市川レポート

REPORT

【No.616】物価変動は貨幣的現象か

2019年01月11日

●物価変動を「貨幣的現象」とした政策の結果、貨幣の流れが淀んで、物価の上昇期待は困難に。
●一方、物価変動を「実体的現象」と捉えれば、物価上昇には「賃金の適切な分配」が必要となる。
●付加価値の生産増→適切な分配→支出増での物価上昇には政府・企業・日銀の協調が必要。

物価変動を「貨幣的現象」とした政策の結果、貨幣の流れが淀んで、物価の上昇期待は困難に

2019年1月9日付レポート「改めて考える物価と貨幣量の関係」では、「量的・質的金融緩和(QQE)」が導入された2013年4月以降、マネタリーベースが急増したにもかかわらず、物価の伸びが限定的となった理由を検証しました。そして、物価の変動を「貨幣的現象」と捉え、貨幣量を増やして物価を押し上げる政策は、効率性の面ではやや問題があるように思われると指摘しました。

日銀は、国債買い入れなどで民間銀行に資金を供給することはできますが、家計や企業に資金を直接供給することはできません。それは民間銀行の役割ですが、家計や企業に資金需要がなければ、日銀から巨額の資金を供給されても、日銀当座預金に預けたままとするしかありません。実際、足元の貨幣の流れはこのように淀んでおり、これでは物価の力強い上昇は期待できません。

一方、物価変動を「実体的現象」と捉えれば、物価上昇には「賃金の適切な分配」が必要となる

そこで、物価を需要と供給で決まる「実体的現象」と捉えてみると、QQEとは異なる政策アプローチがみえてきます。まず、GDPを出発点として考えます。GDPは、1年間で新たに「生産」された付加価値の合計です。付加価値は、生産に関与した主体に「分配」されます。すなわち、家計には賃金、企業には利潤、政府には租税として、それぞれ分配されます。

分配された付加価値は、各主体によって「支出」されます。例えば、家計であれば財貨やサービス購入のための支出(家計最終消費支出)、企業であれば生産設備購入のための支出(民間企業設備)、政府であればインフラ整備のための支出(公的固定資本形成)などです。ここで、家計が購入する財貨やサービスの価格が物価であるため、需要が強ければ物価に上昇圧力が生じます。ただ、そのためには、まず「賃金の適切な分配」が必要となります。

 

付加価値の生産増→適切な分配→支出増での物価上昇には政府・企業・日銀の協調が必要

次に、賃金の適切な分配が行われているかについて確認してみます。具体的には、人件費を付加価値で割った労働分配率を計算します。その結果は図表1の通りで、足元まで低下傾向が続いていることが分かります。実際、企業は営業利益が増加傾向にあるなかで、現金・預金残高を積み上げており(図表2)、賃金への分配割合の低下が、物価伸び悩みの一因になっている可能性があると推測されます。

現在は、付加価値の生産増→適切な分配→支出増という流れも滞っているように思われ、このような状況では、金融政策だけで物価を押し上げることは困難です。2%の物価目標を達成するには、①政府が構造改革や規制緩和を推進して付加価値が生産されやすい環境を整え、②企業が賃上げなどで家計に適切な賃金を分配し、③日銀が金融緩和の継続で各主体に支出を促すという、3者の協調行動が求められます。これにより、付加価値の高い生産物の供給と、適切な賃金の分配に裏付けられた需要が見合い、物価の上昇が期待されます。