アジアトーク(ASIA TALK)

REPORT

第十六回:急拡大する中国の新エネルギー車市場

(注) 個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

イヴェット:前回は中国のEコマースについてご自身の実体験を踏まえつつ見通しを伺いましたが、今回はお二人に専門的な立場から、中国における成長産業の見通しについて、お話しを伺いたいと思います。今回は、天気が良いので会社の近くのカフェでコーヒーを飲みながらの座談会にしたいと思います。早速ですが、お二人は今、どの分野に注目されていますか?

エコー:私は今、自動車業界に注目しています。その中でも電気自動車(EV)やプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)などの新エネルギー車(新エネ車)の中長期的な成長余地は特に大きいと考えています。中国では過去2年間、新エネ車の販売台数は年率300%を超える伸びとなりました。今年は、成長率自体は鈍化すると見られていますが、それでも50%を超える成長が見込まれており、今後数年間、販売台数は年率40%程度の伸びが続くと見込んでいます。

ジェーン:確かに新エネ車は台数の伸びの観点からは、高い成長が見込まれる分野ですね。でも、その一方で、補助金を中心とした政府による政策の影響を極めて受けやすい分野であり、政策動向の見極めが鍵となると考えます。

エコー:その通りです。過去2年間の年率300%を超える成長は私自身や市場の予想を大きく上回るものでした。これは政府の補助金ばら撒き策によるものと考えられ、ある意味では不健全な成長と言えます。中国政府は新エネ車普及のため、巨額な補助金を投入(野村証券予想:2015年310億元、新エネ車売上高の31%、地方の補助金を含めると同50%に相当)してきましたが、その結果、補助金の不正受給や補助金目当ての(技術の無い企業の)新規参入が相次ぎました。新エネ車の生産と最終販売台数の間にも大きな開きがあり、現状を的確に把握することは困難な状況となっています。こうした事態を受けて既に政府は補助金支給を厳格化しており、今年については新エネ車の販売台数は急速に鈍化する見込みです。一方で政府は、2020年までに新エネ車の累計販売台数を500万台に増やすために補助金政策を維持する方針を示しており、業界の成長率はより健全なものになると見込まれています。

イヴェット:補助金以外で新エネ車の成長牽引役は何なのでしょうか?

エコー:商用車と乗用車で分けて考える必要があります。
まず、市場規模で見ると、中国のこれまでの新エネ車の成長を牽引してきたのは商用車でした。2015年の新エネ車の市場規模は約1000億人民元(1兆5000億円)でしたが、そのうちの80%近くが商用車によるものでした。電気バス(EVバス)がその中心を占めています。実際に全ての乗用車に占める新エネ乗用車の割合は2015年で1.0%に過ぎませんが、バスでは既に30%に到達しています。特に主要都市の市街地でのEVバス普及率は60%~70%に達していると見られます。乗用車に対してEVバスの普及率が高まった理由としては、①地方政府が購入者であるため政策実行が容易であったこと、②EVバスは決められた路線を走るため充電のしやすさも含めてEVに向いていること、③乗用車に比べて技術面がより成熟していること、などが挙げられます。

イヴェット:確かに私の故郷の隣にある深センでのEVバスの普及率はとても高いと感じます。深センでは既に日常当たり前にEVバスを目にしますね。車体がまだ新しいと言うことも有るかもしれませんが、実際に乗った感じでは騒音が少なくて快適ですよ。

ジェーン:深センはまさにEVの雄とも言えるBYDのお膝元ですものね。また、路線バスは地方政府との繋がりが極めて重要なため、BYDは南京で世界最大規模の公共交通機関向けEV充電スタンドを建設したり、地場企業を買収したりして他地域への拡大を進めています。EVバスでは湖南省鄭州を本拠とする宇通客車(ユートン・グループ)が業界最大手ですね。

エコー:これまではバスを中心とする商用車が新エネ車の主流でしたが、今後は販売台数、市場規模ともに乗用車が伸びていくと考えています。補助金に加えて、上海、北京、広州、天津と言った主要都市部でのナンバープレート規制の存在がその牽引役となると見込まれます。
こうした都市部では渋滞解消のため新規ナンバープレート配分のためオークション(上海市)や抽選システム(北京)が導入されています。例えば北京では毎月約2万枚弱のナンバープレート発給に対して時には100万人を超える申請者があり、その当選率は宝くじに当たるよりも低いと言われています。また上海では今年2月の個人向けの自動車ナンバープレートの競争入札において、参加者はナンバープレートの23倍を超える約20万人、最低落札価格は83,000人民元(約125万円)になりました。こうした状況の中、上海では2014年5月から新エネ車についてのナンバープレートの無料発給制度が導入(2015年7月に審査厳格化)されるなど、各地で新エネ車普及に対する支援措置が採られています。
都市部でのナンバープレート取得の難しさ、その中での新エネ車の優遇措置を考えると、中長期的には新エネ乗用車の数量増の確度は極めて高いと考えられます。

ジェーン:上海にいる私の親戚もナンバープレートの取得が難しいことからBYDオートのQIN(秦、チン / 車種名)を購入しました。元々新エネ車にはあまり興味は無かったみたいですが、とにかくマイカーが欲しかったとのこと。その親戚の話では、これまでのところ安全性に対する不安はなく、街中で使う分には全く問題が無いとのことです。ただ、充電ステーションの整備が充分でないことから、高速を利用した長距離ドライブには不安があるとのことです。上海では新エネ車は2台目として購入し、用途によってガソリン車と使い分けるのが一般的みたいです。

イヴェット:今、ジェーンさんの話に出ましたが、充電ステーションの問題はどうなのでしょうか?

エコー:充電ステーションを含むインフラ整備が新エネ乗用車を普及させる最大のポイントですね。政府は2015年10月に「電気自動車充電インフラ発展指針(2015~2025年)」を発表し、2020年までに集中型バッテリー充電・交換ステーションを全国12,000カ所、分散型充電パイル*480万台設置の目標を示しています。これは中国における2020年の新エネ車累積普販売目標である500万台に対応するためと考えられています。充電インフラ整備においては、新エネ車の販売・修理・レンタル・リースなどの本業関連サービスに加えて、売電・金融・eコマース等の付加価値型サービス提供も期待されています。

*分散型充電パイルとは、交流電源による充電機器で、充電に時間が掛かることから、一般的に住宅地やオフィスの駐車場などに設置されます。一方、充電ステーションには、複数の充電機器と直流電源の大容量充電設備が備えられており短時間での充電が可能なことから主に公共駐車場や高速道路のサービスエリアなどに建設されます。

ジェーン:確かにこれまでは充電ステーションの不足は新エネ車普及に対する大きなボトルネックでしたね。一方、上海市では新エネ車を購入する際に「充電器確保」を証明する書類の提出を義務付けることで新エネ車の優遇制度乱用を防ぐことに繋げています。実感としては、最近の新しいショッピングモールでは充電ステーションがほぼ設置されているなど、政府によるトップダウンの政策は奏功し始めていると考えられます。

イヴェット:最後に今後の見通しを教えてください。

エコー:中国の人々にとって、マイカーを持つということは引き続き人生における重大イベントの一つです。その意味で今後も中国ではモータリゼーションは続くと見られます。一方で、中国の大気汚染は今すぐに抜本的な取組みが必要な極めて大きな社会問題となっています。中国はCO2排出量では既に世界最大の国です。乗用車を含む輸送部門のCO2排出量の全産業に占める割合は先進国に比べて低いものの(2013年の国際エネルギー機関の報告では、同割合は中国が8.4%に対して、米国は33.2%、EU28か国は25.8%、日本は17.3%)、今後マイカー保有が中国全土に広がってゆく過程においては、環境に優しい新エネ車の普及は不可欠と考えられます。政府の補助金の動向は依然不透明ですが、これまでの不適切な政策の修正も含めて政府は既に同問題に真正面から取り組んでおり、今後は政策運営の改善が期待されます。

ジェーン:そうですね。私も新エネ車の重要性について疑う余地は無いと思います。一方で中国株式担当ファンドマネジャーとしては、新エネ車業界への投資の難しさも同時に実感しています。成長分野に存在する会社の株価がどれも上がる訳ではありません。むしろ現状では補助金目当てに質の低い企業の参入が目立っており、業界全体が玉石混交の混沌とした状況にあります。その中で人々の生活改善に向けた真摯な取組みを行っており、且つ中長期的な観点で投資家にも十分利益をもたらすような銘柄を発掘してゆくことが、自分の使命であると考えています。

イヴェット:ありがとうございました。お二人のお話しで、中国における新エネ車市場の拡大を確信したと同時に、それをどの様に運用に反映するのかに興味を持ちました。この後は、コーヒーを頂きながら個人的にお二人から最近の香港事情について伺えればと思います。

インタビュアー ・プロフィール

三井住友アセットマネジメント(香港)
中国株ファンドマネジャー
ジェーン・イェ
運用経験年数約13年の株式運用者。
2016年に三井住友アセットマネジメント(香港)に入社。前職は、英国系大手運用会社で運用業務に従事。欧州系証券会社で自動車株アナリスト業務に従事した経験有り。香港在住13年。

三井住友アセットマネジメント(香港)
中国株アナリスト(消費・インターネット担当)
エコー・ドゥー
調査経験年数約10年のアナリスト。
2011年に三井住友アセットマネジメント(香港)に入社。前職は、欧州系大手金融機関のアナリスト。中国の消費を担当しているが、目下、新エネルギー車に注目している。香港在住10年目。

三井住友アセットマネジメント(香港)
ジュニア・アナリスト(アジア全般のサポート)
イヴェット・ソン
調査経験年数約3年のアナリスト。
2016年に三井住友アセットマネジメント(香港)に入社。前職は、香港の地場証券会社。2012年の香港の大学院進学以来、生活の中心は、香港。香港に来る世界中の多様な文化・芸術に夢中で、週末はアート鑑賞やコンサートを堪能している。