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アジア・トーク「今後のインド経済について」

「インドの景気は今後はどうなる?」

2018年7-9月期の実質GDP成長率は、4四半期連続で7%以上でした。インド景気は今後も堅調を維持するとみています。

  • 2018年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+7.1%と、4-6月期の同+8.2%から鈍化しました。しかしながら、4-6月期は、全国統一の「物品・サービス税(GST)」導入直前の混乱によって水準が低くなった昨年の同期(4-6月期)の反動で、成長率が高めに出ていたことを思い出す必要があります。
  • 今7-9月期は、投資が大幅に伸びるなど、内需寄与度は+9.6%ポイントと、4-6月期の+8.6%ポイントから加速しました。外需寄与度は一時的に落ち込みましたが、旺盛な内需を反映して輸入の伸びが前年同期比+25.6%へ急加速したことが要因となりました。
  • 足元の経済指標は、インド景気の方向性が上向きであることを示唆しています。12月の日経インド製造業PMI(購買担当者指数)は53.2と、11月の54.0からやや低下したものの、景況判断の分かれ目とされる50を17ヵ月連続で上回っています。製造業PMIは景況感の速報値として注目されています。当面、インフレ率はターゲットの中心値より低位で推移するとみられること、海外からの直接投資が堅調に流入すると予想されることなどから、インド景気は今後も堅調を維持するとみています。

「準備銀行総裁が辞任。その影響は?」

新総裁による政府と足並みをそろえた金融政策の運営期待が、 金融市場をサポートするとみています。

  • インド準備銀行(中央銀行)のパテル総裁が12月10日、突然辞任しました。パテル前総裁は、辞任理由を明らかにしていませんが、ジャイトリー財務相とのコミュニケーションが必ずしもうまく行われておらず、準備銀行の政府からの独立が保障されていない(政府が中銀の業務に干渉している)ことなどに対する対立が辞任の背景と考えられます。

  • モディ政権はパテル前総裁の辞任の翌日に、財務次官経験者のシャテシスカンタ・ダス氏を総裁に任命しました。ダス新総裁は、ジャイトリー財務相の下で次官経験があり、モディ政権が実施した高額紙幣廃止の立役者の1人で、モディ首相の信頼が厚い人物です。ダス新総裁の就任で、中央銀行の独立性に関する懸念はあるものの、政府と準備銀行の関係改善が進むと期待されることは、金融市場のプラス材料になるものと期待されます。

新総裁の就任やインフレ率低下を背景に、市場の一部で利下げ観測が 浮上するも、早期利下げ期待は時期尚早と考えます。

  •  2018年11月の消費者物価の上昇率は、前年同月比+2.3%と、17ヵ月ぶりの低い伸びとなり、準備銀の中期な物価目標であるインフレターゲット(4±2%)の下限に近付きました。食料品のデフレの進展で、消費者物価の上昇率は当面ターゲットの中心値を下回る見込みであることから、準備銀行には政策金利を据え置く余裕があるといえます。
  • また、ダス新総裁がモディ政権の意向を汲んで送り込まれた経緯を考慮すると、準備銀行の政策トーンはハト派に向かいやすいとの見方から、一部の市場参加者の間では利下げ観測が浮上しており、インド金融市場にポジティブに作用していると考えられます。実際、ダス総裁の就任後には、目先3ヵ月以内に利下げが始まり、1年以内に利下げ幅は0.5%ポイント程度に達するとの期待が織り込まれていたとみられます。
  • しかしながら、利下げ観測は時期尚早と考えます。米国債利回りが低下傾向にある中、インド国債利回りが12月下旬から上昇している背景には、行き過ぎた利下げ観測の修正があると解釈できます。市場の利下げ観測は残っていますが、次回の定例の金融決定会合(2019年2月5-7日)では政策金利を据え置く可能性が高いとみています。また、準備銀行はインフレ上振れリスクを指摘しています。市場予想では、消費者物価上昇率が2019年4-6月期以降、ターゲット中央値の4%以上に加速するという見通しになっています。
  • 今後、2019年内の利下げ観測が行き過ぎという判断が浮上すると、金融市場はネガティブに反応しやすいリスクには警戒しておく必要がありそうです。

「インド総選挙。モディ首相の続投は?」

与党BJPが5州の州議会選で敗北。今春の総選挙勝利で、 2期目入りをめざすモディ氏にとって大きな逆風となっています。

  • インドでは、モディ首相の2期目をかけた下院の「総選挙」が2019年4~5月を目途に実施されるとみられます。過去の経験則では、総選挙直前の州議会選挙の結果は、「総選挙」の勝敗を占う前哨戦として注目されています。
  • そうした中、2018年12月11日に開票された5州の州議会選は、モディ首相率いる与党BJP(インド人民党)が全州で敗北する結果となりました。5州の議会の定数の合計は679議席です。選挙前にはBJPの議席数は合計で407議席ありましたが、225議席へ大幅に減少しました。このままでは今春の総選挙ではBJPが下野する可能性もあります。
  • BJPの敗北は、一部の地方で有権者の人気が低下したというよりは全国的に有権者から厳しい見方をされていると考えられます。インドの好調な経済は、再選を目指すモディ首相の追い風となってきましたが、力強い経済成長や活況を呈する金融市場の恩恵が、一般市民に行き渡っていないことなども有権者の離反の背景とみられます。
  • BJPは州議会選挙の結果を受け、総選挙に対して危機感を抱いていると考えられます。モディ首相は州議会選の敗北を受け、直ちに農民債務の免除の方針に言及しています。インドでは経済における農業の重要性が高いため、総選挙で票固めを行うには農民対策が極めて重要です。与党であるBJPは、2019年2月1日に2019/20年度の予算案を提出する権利を有しているため、仮に、農民に対する補助金などを通じて有権者の関心を引くような政策が盛り込まれるようであれば、総選挙でBJPが善戦する可能性も残されています。

「インド金融市場の注目点は?」

政治リスクの高まりから不安定な相場展開となる可能性も。ただし、高めの成長や米国利上げ見通しの修正がサポート材料になるとみています。

  • 2018年12月に開票された州議会選挙の与党の苦戦に見られる通り、2019年春の総選挙を前に政治面での不透明感が強まりやすい状況にあるといえ、政治リスクが高まる局面では、不安定な相場展開となる可能性があります。当面は、BJPが総選挙で勝利し、経済改革を推進してきたモディ首相が再選を果たすのかどうかが注目されます。
  • ただし、仮にBJPが下野した場合でも、インド景気は今後も堅調を維持すると予想されることは、金融市場のサポート材料と考えます。一人当たりの所得の増加に伴う消費の拡大や都市化の進展などが成長を下支えするほか、海外からの直接投資が堅調に流入するとみられることを前提に内需主導で景気は堅調に推移すると考えられることから、2020/21年度にかけて7%台の成長率を見込みます。
  • 足元ではダス新総裁の就任で、政府と準備銀行の関係改善が進むと期待されること、準備銀行には政策金利を据え置く余裕があることなどが、株式市場のサポート材料となりそうです。また石油の純輸入国であるインドにおいて、最近の原油価格の下落は経常収支赤字の削減とインフレ沈静をもたらす好材料であり、通貨安を是正する効果をもたらすものと期待されます。
  • また、米国国債利回りが低下していることは、資金流出の要因の一つとなっていたインドを含む新興国の株式・債券および為替市場の追い風となりそうです。12月の米FOMC(米連邦公開市場委員会)で、今年4回目の利上げが決定されましたが、物価動向の落ち着きなどを理由にパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、2019年の追加利上げに対し一段と慎重な姿勢を示唆しました。今後、米国の利上げ打ち止め観測が強まるようであれば、インドへの資金流入が強まる可能性が考えられます。

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