半をつけた。
円安の進展を受けて、日経平均株価は12月1日の高値で18746円をつけた。景気に先行して動く「景気ウォッチャー調査」の現状判断DIが前月から1ポイント以上改善し下落の流れが上昇に転じ、日経平均株価の買いシグナルが点灯した16年8月8日の16650円からは2000円以上上昇した。
白人のブルーカラーの支援を得たことが大統領選挙にトランプが勝利した主因と言われている。製造業の海外移転で困っている労働者を支援するため、トランプは製造業の復活を考え、そのためにTPP離脱などの内向きとみられる政策をとるとみられる。しかし、トランプの政策には減税やインフラ整備などがあり、こうした政策は米国景気にとってプラスに働こう。アトランタ連銀やNY連銀のGDPナウによると10~12月期の実質GDPは前期比年率+2%台半ばの実質成長率が予測されている。7~9月期の同+3.2%の後もしっかりした成長率になりそうだ。そうした中、FRBの金融政策に関しては、12月の利上げが確実視されている。

(トランプ次期米大統領のWWE(プロレス)から学んだとみられるマイク・パフォーマンス)

トランプ次期米大統領は選挙戦の中で、ヒラリー・クリントン候補に面と向かって「刑務所に行け」という言葉を浴びせるなど、様々な暴言を発してきた。しかし、アメリカのプロレスファンなら、「お前はクビだ」などと並んで「刑務所に行け」という言葉は聞き覚えのある言葉だ。世界最大のプロレス団体WWE(ワールド・レスリング・エンターテイメント)のオーナーであるビンス・マクマホン会長が良く怒鳴っている言葉だからだ。
トランプとWWEとの関わりは、確認されるだけでトランプ・プラザにて開催された、レッスルマニア4(88年)、レッスルマニア5(89年)に遡る。トランプは13年にWWE殿堂入りを果たした。ニューヨークのMSG(マジソン・スクエア・ガーデン)で殿堂入りのセレモニーが行われている。トランプとWWEとの深いつながりが感じられる出来事である。ちなみに日本とのかかわりでは、15年に日本人レスラーの藤波辰爾もWWE殿堂入りしている。
トランプはWWEのリングにも上がっている。07年4月デトロイトで開催されたWWEのレッスルマニア23で敗者髪切りマッチに登場した。トランプとビンス・マクマホンの億万長者同士の対決と銘打った髪切りマッチ(ボビー・ラシュリーが敗れた場合トランプが坊主に、ウマガが敗れた場合ビンスが坊主になる)では、試合に敗れたビンス・マクマホンが用意されていた椅子に無理やり座らされたままレフェリーのストーンコールド・スティーブ・オースチンとボビー・ラシュリーに剃髪され、スキンヘッドとなった。ドナルド・トランプのギャラは全額が寄付されたということだ。リングでは本人ではなく代理のレスラーが戦ったが、巨漢のトランプもリングサイドでアックスボンバーを炸裂させていた。
民主党支持者が多いというデトロイトでのパフォーマンスで、以前から白人労働者の支持を得ていた可能性もある。トランプは大統領選で本来は民主党の地盤であるミシガン州やペンシルベニア州など斜陽化が進んでいる工業地帯があるラストベルトで勝利している。
トランプの過激なパフォーマンスはビンス・マクマホンWWE会長仕込みのようだ。不動産ビジネスで富を築き、プロレスで言動を磨いたようだ。彼のこれまでの暴言を解釈する上で見逃せない視点であろう。

(物価指数・前年同月比の動向に変化の兆しが)

為替レートが転機を迎えたように、物価も転機を迎えそうだ。物価指数・前年同月比の動向に変化の兆しがみられる。物価指数の前年比は、まず、商品指数が底打ちし、その後、国内企業物価指数、企業向けサービス価格指数が動き、最後に消費者物価指数が底打ちするというパターンが多い。全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合指数は7・8・9月分前年同月比で▲0.5%下落した後10月分で▲0.4%の下落となった。消費者物価指数はまだ日銀の物価目標の2%上昇から大きく乖離している。
しかし、消費者物価指数以外の物価指数にこのところ変化の兆しが見られるようになってきた。まず、9月分の日銀国際商品指数前年同月比が2年3カ月ぶりにプラスに転じ、10月分・11月分では2ケタの上昇率になった。レギュラーガソリンは11月7日に126.5円と昨年12月7日(127.8円)以来の高値をつけた。国内の商品指数も上昇傾向で、日経商品指数17種11月分は前年同月比+6.5%と14年11月の+1.8%以来の2年ぶりの上昇になった。日経ナウキャスト日次物価指数は最近どうやら底打ちした兆しがある(図表1)。
日本の予想物価上昇率は足元の物価動向に左右される適合的期待の部分が大きいと言われる。9月調査日銀短観「企業の物価見通し」の全規模・全産業ベースの物価全般の見通し平均は、1年後が+0.6%、3年後が+1.0%、5年後が+1.0%と全て6月調査から0.1ポイント低下。しかし、全規模・全産業ベースの販売価格見通しの平均は、1年後が+0.2%、3年後+0.8%、5年後+1.1%と6月調査と同じであった。14年9月調査から続いてきた販売価格見通しの下落基調が、低水準の伸び率ではあるものの3年ぶりに止まったことが物価動向の変化の兆しになることを期待したいところだ。今後、消費者物価指数が下げ止まれば、適合的期待面から予想物価上昇率上昇に寄与することになろう。

(デフレに無縁の広島優勝、今年の流行語年間大賞は「神ってる」)

広島カープがセ・リーグでAクラスになった年の名目GDP成長率はプラスというジンクスがある。9月21日発表の日銀の「総括的な検証」で予想物価上昇率の動きを3つのフェーズに分けたが、予想物価上昇率が上昇した第1フェーズ、横這いの第2フェーズは広島Aクラス、予想物価上昇率が鈍化した第3フェーズは広島Bクラスであった。デフレ局面を約25年ぶりぐらいに脱却したことを示唆するような経済指標は1.40倍まで上昇した有効求人倍率など数多い。物価動向の変化の兆しは、デフレとは無縁の広島の25年ぶりのセ・リーグ優勝でのAクラス復帰と整合的と思われる。
今年の流行語年間大賞は「神ってる」に決まった(図表2)。広島の鈴木誠也外野手が6月に2試合連続サヨナラ弾を放ち、緒方孝一監督が「今どきの言葉で言うなら、神ってる」と讃えたことから流行った言葉だ。広島の活躍を彷彿とさせる今年の流行語年間大賞だ。

(日銀短観・大企業・製造業の業況判断DIや景気動向指数・一致CIにもようやく改善の動きか)

12月調査の日銀短観は12月14日に発表となる。前回9月調査では、注目される大企業・製造業の業況判断DIは3月調査・6月調査と同じ+6だった。QUICK短観とロイター短観の11月調査はともに9月調査より改善していた。12月調査の日銀短観では、米大統領選後の円安・株高の中で大企業・製造業の景況感が改善となるかが注目される。前回調査から改善すれば、15年6月調査以来1年半ぶりである。日銀短観の大企業業況判断は自然要因や海外経済要因からの下押し圧力により、長期間足踏み状況が続いてきたがやっと変化しそうだ。
7~9月期実質GDPは第一次速報値で前期比年率+2.2%と3年ぶりに3四半期連続増加。名目GDPはリーマンショック前の08年4~6月期に並ぶ506兆円に戻った。但し、7~9月期は個人消費が前期比ほぼ横ばいといまいちであった。今年は8月に4個、9月に2個合計6個と観測史上ワースト2位の多さとなった台風上陸の影響が大きいようだ。なお、台風で生鮮野菜が値上がりしたことで消費者が生活防衛に急遽走ったことは家計調査のもやしの一世帯あたり一カ月のもやしの購入金額に表れている。もやしは栄養価が高く比較的安い野菜だからだ。二人以上世帯でみると、今年の夏16年8月は72円で近年最低だったにもかかわらず、16年10月には98円まで上昇、12年4月の101円以来の高水準を記録した(図表3)。天候の落ち着きとともに個人消費の持ち直しも期待されるところだ。
鉱工業生産指数の基調判断を見ると、15年5~7月が「一進一退」、15年8月は「弱含み」に下方修正されたが、15年9月~16年5月まで「一進一退」に戻し、16年6月には「一進一退だが、一部に持ち直し」と若干、上方修正された。そして、16年8月分~10月分で「緩やかな持ち直し」になった。在庫調整が進展し、意図せざる在庫減少局面に入ったことが大きいとみられる。16年10~12月期は3四半期連続増加が予測される(図表4)。
景気動向指数の基調判断は15年5月分から1年超「足踏み」だったが、内数である鉱工業生産指数の持ち直しを受け12月7日発表の16年10月分で「改善」に戻ることが期待される。

(2016年12月2日正午現在)