ホームマーケット市川レポート 経済・相場のここに注目昨年からの米中関税引き上げ合戦で世界はどう変わったか?

昨年からの米中関税引き上げ合戦で世界はどう変わったか?

2019年9月5日

●米中関税引き上げ合戦で世界的に製造業の景況感が悪化、投資資金は株式から国債へシフト。
●関税引き上げは中国経済にも大きな打撃、株安、元安が進み、政府は減税などで景気を下支え。
●米国は一人勝ちの様相、米国は優位性剥落なら戦略修正へ、景況感改善で適温相場回帰か。

米中関税引き上げ合戦で世界的に製造業の景況感が悪化、投資資金は株式から国債へシフト

今回のレポートでは、昨年から続く米中両国による関税引き上げ合戦で、世界の金融市場や米中の経済環境は、どのように変化したかを検証します。トランプ米大統領が、少なくとも500億ドル相当の中国製品に25%の輸入関税を課す(後の制裁関税第1弾と第2弾)と表明したのは、2018年3月22日でした。そこで、主要指標について、2018年2月と2019年8月の数値を比較してみます。

英調査会社IHSマークイットが公表するグローバル製造業PMI(購買担当者景気指数)は、2018年2月の54.0から2019年8月の49.5へ悪化しました。世界の株価の動きを示すMSCIオール・カントリー・ワールド指数(米ドル建て)は、2018年2月末から2019年8月末まで1.4%下落し、ICEとバンクオブアメリカが公表する世界国債指数(現地通貨建て)は、同期間10.1%上昇しました。世界的な景況感の悪化と市場のリスクオフ(回避)傾斜は鮮明です。

関税引き上げは中国経済にも大きな打撃、株安、元安が進み、政府は減税などで景気を下支え

次に中国に目を向けます。中国国家統計局が公表する製造業PMIは、2018年2月に50.3でしたが、2019年8月に49.5へ低下しました。同じ期間で、失業率は5.0%から5.3%へ悪化し、また中国人民銀行(中央銀行)が重視しているとみられる食料品を除く消費者物価指数は、前年同月比で2.5%から1.3%へ低下しました。また、実質GDP成長率は、前年同期比で2017年10-12月期の6.7%から2019年4-6月期の6.2%へ減速しました。

このように、米中関税引き上げ合戦は、中国経済に大きなマイナスとなりました。株式市場では、上海総合指数が2018年2月末から2019年8月末まで11.5%の大幅下落となり、為替市場では、同期間1ドル=6.3310元水準から7.1565元水準まで、元安が進みました。こうしたなか、中国政府は2019年に入り、家計や企業向けの減税、インフラ投資の拡大、金融緩和効果を狙った貸出基準金利の変更などを行い、景気の下支えを図っています。

米国は一人勝ちの様相、米国は優位性剥落なら戦略修正へ、景況感改善で適温相場回帰か

一方、米国の状況はやや異なります。図表1の通り、米サプライマネジメント協会(ISM)が公表する製造業景況感指数は悪化し、実質GDP成長率は減速しましたが、失業率は改善し、物価はほぼ横ばいでした。また、利下げの織り込みが進み、米10年国債利回りが大きく低下するなか、ダウ工業株30種平均は5.5%上昇するなど、他国に比べ、米国は一人勝ちの様相を呈しています。

このように、米中関税引き上げ合戦は、米国の経済や株式市場の相対的な優位性を浮き彫りにしました。ただ、肝心の米国の貿易収支に目立った改善はみられていません(図表2)。米中協議の行方は予断を許しませんが、米国の優位性が剥落する状況となれば、さすがに米国は強硬姿勢を修正せざるを得ないと思われます。足元のグローバルな景況感の悪化は、循環的要因ではなく、関税引き上げという人為的要因によるものです。この要因が解消されれば、景況感の改善と、適温経済、適温相場への回帰が見込まれます。