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2015年3月調査日銀短観

2015年4月1日

●3月調査日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIが12月調査(調査企業見直し後の新ベース)の+12と同水準の+12になった。但し内訳をみると、素材業種は12月調査から2ポイント改善の+8、加工業種は12月調査から1ポイント改善の+15である。内訳の動きからは、横這いになったのは四捨五入の関係で、実質的には大企業・製造業の業況判断DIは12月調査よりわずかに改善しているとみられる。円安・原油安によるプラス効果で企業収益などは好調だが、円安によるコスト増加といったマイナス要因など不透明材料も多く、景況感の本格的改善はまだ先なのだろう。筆者は3月調査日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIを+13と僅かな改善と予測していたが、概ね予測通りの結果と言えそうだ。8期連続で「良い」超を意味するプラスであり、7期連続で2ケタのプラスである。

●今回3月調査の調査期間は2月25日~3月31日だ。
●3月調査の大企業・製造業の業況判断DI+12は12月調査の「先行き」見通し+9を3ポイント上回る数字になった。足元の景況感が予測よりやや良かったということになり、景気の緩やかな持ち直し状況を裏付ける数字と言えなくはない。大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は12月調査では9%だったが、3月調査も同じだった。
●大企業・非製造業・業況判断DIでは、3月調査は+19と12月調査の+17から2ポイント改善した。2期連続の改善であり、15期連続のプラスであることは、内需の底堅さを反映し、非製造業は底堅い動きが続いていることを示唆していると言えよう。消費税引き上げ後の駆け込み需要の反動減が収束に向かっていることに加え、訪日外国人のインバウンド消費の増加などがプラスに働いていよう。アベノミクス第二の矢の恩恵を受けている建設は+36と前回12月調査と同じで、92年5月調査の+38以来の高水準だった14年3月調査の+37に近い高水準が続いている。小売は12月調査の▲2のマイナスから今回3月調査では+5とプラスに転じた。対個人サービスは12月調査から9ポイント改善し+27になった。
●3月調査の大企業・非製造業・業況判断DI+19は、12月調査の「先行き」+16を3ポイント上回る数字で、景況感が思ったより良かったことを示唆している。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は12月調査では7%だったが、3月調査では1ポイント減って6%になった。
●一方、大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+10と「最近」の+12から2ポイントの悪化が見込まれている。海外景気の先行きや、為替レート、原油価格動向への不透明感などが大きいのだろう。
●大企業・非製造業では「先行き」は+17と「最近」の+19から2ポイントの悪化が見込まれている。小売の「先行き」は+13と「最近」の+5から8ポイント改善している。春闘での賃上げ実施などのプラス効果を見込んでいよう。一方、人手不足などの問題を抱える建設業では「先行き」は+26と高水準ながら「最近」の+36から10ポイントの悪化が見込まれている。

●中小企業・製造業の業況判断DIは、昨年12月調査以降6月調査まで3期連続プラスを維持した後9月調査で▲1とマイナスに転じていたが12月調査(新ベース)で+4とプラスに戻った。今回3月調査では+1と3ポイント悪化したがプラスは維持し、12月時点の「先行き」▲3を4ポイント上回った。足元の景況感が予測よりやや良かったということになる。

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIも、13年12月調査で+4と92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになり14年6月調査まで3期連続プラスを維持した後14年9月調査は0になっていたが前回12月調査(新ベース)で+1プラスを維持した。今回3月調査は2ポイント改善の+3とプラスを維持した。12月調査時点の「先行き」▲2を5ポイント上回った。雇用吸収力がある業種が多い、非製造業のDIが久し振りにプラス継続となっていることは、有効求人倍率が1.15倍と約23年ぶりの高水準になったことと整合的だろう。中小企業は製造業、非製造業とも、足元の景況感が予測より良かったということになる。
●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年6月調査では▲2まで改善した。そして13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。14年3月調査では91年11月の+12以来の水準である+12まで改善していた。消費税率引き上げにより、6月調査・9月調査で悪化し9月調査で+4になっていたが、前回12月調査(新ベース)で3期ぶりに改善し+6になった。今回3月調査で+7と1ポイントだが2期連続改善になった。7期連続してプラスの水準で、全規模・全産業という全体の景況感は底堅いと言えよう。

●中小企業・製造業の「先行き」業況判断は0と「最近」より1ポイントの悪化見通しである。中小企業・非製造業は▲1と「最近」より4ポイントの悪化見通しである。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回6月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性が大きいのではないかとみられる。
●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+5と、「最近」から2ポイント低下する見通しである。3月分鉱工業生産指数(2カ月連続前月比マイナス予想)や1~3月期実質GDP(前期比年率0%台?)など目先発表される主要経済指標には弱いものも予測され、企業の景気の先行きには不透明感が強いのであろう。但し、春闘の賃上げ実施や消費増税の影響が前年同月比で剥落することなど、4月分以降の経済指標では明るい内容が期待される。景気の好循環が再認識されれば、先行き、業況判断の持ち直しが期待されよう。
●今回3月調査では、2015年度の想定為替レートは1ドル=111円81銭と現在の120円前後の水準との乖離は大きく、輸出企業の景況感にとってプラス材料になる可能性が大きいだろう。
●大企業・製造業の仕入れ価格DIは3月調査では+11になった。12月調査の+19から8ポイント低下した。大企業・非製造業の仕入れ価格DIは3月調査では+18で12月調査の+22から4ポイント低下した。また中小企業・製造業の仕入れ価格DIは+33となった。12月調査は+40であったので7ポイントの低下だ。中小企業・非製造業の仕入れ価格DIは3月調査では+24で12月調査の+27から3ポイント低下した。
●一方、3月調査の販売価格判断DIは、大企業・製造業全体では▲6と12月調査の▲4からは2ポイント低下、中小企業・製造業では▲6で12月調査と同水準だった。大企業・非製造業では+7で12月調査の+6から1ポイントの上昇となった。中小企業・非製造業では▲1と12月調査の▲3からは2ポイントの上昇となった。最近の物価統計では、財の価格はまだ弱含みだが、サービスの価格は底堅い。こうした動きが製造業と非製造業の販売価格判断DIの変化方向の違いに表れてきているのだろう。仕入れ価格DIは、大企業、中小企業とも、製造業、非製造業どちらも「上昇」超幅が縮小した。非製造業の価格面の動きは収益にプラスである。

●2015年度の全産業・設備投資計画は大企業が前年度比▲1.2%であった。過去の平均とほぼ同水準だが、製造業は+5.0%と過去の平均より高水準のスタートで非製造業は▲4.1%と過去の平均より低水準のスタートになり、違いが出たのが特徴的だ。中小企業の設備投資計画は例年3月調査が弱く、その後は調査の度に改善していく傾向がある。全産業・全規模の設備投資計画は前年度比▲5.0%だ。一方、GDPの設備投資の概念に近いソフトウェアを含み土地投資額を除くベースでは、2015年度は大企業では前年度比+0.6%、中小企業は▲17.6%である。全産業・全規模の設備投資計画は前年度比▲2.4%である。
●生産・営業用設備判断DIは09年6月調査では、大企業・製造業が38、中小企業・製造業で38と「過剰」超の高水準であった。そこから5年間半の間振れを伴いつつも概ね改善傾向にあり、14年12月調査では各々4、2となった。今回3月調査では各々3、1と若干低下した。「先行き」も各々3、1となっている。生産・営業用設備判断DIで「過剰」超が0に近い低水準にあることは、企業が設備投資を実施しやすい環境であることを示唆していよう。
●雇用判断DIは09年6月調査では、大企業・全産業が20、中小企業・全産業で23と「過剰」超の高水準であった。大震災の影響など雇用判断が一時的に悪化する局面もあったが、概ね改善基調で推移してきた。前回12月調査では、大企業・全産業は▲9、中小企業・全産業は▲19となった。今回3月調査では、大企業・全産業は▲10、中小企業・全産業は▲20となった。若干だがさらに「不足」超幅が拡大した。「先行き」をみると大企業・全産業は▲10と「最近」比で「不足」超幅は横這い、中小企業・全産業は▲22と「最近」比で2ポイント「不足」超幅が拡大する見通しである。雇用の改善基調は全体で見て先行きも継続すると言えよう。
●資金繰り判断DIや金融機関の貸出態度判断DIは、09年6月調査以降、横ばいの時期もあったものの、概ね改善傾向が続いてきた。3月調査では、全規模・全産業で資金繰り判断DIが12で、12月調査比「楽である」超が2ポイント拡大した。一方、全規模・全産業の金融機関の貸出態度判断DIは20で12月調査比「緩い」超が2ポイント拡大した。総じてみれば、金融環境は概ね良好であると言えよう。

●短観の内容は、日銀がある本石町の発表日の天候に表れる傾向があるが、今回は「曇」といった状況だ。今回3月調査は、消費税引き上げ後の駆け込み需要の反動減が収束に向かっていることや、企業業績が好調に推移する下支え要因など、環境は改善したものの、円安によるコスト増加などのマイナス材料もあり、企業の景況感改善がもたついていることを裏付ける内容だった。但し、大企業・中堅企業・中小企業とも製造業・非製造業の業況判断は全て「良い」超であり、前回12月調査の「先行き」を上回る数字で、景況感が思ったより良かったことを示唆している。足元の企業の景況感は概ね底堅いことが再確認された。先行きについては、海外景気の動向、円安、原油安の動向などに、企業は依然不透明感を感じているといった内容だ。