アジアトーク(ASIA TALK)

REPORT

第十三回 夜明けを告げるアジア・フロンティア諸国と「ASEAN経済共同体」の設立<第二部>

進化するASEAN
~ASEAN経済共同体の発足~

金谷:そのASEANが、存在していた様々な障壁の撤廃に向け、ヒト・モノ・カネが自由に行き交う1つの経済共同体として、2015年12月の発足を契機に新たな出発が期待されているのですね。

レスミー:そうです。多様性に富んだASEAN10ヵ国による「ASEAN経済共同体」が昨年12月に発足し、人口6億人の巨大市場が誕生しました。
しかも、その経済共同体に中国やインド、更に海を隔てて、日本やオーストラリアといった国が接しています。今後ASEANは、周辺各国との貿易も活発化させつつ、世界で最も大きな市場の1つとして発展すると見込まれるのです。

金谷:今後、ますますASEANへの注目は高まっていきそうですね。

レスミー:はい、この「ASEAN経済共同体」の発足は、アジアのフロンティア諸国にとっても成長を更に加速する要因となるでしょう。 まずは「ヒト」の流れでしょうか。
私事で恐縮ですが、自宅がプノンペンにあります。日本の皆様の中にはご存知の方がいらっしゃるかと思いますが、プノンペンの近くにはメコン川という大きな川が流れています。雨季には対岸が見えないほどの川幅になります。また、川の流れが速いために船の行き来が難しくなるんです。つまり、交通の難所だったんです。しかし、そのメコン川に今年の4月、タイの首都バンコクからプノンペンを経て、ベトナムのホーチミンに至る交通動脈である高速道路、南部経済回廊の一部である「つばさ橋」が日本の協力も得て、ついに完成しました。

レスミー:これまでは、バスも大型トラックも混雑時には、桟橋で何時間も順番待ちをし、少し大きめの渡し船のようなフェリーボートを利用して、更に2~3時間かけて対岸との行き来をしていました。もちろん有料ですし、昼間だけの運航でした。 しかし、「つばさ橋」が完成したおかげで、今では1日5,000台以上の車が昼夜を問わずアッという間に対岸との行き来をしています。もちろん大勢のヒトも行き来をしています。

ところで金谷さん、「つばさ橋」の完成はカンボジアにとって重要であることは当然ですが、ASEAN全域にとっても大変大きなイベントなんですよ。先程もお話しましたが、「つばさ橋」の完成によって、タイのバンコクからプノンペンを経由してベトナムのホーチミンに至る南部経済回廊900kmが名実ともに開通したということなんです。

投資家の皆様もご存知の通り、タイのバンコクは東南アジアのデトロイトと称される程の自動車生産地です。年間200万台以上の車が生産されて、日本へも「MADE IN THAILAND」の日産マーチとして輸出されています。 ベトナムでも自動車の生産が増加しており、現在、年間20万台ほどの自動車が生産されています。
* 個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

ASEANの「地域格差の活用」
~そして、今後のASEAN~

ところが、タイのバンコクでは、このところ労働者不足や人件費の高騰が問題になっています。昨年末のASEAN経済共同体の発足により2018年には域内の自動車の関税が撤廃されることが決まっていますので、同様に自動車産業が盛んなインドネシアやマレーシアに比較優位が奪われる可能性も見え始めています。
ベトナムでも自動車部品や完成品の輸送コストを勘案すると、国内で生産される自動車よりもベトナム以外の域内諸国で生産される自動車を輸入した方が販売価格が安くなる可能性もあり、ベトナムに進出した海外メーカーの中には、工場の閉鎖を検討するメーカーも出てきています。
ASEAN経済共同体の発足により、このような問題が起こりかけている両国にとって「つばさ橋」の完成がこの問題のソリューションとなる可能性があります。具体的に説明しますと、タイとベトナムが、この「つばさ橋」で繋がることにより、両国に挟まれるカンボジアの人的資源、「ヒト」を取り込むことが可能となり、そうすることで両国の自動車産業におけるリスクを抑えつつ世界の自動車工場として発展を続けることができると考えています。
もちろん、部品や完成品といった「モノ」の流れもこの橋の完成によってスムーズになりますから、最終的にはおカネも回るということになります。つまり「域内格差の活用」ですね。

金谷:「域内格差の活用」という発想は素晴らしいですね。

レスミー:ありがとうございます。ASEANと言いましても、加盟10ヵ国の成長レベルを見ますと大きな差があるのです。ヒト・モノ・カネ、更にはサービスの自由化が進み、域内での貿易や投資、移動がさらに拡大することで、今まで成長の恩恵をあまり受けてこなかった国にも恩恵が行き渡り、域内格差の是正、ひいてはASEAN地域全体の経済成長が底上げされることが期待されています。

金谷:確かに、格差を単なる弊害と捉えるのではなく、格差は「多様性」に通ずるということですね。つまり、ASEANを多様性に富んだ10ヵ国の集合体として捉えて活用することで、域内の経済発展につながりますね。 ところでレスミーさん、最近の中国の経済の減速が世界経済の足かせになるという見方が出ていますが、ASEANに及ぼす影響についてどのようにお考えですか?

レスミー:まず、中国の経済減速の大きな要因について考えてみたいと思います。それがASEANに及ぼす影響を考える上で重要なキーポイントになると考えています。その要因の一つが、これまでの「安価な労働力」という中国の比較優位が失われつつある、つまり「人件費の上昇」であると思います。
日本の高度経済成長期、あの当時の日本の成長を支えた要因の1つも、全く同じ「安価な労働力」にあったのではないでしょうか。当時日本の賃金は非常に安かったので、原材料を輸入し、加工し、どんどん世界に輸出することで日本が「世界の工場」となり得たとも言えるのではないでしょうか。
その次に「世界の工場」となったのが、韓国、更には中国です。安価な労働力で安い製品を作り、世界中に輸出し、日本と同じように大きな成長を遂げてきました。ただ、中国もかつての日本と同じように、かつ日本よりもはるかに速いスピードで賃金が上昇しました。こうした背景によって中国は、習近平主席の言う安定成長路線へ舵を切りました。「成長のバトン」は中国からどこに移ろうとしているのでしょうか。

金谷:私なりにどこに移ろうとしているのか予想してみます。直近、中国の生産コストの高騰や一極集中リスクを考慮して、中国に進出している海外企業が生産移管を行っているという記事を目にします。それら工場の移転先にASEANやその周辺国であるインド、スリランカ、そしてバングラデシュ等が選ばれているということは、こうした国々がバトンの渡る先ではないでしょうか。
主要な新興国・地域と先進国・地域の名目GDPの規模を比較しますと、2025年にインドが日本を抜き、2026年にはASEAN10が日本を抜くと予想されています。私は今後10年間でアジアが大きく変貌し、これに相俟って、ASEANやアジアのフロンティア諸国が経済集合体として大きな力を発揮する可能性があると思います。

レスミー:これを読んでくださっている皆様も色々お考えはあるかと思いますが、私も金谷さんに同感です。どうですか?昨年12月のASEAN経済統合体発足に期待が高まりませんか?

金谷:はい。レスミー先生、夢が膨らみますね。「つばさ橋」、その名の通りASEANが経済統合によって世界に飛び立ったようですね。
レスミー先生、本日はありがとうございました。

(完)

インタビュアー ・プロフィール

王立プノンペン大学外国語学部日本語学科長 ロイ・レスミー氏

昭和女子大大学院文化研究科で修士並びに博士課程修了。 カンボジアの日本語教育の先駆者。同氏のリーダーシップにより、王立プノンペン大学日本語学科では現在500名を超える生徒が日本語を履修している。

投信マーケティング第一部 マネジャー 金谷亜悠子

2009年に三井住友アセットマネジメントに入社。 一貫して、投信マーケティング業務に従事。 成長が著しく、多様な文化を持つアジアに興味を持っており、現在勉強中。