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2015年9月調査日銀短観

2015年10月1日

●9月調査日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIが、中国経済など海外景気の減速を反映して、6月調査の+15を3ポイント下回る+12になった。内訳をみると、素材業種は6月調査から1ポイント改善し+9、加工業種は6月調査から3ポイント悪化し+14になった。但し、10期連続で「良い」超を意味するプラスであり、9期連続で2ケタのプラスであり底堅いと言えよう。

●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は6月調査では7%だったが、9月調査でも7%である。業況判断DIの悪化は「良い」と答えた割合が22%から19%に低下し、「さほど良くない」と答えた割合が71%から74%に上昇したためである。企業の不透明感が強まったことが影響していよう。

●今回9月調査の調査期間は8月26日~9月30日で、中国ショックや世界同時株安の影響を反映している調査期間である。

●9月調査の大企業・製造業の業況判断DI+12は6月調査の「先行き」見通しが+16に改善するとみていたのに反し4ポイント下回る数字になった。足元の景況感が予測より悪かったということになり、景気の足踏み状況を裏付ける数字と言える。

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、9月調査は+25と6月調査の+23から2ポイント改善した。4期連続の改善であり、17期連続のプラスであることは、内需の底堅さを反映し、非製造業は足元までは底堅い動きが続いていたことを示唆していると言えよう。14年3月調査の+24を上回り、91年11月調査+33以来、23年10カ月ぶりの高水準になった。雇用・所得環境が改善していることに加え、訪日外国人のインバウンド消費の増加などがプラスに働いていよう。小売は3月調査の+5から前回6月調査では+22へと17ポイント改善した。そして今回6月調査では+25へとさらに3ポイント改善した。

●9月調査の大企業・非製造業・業況判断DI+25は、6月調査の「先行き」+21を4ポイント上回る数字で、景況感が思ったより良かったことを示唆している。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は6月調査では4%だったが、9月調査でも4%で同じであった。

●大企業・全産業・業況判断DIは、9月調査は+19で6月調査と同じであった。6月調査の「先行き」+18を1ポイント上回る数字で、景況感が思ったよりやや良かったことを示唆している。足元の景況感は意外と底堅い感じがする。

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+10と「最近」の+12から2ポイントの悪化が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では7%だが、「先行き」では2ポイント減って5%になる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では19%、「先行き」では15%で変化幅が5ポイント減だ。このため「さほど良くない」と答えた割合は「最近」では74%だが「先行き」では80%へと変化幅が6ポイントも増加している。国内経済の好循環による底堅さがある一方、中国経済をはじめとする世界経済の先行きに対する不安感が高まっていることが感じられる内容だ。

●大企業・非製造業では「先行き」は+19と「最近」の+25から6ポイントの悪化が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では4%だが、「先行き」でも4%である。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では29%、「先行き」では23%、変化幅が6ポイント減。このためDIは悪化見通しになる。小売の「先行き」は+19と「最近」の+25から6ポイント悪化している。先行き国内消費に対して不透明さを感じているのだろうか。

●中小企業・製造業の業況判断DIは、昨年12月調査(新ベース)で+4とプラスに戻り、15年3月調査でも+1とプラスを維持していたが、6月調査に続いて9月調査でも0になった。2四半期連続非・正となるが、これは鉱工業生産指数が4~6月期、7~9月期と2四半期連続前期比減少見込みであることと整合的だろう。なお、9月調査の「最近」0は6月調査の「先行き」0と同じになった。足元の景況感のもたつきは中国ショックで想定外に悪化したのではなく、予想の範囲内のものだと言えるだろう。

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになり14年6月調査まで3期連続プラスを維持した後14年9月調査は0になった。しかし、12月調査(新ベース)で+1とプラスに戻り、15年3月調査は+3、前回6月調査では+4、今回9月調査は+3とプラス継続となった。6月調査時点の「先行き」+1を2ポイント上回った。中小企業・非製造業は、足元の景況感が前期より1ポイント鈍化したものの、予測よりはやや良かったということになる。雇用吸収力がある業種が多い、非製造業のDIが久し振りにプラス継続となっていることは、7月分の有効求人倍率が1.21倍と92年2月分の1.22倍以来23年5カ月ぶりの高水準になっていることと整合的だろう。

●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年6月調査では▲2まで改善した。そして13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。14年3月調査では91年11月の+12以来の水準である+12まで改善していた。消費税率引き上げにより、6月調査・9月調査で悪化し9月調査で+4になっていたが、12月調査(新ベース)で3期ぶりに改善し+6、15年3月調査で+7と2期連続改善していた。前回6月調査では+7と3月調査と同水準にとどまったが、今回9月調査で+8と2期ぶりに改善した。全規模・全産業という全体の景況感は9期連続してプラスの水準だ。景気が底上げされてきたことを示唆する数字だろう。

●中小企業・製造業の「先行き」業況判断は▲2と「最近」0から2ポイント悪化する見通しである。世界経済の不透明さが影響していよう。また、中小企業・非製造業は+1と「最近」より2ポイントの悪化見通しである。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回12月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性があるのではないかとみられる。

●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+5と、「最近」+8から3ポイント悪化する見通しである。7~9月期の鉱工業生産指数(前期比減少?)、7~9月期の実質GDP(前期比年率0%程度)など目先発表される主要経済指標には弱いものも予測され、企業の景気の先行きには不透明感が強いのであろう。但し、年末か年初のどこかで景気の好循環が再認識されれば、「足踏み」から脱却し、先行き、業況判断の持ち直しが期待されよう。

●今回9月調査では、2015年度の想定為替レートは1ドル=117円39銭と6月調査の1ドル=115円62銭よりは円安になったものの、現在の120円前後の水準よりはやや円高で、現在の水準が続けば、輸出企業の景況感にとってプラス材料になる可能性が大きいだろう。

●大企業・製造業の仕入れ価格DIは9月調査では+4になった。6月調査の+14から10ポイント鈍化した。国際商品市況の低下などを反映していよう。大企業・非製造業の仕入れ価格DIは9月調査では+13で6月調査の+20から7ポイント鈍化した。また中小企業・製造業の仕入れ価格DIは+22となった。6月調査は+35であったので13ポイントの低下だ。中小企業・非製造業の仕入れ価格DIは9月調査では+18で6月調査の+25から7ポイント低下した。

●一方、9月調査の販売価格判断DIは、大企業・製造業全体では▲7と6月調査の▲4からは3ポイント低下、中小企業・製造業では▲6で6月調査の▲4からは2ポイント低下した。大企業・非製造業では+4で6月調査+7からは3ポイント低下。中小企業・非製造業では▲5と6月調査の0から5ポイント低下となった。販売価格判断DI、仕入れ価格DIとも「上昇」超幅が低下しており、デフレ脱却方向の動きが一服した感じがする数字になったと言えよう。

●9月調査の2015年度の全産業・設備投資計画は前年度比+6.4%の見込みである。修正率は+2.9%だ。

●9月調査の2015年度の大企業の設備投資計画は前年度比+10.9%と市場予想のレンジを上回る高い伸び率になった。製造業は+18.7%と2桁の高い伸び率を維持し、非製造業が+7.2%へと伸び率を高めた。中小企業の設備投資計画は例年3月調査が弱く、その後は調査の度に改善していく傾向がある。全産業の設備投資計画は前年度比▲6.1%。修正率は+11.4%となった。一方、GDPの設備投資の概念に近いソフトウェアを含み土地投資額を除くベースでは、2015年度は大企業では前年度比+11.9%、中小企業は▲4.3%である。2015年度の全規模・全産業の当期純利益は前年度比+10.5%と2桁の伸び率が見込まれている。こうした好調な企業収益を背景に全産業・全規模の設備投資計画は前年度比+8.1%で、2014年度の前年度比+4.6%の伸び率を上回るしっかりした計画になっている。

●生産・営業用設備判断DIは09年6月調査では、大企業・製造業が38、中小企業・製造業で38と「過剰」超の高水準であった。そこから振れを伴いつつも概ね改善傾向にあり、前回6月調査では各々2、2に低下した。今回9月調査では各々1、3となっている。「先行き」は各々2、1と低水準が継続する見込みだ。生産・営業用設備判断DIで「過剰」超が0に近い低水準にあることは、企業が設備投資を実施しやすい環境であることを示唆していよう。

●雇用判断DIは09年6月調査では、大企業・全産業が20、中小企業・全産業で23と「過剰」超の高水準であった。大震災の影響など雇用判断が一時的に悪化する局面もあったが、概ね改善基調で推移してきた。前回6月調査では、大企業・全産業は▲9、中小企業・全産業は▲16となった。今回9月調査では、大企業・全産業は▲9、中小企業・全産業は▲19となった。大企業は改善一服だが、中小企業では「不足」が増えたかたちになった。「先行き」をみると大企業・全産業は▲10と「最近」比で「不足」超幅は1ポイント拡大、中小企業・全産業は▲22と「最近」比で3ポイント「不足」超幅が拡大する見通しである。雇用の改善基調は総じて先行き継続すると言えよう。

●資金繰り判断DIや金融機関の貸出態度判断DIは、09年6月調査以降、横ばいの時期もあったものの、概ね改善傾向が続いてきた。9月調査では、全規模・全産業で資金繰り判断DIが12で、6月調査比横這いだった。一方、全規模・全産業の金融機関の貸出態度判断DIは20で、こちらも6月調査比横這いだった。総じてみれば、金融環境は概ね良好な状況が継続していると言えよう。

●今回の短観は、全規模・全産業ベースの「最近」業況判断が1ポイント6月調査に比べ改善し、大企業・全産業の設備投資計画が2ケタの前年度比になるなど、総じて事前の見通しにくらべ足元は底堅い内容になった。目先の日銀の金融政策にとっては、どちらかと言えば現状維持の判断材料と言えそうだ。但し「先行き」に関しては中国経済をはじめとする世界経済の動向が不透明であり、企業の不安心理の高まりが確認できる内容だと言えよう。