アジアトーク(ASIA TALK)

REPORT

第十五回 急成長する中国Eコマース

(注) 個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

イヴェット:本日は、同じ中国出身の大先輩である中国株ファンドマネジャーのジェーン・イェさんと中国株アナリストで消費とインターネットがご担当のエコー・ドゥ-さんに、私たち女性に身近で、中国で爆発的に普及しているEコマース*についてお話しを伺おうと思います。 お二人は、香港にご家族と10年以上住まわれていますので、香港での中国系Eコマースの使い勝手や、中国との比較についてもご意見を伺えればと思います。それでは、この座談会を始めるにあたって、中国のインターネットがご専門でいらっしゃるエコーさんにEコマースの現状についてお話を頂きたいと思います。エコーさん、よろしくお願いします。
*Eコマースとは、Electronic Commerceの略で、電子商取引のことです。 ECと表記されることもあります。 広義には、インターネット上で物を売ったり買ったりすることで、代表的なものにネットショッピングや各種オンライン予約サービスがあります。

エコー:はい。こちらこそ、よろしくお願いします。中国ではEコマース全体の売上高は2015年には3.9兆元(約62兆円)の規模であり、小売売上全体の15%程度に達したと言われています。また、今後も2016年~2020年までの5年間において年平均18%程度の高成長が見込まれています。Eコマースが普及している分野は、①家電製品(2020年予想普及率55%)、②美容・パーソナルケア(同50%)、③服装品・靴・バッグ(同35%)、④出産・子供用品(同35%)、⑤家具・調度品(同25%)、⑥パッケージ食品・飲料(同10-25%)、と言ったところになります。

イヴェット:改めて、市場規模や成長率を数字で伺うと中国におけるE コマースが如何に急速に普及しているかが解りますね。ところで、みなさんは、日常生活でE コマースをどの様に活用されていますか?

エコー:私はEコマースのヘビー・ユーザーだと思います。平均すると必ず週に1回は使っています。日用品や子供用品の購入が中心です。出産を機にEコマースを利用する機会が圧倒的に増えました。仕事に加えて子育てのため、外で買い物をする時間が減ったこともありますが、特に子供用品はEコマースで非常に安く買えるため、利用頻度が上がりました。また、子供向けのアクセサリーやおもちゃも良く買っています。香港でも露店などでアクセサリーやおもちゃなどは安く売っていますが、淘宝(タオバオ、アリババが運営するB2Bサイト*)の商品はそれよりもかなり安いという印象です。
一方、オンライン普及率上位にある美容・パーソナルケアや洋服・靴・バッグなどの購入には殆ど使っていません。以前は利用したことがありましたが、実際に洋服を着て見るとイメージと違ったことが何度かあり、返品したり、人にさしあげた経験があります。やはりアパレル関連や化粧品は店舗で買う方が安全だと思います。もっとも、Eコマースで購入したものでも、送料さえ払えば簡単に返品出来ます。
*B2Bとは、Business to Businessの略称で、「B to B」とも表示される企業間の電子取引です。「B to B」サービスを提供するWebサイトをB2Bサイトと称します。

ジェーン:私はエコーさんほどのヘビー・ユーザーでは無く、月に1回程度しか利用しません。ただ、中国に居る私の父親は私よりも頻繁にEコマースを利用しています。年齢のせいで外出するのが容易では無くなったことから、特にサンアートと言う大手スーパーが運営するフェイニュウ(Feiniu)と言うO2O*(オンライン・トゥー・オフライン)プラットフォームを利用して生鮮食料品や日用品などを購入しています。父親がEコマースを頻繁に利用する理由として、中国は香港と比べて人件費がとても安いことから、宅配して貰える最低購入額が低いこともあるようです。ただ、一度ネットで牛乳(高温殺菌)を購入した際に賞味期限内であったにも関わらず傷んでいたことがありました。返品には応じて貰えましたが、20日以内の返金を謳っているにも拘らず、実際の返金には1か月以上掛かったそうです。それ以来、Eコマースを利用しての購入品目については慎重に選んでいるようです。
私自身がEコマースで良く購入するのはコンサートのチケットや遊園地の入場券などです。ただ、エコーさんと同じで、洋服や靴などを買う時にはEコマースは殆ど利用しません。以前ブランド品を扱うEコマースサイトの唯品会(VIPshop、米国NASDAQ上場銘柄)で洋服を購入したことがありましたが、安い値段(市販価格700-800香港ドルのものが200香港ドル程度になっていました)につられて買ったものの、実際送られてきた服の色合いがネットで見たもの(ライトブルー)と実物(ダークブルー)とでは大きく異なっていたことから、結局、人にあげてしまいました。モデルが着ているのと自分が着るのでは印象が全然違うこともありますし....(笑)。個人的にはネットで洋服を購入するのは難しいと思います。
*O2Oとは、「Online to Offline」、つまりネットの情報からリアルな店舗へ顧客を誘導する販売動線を示す言葉です。

イヴェット:座談会の冒頭にエコーさんが披露された主要商品カテゴリー別オンライン普及率の調査結果と、実際のユーザーとしてお二人がEコマースを利用している品目が異なっているのは面白いですね。
私自身は、ジェーンさんと同じで月に一度程度しかEコマースを使っていませんが、調査結果で最も利用頻度の高い家電製品を良く買っている気がします。最近、広州市の実家に帰った時にサムソンのスマホをネットで買いましたが、金曜日の夜11時くらいに注文して、翌日の土曜日には品物がもう届きました。他にもパソコン周辺機器などは、ネットで注文するケースが多いです。こうした品物であれば製品自体は既に分かっているものですし、尚且つ私が良く利用する京東(ジンドン、JD.com、B2Cサイト*)ではアフターサービスもしっかりしています。
ところで、私は翌日デリバリーの利便性や信頼性からB2Cサイトの京東を良く利用しますが、お二人はどうですか?
* B2C(Business to Consumer)とは、企業と消費者間の商取引、あるいは、企業が個人向けに行う事業のことで、Eコマースで代表的なB2Cサイトは法人の経営する個人向けのオンラインショップのことを指します。

エコー:私は、99%が淘宝(タオバオ、アリババのC2Cマーケットプレイス*)で残り1%が京東と言った状況だと思います。子供服など欲しい商品を検索して購入する際にC2CかB2Cかは特に意識していませんが、なるべく安く買おうと思うと結果的には殆どのケースがC2Cになっていま す。
*C2C (Consumer to Consumer)とは、個人間取引の略称で、C2Cマーケットプレイスは、Web上に個人間取引の場を提供するプラットフォームを指します。

ジェーン:私も淘宝を一番利用しています。その次に天猫(Tmall、アリババが運営するB2Cオンラインショッピングモール)や京東(天猫の競合相手)です。唯品会(VIPshop)は、最近使っていません。

イヴェット:香港に住んでいて、中国のEコマースを利用することに不便な点はありますか?

エコー:以前は、中国から香港への輸送に時間が掛かっていましたが、最近ではそうした問題は感じません。特に流通業者の物流センターが発達したために、例えば異なる出品者から10点の品物を購入したとしても、香港に来る前に広州か深センの物流センターでまとめた後、一括して香港へ送付するようになりました。1週間から10日もあれば全ての品物がまとめて到着します。また単品であれば3日程度で届きます。私自身はSFエクスプレス(中国の大手エクスプレス業者)のサービスに十分満足しています。

イヴェット:Eコマースの最大の魅力は価格が安いこととの評価ですが、なぜEコマースではそれほど安くできるのでしょうか?

エコー:一番大きいのは店舗コストが掛からないという点です。特に香港では賃料が非常に高いため、Eコマースは有利と思います。加えて、人件費や複雑な中間流通コストが掛からない点、税金面での違いもEコマースにとっての強みと言えます。

イヴェット:現在、香港に住まわれていて、実生活の中で中国とのEコマースの違いを感じますか?

エコー:中国のEコマースは香港よりも5年は進んでいると思いますよ。中国ではアリババや京東と言ったサイト運営業者の質向上に加えて、広範な物流網や大規模な物流倉庫の構築、また安い賃金を利用して最終顧客に迅速に品物を届けると言うラストマイル部分の整備など、インフラ部分が非常に強化されてきています。また、こうしたEコマースは通信インフラが未整備な農村部にまで普及しています。アリババは最近、農村部で店舗を持つ個人事業主と契約し、その店舗に顧客(ネットやスマホを持たない農民)が来店することで顧客の代りに淘宝で必要な品物(日用品から肥料等まで様々)を注文する、と言うサービスを始めています。こうしたサービスにより農村部向けでも淘宝のサービス拡大が見込まれます。

ジェーン:私も中国でのEコマースの普及度合いは香港よりもかなり早いと感じています。実際に父親は掛かりつけの医師のアポイントメントはオンラインで行っています。また、O2Oのサービス普及には目を見張るものがあり、クラシファイド広告サービス*の58.comは家事、洗車、マニキュア、出張料理、自動車教習、など様々な分野へサービス対象を広げていますよ。

*クラシファイド広告サービスとは、個人広告を集めて掲載するWebサイトやサービスです。

イヴェット:また、Eコマースと言う意味ではオンラインでの旅行予約も市場規模の大きい分野ですね。

エコー:そうですね。我々3人も既に日常的にオンライン予約サイトを使ってますよね。今、日本で話題になっている中国のアウトバンド旅行者について、未だに高齢者向けパッケージツアーは伝統的な旅行代理店経由だと思われますが、旅慣れた人は大半が独自にオンライン予約サイトで自分達なりの旅行プランを作っているのではないでしょうか。

イヴェット:最後に中国でのEコマースの見通しはどうでしょうか?

エコー:アリババは総取引高で今年初めに米ウォルマートを上回り、世界最大の小売業者になりました。また同社は、中国のEコマースの先行きを非常に明るく見ており、自社の成長率見通しについても、2017年は2016年よりも更に加速すると予想しています。私自身も、スマホ利用によるEコマースの更なる利便性向上や、ビッグデータを用いた個々人ベースでのより綿密な顧客ニーズの把握などの余地を考えると、マクロ経済動向にあまり左右されずに、今後も中国でのEコマースの拡大は続くと考えます。

ジェーン:中国では4億人以上が利用していると言われているアリペイなど、非常に簡易なオンライン決済サービスが普及しているのもEコマースの更なる拡大にとって追い風だと言えるでしょうね。

イヴェット:本日は、ジェーンさんとエコーさんのお二人からご自身の体験もご披露頂きながら中国のEコマースの現状と見通しについてお話を伺いました。丁度、お昼の時間になりましたので、この辺で座談会を終了させて頂きたいと思います。折角ですからランチをご一緒しませんか?私がインターネットで予約します。(笑)

―以上―

インタビュアー ・プロフィール

三井住友アセットマネジメント(香港)
中国株ファンドマネジャー
ジェーン・イェ
運用経験年数約13年の中堅株式運用者。
2016年に三井住友アセットマネジメント(香港)に入社。前職は、英国系大手運用会社で運用業務に従事。香港在住13年の二児の母。食品の安全性や情報の透明性が高い香港の生活を堪能中。

三井住友アセットマネジメント(香港)
中国株アナリスト(消費・インターネット担当)
エコー・ドゥー
調査経験年数約10年の中堅アナリスト。
2011年に三井住友アセットマネジメント(香港)に入社。前職は、欧州系大手金融機関のアナリスト。香港在住10年目で、一児の母。Eコマースのヘビー・ユーザー。もっか、仕事と子育ての両方で奮闘中。

三井住友アセットマネジメント(香港)
ジュニア・アナリスト(アジア全般のサポート)
イヴェット・ソン
調査経験年数約3年の新人アナリスト。
2016年に三井住友アセットマネジメント(香港)に入社。前職は、香港の地場証券会社。2012年の香港の大学院進学以来、生活の中心は、香港。香港に来る世界中の多様な文化・芸術に夢中で、週末はアート鑑賞やコンサートを堪能している。