アジアトーク(ASIA TALK)

REPORT

第十回 香港現地法人 アジア株式の運用体制

2014年08月28日

三井住友アセットマネジメント香港現地法人は、1990年に三井住友海上(当時大正海上)の香港現地法人として設立されたのが前身です。2002年の当社発足よりSMAM(HK)となって、今年で12年目となりました。現在のアジア株式運用体制について村井CIOに聞きました。

1.アジアは『ホーム』グラウンド

香港オフィスでの村井CIO

石山
三井住友アセットマネジメントとして、香港に拠点を持つ強みとは何でしょうか?

村井
香港はアジアの大半の地域に4時間以内(ほとんどが2~3時間)で行けるという便利さと、グローバルスタンダードに沿った金融システム・制度が整備されているという点で、アジア投資の現地拠点として極めて優位な位置にあると認識しています。

村井
内外株式ともに、個別企業をきちんと調査して投資するのが当社のスタイルです。
ですから、香港から大半の地域に数時間で移動できるという点は、当社の投資スタイルにおいて大変有利であると言えます。
当社はボトムアップの調査を重視しており、当社の実力が発揮できるホームグラウンドとして、アジアに注力しています。

村井
特に近年では、良くも悪くも、中国との距離が急速に縮まる感があり、グローバルスタンダードで大中華圏の情報を取り込んでいく、という観点からも、香港は極めて特異で重要な拠点と考えています。

2.香港現地法人の業務内容と運用体制

石山
当社はアジア地域を対象に、東京・上海、そして香港の3拠点一体の運用体制を構築しています。香港現地法人の位置づけや業務内容についてご紹介をお願いします。

村井
香港現地法人はアジア・中国株のリサーチと、投資戦略の策定、ポートフォリオ策定の中心拠点です。中心業務は株式運用ですが、2013年度からは債券(オフショア人民元債券)に対する「情報提供」も開始しました。
運用業務以外では香港をはじめとするアジア全般の資産運用業界の調査や潜在顧客の開拓サポートを行っています。
また、REITの情報提供も実施(不動産担当者2名。香港・中国&アセアン)しています。

石山
運用スタッフは何人ですか?具体的にはどのような地域をどのようにカバーしているのでしょうか?

村井
運用スタッフは総勢10名です。私を含めファンドマネージャーが2名、アナリストが8名です。日本人は私だけで、9人はアジア人です。
私がCIOとして運用統括を行うと同時に、ファンドマネージャーとして中国株ファンド、アジア株ファンド、アセアン株ファンドの運用を担当しています。もう1人のファンドマネージャーは中国株ファンドや香港株ファンドを担当しています。
アナリストは現地出身者を採用しています。中国を担当する3名の中国人に加えて、韓国は韓国人、台湾は台湾人、インドはインド人、アセアンはマレーシア人と先ほどのインド人が兼務として担当しています。
経験豊富な多様なバックグラウンドを持つスタッフの集合で、非常にアジア色が豊かなオフィスとなっています。

3.調査の質を支える自主性と公正性

石山
アジア各国・地域の多様な価値観を持っているメンバーをまとめるのにどのような工夫をされていますか?

村井
働きやすい環境を整備すると共に、一緒に働くことがエキサイティングな経験になるように、知的好奇心の探求が進められる関係作りを常に心掛けています。
何を目標としてどうやってその目標を達成するかといった運用の意思決定プロセスを共有するようにもしています。ゴールがはっきり決まっていることで、各アナリストはやるべきことに対して、迷うことが少ないと思います。CIOの元で彼らが業務を行うという指示系統も確立されているので、混乱もありません。

各メンバーは自らの計画で取材、出張、報告を行います。自分なりのスケジュール感を持って業務に従事できる点が働きやすい環境に繋がっていると思います。
また、投資判断・推奨が極めて明確に分かるパフォーマンス計測システムを導入しています。計量面で極めて公平で透明性の高い評価が担保されている点も、スタッフの高い定着率に繋がっていると考えます。

SMAM香港メンバー。後方真ん中左が下出社長。後方左から2番目が村井CIO。アナリスト1名出張中。

4.運用プロセス

(1)国(地域)と業種をチェックし多様性を捉える

石山
次に運用プロセスについておうかがいします。
アジアと一口で言っても、歴史や宗教や経済発展の段階など、様々な国・地域が存在しています。
アジアの特長はこの「多様性」にあると言われていますが、運用をしていく上でどのような工夫をされていますか?

村井
実際、アジア株式市場の国(地域)別・業種別の収益率を見ても、長期的に大きな格差があることがわかります。
例えば、中国とインドの株価指数の上昇率を比較すると、過去10年間で中国は+199%、インドは+189%と概ね似たような上昇率ですが、中国の消費循環セクターは同+34%しか上がらなかった一方、インドの同セクターは同+372%の上昇です。
逆に通信セクターについては、中国が同+256%上昇した一方、インドが同-71%下落しました。
このように多様性に富んだ市場がアジアだと思います。

こういった多様性を捉えるために、国(地域)と業種を同時にチェックするようにしています。

石山
同時にチェックする狙いはなんでしょうか?

村井
国(地域)別配分だけでなく、業種配分も同時に押さえることで、通常の国(地域)別配分よりも厳密に配分計画を策定できる点です。
また、国(地域)・業種を押さえることによって、個別企業の調査取材分析との融合が容易になります。

トップダウンでマクロ環境、各業種の成長力やバリュエーションの水準、規制・競争環境などを押さえ、ボトムアップで有望銘柄への判断を加味することで、配分計画(国・業種・銘柄)の大枠を形成することができます。

(2)超過収益の源泉としての個別銘柄調査

石山
個別国(地域)別・業種別配分を決めて、個別銘柄の判断を融合するプロセスが当社株式運用の大きな特徴ですね。

村井
そうですね。我々は、超過収益の源泉の80%は銘柄選択にあると位置づけ銘柄調査に時間をかけます。
アナリストやファンドマネージャーが直接企業取材を行い、自らの分析に基づき投資判断を行うことが、付加価値の拡大に繋がると信じています。

石山
個別調査においてはどのような工夫をされていますか?

村井
原則として、その国の言葉を話せるスタッフを担当市場に配置しています。こうすることで、多様性のあるアジア市場に対応できる体制になっていると考えています。
一方で、運用プロセスや銘柄選択基準を明確化し、共有化することで、市場や担当者が異なっても、一定以上の質が確保できる体制としています。
この体制によって各国(地域)の市場に精通したアナリストからファンドマネージャーは投資判断に直接影響のある材料を入手することが可能となります。

石山
どのような点に力を入れて調査・分析・投資をされているのでしょうか?

村井
時価総額や流動性基準等で調査対象銘柄数を500銘柄程度に絞り、投資尺度や成長性、コーポレートガバナンスなどの定量・定性項目などバランスよく調べます。
直接企業を訪問し、評価レポートを作成してファンドマネージャーと議論することで意思決定につなげていきます。

石山
世界的に低金利基調が続いています。
アジアも相対的に金利が低下していますが、投資尺度としての配当利回りについてはどのようにご覧になっていますか?

村井
確実な収益である株主配当の部分の見極め(好配当利回り)が重要です。
さらに、水準が高いだけではなく、株主配当の持続性、成長性にも注目する必要があります。その企業が規律を持った事業活動を行っているかを判断するためです。

株主と企業の経営者の利害関係は完全に一致しているわけではなく、往々にして経営者は資本効率の極大化よりも、事業範囲の拡大を望む傾向が強いと判断されます。
一方、必要以上に内部留保を積み上げれば資本効率の悪化につながることから、利益を内部留保として積み上げるよりも、株主配当として還元する方が、事業や新規投資に対する厳格な姿勢が維持されることになり、長期的に見れば企業収益性が高まると言えます。
こうした企業行動について詳細に分析し、投資判断に活かしています。

5.アジア通貨危機の経験と今後の目標

石山
村井さんは、外国株式の運用を担当していた1997年、アジア通貨危機を経験されたとあります。
当時の印象を教えてください。

村井
市場が上昇するときの熱狂と共に、下落する際の激しさを身に染みて痛感しました。
規模のそれほど大きくない市場に短期性の投機資金が多額に流入した反動で、その後のバブル崩壊時の資金流出が、実体経済を危機的な状況へと追い込むことも実感しました。
その意味で、資本移動の潮流となる経常収支や財政収支、国の債務比率などのマクロファンダメンタルズには常に注目しています。

さらに、ゲームのルールとも言える国の制度などが大きく変更される場合がある、というのもアジア危機を踏まえた教訓です。
例としては、当時、マレーシアでは突然の資本取引規制で、マレーシア株式資産の円回金が不可能となり、約1年間大変な思いをしました。

現在は当時の経験を基に、『中長期的な視野で安定的に収益を伸ばせる会社を吟味すること』が重要だという思いを強くしています。

石山
今後の目標についておうかがいします。

村井
当社のボトムアップの調査力を積極的に生かし、一歩踏み込んだ運用を検討しています。
現在運用しているファンド群の組入銘柄数はおおよそ50~70銘柄ですが、もっと銘柄を絞り込んだ運用が可能だと考えています。
長期投資の尺度に基づきアナリストが厳選する銘柄に投資するのであれば、国と業種を分散させた集中投資は十分可能だと考えています。
今後は、こうしたポートフォリオの構築を通じてパフォーマンスを追求したいと考えています。

石山
村井さん、ありがとうございました。

インタビュアー プロフィール

香港現地法人CIO 村井 利行

1990年4月に三井生命入社。1993年4月に特別勘定運用部に配属になって以来、20年間ほぼ外国株式運用に従事。98年4月からアジア株式担当。アジア危機の最中で大変厳しい時代を経験。その後、2000年から2007年まではロンドンで欧州の株式・社債を担当。2007年以降は日本で再びアジア・オセアニア株式担当となり、2009年4月から香港でアジア株式運用に従事。2013年10月にSMAM 香港現法CIO(Chief Investment Officer)に就任し、現在アジア株式運用を統括。

マーケット情報部 チーフストラテジスト 石山仁

世界の経済情勢などをエコノミストやファンドマネージャーの協力を得ながら分析し、見通しや戦略などを顧客に提供している。