人民元の1ドル=7元という水準

2019年5月28日

●中国当局は近年、1ドル=7元に近づく局面で元安進行を抑制、この水準が防衛ラインとみられる。
●人民元は7元に近づいているが人民銀行には元の基準値設定に相応の裁量があると推測される。
●現時点での元安容認は経済的、政治的にも困難、少なくとも当面は1ドル=7元が防衛ラインに。

中国当局は近年、1ドル=7元に近づく局面で元安進行を抑制、この水準が防衛ラインとみられる

人民元の対米ドル為替レートは、5月6日以降、元安・ドル高方向に大きく振れています。きっかけとなったのは、5月5日にトランプ米大統領が、2,000億ドル分の中国製品に対する制裁関税の税率引き上げを表明したことでした。これを受け、市場の一部には、米国との貿易摩擦が再燃すれば、中国当局は輸出を下支えするために、元安を容認するのではないかとの思惑が広がりました。

なお、中国当局は2016年以降、1ドル=7元に近づく局面で、元安の進行を抑制する姿勢を示しています(図表1)。その結果、これまでのところ、人民元が1ドル=7元を超えて元安方向に進むことはなく、市場でも、この水準が人民元の防衛ラインとの見方が一般的です。なお、足元では、5月23日の取引時間中に、1ドル=6.9219元水準まで、元安・ドル高が進行しました。

人民元は7元に近づいているが、人民銀行には元の基準値設定に相応の裁量があると推測される

人民元が、1ドル=7元の水準に近づいたため、ここからの動きが改めて注目されます。なお、人民元の通貨制度について、中国は一定の範囲内で通貨の変動を許容する変動相場制度を採用しています。より厳密には、中心となる交換レート(中国の場合は基準値)を定期的に変更し、必要に応じて変動幅も定期的に調整するクローリング・バンド制というものです。

基準値は、中国人民銀行(中央銀行)により、中国時間の午前9時15分に公表されますが、一般に、「前日の終値+通貨バスケット調整+逆周期因子調整」で決まると考えられています(図表2)。逆周期因子による調整は、相場の過度な変動を抑えることを目的としていますが、詳しい内容は明らかにされていません。そのため、人民銀行には、基準値を元安方向にも元高方向にも設定できる、相応の裁量があると推測されます。

現時点での元安容認は経済的、政治的にも困難、少なくとも当面は1ドル=7元が防衛ラインに

したがって、人民銀行が日々の基準値を少しずつ元高方向に設定することで、1ドル=7元を超える元安進行は回避可能と考えます。そもそも元安の進行は、中国からの資本流出を加速させ、国内経済に悪影響を及ぼすというマイナスの面があります。また、米国との貿易摩擦が再燃している現状において、元安の進行を容認することは、政治的にも難しいと思われます。

実際、すでに中国当局からは、元安をけん制する発言が相次いでいます。5月25日には、「元を空売りする投機筋は巨大な損失を受ける」と警告した人民銀行の郭樹清副総裁の原稿が公表されました。6月28日、29日に大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議では、米中首脳会談が行われる可能性もあり、少なくとも当面は、1ドル=7元が防衛ラインになるとみられます。