アジアトーク(ASIA TALK)

REPORT

第七回 魅力的なアジア・オセアニアの株式投資(第三部)

2013年06月11日

第三部 アジア・オセアニアの株式投資

石山:
第三部では、アジア・オセアニアの株式投資の魅力に迫りたいと思います。
アジア・オセアニア地域の魅力は「先進国と成長国と資源国のバランスがよいところ」との指摘があります。
ファンドマネージャーの橋爪さんから見たアジア・オセアニアの株式投資としての魅力は何でしょうか。

橋爪:
短期的に見れば、世界の株価は同じように動いているように感じますが、長い期間の株価指数のチャートを見ると、上昇している地域、していない地域は歴然です。
過去10年程度を見ると、アジア・オセアニア地域の株式の収益率が日本や欧米先進国を上回っています。

石山:
収益率(過去の実績ベース)が相対的に高いところが魅力なのですね。
アジア・オセアニア株式の収益率を支えている中長期的な成長の源は何でしょうか。

橋爪:
人口増加率が高い国・地域が多く、消費力が強まりつつあるところが、アジア・オセアニアの成長の源ではないでしょうか。
仮に人口が年率1%増加する場合を想定すると、日本に例えるなら毎年100万人の都市が1つ誕生するほどのインパクトを持っています。国・地域によって差はありますが、アジア・オセアニアは出生率の高い国や、移民の受け入れにも積極的な国が多く、若年層の裾野の広さが持続的な経済成長の原動力になっています。

石山:
なるほど。人口の増加に裏打ちされた内需の強さがアジア・オセアニアの中長期的な経済成長期待の裏側にある、ということですね。
そうしたことも反映して、株価は堅調に推移しているわけですね。

橋爪:
2007~2008年頃、欧米諸国は過剰債務を抱えていましたが、アジアの国・地域や企業は総じて債務が少なくバランスシートは健全でした。借金漬けの国に比べればお金を借りて使う余地は十分にあります。
銀行からお金を借りて家や耐久消費財を購入するといったスタイルが普及していない国もありますし、所得の伸びよりも消費の伸び代の方が大きい国もあり、これからの成長が期待できます。

相対的に高い株式配当利回り

石山:
次に株式配当利回りについて見てみたいと思います。
ご指摘のようにアジア・オセアニアは中長期的な成長期待が強い割に、株式配当利回りの水準が他の株式市場と比べて相対的に高いようです。これについてはどのように考えていますか。

橋爪:
2011年半ば以降、欧州の信用不安やグローバル経済の失速懸念などを理由に、世界の投資家は安全資産である高格付国の債券投資を増やしたことで債券利回りが低下しました。一方、投資家がリスク資産を敬遠する傾向を強めたことで株式配当利回りが高くなりました。
伝統的に高金利国として知られるオーストラリアを例に挙げると、10年物国債の利回りは3%台前半と歴史的な低水準となる一方、代表的な株価指数であるS&P/ASX200指数の株式配当利回りは足元でも4%を超えています。
ただ、アジアの株式は、どの国・地域も株式配当利回りが高い、というわけではありません。台湾やシンガポールは株式配当利回りが相対的に高いですが、フィリピン、インド、韓国など日本より株式配当利回りが低い国もあります。

株式配当利回りに注目している理由

石山:
アジア・オセアニアの株式配当利回りが総じて高いわけではなく、国・地域によってばらつきがあるのですね。
橋爪さんが株式配当利回りに注目するのは、運用手段からみて効果があるためだと思いますが、その点を教えてください。

橋爪:
株式配当利回りの高さはその企業が株式の配当を払う財務的な余力があることを示す一つのシグナルと考えています。
また、安定的に配当を支払うという企業行動は経営が健全であると判断するための一つの指標にもなり、不正会計などのリスクも総じて低いことを意味していると考えられます。加えて、景気後退局面(株式市場の調整局面)において相対的に下値抵抗力を発揮しやすい、という特長もあります。
株式配当利回りは古典的な投資尺度ではありますが、大きな意味を持っていると考えています。

石山:
株式配当利回りを重視する企業はアジアでは昔から多かったのでしょうか。

橋爪:
いいえ。1997~1998年に発生したアジア危機を経て、「過大な債務を借り入れて無闇に事業を拡大する」という発想から「身の丈に合った経営で利益を生み、株主に還元する」という考え方が広がったのだと思います。

石山:
景気後退局面で株価が調整する際に、株式配当利回りが高く、財務的に余力がきちんとある健全な企業の株価は、相対的に下値抵抗力が大きい。これがアジア・オセアニア株式投資の魅力なのですね?

橋爪:
はい。ただ、それだけではありません。
アジアの株式市場は、短期売買を行う投資家の比率が高く、短期間で株価の値上りが期待される企業に投資する傾向が強いと言われています。
言い換えれば、安定して配当を支払う、優れた経営がなされている企業に長期投資する投資家は少数派であり、ここに収益を獲得する機会があると考えています。
また、世界の株式ファンドの残高を見ても、アジアでは株式の配当に注目するファンドは欧米と比べてあまり普及していないことが確認できます。

石山:
シティグループの調査によれば、株式の配当に注目しているファンドの割合が欧米では13-14%であるのに対して、アジア・オセアニア圏ではわずか3%台ですね。今後の拡大が見込めそうです。
次にアジア・オセアニアの株式市場の中で幾つかの業種について見ていきたいと思います。業種構成にはどのような特長がありますか。

橋爪:
アジア、オセアニアともに、株式市場は地元の大手銀行の存在感が大きいのが特長です。
それ以外では国によって主力産業が異なりますから、株式市場の顔ぶれもまちまちです。
香港やシンガポールでは、REITを含む不動産の比率が高いですし、台湾ですと情報テクノロジーが市場の半分程度を占めています。このほか世界的には知られていないものの、その国では誰でも知っている強いブランド力を持っている消費関連業種も各市場にあります。

石山:
地元の大手銀行の存在感が大きいといのことですが、金融業界にはどのような特長がありますか。

橋爪:
1997~1998年のアジア危機を契機に、東南アジアや韓国で金融機関の整理統合が進みました。その結果、銀行の体力は強化され、リーマン・ショックや欧州の信用不安に伴う影響は限定的でした。 むしろ欧米の金融機関がアジアから撤退する動きなどを、資産買収やシェア拡大の好機とするケースが目立ちます。
現にANZ (Australia and New Zealand Banking Group Limited)がRBS(スコットランド銀行)のアジア部門を2010年に買収したり、最近ではマレーシアのCIMB (CIMB Group) がRBSのアジア・オセアニアの証券部門を買収する動きがありました。
一方、人口の多いインド、インドネシアの個人部門ではまだ十分に金融ビジネスが浸透していません。今後の伸び代が大きいことが魅力です。

石山:
その国らしいブランド力を持った消費関連業種があるとのことでした。消費関連銘柄にはどういった企業がありますか。

橋爪:
あまり知られていませんが、アパレル小売を行う香港企業のジョルダーノは、カジュアル衣料の製造小売ビジネスの元祖とでも言うべき企業です。
ジョルダーノはアジア・オセアニア各国・地域で、合計2,600店舗を開いており、2011年には日本にも上陸しています。業績も東南アジアを中心に堅調で、安定した利益を生み、配当が多いのが特徴です。

石山:
インフラ関連ではどのような企業がありますか。
アジア・オセアニアの株式市場には、高速道路、港湾、空港などのインフラ事業を行う企業も多数上場しており、特に、所得の上昇に伴うレジャー消費とLCC(格安航空会社)の急成長の恩恵が見込まれる空港事業は長期的な視点で魅力的だとのお話がありました。

橋爪:
その通りです。具体名で言うと、シドニー空港、オークランド空港、そしてクアラ・ルンプールやペナン等の空港を傘下に有するマレーシア空港などです。
空港事業は、競合が少ないことが特長です。航空機の離発着のほか、免税品やエアポートホテル等の運営など、事業の多角化も行っています。安定した現金収入があるため株式配当利回りも高めです。

石山:
今後はアジアが繋がっていくところが大変魅力的だとの指摘もあります。情報テクノロジーの分野はいかがですか。

橋爪:
ハイテク製品製造の担い手として、台湾や韓国の企業は世界的な存在感を誇ります。
スマートフォンやタブレッPCなどが好例ですが、新しい製品が世界市場で普及する過程で、その主要部品や組み立てを台湾企業が一手に担っているケースが少なくありません。
また韓国ブランドは先進国、新興国を問わず、非常な勢いで浸透しています。
スマートフォンは高級か廉価版かに二分化される傾向にあります。新興国では、台湾企業が設計した半導体を用いた中国ブランドのスマートフォンが浸透するとみられます。

石山:
情報関連セクターの株式配当利回りはいかがですか。

橋爪:
一般的な傾向として、技術や製品が新しく、伸び盛りの分野に位置する企業では配当支払いよりも設備投資に資金を振り向けるため株式配当利回りは低いです。
配当利回りの高い企業は成熟した分野、例えばPCや関連する部品メーカーなどに多いようです。またその企業にしか作れない高い技術力を持つ一部の半導体メーカーにも株式配当利回りの高いものがあります。
台湾セミコンダクターが好例で、無借金経営で、不況の時でも業績が安定しているため、配当を継続的に支払っています。

石山:
アジア・オセアニア株式の今後の見通しを教えてください。

橋爪:
まず、企業業績ですが、主要な証券会社のアナリストの予想を集計したデータベースIBES(2013年3月15日時点)に基づくMSCI ACアジア・パシフィック(除く日本))ベースの利益成長予想(前年比)は、2013年+13.7%、2014年+11.3%の増益が見込まれています。それに基づいた2013年予想のPER(株価収益率)は12.5倍と、依然として割高感はありません。
また同指数の株式配当利回りは、2013年1月末現在で2.9%とデータが入手可能な1995年9月以降の平均値(2.8%)を上回っており、歴史的な低水準にある主要国の債券利回りと比較して、魅力的な水準にあると判断します。
債券利回りと比べて割安な株式が再評価される余地が依然として残ることに加え、企業業績の拡大が見込まれることから、アジア・オセアニア株式市場は、当面堅調な値動きとなると予想しています。
短期的に株価は上下に変動するものですが、中長期的には、経済が成長し、企業業績が拡大するということが最も大切な点です。

石山:
業績面から中長期的な成長が見込めそうですね。ただ、変動性についても気になります。どのような点に注意する必要があるのか整理したいと思います。

橋爪:
欧州や米国では経済の危機がひとまず去ったという見方があるものの、緩やかな回復にとどまると見ています。このため、アジアから欧州・米国向けの輸出が好調を維持することは難しいでしょう。また、欧州債務問題の危機が世界の金融市場を再度揺さぶることもあり得るため、こうした点には十分注意する必要があります。

石山:
資産がバブル化するリスクはありませんか。

橋爪:
世界の投資マネーの規模に比べると、アジアの不動産や株式市場は相対的に小さく、お金の行き場がないところへ資金が大量に流れると、一気に値上がりして将来のマイナス要因となりかねません。
問題はそうなる前に政策対応がとられるかどうかだろうと見ています。世界的に見て金利が低い中で、アジア諸国が金利を引き上げると、また資金が流入してしまいますので、舵取りは難しい状況です。

石山:
市場の規模が小さいとのことですが、株式を売りたい時に売れないというリスクはありますか? 他に気を付けばければならない注意点はありませんか。

橋爪:
多くの投資家が一斉に売りに転じる場合、売るに売れない状況もあり得ます。政治的な混乱や大規模な災害など、想定外の出来事が発生する可能性もあります。従って投資国をある程度分散させるほうが良いと思います。

石山:
資源供給面でアジアの国や地域を支えるオーストラリアの株式についてはいかがでしょうか。

橋爪:
オーストラリアには世界的な規模を誇る資源会社があり、世界的に見ても低い生産コスト、分散された事業内容、高い市場シェアを誇ります。世界経済や中国の景気に左右される面はあるものの、経営は安定しています。
また、液化天然ガス(LNG)会社のプラントを設計・建設する会社や、石炭や鉄鉱石の輸送サービスを提供する資源周辺の会社の中にも魅力的な企業が少なくありません。

石山:
最後に、アジア・オセアニア株式市場に投資するうえで、最も重要だと考える点を整理してもらえますか。

橋爪:
優れた経営がなされ、安定した収益をあげている企業の中で、株主に対して誠実に利益を還元する企業は、各国・地域にあります。こうした企業の株価が割安な時に投資し、中長期で保有することが最も重要だと思っています。
株式市場は思いがけず下落する局面もありますが、下げ局面で狼狽せずに保有し続けられる企業に投資していれば、上昇局面に転じた際の恩恵を最大限に受けることが出来ます。株式配当利回りを重視した投資を行うことは、結果として常に慎重な投資を行っていることにもなりますので、防御と攻撃を兼ね備えた投資戦略だと考えています。

石山:
アジアは相対的に市場規模が小さいので、短期的には価格の変動が大きくなる点はリスクとして避けられませんが、中長期で持続可能な成長が期待できることや、株式配当利回りを重視することで、経営の質を確認しながら投資していくのがポイントのようですね。
橋爪さん、ありがとうございました。

※個別銘柄に言及していますが、当社の運用において当該銘柄に投資することを示唆するものではありません。また、当該銘柄を推奨するものでもありません。

インタビュアー プロフィール

株式運用グループ シニアファンドマネージャー
グローバル株式運用担当 橋爪 謙治

1995~1996年にかけ、勤務していた生命保険会社の語学研修生として、台北へ留学。この台湾留学がアジアと関わるようになった原点となり、帰国後、1997年から15年間にわたってアジア・オセアニア株式の運用を担当。2007~2009年、SMAM香港勤務を経て現在に至る。

マーケット情報部 チーフストラテジスト 石山仁

世界の経済情勢などをエコノミストやファンドマネージャーの協力を得ながら分析し、見通しや戦略などを顧客に提供している。