米国ハイテク株は割高か?

2020年8月25日

1.「情報技術」などハイテク株主導で高値を更新する米国株式市場

2.好調な「情報技術」、「グロース株」は高ROEが支え

3.今後の見通し~総じて「情報技術」、「グロース株」優位の展開が続こう

1.「情報技術」などハイテク株主導で高値を更新する米国株式市場~「弱気相場」からの回復

■S&P500種指数は、8月18日に史上最高値を更新し、「弱気相場(*)」から回復しました。新型コロナウイルスの影響と都市封鎖(ロックダウン)の影響を受け、経済活動や企業業績が大幅に悪化するため、「弱気相場」からの回復には相当な時間がかかると思われていました。しかし、今回は「弱気相場」は過去の中で最短だった1966~67年の310日間を大幅に下回る126日間での高値回復となりました。

■8月24日は、トランプ政権が通常より速いプロセスで新型コロナウイルスのワクチンと治療薬の承認を優先するのではとの期待が株価を押し上げました。S&P500種指数、NASDAQ総合指数は再び史上最高値を更新し、NYダウも2万8,308.46ドルと2月21日以来の2万8,000ドル台回復となりました。
 (*)弱気相場・・・一般的に直近1年の高値から20%以上下落し、その後高値を更新するまでの期間を指します。

■S&P500種指数は3月23日の年初来安値から直近8月18日まで51%の大幅上昇を記録していますが、けん引したセクターは「情報技術」、「一般消費財」、「コミュニケーション・サービス」です。

■また、上昇率の4分の1以上が、アップル(情報技術)、マイクロソフト(情報技術)、アマゾン・ドット・コム(一般消費財・サービス)、アルファベット(コミュニケーション・サービス)、フェイスブック(コミュニケーション・サービス)の5銘柄(いわゆるGAFAM)によるものです。

■経済ファンダメンタルズ面では、政府の思い切った財政支出と米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅な金融緩和政策が功を奏しました。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

2.好調な「情報技術」、「グロース株」は高ROEが支え

■今回の「弱気相場」からの回復過程を投資スタイル別にみると、圧倒的に「グロース株」優位の展開となっています。スタイルとは、S&P500種指数採用銘柄をROEの水準などからグロース(成長性に焦点)とバリュー(低株価収益率(PER)、低株価純資産倍率(PBR)、高配当利回りなど株価価値に焦点)に区分けしてみたものです。S&Pグロース指数は、今回けん引役となったGAFAMを中心に堅調な推移となっています。

■このように、セクターでは「情報技術」、スタイルでは「グロース株」に分類される企業群が株価を大きくけん引しています。こうした企業群は総じてバリュエーションが高く、結果として、米国株式市場全体のPERやPBRといった指標は過去との比較においても非常に高くなっており、米国株式市場は決して割安とは言えない水準にあります。

■もっとも、将来の利益水準や予想成長率が低いのであれば、明らかに割高ですが、株主資本に対する利益水準(ROE)が高まっている点には注目する必要があると思います。「情報技術」のROEは市場全体(ここではMSCI 米国)よりも高い水準で推移しています。中でも「情報技術」のサブセクターである「情報機器」は、4月以降に水準を切り上げ、6月には43.2%となりました。長期的にはその他のサブセクターでもROEは上昇傾向です。また、「グロース株」も安定して24%台を維持しており、市場全体水準(14.7%)を大きく上回っています。

■「情報技術」や「グロース株」に含まれる企業は、ウィズコロナの下で、付加価値の高いソフトウエアの販売が伸び、継続的なサービス収入の拡大が収益の源泉となっています。ROEの高さは、株主資本を十分に活用して収益を生み出していることを意味しており、こうした点がマーケットからの高評価につながっていると考えられます。

3.今後の見通し~株式市場は総じて「グロース株」優位の展開が続こう

今後を見通す上でのポイントを整理しました。

(1)過剰流動性と財政への期待が持続

■流動性は引き続き潤沢です。FRBのバランスシートが今後縮小するとしても、拡大する以前の2月末時点と比べれば大幅な流動性が維持されています。また、財政赤字が拡大する中でも企業の資金調達コストを低位に安定させクレジット市場の安定等を維持するために長期金利を低位に保つ必要があることなどから、大枠としての大規模な緩和政策は維持される見通しです。低インフレ下での過剰流動性は、社債など相対的に実質金利が高い資産に向かうと同時に、リスクをとる資金は株式の中でもより成長期待の高い「グロース株」へ向かう構図が続きそうです。

■米国の財政政策については引き続き財政協議に注目です。8月21日時点では郵政公社法案の取り扱いを巡って両党に差があり、家計向け支援の協議は宙に浮いた状態です。すり合わせには時間を要しますが、成立が期待されます。


(2)イールド・スプレッドに割高感はなく、業績に注目

■株価の上昇によって、予想PERは過去20年間で最も高い水準となっています。しかし、長期金利の水準も過去最低水準で推移しています。そこで10年国債利回りとPERの逆数である益回りとの差を調べると、2018年前半の水準に比べて低位にあります。イールド・スプレッドからは割高感はありません。

■一方、業績はハイテク主導の回復が期待され、「情報技術」、「グロース株」が優位となりそうです。外需主導型企業や一般サービス業といった景気敏感株や「バリュー株」はまだ厳しい場面が続きそうです。

■ただ、経済再開に勢いが強まるとの期待が一段と強まれば、短期的には出遅れた「バリュー株」と好調な「グロース株」との間でリバランスが起こる可能性はあります。

(3)ワクチンと治療薬への期待

■コロナ・ワクチンが年内に開発されるとの期待が株式相場の下支え要因です。米国では年内に開発、実用は来年との期待が強まっていますが、人の移動を本格的に回復させるためにも、治療薬の開発も重要です。

(4)米中の新たな冷戦がデジタル分野の進歩を促進

■米国と中国の対決が鮮明化しています。米国によるファーウェイを筆頭とする中国IT企業との取引停止などがその例です。中国集中のサプライチェーンの再構築も進むでしょう。こうした新たな冷戦的な構造は、自国の利益のために自国のハイテク技術や科学分野の成長を促すことになると思われます。両国は覇権を争い、積極的な投資を選択すると考えられます。中期的な視点に立てば、米中対立による新たな冷戦的な構造はデジタル分野の飛躍的な進歩と拡大をもたらすと期待されます。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

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