市川レポート

REPORT

米国で香港自治法が成立~その影響を考える

2020年07月16日

●米国では14日に香港自治法が成立、中国共産党幹部や中国大手銀行に制裁を実施する構え。
●中国大手銀行に制裁発動なら米ドル取引ができなくなり中国企業にも深刻な影響が及ぶ恐れも。
●同法は対中強硬姿勢の強力なアピール材料だが運用は米国経済に影響のない範囲にとどまろう。

米国では14日に香港自治法が成立、中国共産党幹部や中国大手銀行に制裁を実施する構え

トランプ米大統領は7月14日、香港市民の権利を弾圧する中国当局者への制裁を可能にする「香港自治法」に署名し、成立させました。また、香港に対する貿易などの優遇措置を廃止する大統領令にも署名しました。これは、中国の「香港国家安全維持法」に対抗する措置と考えられますが、中国側は翌15日の声明で、香港自治法に強烈な非難を表明しており、米中の対立姿勢はここに来て一段と強まっています。

香港自治法において、制裁の対象となるのは、香港の自治を侵害した個人や団体に加え、それらと取引のある金融機関(米国の金融機関を除く)です。米国務省は同法施行後、90日以内に対象となる個人や団体を特定し、その後、その個人や団体と取引している金融機関を特定します。米国は、中国共産党の幹部や中国の大手銀行を制裁対象に考えていると推測されます。

中国大手銀行に制裁発動なら米ドル取引ができなくなり中国企業にも深刻な影響が及ぶ恐れも

なお、香港自治法では、具対的な制裁の手法が明示されており、対象となった金融機関に対し、①米金融機関からの融資、②プライマリーディーラーの認定、③米政府の代行業務、④米管轄下での外国為替取引、⑤米管轄下での資金決済取引、など10の禁止項目が列挙されています(図表1)。米大統領は、このうち少なくとも5つの制裁を発動することになります。

仮に、中国の大手銀行に制裁が発動された場合、実質的に米ドルの取引ができなくなり、国際金融市場から締め出されることになります。また、これらの銀行と取引のある中国企業も米ドル建ての決済ができなくなり、貿易取引や資本取引に深刻な影響が発生します。さらに、香港ドルを発行しているHSBCなどが制裁対象になれば、米ドルとの交換保証で成立している香港のカレンシー・ボード制度(図表2)は崩壊する恐れがあります。

同法は対中強硬姿勢の強力なアピール材料だが運用は米国経済に影響のない範囲にとどまろう

このように、中国の大手銀行が国際金融市場から排除されれば、中国経済は大きなダメージを受ける可能性が高く、また、香港の金融市場の混乱が加われば、世界経済や金融市場にも動揺が広がると考えられます。なお、ブルームバーグ社は7月14日、関係者の話として、トランプ米大統領の側近らが香港の通貨制度に打撃を与える案を取り下げたと報じました。確かに、あまりに厳しい制裁は、米国自身にもマイナスになりかねません。

そのため、香港自治法は、制裁対象となった金融機関に対し、制裁発動まで1年間の猶予を与え、その間に、同じく制裁対象となった個人や団体との取引を断つよう、求めることになります。11月に大統領選挙を控えるトランプ米大統領にとって、同法は対中強硬姿勢を示す強力なアピール材料ですが、実際の運用は、米国経済に影響が出ない範囲で、慎重に行うと思われます。