アジアトーク(ASIA TALK)

REPORT

第二十回:インドにおける中型株事情

マナリー:今日は、コタック・マヒンドラ・アセットマネジメント本社(インド/ムンバイ)で、当社の株式調査部門の責任者であるシバニ・クリアンさんにインド企業の調査の難しさやおもしろさを中心にお話を伺いたいと思います。シバニさん、よろしくお願いします。

シバニ:マナリーさん、こちらこそ、よろしくお願いします。

マナリー:シバニさんは、債券運用責任者(商品部門長兼務)であるラクシミ・アイアールさん(第14回Asia Talkに出演)と同様に当社では期待の女性管理職ですが、女性ながらのハンデを感じることはありますか?

シバニ:私は、2015年9月に株式調査部門の責任者に任命されたばかりの新人女性管理職であり、ラクシミさんは大先輩で私の目標です。マナリーさんが従事されていたマスコミ業界を含めインドではサービス産業を中心に女性の進出が目覚ましいと感じます。なかでも資産運用業界は、女性の就業率は高いと思います。実際当社でも女性管理職や女性従業員の数が着実に増えています。ハンデでは有りませんが、家事や育児と仕事の両立は課題だと思います。幸い、当社は女性が働きやすい環境を提供してくれており、大変助かっています。

マナリー:私にとっても身近で活躍されているシバニさんやラクシミさんは同じ女性として目標であり大きな励みとなります。それでは、本題に入りたいと思いますが、まずはシバニさんが率いている株式調査部に ついてお聞かせください。

シバニ:はい。現在、株式調査部には私を含め7名のアナリストがいます。この7名で21業種、316社を調査しています。調査対象の企業数が少ないように思えますが、実は、この316社でインド株式市場の時価総額の約85%を占めます。大まかに、ニフティ指数で採用されている約50社が大型株、ニフティ中型株指数で採用されている100社が中型株で残りが小型株に分類できます。

マナリー:大企業については、証券会社などからさまざまな企業情報が入手可能です。中小企業の情報は限られているように思われますが、如何でしょう?

シバニ:最近、証券会社の中型株に関するレポートは増えてはいるものの、まだ大型株に比べて質・量ともに劣っています。従って、実際に会社に足を運んで経営者と面談したり、工場を見学したりすることが重要となります。実際、世の中の評判と実態が異なったケースがありましたので、お話ししたいと思います。この会社は、売上高成長率予想が向こう数年毎年15%を超えると評判が高かった中堅製造会社です。予想の前提が製造技術の優位性による市場シェア拡大であったことから、それを確認すべく会社訪問と工場見学を行いました。ひと通り、会社側の素晴らしい将来性を聞いたあと、工場を見学し、製造技術の水準を詳細に分析した結果、会社の説明したような技術的な優位性は認められませんでした。当然ながら、当社は予想を大幅に引き下げました。

マナリー:現地訪問調査での実体験を伺うと、情報量が少ないインドの中型株投資の判断を行うためには必ず現地を見る必要があることを改めて感じます。その意味では、当社の様に銀行グループとしての情報ネットワークを活用できることや、現地に精通した経験豊富なアナリストを擁するインド地場の運用会社の調査力は相対的に優位ですね。

シバニ:そうだと思います。当社では、調査対象の企業に投資する為には必ず経営層(中小企業の場合は創業者か社長)と面談をすることが義務付けられています。また、工場見学や事業所見学も出来る限り実施します。当社が調査対象に選定した企業については、最低四半期に1回は、経営層との面談が義務付けられています。このように、現場に足を運ぶことが投資プロセスの中に組み込まれているのです。

マナリー:中型株調査において、財務諸表の分析、現地訪問の他に実践されていることは有りますか?

シバニ:はい。当社は、BMVと言うモデルを使い中型株(小型を含む)を評価しています。高級車のBMWではありませんので間違えないで下さい(笑)。BMVは、Business(ビジネス)、Management(経営層)、Valuation(バリュエーション)の頭文字をとったモデルです。それぞれにつき簡単に説明します。
ビジネス :業種平均を上回る成長をし、市場シェアを持続的に拡大が期待される企業を探す。
経営層 :中小企業は、創業者の株式保有比率が高く、経営陣も同族で固めるケースが多いことから資本配分政策、経営力と企業統治(持続的な企業成長の核)を重視。
バリュエーション:相対的、本質的なバリュエーションとは別に株主資本利益率、使用資本利益率、フリー・キャッシュフロー(絶対的な水準とトレンド変化の両方)を重視。トレンドに変化が起きた際にバリュエーションの評価基準が変わることから特にトレンド変化に注目。

マナリー:ところで、足元インド株式市場は高額紙幣廃止・新紙幣不足で低迷していますが、シバニさんはどの様に見ていますか?

シバニ:インド政府が断行した高額紙幣廃止により、短期的に株式市場は不安定化すると思いますが、長期的にはインドにとりプラスになると考えます。流通している通貨価値の約87%が廃止されたので、短期的には消費を中心に経済に対する影響は大きいと思います。しかし、中長期的には、次のような構造的なメリットをもたらすと思います。
・未登記企業から登記企業への転換が進む(納税企業が増える)
・政府による地方経済の成長促進とインフラ投資が強化される
・実物投資から金融投資への転換が進む(お金が循環する)

マナリー:今のお話で触れられた未登記企業ですが、インドでは未だ数多く存在し、きちんと納税している登記企業との競争で優位に立っていると言う話を聞きます。その様な環境下で登記企業の企業統治で問題が発生する事は無いのでしょうか?

シバニ:確かに納税義務をはじめいろいろな制約を受ける登記企業が未登記企業に対して価格競争などで不利になるケースは有ると思います。未上場企業については、企業統治に問題がある登記企業も存在すると思います。ただ、当社の投資対象はインド証券取引委員会(SEBI)の厳しい規制が適用される上場企業のうち、優良企業ですので企業統治のレベルは高く保たれています。また、高額紙幣廃止は不正蓄財を撲滅し、2017年内成立が予定されているGST(物品・サービス税)導入による納税の捕捉率向上から未登記企業のメリットはほぼ無くなります。従って、登記企業への転換が進み、競争の健全化が図られると思われます。これは、上場企業にとっても朗報です。2000年にアナリストの仕事を始めて現在に至るまでインド企業を調査してきましたが、数多くの中小企業が大企業に成長し、同時に企業統治のレベルはSEBIなどの努力もあり、確実に世界的な水準に達しつつあると感じます。今回の高額紙幣廃止とGST導入は、インド企業全体の成長と企業統治レベルを底上げすると思います。

マナリー:あっという間に時間が経ってしまい、最後の質問になりますが、向こう3~5年のインド経済見通しと株式市場見通しについてお話し頂けますか?

シバニ:はい。足元の混乱は3~5年にわたるインドの構造的な変化によってもたらされる経済成長には影響を与えないと思います。インドは、内需(特に消費)により持続的な成長を続けると予想します。当面の注目は「次年度の政府予算発表」(2017年2月1日発表予定)です。政府は高額紙幣廃止により一時的に増加した税収を地方経済の成長とインフラ投資に振り向けると予想します。インフレの低位安定、緩和的な金融政策や健全な国際収支によりインドのマクロ経済は堅調に推移すると考えます。株式市場につきましては、特に中型株に注目します。大型株に比べ、中型株はインド経済を牽引する伸び盛りの企業や業種を多く含んでおり、経済成長との相関が高いのが特色だからです。2018年3月に終わる年度に、企業業績が回復すると予想しており、インド国内投資家の中型株選好と相俟って向こう3~5年は中型株が株式市場を牽引しそうです。

マナリー:シバニさん、長時間にわたりお話を頂き有難うございました。来年以降もインド経済、株式市場共に好調が期待され、特に人気上昇中の中型株については調査の重要性が増すような気がします。調査部門の責任者としてますますのご活躍を期待しています。

以上

インタビュアー ・プロフィール

コタック・マヒンドラ・アセットマネジメント
株式調査部 ヘッド
シバニ・クリアン氏
金融業務経験年数約16年のアナリスト。
2007年にコタック・マヒンドラ・アセットマネジメントに入社。前職は、インド大手運用会社のアナリスト。趣味は読書と旅行。12歳になる息子さんと遊んだり、勉強を教えることが最高の癒しの時間とのこと。少なくとも年2回は海外旅行を欠かさず、西欧文化に触れている。日本や中国への旅行を企画中。

コタック・マヒンドラ・アセットマネジメント
広報部
マナリー・アジメラ氏
業務経験年数約16年。
2015年にコタック・マヒンドラ・アセットマネジメントに入社。前職は、地場の大手広告代理店に勤務。週末は読書と映画鑑賞を楽しんでいる。友人や親せきとの交流も好きで、特に4歳の甥がかわいくて仕方がない。旅行は自然に触れたり、古跡を訪れるのが楽しみ。