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グローバルハイテクセクターの見通し

2020年7月22日

1.堅調なハイテクセクター株式

2.ハイテクセクターの事業環境

3.今後のハイテクセクター:成長持続だが米中対立が波乱要因

1.堅調なハイテクセクター株式

■世界の主要な株式市場は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)による経済、企業業績の悪化懸念を背景に、2月後半以降大幅に下落しました。日米欧の主要な株価指数は、1月~2月につけた年初来高値から概ね3割前後の下落となりました。

■その後、各国・地域が積極的な金融・財政政策を打ち出したこと等から、市場は落ち着きを取り戻し、3月20日前後を底に反発に転じました。

■新型コロナは5月中旬までは先進国や中国では収束に向かいつつありましたが、足元では南米各国やインドなど新興国を中心に感染拡大が続いている他、米国を中心に感染再拡大が起きています。そのような中にあっても、世界の主要な株価指数は堅調に推移し、足元では前年末比で9割を超える水準まで回復しています。これは各国の中央銀行が積極的な金融緩和を行っているために、潤沢な流動性や低金利が相場を支えているためと考えられます。

■但し、株価の回復はばらつきが大きくなっています。具体的には、人や物の移動が縮小した運輸セクター、資源価格下落の影響が大きいエネルギーセクター、景気の影響が大きい金融セクターの株価が冴えない一方、元々のディフェンシブ性に加え新型コロナのワクチンや治療薬が期待される医薬品セクター、巣ごもり消費が増加している一部小売りセクターの株価は堅調です。

■特に、ハイテクセクターは各市場をけん引しています。5Gや自動運転など長期的に需要が拡大するテーマを有していることに加え、ウィズコロナ下にあってリモートワーク、eコマース、オンライン学習などデジタル化の加速が期待されていることが要因と考えられます。

2.ハイテクセクターの事業環境

■次に、ハイテクセクターのここ数年の事業環境変化と足元の状況について確認したいと思います。

✓中長期テーマが牽引する半導体市場

■2007年以降の世界の半導体市場を見ると、リーマンショックからの反動増となった2010年とiPhone6が大ヒットとなった2014年を除くと低成長が続いてきましたが、2017年~2018年は2ケタの売り上げ成長となりました。

■これは、以下のような中長期テーマに向けた需要が増加したことによっています。先ず、クラウド技術の発展によってマイクロソフト、アマゾン、グーグルなどの大手IT(インフォメーション・テクノロジー)企業がデータセンターを大幅に拡張しました。これによって、データ処理を行う半導体の高性能化やデータを格納するメモリー半導体の需要が増加しました。また、スマホ向けアプリケーションの増加・高度化によってデータ量が増加したため、同様に各種半導体の需要が増加しました。更に、自動車の電装化進展に伴う半導体需要の増加や、工場の自動化に伴う産業用機械向け半導体の高性能化が進みました。

■これらは電気製品の台数増加というよりは、IT技術の進歩やサービスの高度化によるデータ量の増加を背景とした、半導体搭載数量・金額の増加と言えます。

✓足元、コロナ禍によって需要が悪化

■一方、足元では新型コロナのパンデミックが半導体市場の需要動向に影響を与えています。

■半導体市場は2017年~2018年に歴史的な成長を遂げましたが、その後、循環的な減速に加え、米中関税引き上げや中国通信機器大手華為技術(ファーウェイ)に対する制裁など米中貿易摩擦が激化したことから、急速に需要環境が悪化しました。

■今年に入り、米中貿易協議で第1弾の合意がされたことから、市場環境は徐々に改善に向かい、半導体の出荷・在庫循環を見ると2020年1-3月期には回復局面に入ってきましたが、足元、新型コロナの感染拡大による経済活動停滞によって先行きの不透明感が強まり、4月・5月は循環が不況局面方向へ引き戻されています。但し、在庫の削減が進んでいることから、再度大きく減速する可能性は小さいと考えます。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

3.今後のハイテクセクター:成長持続だが米中対立が波乱要因

■今後のハイテクセクターを考えるうえで、テクノロジー分野での米中対立と新型コロナの与える影響が重要なテーマとなることから、それらが与える影響について考えたいと思います。

✓激しさを増すテクノロジー分野での米中対立

■2015年、中国指導部は産業振興政策「中国製造2025」を発表し、次世代情報技術や新エネルギー車など10の重点分野を定め製造業の高度化を進める方針を打ち出しました。中国は半導体製造や通信技術に関するハイテク産業の優遇政策を推し進め、最先端技術の習得、向上を図ってきました。

■これらの最先端技術は国防とも密接に関わっていることもあり、世界の覇権を握ってきた米国は中国の追い上げに危機感を覚え、2018年以降、中国に対し圧力を強めています。特に、5Gで世界進出を拡大している通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や、半導体自給率を引き上げ将来的な覇権を視野に入れる半導体製造関連の中芯国際集成電路製造(SMIC)、海思半導体(ハイシリコン)、紫光集団などへの警戒を強めています。

■米国と中国による最先端技術分野の覇権争いは、長期化が必至であり、今後も米国による対中国政策は同盟国も巻き込んで、開発、調達、生産の各方面に大きな影響を及ぼすこととなりそうです。

✓中長期テーマによる需要はコロナ禍によって加速

■新型コロナは短期的には需要の減少を引き起こしていますが、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保など生活様式の変化は、中長期テーマによるハイテクセクターの需要増加と成長を加速させると考えます。

■すなわち、職場ではリモートワークやビデオ会議が、家庭ではオンライン学習が日常化しています。eコマース(電子商取引)は益々活発になり、遠隔診療や工場における自動化、IoT(モノのインターネット)の導入も進みそうです。これらはデータ量の増加につながり、ハイテクセクターの成長を加速させることとなります。また、データ量の増加を支えるバックボーンの強化が進むことから、少し先のテーマである自動運転やスマートシティ構想も早まることが考えられます。

■足元、ハイテクセクターの株価上昇が続き、割高なバリュエーションが指摘されています。しかし、新型コロナの影響により低温経済が新常態となり、「成長は希少」となることから、中長期テーマがあり成長が見込めるハイテクセクターへの資金流入が継続する可能性もあると考えます。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

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