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先月のマーケットの振り返り(2019年8月)

2019年9月4日

1.概観

株式 米国の株式市場は、米中双方が追加関税引き上げを表明し合うなど米中対立が一段と激しさを増したことからリスク回避志向が高まり、下落しました。
欧州の株式市場は、米中対立の激化やユーロ圏の経済減速等が嫌気され、下落しました。英国の欧州連合(EU)離脱問題等も重荷となりました。
日本の株式市場は、米中貿易摩擦の激化でリスク回避の動きが高まったことや、円高が進行したことなどから下落しました。
債券 米国の長期金利は、低下しました。米中対立激化によるリスク回避志向の高まりや、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ期待が金利を押し下げました。
欧州の長期金利は、米中通商問題に加えて、ユーロ圏の景気後退懸念から欧州中央銀行(ECB)の緩和期待が高まり、ドイツの10年国債利回りは低下しました。
日本の10年国債利回りは、米長期金利の動きにつれて低下しました。米国の社債利回りも低下しましたが、国債との利回り格差は拡大しました。  
為替 円は米ドル、ユーロ、豪ドルなどに対し上昇しました。米中互いに報復関税をかけ合うなど米中対立の一段の高まりからリスク回避の流れとなり、円が買われました。世界経済減速懸念の高まりから、FRBやECBなどの主要中銀による利下げ観測が高まったことなども円買いの要因となりました。ドル円レートは一時=104円台半ばと約8カ月ぶりの円高水準となりました。
商品 原油先物価格は、米中貿易摩擦の激化などによる世界景気減速への懸念から、原油需要が細るとの見方が強まり下落しました。

(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

2.景気動向

<現状>

米国は、19年4-6月期の実質GDP成長率改定値が前期比年率+2.0%となりました。速報値から0.1ポイント下方修正されたものの、個人消費が上方修正され、改めて米景気の底堅さが意識されました。
欧州は、19年4-6月期の実質GDP成長率が前期比年率+0.8%となりました。また、ドイツの4-6月期の実質GDP成長率はマイナスに転じました。
日本は、19年4-6月期の実質GDP成長率が前期比年率+1.8%となりました。予想以上に設備投資が堅調でした。
中国は、19年4-6月期の実質GDP成長率が前年同期比+6.2%となり、前期の同+6.4%から減速しました。内需を中心に景気が下振れました。
豪州は、19年4-6月期の実質GDP成長率が前年同期比+1.4%となりました。また、1-3月期の伸び率が上方修正されました。

<見通し>

米国は、米中対立が再燃したことや、在庫調整にはしばらく時間がかると見られることから、景気の持ち直しは20年以降になる見込みです。
欧州は、世界経済減速への不透明感を背景に製造業の低迷が長引いており、回復のペースは緩慢になると見られます。域内の政治リスクも懸念材料です。
日本は、外部環境の不透明感などからしばらく足踏みとなりそうです。経済対策効果の発現などを踏まえると、持ち直しは20年4-6月期以降となりそうです。
中国は、米中対立の再燃による企業心理悪化やデレバレッジの影響などが景気下押し圧力となりますが、政府の中期的な景気対策が下支えとなりそうです。
豪州は、外部環境の不透明感が重石となるものの、設備投資の回復や減税効果が徐々に現れると見られることから、緩やかな成長が続くと予想されます。

3.金融政策

<現状>

FRBは、7月30、31日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利(FFレート)の誘導レンジを2.25~2.50%から2.00~2.25%に引き下げました。また、保有資産の縮小を2カ月前倒して8月に終了することも決定しました。
ECBは、7月25日の理事会で政策金利、預金ファシリティ金利(金融機関が手元資金をECBに預け入れる際の金利)を各々0.00%、▲0.40%に据え置きました。一方、フォワードガイダンス(先行きの金融政策の指針)を変更し、利下げと量的緩和(QE)再開の可能性を示唆しました。
日銀は7月29、30日に開催した金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決定しました。フォワードガイダンスを維持し、長期国債を買い増すペースやETF、リートの買入れ方針を据え置く一方、景気や物価の下振れリスクへの警戒姿勢をこれまで以上に強めていることを示しました。

 <見通し>

FRBは、米景気減速や米中貿易摩擦等の不透明感に起因する下振れリスクに対応し、9月のFOMCで0.25%の利下げを実施するとみています。また、利下げは年内7、9、10、12月の計4回各0.25%になると予想します。
ユーロ圏では、米中貿易摩擦や英国のEU離脱(Brexit)などの影響で先行きの景気や物価への懸念が強まっていることや、FRBの追加緩和期待などから、次回9月の理事会で預金ファシリティ金利の▲0.4%から▲0.6%への引き下げとQEの再開が発表されると見られます。
日本では、コア物価上昇率はゼロ近傍に鈍化するとみられ、日銀の追加緩和期待がくすぶりやすい状況が続くと予想されます。フォワードガイダンスはいずれ長期化されると見られます。また、海外中銀の緩和を受けて急激な円高が進む場合などは、追加緩和の検討もあり得ると考えます。

4.債券

<現状>

米国では、10年国債利回りが大幅に低下しました。月初に米国が対中関税措置第4弾を発動する方針を示したことから、月間を通じ金利は低下基調が続きました。10年国債利回りが2年国債利回りを下回る「逆イールド」が12年ぶりに発生するなど、景気後退への懸念やFRBによる利下げ観測の高まりが金利を押し下げました。
欧州では、ドイツの10年国債利回りは低下しました。米中対立激化によるリスク回避姿勢の高まりから低下基調を強めたことに加え、ドイツの4-6月期実質GDP成長率がマイナスに転じ、景気後退懸念やECBによる緩和期待が一段と高まりました。ドイツ10年国債利回りは過去最低を更新しました。
日本の10年国債利回りは、米長期金利の動きにつられて低下しました。米国の社債利回りも低下しましたが、国債との利回り格差は拡大しました。

<見通し>

米国では、米中通商問題の先行き懸念からFRBが9、10、12月に利下げを実施すると見られることから、金利は当面低位で推移すると予想されます。
欧州では、景気の低迷が継続していることや、通商問題やBrexitを巡る懸念が企業心理悪化を通じてマイナス要因となっていることから、ECBは9月に利下げや量的緩和再開のアナウンスを行う見込みです。このことから、金利は低位での推移が続くと見られます。
日本では、欧米など主要国の低金利が続く中で、高い連動性を持つ日本の金利も抑制されマイナス圏での推移が続くと予想されます。

5.企業業績と株式

<現状>

S&P500種指数の8月の1株当たり予想利益(EPS)は176.86米ドル、前年同月比の伸び率は+2.3%で、再び最高益を更新しました。一方、東証株価指数(TOPIX)の予想EPSは122.08円(同▲8.7%)で、7カ月連続のマイナスでした(いずれも予想はリフィニティブI/B/E/Sベース)。8月の米国株式市場は、米中追加関税の応酬が激化したことや、米10年国債利回りと同2年国債利回りが逆転する逆イールドが観測されたことなどから、調整色を強めました。S&P500種指数は前月比で▲1.8%、ナスダック総合指数は同▲2.6%、NYダウは同▲1.7%でした。一方、日本株式市場も米中の通商交渉の動向や、一時104円/米ドル台をつけた円高・米ドル安などを受けて、調整基調となりました。TOPIXは前月比▲3.4%、日経平均株価は同▲3.8%でした。

<見通し>

S&P500種指数採用企業の予想EPS増益率は19年が前年比+2.0%(前月同+1.9%)、20年が同+11.1%(同+11.3%)と小幅な修正となりました(19年8月30日発表、リフィニティブI/B/E/Sベース)。一方、日本の予想経常利益増益率は19年度(20年3月期決算)が前年度比+3.9%(前月同+4.0%)、20年度(21年3月期決算)が同+7.8%(前月同+7.7%)(東証一部除く金融、QUICKコンセンサスベース、19年8月30日現在)とこちらも若干の下方・上方修正にとどまっています。日米ともに業績発表は一巡しました。今後は、引き続き米中交渉が注目される見通しです。米国、中国共に交渉を続ける姿勢を示してはいますが、具体的に進展するかどうかについては未だに不透明なままです。日米とも景気の先行きに対する懸念も広がり始めており、日米株式市場は上値の重い展開となりそうです。

6.為替

<現状>

円は米ドル、ユーロ、ポンド、豪ドルなどに対し上昇しました。米国が、対中追加関税措置を更に拡大する方針に転じ、米中互いに報復関税をかけ合うなど米中対立の一段の高まりからリスク回避の流れとなり、円が買われました。また、世界経済減速への懸念から、FRBやECB、豪州準備銀行(RBA)など主要中銀による利下げ観測が高まったことなども円買いの要因となりました。英ポンドは合意なきEU離脱に対する懸念などが嫌気されました。

<見通し>

円の対米ドルレートは、日米金利差や日本の国際収支の構造変化などから見て、米国が景気後退に陥らなければ大幅なドル安円高となる可能性は低いと見られます。ただし、FRBによる金融緩和期待を受けた米長期金利の大幅な低下などから、取引レンジは円高ドル安方向にシフト(102.50-110.00円を想定)すると見られます。
円の対ユーロレートは、ユーロが底値圏にあると見られるものの、欧州景気の低迷を背景にECBが9月に追加緩和を行うと見られることや、イタリアやBrexitなど政治的な不透明感の高まりがユーロ圏の上値を抑制すると見られることから、当面頭の重い展開となりそうです。
円の対豪ドルレートは、米中通商問題によるセンチメントの悪化や中国経済への悪影響が懸念されることが豪ドルの重石となる見通しです。RBAは11月にも6、7月に続く3回目の利下げを行うと見ています。ただし、米長期金利の低下など外部環境を考慮すると、下値は堅くなると見られます。

7.リート

<現状>

グローバルリート市場(米ドルベース)は、欧米をはじめ世界的に中銀が金融緩和方向へシフトし長期金利が低下基調を辿る中、相対的に利回りの高いリートが選好される展開が続きました。また、8月には米中の対立が一段と激化しリスクオフの流れとなったことから、リートのディフェンシブ性が評価され、前月末比で2.20%上昇しました(現地通貨ベース)。一方、円ベースの月間変化率では、ドル円レートが円高に推移したため為替はマイナスに寄与し、円ベースでは前月比▲0.09%とわずかに下落しました。

<見通し>

FRBが7月末の利下げに続き9月にも追加利下げをすると見られることや、ECBが9月に利下げや量的緩和再開のアナウンスを行うと見込まれることなどから、低金利環境が当面継続すると予想され、リートにとって好材料となりそうです。一方で、中期的に見れば米国の不動産市況はピーク圏にあり、上値は重いと見られます。景気減速が進めば米国・豪州など更なる利下げの可能性もあり、リートのディフェンシブ性が評価される展開は続くと見られます。

8.まとめ

債券 米国では、米中通商問題の先行き懸念からFRBが9、10、12月に利下げを実施すると見られることから、金利は当面低位で推移すると予想されます。
欧州では、景気の低迷が継続していることや、通商問題やBrexitを巡る懸念が企業心理悪化を通じてマイナス要因となっていることから、ECBは9月に利下げや量的緩和再開のアナウンスを行う見込みです。このことから、金利は低位での推移が続くと見られます。
日本では、欧米など主要国の低金利が続く中で、高い連動性を持つ日本の金利も抑制されマイナス圏での推移が続くと予想されます。
株式 S&P500種指数採用企業の予想EPS増益率は19年が前年比+2.0%(前月同+1.9%)、20年が同+11.1%(同+11.3%)と小幅な修正となりました(19年8月30日発表、リフィニティブI/B/E/Sベース)。一方、日本の予想経常利益増益率は19年度(20年3月期決算)が前年度比+3.9%(前月同+4.0%)、20年度(21年3月期決算)が同+7.8%(前月同+7.7%)(東証一部除く金融、QUICKコンセンサスベース、19年8月30日現在)とこちらも若干の下方・上方修正にとどまっています。日米ともに業績発表は一巡しました。今後は、引き続き米中交渉が注目される見通しです。米国、中国共に交渉を続ける姿勢を示してはいますが、具体的に進展するかどうかについては未だに不透明なままです。日米とも景気の先行きに対する懸念も広がり始めており、日米株式市場は上値の重い展開となりそうです。
為替 円の対米ドルレートは、日米金利差や日本の国際収支の構造変化などから見て、米国が景気後退に陥らなければ大幅なドル安円高となる可能性は低いと見られます。ただし、FRBによる金融緩和期待を受けた米長期金利の大幅な低下などから、取引レンジは円高ドル安方向にシフト (102.50-110.00円を想定)すると見られます。
円の対ユーロレートは、ユーロが底値圏にあると見られるものの、欧州景気の低迷を背景にECBが9月に追加緩和を行うと見られることや、イタリアやBrexitなど政治的な不透明感の高まりがユーロ圏の上値を抑制すると見られることから、当面頭の重い展開となりそうです。
円の対豪ドルレートは、米中通商問題によるセンチメントの悪化や中国経済への悪影響が懸念されることが豪ドルの重石となる見通しです。RBAは11月にも6、7月に続く3回目の利下げを行うと見ています。ただし、米長期金利の低下など外部環境を考慮すると、下値は堅くなると見られます。
リート  FRBが7月末の利下げに続き9月にも追加利下げをすると見られることや、ECBが9月に利下げや量的緩和再開のアナウンスを行うと見込まれることなどから、低金利環境が当面継続すると予想され、リートにとって好材料となりそうです。一方で、中期的に見れば米国の不動産市況はピーク圏にあり、上値は重いと見られます。景気減速が進めば米国・豪州など更なる利下げの可能性もあり、リートのディフェンシブ性が評価される展開は続くと見られます。
  ※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。