外国債券投資における為替ヘッジの扱い方

2022年12月26日

1.為替ヘッジを考える理由

2.為替ヘッジの持つ効果と過去の局面での検証

3.外国債券投資における為替ヘッジの扱い方

2022年は32年ぶりの大幅な円安・米ドル高局面となりました。ドル円レートは2021年12月末の115.08円から2022年10月20日の150.15円まで30.5%の円安を記録しました。大幅な円安・米ドル高となったことで、資産運用でも為替リスクをとるスタイルである「為替ヘッジなし」への円安によるパフォーマンスの上乗せ効果は絶大なものとなりました。その後は137円前後で推移していましたが、12月20日に日銀が長短金利操作の運用を一部見直したことで円高が進みました。2023年春に米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを終了するとみられる一方、日銀が長短金利操作を終了するとの観測も浮上しています。こうしたことから今後、一段とドル安・円高に振れるのではないか、との見通しが市場では広がっています。2023年は今年と同様に「為替ヘッジなし」での運用でよいのか、判断が大変難しい局面となりそうです。今回は、外国債券投資と為替ヘッジについて、米投資適格社債を例に挙げて整理します。

1.為替ヘッジを考える理由

(1)為替ヘッジを考える理由

■為替の動きをヘッジしようと考える理由は、通貨の変動からくる損失を避ける等、外貨建て投資の収益を安定させたいためです。私たちが日本円で外貨建ての資産に投資すると、外貨建て資産の現地通貨ベースでの値動きに加え、為替レートの値動きの影響も受けることになります。

(2)為替ヘッジコスト

■通貨変動の影響を回避する手法に「為替ヘッジ」(以下ヘッジ)があります。例えば米ドルと円であれば、「直物のドル買い・円売り」と「先物のドル売り・円買い」を同時に行うもので、先物の期間は、1カ月や3カ月などの短期が一般的です。ドル円のヘッジコスト(米ドルの調達金利)は、米ドルの短期金利と円の短期金利の差が基本となります。ドルと円の場合は、概ねドルの方が金利が高いため、ヘッジをする場合はコストを払うことになります。


■ドル円のヘッジコストは、2020年3月に劇的に低下しました。これはコロナショックを受けてFRBが3月に計1.5%の緊急利下げを実施したことによって、それまで1.75%だったフェデラルファンド(FF)金利が一挙に0.25%となったことが影響しています。


■低位で推移していたヘッジコストは、FRBの利上げの可能性が高まる中で2022年1月以降上昇し始めます。3月の利上げとその後続く利上げ加速の中で、大幅な上昇となり、3カ月ヘッジの場合、足元で4.87%と高止まっています。


■ヘッジコストの上昇で、米投資適格社債のヘッジ後の利回りは大幅に低下しています。足元でヘッジ後の利回りは0.43%で、米投資適格社債の利回り(5.30%)をヘッジコストでほぼ使い切る形となっています。


■したがって、現在のヘッジコストを考慮すると、ヘッジ付きで米投資適格社債に投資するメリットは低いように思われます。


2.為替ヘッジの持つ効果と過去の局面での検証

(1)米投資適格社債のパフォーマンス比較

■ヘッジの持つ効果について過去の局面で検証してみました。


■1992年12月以降で米投資適格社債のトータルリターンベースの指数をみると、円ベース・ヘッジなしの指数は大きく下落する局面はありますが、時間の経過とともに指数は上昇しています。


■円ベース・ヘッジありの指数は、ヘッジなしに比べて、大きく下落する局面は限られ、値動きが穏やかとなった反面、指数の上昇も抑制された動きとなっていることがわかります。


■ただ、2022年は米国の利上げが加速したことから急激な円安・ドル高となり、ヘッジコストが大幅に上昇したことで、円ベース・ヘッジありのパフォーマンスは大きく悪化しました。


■一方、急激な円高局面ではヘッジによって円高の損失を避け、パフォーマンスが比較的大きくプラスになった局面もあります。象徴的な円高局面としては、2007年6月末の123.50円から2012年1月末に76.25円まで38.3%の円高となった局面です。この局面では、円ベース・ヘッジなしは▲12.9%の下落となったのに対して、円ベース・ヘッジありは+32.1%となりました。こうした大幅な円高・米ドル安が長く続くような局面であれば、為替をヘッジすることは効果的な運用手段と言えそうです。

(2)過去の局面整理

■米国の金融環境に焦点を当ててみます。今後を想定して、物価上昇率の低下局面、利上げ局面、利上げ終了後利下げ前までの局面、です。


物価上昇率の低下局面
■1996年以降で物価上昇率がピークをつけて低下していく局面を整理しました。米ドル/円レートは物価上昇率が低くなる中でも円安が進んでおり、ヘッジ付きのパフォーマンスは総じて冴えないものでした。


利上げ局面
■90年代以降の利上げ局面では、円高となる場面が3回、円安となる局面は2回ありました。円高局面ではヘッジありはヘッジなしのパフォーマンスを上回り、下落率を抑えることができています。


利上げ終了後利下げ前までの局面
■利上げ終了後利下げ前までの局面を見ると、円高、円安の両ケースがありました。特に2018年12月から2019年7月は結果的に1%の円高となりましたが、パフォーマンスはヘッジなしがヘッジありを上回りました。


■以上、物価低下局面、利上げ局面、利上げ終了後利下げ前までの局面、について整理しました。どの局面でも、基本的に物価水準は低く、低金利環境下での整理であることもあり、一方的な円安局面も円高局面もありませんでした。ただ、総じてヘッジありのパフォーマンスは、利上げ局面を除けば抑制気味ではあるものの、安定した収益を生み出していました。


3.外国債券投資における為替ヘッジの扱い方

(1)当面ヘッジコストは高止まり

■今後を見通す上でヘッジコストの低下が見込めるか、がポイントとなりそうです。ヘッジコストをみると、米国の金融政策(FF金利)との関連が極めて高いことがわかります。ヘッジコストが低下するには、FF金利の低下や利下げ期待が高まることが重要です。


■過去は利上げが終了した時点からヘッジコストが低下し始めています。ただ、その幅は限られ、利下げが行われるまでの間はヘッジコストはしばらく高止まりすると予想されます。FRBの利上げは2023年3月以降は据え置かれ、利下げは2024年の1-3月期とみています。予想通り3月に利上げが終了した時点で、ヘッジコストがどの程度低下するかが注目されます。

(2)ヘッジなしとヘッジありの組み合わせ

■ヘッジなしは円安も取り込んで収益を最大化することが狙いですが、ヘッジありは、そのコスト分だけ収益を低下させてもブレを抑えることが狙いです。ヘッジなしとヘッジありを組み合わせて持つことで、外貨建て資産のリスクを最小化したり、リスクに対して収益を最大化させたりすることが可能です。


■米投資適格社債のヘッジなし、ヘッジありを組み合わせてみると、リスクを最小化する組み合わせはヘッジありが88%、ヘッジなしが12%でした。また、リスクに見合う収益を最大化する組み合わせはヘッジありが58%、ヘッジなしが42%でした(右図のブルーの点線)。


■以上の試算では、過去の収益率(リターン)を使っています。ヘッジなしが6%、ヘッジありが3%です。足元ではヘッジコストが上昇しているため、ヘッジなしが6%、ヘッジありが1%として再計算してみました。この試算では、収益最大、リスク最小、リスクに見合う収益の最大、いずれの場合においても、ヘッジなしが最適となりました(右図のオレンジの点線)。

まとめ

■ヘッジコストは当面高止まりするとみられ、現行の社債利回りから判断すると、為替ヘッジなしの戦略が優位な局面と言えそうです。米投資適格社債の利回りは5%台と魅力的な水準にあります。今後、利上げ局面が終了し、次の局面へと移行する中、2023年は緩やかな社債利回りの低下(価格の上昇)を予想しています。


■一方、弊社では、ドル円レートは緩やかにドル安・円高方向にシフトする見通しです。2023年12月末は着地が129円で、上限(円安)が138円、下限(円高)が120円、と想定しています。リスクとして、年を通じて円高の可能性を視野に入れています。円高はFRBの早期金融緩和期待に加え、日銀による金融政策変更の早期化懸念の高まりによると思われます。120円は足元(12月23日132.91円)から9%の円高で、米投資適格社債のクーポン収入と利回りの低下(価格上昇)によってもたらされるリターンが打ち消される可能性があります。ヘッジコストが高止まりしてはいるものの、リスク抑制を優先したい場合は、為替ヘッジ戦略を一定程度組み入れておく必要がありそうです

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