アジアトーク(ASIA TALK)

REPORT

第十二回 ベトナムの高い経済成長の恩恵を受ける企業

2015年11月20日

前回に続き、SMAM香港現法アナリストKok Wei Yapがベトナムについてレポートします。

前回は、ベトナムの構造改革、高い成長ポテンシャル、環太平洋経済連携協定(TPP)参加による恩恵などについて取り上げました。今回は、そうした経済環境の転換期にあって、成長期待が高い企業や、ユニークなビジネスモデルを有する企業などを紹介します。(以下の各企業紹介は、例示を目的としたものであり、投資を推奨するものではありません。)

1.インド人もビックリのFPT Corp
旺盛な国内消費と安価で優秀な人材を活かし伸びる大手情報通信企業

FPT Corp(以下、FPT)は、ベトナムの大手情報通信技術企業(ICT企業)で、情報システム、通信、ソフトウェア並びに販売を含むIT関連サービスを提供しています。
同社は、(1)通信、(2)技術、(3)小売販売の3つの事業を展開しています。
通信事業はさらに、①光ファイバー・プロジェクト、②オンライン・ゲームや電子決済を含むデジタル・コンテンツ、③オンライン広告の事業に分かれます。
技術事業は、①ソフトウェア・アウトソーシング、②ソフトウェア・ソリューション、②システム・インテグレーション、④ITサービスで構成されます。
小売販売事業は、IT関連機器と携帯電話/スマホ等の販売を行っています。
FPTはベトナムの優良企業であり、外人持ち株比率は、常に外人保有規制(FOL)の上限49%に達しています。
小売販売事業は、総売上高の65%を占め、技術事業(同20%)と通信事業(同14%)が続きます。しかし、税前利益の内訳では通信が39%と最も高く、技術事業(同30%)と小売販売事業(同24%)がそれに続きます。これは、小売販売事業(売上高税前利益率:2~3%)に比べ通信事業(同19%)と技術事業(同:11%)の利益率が高いからです。
FTPの主要3事業の見通しには明るいものがあります。小売販売事業は、スマホ普及率がまだ飽和状態と言われる60%より低い40%であることから、売上の増加が予想されます。同様に、技術事業はアジアにおける競合(特にインド企業)に対してコスト競争力があることから、売上の増加が見込まれます。通信事業については、設備投資が一巡し前倒しで減価償却を行ったことから、利益率は底を打ち今後改善が予想されます。 通信事業の税前利益はFTPの光ファイバー・ブロードバンドへの乗り換えによる契約者数の増加と利益率の改善により近い将来飛躍的に伸びると見られます。

2.ハイエンド不動産開発を極めるビングループ(Vingroup)
ベトナムの富裕層と外国人居住者増加で伸びる、ベトナム最大の不動産開発会社

ビングループ(以下、VIC)は、ハイエンド(高級物件)市場に特化するベトナム最大の不動産開発会社です。VICはこれまでに高級マンション15,000戸、高級戸建て住宅1,000戸、ショッピング・モール 8施設、5つ星ホテル1,600室、並びに「Aランク」オフィスビルを125,000㎡建設しました。
同社は、分譲を開始した3つの主要プロジェクト(セントラル・パーク、タイムズ・シティ・フェーズ2、グエン・チー・タン)を含む30を超える開発プロジェクト計画を有し、向こう4年間で更に17,000戸のアパート開発が見込まれています。不動産開発・投資以外に小売、ヘルスケア、教育、Eコマース、農業事業も手掛けています。
VICは、ベトナムを代表する優良企業であり、外人持ち株比率は、常に外人保有規制(FOL) の上限49%に達しています。
VICは、ブランド力が強いため、優良な不動産用地確保が可能なことと、資金調達で国際資本市場へアクセスが可能なことが強みです。課題としては、海外デベロッパーに比べ物件の質が劣ることと、住宅の仕様に制約が有ることが挙げられます。一方、「Bランク」や「Cランク」市場への進出余地、さらに多くの優良な土地確保、外国人の不動産保有に対する規制緩和、小売業への進出などが期待されます。
ベトナムの不動産市況の回復は2年以上経過しましたが、外国人保有の規制緩和によるハノイやホーチミンなどの主要都市でのハイエンド物件の需要が伸びること、外国駐在員流入による賃貸物件としての需要が再び喚起されていること、約6%の賃貸利回りが見込めることから引き続き有望な市場であると考えられます。
VICが開発する超高級マンションとビラは、住宅用不動産の旗艦ブランド「ビンホーム」の名前で販売されています。ベッドルームが1~4で、広さが55~221㎡のアパートが1㎡当たり1,500~2,300米ドルで販売されています。塀で囲まれた「ビンホームズ・リバーサイド」ブランドの豪華ビラは、111~2,000㎡の広めの面積で1㎡当たり3,000米ドル程度で販売されています。同グループが現在ホーチミン市で唯一運営している、旗艦複合施設であるビンコム・ドンコイ(別名ビンコム・センターB)には、広さが92~340㎡で1㎡当たり7,000~10,000米ドルで80室の豪華マンションが含まれています。これらのマンションは26階建てビルの21~26階を占めており、ベトナムでは「超豪華」マンションと考えられています(現在、ベトナムで最も価格が高いマンションは1㎡当たり5,000~7,000米ドルです)。
VICのベトナムの物件の品質は、おおむねシンガポールより低く、フィリピンやインドネシアよりは高い水準で、マレーシアやタイと同じようなレベルです。

3.ベトナム乳業(ビナミルク、Vietnam Dairy Products)
外資とシェア争いが出来る唯一の巨大乳製品製造会社

ビナミルク(VNM)は、生産量と市場シェアの両方でベトナム最大の乳製品製造会社です。同社は、乳牛の飼育、牛乳加工から様々な乳製品(粉ミルク、練乳、ヨーグルト、チーズ、アイスクリームなど)並びに飲料水(豆乳、清涼飲料水など)を生産する一貫したバリューチェーンを有しています。

ビナミルクは、乳製品と飲料水の2つの商品群を生産しており、200種類以上の製品を提供しています。売上高の85%が国内向けで残りの15%が輸出されています。

ビナミルクの主要部門別シェアは次の通りです。

粉ミルク: 市場シェアは24%。輸入粉ミルクの方が国内産よりも高品質であるという消費者の先入観により、厳しい競争に直面しています。粉ミルク市場は、外国企業4社が75%を押さえており、ビナミルクが唯一国内勢で対抗出来る会社です。

牛乳: 市場シェアは49%。ベトナム国内の原乳生産量が不足しており牛乳の主原料は輸入粉ミルクです。これにより、ビナミルクを含めた牛乳メーカーは国際的な粉ミルク市況や為替相場の変動の影響を受け易くなっています。

ヨーグルト: 市場シェアは73%。ヨーグルト市場は、国内外のメーカーによる市場シェア争いが激しくなっています。当面は、収益への貢献はそれ程でもないと思われます。

練乳: 市場シェアは80%。ビナミルクによると、消費者の嗜好が練乳製品から牛乳や粉ミルクに変わった事から生産量は頭打ちであるとの事です。

チーズ: 外国メーカーが市場を独占。ベル・ベトナムが70%の市場シェアを持ち、残りをビナミルクと競合他社が分け合っています。この市場は固定客が多い事からビナミルクが現状を打開することは難しい状況です。

アイスクリーム: ビナミルクの市場シェアは10%。都市部の顧客は外国製品を好むことから主に地方の顧客をターゲットにしています。

ビナミルクの強みはベトナム最大の乳製品製造会社として広範囲な国内販売チャネルを有することです。 課題は、主要原材料である粉ミルクの供給を第三者に大きく依存しており、同社の業績が原材料価格と為替の変動リスクにさらされていることです。

また、新規参入、特に外国企業の参入は、価格競争の激化をもたらすため、競争力を高める必要が有ります。その様な中で、乳牛の飼育への進出により利益率改善を図ろうとしています。

4.ベトナムの消費拡大と共に成長するマサン・グループ (Masan Group)
売上高の8割以上を消費関連事業が占めるベトナム最大の民間企業のひとつ

マサン・グループ(以下、MSN)は、売上高の80%以上を消費部門が占めるベトナムの消費者をターゲットとするベトナム最大の民間企業グループのひとつです。同社は、ヌイファオ鉱山で採掘をする鉱山採掘会社のマサン・リソーシズの74.2%を保有しています。ヌイファオ鉱山は、多金属鉱山でタングステン、ビスマス、蛍石と銅の埋蔵量がきわめて多い鉱山です。MSNは、テクコム銀行の30.4%も保有します。同行は、ベトナムの民間銀行では2014年末現在で税前利益では4位、総資産額では5位です。2014年にグループ傘下のマサン栄養科学が動物飼料事業を買収しました。

MSNの消費部門の主要事業は、食料品(インスタント食品と調味料及び香辛料)とノン・アルコール飲料(コーヒーと容器入り飲料)です。食料品事業の一部門は、醤油、魚醤、チリソース、インスタント麺、シリアルを製造・販売しています。マサン・ビバレッジは、飲料水とインスタント・コーヒーを販売しています。MSNは、現在の高い市場シェアとその順位から、過去数年間で消費部門での評価を高めたと考えます。

マサン・リソーシズは、グループの鉱山部門ですが、タングステンと銅価格の下落と巨額な金利支払いにより赤字となりました。しかしながら、同部門は新規販売先数社と従来と異なる長期契約を結んだことにより価格は若干下がったものの数量の買取り保証が得られたことにより2014年第3四半期からは黒字化しています。現在、鉱山の稼働率は90%まで上昇しました。

テクコム銀行(TCB)は、融資先を主に中小企業と個人に絞った融資業務を行っています。融資先の内訳では、近年、2010年9%だった不動産と建設業者向けの融資が2013年に22%に拡大しました。消費部門と比較し、グループ最終利益への貢献度は取るに足らないものです。

マサン・ブルーワリーは、ベトナムでは比較的小さなビール醸造会社であり、グループ最終利益への貢献度は余り高くありません。MSNは規模の経済の改善のために生産能力の増強を図ろうとしています。

マサン栄養科学(MNS)によると、買収した動物飼料事業は、買収直後から利益成長が見込めるとしています。主に養豚、養鶏と魚の養殖向け飼料を扱っています。

MSNは食品が売上高の82%を占めることから、ベトナム経済成長に伴う個人消費の急増から恩恵を受けると考えられます。また、将来的に新たに買収した飼料事業と原材料価格下落により、利益成長率が拡大する事が予想されます。

5.アジアの製造拠点であるベトナムを支えるキンバックシティグループ(Kinh Bac City Development)高い利益率を誇る大手工業団地開発・運営会社

キンバックシティグループ(以下、KBC)は、工業団地の運営・開発専門会社として2002年に創業しました。同社は、ベトナムにおける大手不動産と工業団地運営会社のひとつです。同社の強みは投資費用が低い広大な土地を保有していることです(工業団地6,000ヘクタールと都市開発用地1,500ヘクタールを含む)。KBCの顧客の80%が外国投資家であることから外国投資の流入が事業に大きく影響します。

KBCの中核事業は、工業用地の販売であり、会社の売上高の大きな部分を占めます。それに加え、KBCは投資家に完成した工場の売却ないしはリースと工業団地のテナント向け施設の保守管理を行っています。現在、KBCは入居率が40%~100%の工業団地を8カ所運営しています。

KBCの売上高の70%は、土地の売却(土地リースとしても知られています)、21%はRBF(工場売却とリース)、そして9%は保守サービス料(経常収益)です。

KBCによると、平均土地取得費用は1㎡当たり18米ドル~40米ドルと低く、グループ全体の総利益率は50%です。

TPPの発効により工業団地の需要が高まることが予想され、KBCにはプラスに働くと考えます。同社は、既に4,500ヘクタールの土地を確保しており、全てを開発するには向こう10年~20年かかるとされます。工業団地の需要増加による土地価格上昇からKBCの平均販売価格上昇が予想され、同社の業績に貢献すると考えられます。

―以上―

レポーター プロフィール

Kok Wei Yap

当社香港現地法人アナリスト。主にASEAN地域の企業調査を担当する。1997年以降、東南アジア、米国系企業などにおいて、企業調査アナリスト、エコノミスト、ファンドマネージャーとして勤務し、投資業務における豊富な経験を有する。2012年6月から現職。