【No.633】足元の日本株の需給動向

2019年2月7日

●足元でネット裁定残高の回復が鈍く、需給改善による株価上昇のタイミングは後ずれする可能性。
●海外投資家などの先物買いはネット裁定残高の増加につながるため現物は上昇しやすくなる傾向。
●ただネット裁定残高の現状は、海外投資家がまだ本格的に先物を買い戻していない状況を示唆。

足元でネット裁定残高の回復が鈍く、需給改善による株価上昇のタイミングは後ずれする可能性

1月17日付レポート「日本株の需給にやや改善の兆し」で、ネット裁定残高が昨年12月にマイナスとなった後、徐々に増加しており、需給にやや改善の兆しがみられると指摘しました。実際に、1月17日から2月6日までの株価の動きをみると、日経平均株価は2.31%上昇、東証株価指数(TOPIX)は2.52%上昇しており、ともに昨年12月の大幅調整を経て、徐々に落ち着きを取り戻しています。

ただ、ネット裁定残高の推移をみると、足元では増加ペースが鈍化し、1.6億株前後で横ばいになっていることが分かります(図表1)。ネット裁定残高は、一般に5億株を下回ると株価の底入れは近いと解釈され、特にマイナスとなった後は残高が急回復し、その後、株価上昇につながる傾向がみられます。ただ、今回は残高の回復が鈍いため、需給改善による株価上昇のタイミングが後ずれする可能性があります。

海外投資家などの先物買いはネット裁定残高の増加につながるため現物は上昇しやすくなる傾向

ネット裁定残高の増加ペースは、海外投資家などによる先物買いの動きに影響を受けます。例えば、海外投資家などによる先物買いで、先物が現物に対し一時的に割高になった場合、①ある裁定業者(主に証券会社)は、「先物売り+現物買い」の裁定取引を新たに締結し、②他の裁定業者は、過去に締結した「先物買い+現物売り」の裁定取引を解消することがあります。

①の取引締結により、裁定取引における「現物買いの残高」は増加する一方、②の取引解消により、裁定取引における「現物売りの残高」は減少します。ネット裁定残高とは、裁定取引における「現物買いの残高」から「現物売りの残高」を差し引いたものです。したがって、海外投資家などによる先物買いの動きが強まると、ネット裁定残高が増加して需給が改善し、現物は上昇しやすくなります。

ただネット裁定残高の現状は、海外投資家がまだ本格的に先物を買い戻していない状況を示唆

なお、海外投資家の先物の売買動向については、大阪取引所が毎週発表している「投資部門別取引状況」で確認することができます。これをみると、2019年1月第1週(1月4日)から第4週(1月21日~25日)までの間、海外投資家(外国人)は先物を累計で約4,700億円買い越していますが、第4週は買い越しの動きにやや一服感が出ている様子がうかがえます(図表2)。

投資部門別取引状況は原則、毎週第4営業日の午後3時に前週分が発表されます。一方、東京証券取引所の「裁定取引の状況」は原則、毎営業日午後3時30分頃に前々営業日分が発表されます。このデータでネット裁定残高が計算されるため、海外投資家の先物売買動向を比較的早く追うことができます。つまり、足元でネット裁定残高の回復が鈍いことから、海外投資家は2月に入ってもまだ本格的な先物の買い戻しに動いていないと考えられます。