アジアトーク(ASIA TALK)

REPORT

第六回 インド株式市場の現状と展望

2013年01月30日

前回の台湾株式の現状と展望に引き続き、今回はインド株式市場について、10年に及ぶインド株式運用の経験を持つ、香港現地法人のJain Tushar(ジェーン・トュシャール)アナリストに聞いてみました。

最近の金融政策と株式市場の現況

石山:
インド準備銀行は政策金利を据え置いています。これは高いインフレ圧力および経済減速に対する懸念から慎重な姿勢をとっているためと思われます。これによる株式市場への影響についてどのように考えられていますか?

Tushar:
インド準備銀行は流動性が逼迫していたことから、2012年9月、10月の2度にわたって預金準備率を引き下げて、小幅な金融緩和を行いました。しかし、インフレ圧力も高止まりしており、市場金利は今後もしばらくは高水準で推移すると予想されます。インド準備銀行は2013年1月以降利下げを開始すると見ています。利下げ幅は50bpから75bp程度になると見込まれますが、これ以上の大幅な利下げになるとは考えられません。ほとんどの参加者が大幅利下げを期待する株式市場にとって、これは朗報とは言えません。

経済改革案の進展状況

石山:
2012年9月に発表された経済改革案が冬季国会で審議されるとの話でしたが、どのような状況でしょうか?特に市場では、総合小売業などへの外資の導入規制が緩和されることを期待しています。過去にはそのような改革案が野党側からの激しい反対にあい、否決されるケースが多いとも聞きました。今回はどうだったのでしょうか?

Tushar:
2012年9月以降、インド政府は総合小売業などへの外資の導入容認など矢継ぎ早に経済政策を決定しました。10月には4日に保険分野における外資規制の緩和も閣議決定しました。一連の政策は外資を活用することで成長のテコ入れを図り、財政赤字の削減などを目指したもので、インド版ビッグバンとして市場では好感されました。小売りの外資開放は昨年11月の閣議で既に決定していたという経緯がありましたが、シン首相が改めて経済改革に強い意志を示したことで期待が高まり、相場を下支えしました。

冬季国会では、2012年9月に発表された経済改革案(外資の小売企業進出を認める計画など)について、国会の承認を必要としない案件も含めて野党側が審議を要請していました。このうち、経済改革において懸案だった総合小売業などへの外資導入が認められました。総合小売業への直接投資(FDI)規制の緩和は、審議が紛糾すると見られていただけに、今回採決が行われたことで、外資の小売企業進出は大きく前進することになりました。

今後は、外資が参入することで小売業の民間部門での競争が促進され、また、倉庫の建設や物流の効率化などに向けた動きが活発化するなど、構造改革の裾野への広がりが期待されています。

双子の赤字についての見解 (財政と貿易)

石山:
最近行われた改革の背景には双子の赤字があったことが明らかです。これらの赤字はどうなると予想しますか。また何がこの改革を主導するのでしょうか?

Tushar:
政府は、直接的には双子の赤字を背景とした格付会社による信用格付の引き下げをより強く懸念しています。よって改革を主導する要因は、格下げを避けることと言えます。このためには、燃料等の補助金を削減する必要がありますが、2014年の総選挙を前に、それは難しいかと思います。
もう一つの赤字削減策として資産売却があります。ただ、これも厳しい経済環境の中、政府による資産放出に市場はあまり乗り気ではありません。このような状況で売却したい資産を、希望する価格で処分することは難しいと思います。
資産売却は短期的な効果しか期待できないものの、補助金削減よりは実現度は高いと思いますが、大きくは期待できないと思います。

インド経済の見通し

石山:
上記の「改革」や高いインフレ圧力など、インドが抱える問題は数々あります。しかしながら、経済の進展状況に改善も多くみられます。
2012年4-6月期の実質GDP成長率は+5.5%と、前年同期より高い水準となりましたが、7-9月期は同+5.3%と小幅の低下となりました。
インド経済は徐々に底を打つと思いますか?

Tushar:
インド経済はかつては高成長でした。例えば、2010年1-3月期には+11%成長を記録しましたし、2011年1-3月期も+9%台の成長を遂げました。確かに、2012年の4-6月期の実質GDP成長率は+5.3%から+5.5%に改善しましたが、良い状況になったと言うにはあまりにも小幅です。そしてご指摘のように同7-9月期には小幅に低下しました。いくつかの指標でわずかな改善もみられますが、経済成長へ大きく寄与するには及ばないでしょう。
インフラ投資が経済成長の軸となるはずですが、様々な問題を抱えています。高いインフレにより消費の成長は抑制されています。そのような中で実質GDP成長率+5.5%を上回る可能性はありますが、近い将来、かつてのような高成長を取り戻すのは難しいと思われます。

インドの製造業

石山:
堅強な製造業の構築がインドにとっても長年の課題でした。最近のルピーの特に人民元に対する弱含みはインドの製造業にとって、好材料となるはずです。
インドの製造業の競争力についてどうお考えですか?

Tushar:
インド・ルピー下落によりインドが中国との比較において製造業の拠点としての優位性を高める点は指摘できます。しかしながら、労働コストと電力コストの上昇そして労働者の間で騒乱が広がったことで製造拠点としての安定性に対するリスク要因が高まっています。何より、グローバル経済の状況から中国やインドよりコスト面で有利な条件を提供できる国もいくつか出現しました。仮に製造業を誘致できたとしても、最終製品の需要自体にさほど強いものが期待できないということもあり、経済全体への影響は限定的であると考えます。

株式市場についての見通し

石山:
インドの株式市場は2012年5月の終わり頃に底打ちし、上昇基調が続いています。2013年1月18日にSENSEX30は約2年ぶりに20,000ポイントを超えてきました。このトレンドが今後も続くとお考えですか?。その条件をご教示下さい。

Tushar:
インドの市場は2012年6月初旬より主に世界的なリスク選好度の高まりにより幾度も上昇が見られました。ファンダメンタルな要因では、9月に財務大臣が交代し、市場センチメントを改善させる諸改革の発表を受け高騰しました。個人的には改革の成否について判断を下すには時期尚早と思います。そのため下落リスクも孕んでいます。
また、期待されている金利引き下げが実行されなかった場合のリスクもあります。
さらに、GDPに対する財政赤字比率ターゲットである5.3%もリスク要因です。
現在進行中の改革への取り組みは今後6カ月~9カ月の間に効果を表すと予想しますが、まだ改革が実行されるにはほど遠い状況です。市場が大幅に下落するとは思えませんが、世界の金融市場の流動性がインド株式に向かい続けない限り、期待が先行している点は否めません。
ちなみに、2012年の海外機関投資家の対インド株投資は24億ドルの買い越しとなりました。これは2010年の29億ドルに次ぐ大幅な買い越しです。2013年1月も21日までの累計で2.7億ドルの買い越しとなっています。現在進行中の改革が実行され、効果が表面化する中で、今後とも海外機関投資家の資金流入が継続するかどうかが鍵を握っていると思われます。

石山:
インドで改革とインフラ投資が行われると仮定した場合、どのセクターと個別企業に注目しますか。

Tushar:
インフラ・セクターにおいては第一に電力セクターにおける大規模な改革ならびに石油およびガスセクターにおける補助金の削減が必要とされています。そのため、電力セクターに直接または間接的に関与する企業に注目します。つまり発電企業、関連部品企業、資源株そして融資を行っている企業などです。また状況次第で高額の補助金負担で苦しんできた企業が恩恵を受ける可能性もあり、そういった企業にも注目しています。

インタビュアー プロフィール

香港現地法人 アナリスト Jain Tushar(ジェーン・テュシャール)

インド国内の大手投資会社であるUTI、ING、モルガン・スタンレー等でアナリストを歴任。2008年に現職。10年のインド株式運用の経験をもち、現在もインド株式全般を担当している。

マーケット情報部 チーフストラテジスト 石山仁

世界の経済情勢などをエコノミストやファンドマネージャーの協力を得ながら分析し、見通しや戦略などを顧客に提供している。