アジアトーク(ASIA TALK)

REPORT

第五回 台湾株式市場の現状と展望

2012年12月12日

ハイテク主導の輸出立国 ~ハイテク分野では世界的な競争力を誇る台湾~

「グローイング台湾株式ファンド」の運用開始に伴い、台湾の上場企業の現状や先行き、投資のメリットとデメリットなどについて、台湾事情に詳しい橋爪謙治シニアファンドマネージャーと、香港現地法人の王博立(ワン・ボーリー)アナリストに聞いてみました。

日本と関わり深い台湾

石山:
橋爪さんは台湾留学を含めて17年間、一貫してアジアと関わり続けていますが、今現在、日本と台湾の関係はどのようになっているのでしょうか?

橋爪:
日本は1972年に中国と国交樹立を交わし、台湾と断交しました。以来、40年が経ちますが、民間レベルでの交流は脈々と続いています。台湾交通部観光局によると、2011年には年間129万人の日本人が台湾を訪問、年間の渡航者数は史上最高を記録しました。また、東日本大震災の際に台湾から日本へ多額の義援金が寄せられたのは記憶に新しいところですし、日本にとっては身近なパートナーといえるでしょう。

石山:
では、台湾と中国の関係はいかがですか?
2008年5月の馬総統就任以来、台湾は親中国のスタンスへと転じ、馬総統は今年1月に再選されました。

橋爪:
2008年3月に行われた総統選挙で国民党の馬英九総統が勝利してから中台関係は劇的に改善されました。中台を結ぶチャーター便の就航、定期便への格上げ、便数の増加が矢継ぎ早に実施されました。2011年には170万人の中国人が台湾を訪問し、日本人旅行者を抜き、中国が最大規模となっています。また、ECFA(両岸経済協力枠組協議)が2010年6月に締結されて以来、段階的に関税の引き下げが行われており、台湾企業の中国ビジネスを後押ししています。

石山:
王さんはどのように見ていますか。

王:
中台関係は協定の締結もしくは覚書への署名により将来的に回復の一途を辿ると思います。しかし、両岸経済協力枠組協議(ECFA)および台湾経済に関する覚書によるプラスの影響はグローバル経済の混乱や合意書に署名後、実質的な働きかけが乏しかったことなどにより抑制されていました。中台関係は回復を続けるものの、その速度は減速すると見ています。

石山:
両岸投資保障協定、両岸税関提携協定が合意されたことが、株式市場では歓迎されました。実質的には台湾経済にどのような影響があると思われますか。

王:
中台投資保護協定は中国に投資する台湾企業を保護するための基盤です。この協定が近い将来、台湾経済に対して大幅なプラスの影響を直ちに与えるとは思えませんが、長期的には台湾の、特に中小企業の中国への投資を促すことに繋がると考えています。

第4四半期からIT産業中心プラス成長

石山:
では、次に王さん。足元の台湾のマクロ経済について確認させてください。台湾経済は大きく輸出に頼っており、中国経済が減速する中、台湾からの輸出が落ち込むことを懸念する人も多いようです。台湾における輸出および経済についてどのように見ていますか。

王:
ご指摘の通り、輸出が依然として台湾のGDPの7割を占めていることから、グローバル経済の鈍化は台湾経済に大きな影響を及ぼすことが分かります。現に台湾の輸出は過去6カ月間マイナス成長を記録し、2012年度もGDP予想の下方修正は避けられなくなりました。2012年第3四半期までは厳しい状況が続きましたが、2013年第4四半期には回復し始めると予想しています。2013年のGDP成長率は比較ベースとなる2012年の水準が低いため、前年比では高い成長率を示すことになるでしょう。

石山:
次に、具体的な産業についておうかがいします。
世界的なスマートフォン需要の増加に伴い、夏にやや落ち込んでいたIT産業にも回復がうかがわれます。IT産業のファンダメンタルズについてはどのようにお考えですか。

王:
IT業界の成長は、グローバル経済の動向と新製品のサイクルによって左右されますが、IT産業は2012年第3四半期に底打ちすると見ています。それは、タブレットPCやスマートフォンなどの新製品のサイクルに加え、グローバル経済も2012年第4四半期から次第に回復基調をたどると予想しているためです。

石山:
IT産業以外では、どの分野に注目していますか?
その理由も教えてください。

王:
現時点では金融業界に注目しています。収益性の勢いが間もなくピークを迎えると予想されるため、短期的には中立的な見方をしています。しかし、人民元取扱業務など中台間の銀行業務の自由化の継続や、今後3~5年間に見込まれる証券業務の開始が収益成長の牽引役となる可能性があることを考慮すると、長期的には魅力的な分野だと思います。

中国経済の恩恵拡大基調

石山:
台湾の株式市場に投資する狙いを教えてください。

橋爪:
台湾経済は電機・電子が重要な産業となっており、世界的な競争力を誇ります。最近ではスマートフォンやタブレットPCなどが好例ですが、新しい製品が世界市場で普及する過程で、その主要部品や組み立てを台湾企業が一手に担っているケースが少なくありません。台湾はもともと相手先ブランドを供給するOEMメーカーが多く、自社ブランドがほとんどありませんでした。しかし最近ではパソコンやタブレットで知られるAcer(エイサー)やASUS(エイスース)、スマートフォンのHTC(エイチティーシー)などのブランドも世界市場で認知されるようになっています。このほか外国人の持株比率が高まるとともに株主重視が浸透し、配当支払いに積極的な企業が増えていることも魅力と言えます。

石山:
内需系の企業の展望はいかがですか?

橋爪:
馬政権が誕生する前、中台間の対話は殆ど途絶えていました。2008年以降、中台間の対話が再開され、経済交流が正常化することは、素材、金融、輸送、観光などの多くの産業が、遅ればせながら、中国経済の成長の恩恵を受けるということを意味します。最近台湾を訪問すると、中国からの観光客の増加によって、新しいホテルが建設されたり、台湾と中国の銀行同士で人民元による直接決済開始で合意したり、と、目に見える形で変化を感じます。またハイテク以外にも台湾ブランドを広めようとの政府の後押しもあり、自転車のGiantなどの存在感も増していますね。
台湾のもつもう一つの強みは、中国と言語、文化面で共通性を持つと同時に、日本とも近い関係にあることです。サービス業では、台湾企業と日本企業が合弁で、まずは台湾市場で成功をおさめ、その経験を活かして中国本土市場に進出するケースも珍しくありません。上海、広州、蘇州のファミリーマートには台湾ファミリーマートが資本参加していますし、上海のセブン・イレブンには台湾最大の小売グループで台湾セブン・イレブンを運営する統一超商が営業を任されています。

石山:
王さん、台湾の市場の見通しはいかがですか。

王:
台湾経済は産業構造の弱体化、賃金の伸び悩み、政府に対する信頼感の低下など、複数の問題を抱えているものの、今後もグローバルITサイクルと歩調を合わせる一方で、中台関係の一層の回復の恩恵を受けていくと思います。

石山:
今後、台湾株に投資をしようと思った時のリスクはなんでしょうか。

王:
市場が上昇するか、もしくはリスクをはらむことになるかは、台湾政府が自国経済の本格的な構造改善策を策定して効果的な政策を実施できるかどうかにかかっているでしょう。

橋爪:
まず挙げられるのは世界的なハイテク不況が起こること、そして何らかの理由によって、再び中台関係が冷え込んでしまうことでしょう。ハイテク産業については、かつてに比べると、在庫管理の向上や製品サイクルの短期化によって、好不況の波は小さくなる傾向にあると考えています。また中台関係は逆戻りする可能性は低いと考えています。中国の指導部が世代交代しても、長い時間をかけて、台湾との関係を少しでも近づけようと考えるはずです。

石山:
台湾の中国以外との関係はどうですか?

橋爪:
東南アジアへの進出は積極的ですね。業種にもよりますが、例えば中国のコスト上昇に対して、ベトナム、インドネシアなどへ、フレキシブルに生産体制を変更する製造業も少なくありません。また台湾のすぐ南に位置するフィリピンへは、食品や小売など、現地市場を狙って進出する企業もあり、日本の企業よりも機敏に動いている感じです。

石山:
欧米の景気にもよりますが、ハイテクはしばらく伸びそうですし、中国は来年、景気が良くなる見通しです。そういう意味では台湾は外需・内需ともに展望は明るいようですね。

インタビュアー プロフィール

株式運用グループ シニアファンドマネージャー
グローバル株式運用担当 橋爪 謙治

1995~1996年にかけ、勤務していた生命保険会社の語学研修生として、台北へ留学。この台湾留学がアジアと関わるようになった原点となり、帰国後、1997年から15年間にわたってアジア・オセアニア株式の運用を担当。2007~2009年、SMAM香港勤務を経て現在に至る。

香港現地法人 アナリスト 王 博立(ワン・ボウリー)

1999年にCarnegie Mellon大学でMBAを取得後、2001年から一貫して台湾のテクノロジーセクターのリサーチを担当。地場運用会社の半導体のアナリスト等を経て、2008年に現職。台湾および香港中国株のテクノロジーセクターを担当している。