アジアトーク(ASIA TALK)

REPORT

第一回 香港現地法人のご紹介;成長するアジアの国々の今、そして今後

2012年08月09日

中国がカギを握る台湾、世界経済の影響を受けにくいフィリピン
ますます目が離せないアジアマーケット

三井住友アセットマネジメントのアジア・中国株の運用体制や、アジア各国の経済・マーケットの現状はどうなのか。
好調なアジア経済を注意深く観察する香港現地法人の渡辺英茂CIO(運用責任者)にアジアの動向について聞いてみました。

9人のアナリストがアジアの企業を年間1000件取材

石山:
当社はアジア地域を対象とする運用については、東京・上海・香港の三拠点一体の運用体制を構築しています。香港現地法人の位置づけや業務内容についての紹介をお願いします。

渡辺:
香港現地法人はアジア・中国株のリサーチと、投資戦略の策定、ポートフォリオ策定の中心拠点です。中心となる業務は株式運用ですが、昨年度から債券(オフショア人民元債券)に対する情報提供も開始しました。運用業務以外では香港をはじめとするアジア全般の資産運用業界の調査や、国際営業部と連携して潜在顧客の開拓サポートを行っています。

石山:
香港現地法人はいつから活動しているのでしょうか?また、現地採用のアナリストやファンドマネージャーは何人ぐらいいますか?

渡辺:
前身は三井住友海上(当時は大正海上)の香港現地法人で、1990年に設立されました。2002年のSMAM発足により、SMAM(HK)となりました。現在のスタッフ数は17人。うち、運用チームはファンドマネージャーが2人、アナリストが9人で、CIOの私を加え、12名です。リサーチ面の現地化を重視しているため、出身地は香港、中国本土、マレーシア、韓国、台湾、インドとバラエティ豊かです。

石山:
当社は上海に事務所がありますが、中国に関して言えば、香港現地法人は香港市場に上場している中国企業の株式を、上海事務所は上海や深セン市場に上場している中国本土企業の株式をフォローしているということですね。ところで、香港での具体的な活動内容の特徴は?

渡辺:
アジアは全般的に企業のディスクローズが不十分な場合が多いので、企業への直接取材が重要です。香港現法だけで年間1000件以上の取材を実施しています。この直接取材を中心に、独自の業績予想、目標株価を求め、短期のニュースフローに踊らされない、中期的な視点を重視した投資判断を、チームで協力して行っています。

石山:
現地採用の運用スタッフの数が多いですが、どのような点に気をつけていますか。

渡辺:
出身国が様々ですので、習慣や考え方が異なります。よって、できるだけフェアに接するように心がけています。また、OJTを通じて、取材方法や企業の分析手法などを習得してもらい、成長を自分で感じられるよう、努めています。また、チームワークを重視していることから、チームとしての一体感があり、これもメンバーのやる気につながっていると思います。

香港
比較的高い配当利回りが魅力

石山:
香港現地法人ではアジアの各国の企業を調査・投資対象にしているわけですが、最近の各国の動向を教えてください。まずはお膝元の香港から。

渡辺:
実態としての景気面では、中国の恩恵を受けており、金融面では為替が米ドルペッグのため超低金利が長期化していて、両者のメリットを享受しているイメージで、事業をするには良い環境です。注目のセクターは不動産です。超低金利と需要の強さで、販売・価格動向ともに好調が続きそうです。

石山:
香港は経済成長率が3%以上で、株式の配当利回りが4%以上あります。かつ、長期金利と配当利回りが逆転して配当利回りの方が高い国・地域はオーストラリアと香港だけです。香港の株式市場は割安と言えないでしょうか。

渡辺:
同感です。世界経済が低迷を続ける中、企業業績の伸びに牽引された株価の上昇はなかなか期待しがたく、高い配当利回りは魅力です。リンク・リートの利回りは4%で、過去に比べると下がっていますが長期金利より魅力的です。

中国
早晩景気は安定的な成長路線に回帰へ

石山:
それでは香港から見た中国はいかがですか。

渡辺:
マクロ経済が減速している時は、中国本土株はなかなか上がってきません。2011年秋以降、引き締め政策は徐々に解除されて来ましたが、いまだに景気は減速傾向が止まりません。不動産に対する引き締めが続くように、政策転換が全面的ではないため景気の転換も時間がかかっています。ですが、今年の5月以降景気対策に一層拍車がかかっているため、間もなく景気鈍化には歯止めがかかり、緩やかながら景気は明るさを取り戻すと見ています。

台湾
中国との関係改善が刺激策

石山:
台湾については。

渡辺:
IT産業の比重が高いだけに、短期的にはITの好不調の影響をかなり受けます。また、日本や韓国に比べ技術が突出しているかと言えば、一部を除いてはそうでもありません。世界的に見てもIT産業自体の成長性は近年かなり低下してきています。よって、ITが中長期的に台湾経済を成長させる原動力になるにはやや力不足だと思います。むしろ、中国との関係改善が一番の刺激になりうると思います。台湾はECFAと呼ばれる自由貿易協定を中国と結び、2011年から実施されています。台湾当局は初年度にGDPを0.4%押し上げる効果があったと試算しています。残念ながら時を同じくして世界経済が減速し、このマイナスの影響のほうがECFAのプラスよりも大きく、結果として自由貿易協定のメリットが打ち消された形になっています。ですが、自由貿易協定のプラスは構造的、長期的なものですので、徐々に実感されるようになると期待しています。

韓国
好調のIT、自動車、造船、プラント

石山:
韓国はいかがですか。

渡辺:
ここも台湾同様、輸出の依存度が高いだけに世界経済の影響を大きく受けます。ただ、ITだけでなく自動車、造船、プラント建設で世界的に競争力が高く、シェアを伸ばしていますので、今後も成長が期待できます。一方、国内では所得格差の広がりから大手企業に対する批判的な目も増えているのが懸念材料です。

石山:
韓国は経済の成長を輸出に頼っており、内需は日本と同様に冷え切っていますが、どのようにご覧になっておられますか?

渡辺:
人口は日本の半分弱で経済規模が小さい。そこに韓国企業同士が激しい競争を繰り広げており、その弊害が見られます。韓国の定食を思い出してください。無料の惣菜が沢山付きます。よほどの大企業でも、サービスや料金を競った挙句に利益が伸びないという事例が多々見られます。輸出が持ち直すまでは辛抱が必要との見方が一般的です。ただ、中国からの旅行者が急速に増えているため、カジノや免税店などは好調で内需関連でも業種によって明暗が分かれています。

インドネシア
理想的な人口動態

石山:
人口が2.38億人(2010年、政府推計)を超える大国であり、消費市場として注目を集めているインドネシアはいかがでしょうか。

渡辺:
若い人が多く、人口動態の形が理想的です。今、アジアで一番乗っている国の一つです。農業・鉱業の従事者が多いことから、一次産品価格上昇の恩恵を受けており、消費、住宅も好調です。ただ、足元では1次産品価格が下落してきており、その結果、経常収支が赤字化しています。現時点では消費などに影響は及んでいませんが、価格低迷が長期に及ぶようだと、消費にも影響が及ぶリスクがあります。

マレーシア
外需依存度高いが、内需も好調

石山:
マレーシアはいかがでしょうか。

渡辺:
この国は堅調です。外需依存度が比較的高い割には内需も好調です。間もなく総選挙が予想されていますが、その前に支持率改善を狙って政府が積極的に財政支出を拡大しているのが一因です。残念ながら現職のナジブ首相は支持率が高くなく、総選挙が公式に発表されると、政治的イベントリスクが高まるリスクがあり、やや慎重に見ています。

フィリピン
世界経済の影響受けにくい構造

石山:
フィリピンはいかがですか?

渡辺:
ここもアジアで好調を維持する国のひとつです。国外に出稼ぎに出ている海外フィリピン人労働者の送金がGDPの約10%を占めており、かつ年々金額が大きくなっているため、経済成長をしっかりと支えています。一方、英語が出来、人当たりがいいフィリピン人の性格を活かし、コールセンター業務が拡大しています。今後も経済成長のけん引役になるのではないでしょうか。

石山:
フィリピン中央銀行(BSP)は7月26日、政策金利である翌日物借入金利を0.25%引き下げて3.75%にしました。消費者物価上昇率が政策目標範囲の下限近辺にとどまる公算が大きいことから、世界景気の減速リスクに対抗する予防的な利下げだと思いますが、年内にさらなる追加利下げはありますか?

渡辺:
今の経済情勢を見ると非常に好調で、利下げを行う必要はないと思います。経済の好調を支えている海外からの送金は、リーマン危機後の世界景気が急減速した時でさえ伸び続けましたので、今後も順調に伸びて行くと考えられると思います。

石山:
マレーシアのクアラルンプール総合指数とフィリピンの総合指数が2010年以降の高値を更新中です。両国に共通しているキーワードは何ですか?

渡辺:
しっかりした内需に支えられて景気が安定している点を挙げることが出来ます。どちらも輸出減速の影響が限定的です。また、中国やインド等のアジアを代表する株式市場が軟調に推移しているため、消去法的にお金が流れてきている面もあると思います。

石山:
今後、2013年から2017年の5年間においても、平均7.9%の成長が見込まれているアジア地域(IMF予想)の今後に注目ですね。

渡辺:
はい。アジアは若い人口が多く、内需が伸び、また国家財政や経常収支の状況も比較的健全です。一方、株式のバリエーションは安く、資金流入の増加も期待出来ます。長期投資でリスクに対する許容度を高めに持てるのであれば、魅力的な投資先の一つになり得ると思います。

インタビュアー プロフィール

香港現地法人CIO 渡辺英茂

SMAMにおける、アジア株式全体の運用統括者。香港現法はアジア・中国株のリサーチ、投資戦略、ポートフォリオ策定の中心拠点。香港だけで年間1000件超、香港・東京・上海通算で2000件超の取材を実施。国際色豊かなアナリストを取りまとめている。

マーケット情報部 チーフストラテジスト 石山仁

世界の経済情勢などをエコノミストやファンドマネージャーの協力を得ながら分析し、見通しや戦略などを顧客に提供している。