香港をめぐる米中対立と市場の反応

2020年6月1日

●中国は香港国家安全法制定方針を採択、香港の反体制活動を直接取り締まる機関を設置へ。
●米国は中国に対抗し香港の優遇措置廃止へ、香港の金融センターとしての地位は低下の恐れも。
●米中対立継続も通商合意破棄までは至らないと思われ、市場は比較的冷静にゆくえを見守ろう。

中国は香港国家安全法制定方針を採択、香港の反体制活動を直接取り締まる機関を設置へ

北京で開催されていた全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は5月28日、「香港国家安全法」の制定方針を賛成多数で採択し、閉幕しました。中国政府は同法により、国家分裂や中央政府の転覆をはかる行為などを直接取り締まる機関を香港に設置することができます。香港は、「一国二制度」のもと、特別行政区として、独自の行政、立法、司法権を有し、中国本土では認められない言論・集会の自由などが認められています(図表1)。

しかしながら、中国側は香港基本法(香港の憲法にあたる法律)の解釈・改正権や、政府高官の任命権などを握っており、香港を管理する仕組みも持っています。中国政府は、香港基本法の例外規定を使い、中国本土の法律を香港に直接適用する立法措置をとるとみられます。そのため、香港国家安全法は、香港立法会(議会)では審議・採決することなく、今年の夏にも施行される見通しとなっています。

米国は中国に対抗し香港の優遇措置廃止へ、香港の金融センターとしての地位は低下の恐れも

香港国家安全法が制定された場合、香港での言論の自由が中国本土並みに制限され、一国二制度が形骸化してしまう恐れがあります。今回、中国が香港の統制を強化する動きをみせたことで、国際社会に懸念が広がっています。こうしたなか、トランプ米大統領は5月29日、ホワイトハウスで記者会見し、米国が香港に認めている関税や渡航の優遇措置について、廃止に向けた手続きを進めると述べました。

香港には、中国本土とは異なる資本規制や税制の優遇などがあり、多くの欧米企業がアジア地域などの統括拠点と位置づけてきました。また、香港は、中国政府や中国企業にとって、海外からの投資や貿易の窓口となっています。米国の優遇措置撤廃などにより、海外企業にとって香港に拠点を置くメリットがなくなれば、香港の金融センターとしての地位は大きく低下することが予想されます。

米中対立継続も通商合意破棄までは至らないと思われ、市場は比較的冷静にゆくえを見守ろう

香港をめぐる米中の対立について、金融市場は今のところ冷静な反応を示しています。市場が最も警戒していたのは、米国が中国との通商合意を破棄することでしたが、5月29日の記者会見では、トランプ米大統領がそこまで踏み込むことはなく、また、優遇措置の廃止についても、具対的な内容や時期は示されませんでした。なお、米国の対抗措置について、中国側の反応は、今のところほとんどありません。

こうしたなか、週明けの日経平均株価は、午前中に22,000円台を回復し、底堅い動きとなっています(図表2)。なお、トランプ米大統領の対中強硬姿勢は、今後も続くことが予想されますが、それは、あくまで選挙対策の一環であり、通商合意の破棄など、米国経済に悪影響が及ぶ決断は回避されるとみています。また、香港の金融センターとしての地位に関する問題は、中長期的なものとして市場に意識されていると思われます。