ホームマーケット経済指標解説2016年6月分鉱工業生産指数・速報値について

2016年6月分鉱工業生産指数・速報値について

2016年7月29日

-6月分鉱工業生産指数・前月比+1.9%と2カ月ぶり増加-
-経済産業省先行き試算値は5月分・6月分と90%の確率に収まる範囲外に-
-基調判断は「生産は一進一退だが、一部に持ち直し」に10カ月ぶり上方修正-
-景気動向指数・一致CIによる景気判断6月分も「足踏み」継続か-

(鉱工業生産)

●鉱工業生産指数・6月分速報値前月比は+1.9%となった。2カ月ぶりの増加である。一方、前年同月比は▲1.9%と減少率が拡大し、3カ月連続の減少になった。5月分は、化粧品など化学工業製品の減少が目立ち中国人の爆買いが弱まった影響が懸念されたが、6月分では化粧品など化学工業製品の生産が寄与率20.7%で全業種中最高だった。米国の非農業部門雇用者数も変動が極端だったが、5月分・6月分を均してみた方がよい統計が、今年は多いようだ。

●6月分の生産を業種別にみると、15業種のうち増加が13業種、減少が1業種、横這いが1業種だった。化学工業(除.医薬品)、輸送機械工業、金属製品工業等などが増加し、石油・石炭製品工業が減少した。

●今回の製造工業生産予測調査によると、7月分前月比は+2.4%、8月分は同+2.3%の連続増加見通しである。

●経済産業省が公表している鉱工業生産指数の先行き試算値で、6月分の前月比は最頻値で+0.5%、90%の確率に収まる範囲で▲0.5%~+1.5%になる見通しだったので、6月分前月比実績の+1.9%は予想外に上振れたと言える。方向は逆だが、2カ月連続予想外の動きになった。

●鉱工業生産指数の先行き試算値で、7月分の前月比は最頻値で+0.9%、90%の確率に収まる範囲で▲0.1%~+1.9%になる見通しだ。

●先行きの鉱工業生産指数を、7月分製造工業生産予測指数前月比(+2.4%)で、8月分も予測指数、9月分横這いで延長した場合の試算値した場合、7~9月期の前期比は+4.4%の増加になる見込みだ。また7月分を先行き試算値最頻値前月比(+0.9%)、8月分は予測指数、9月分横這いで延長した場合、7~9月期の前期比は+2.9%の増加になる見込みだ。6月分の確報値がどうなるかが不透明だが、4~6月期の前期比は0.0%と横這いだったので、7~9月期の前期比がプラスになれば3四半期ぶりのことになる。

●製造工業生産予測の調査時点は為替レートの動きが少し落ち着いた7月10日なので、予測指数は英国のEU離脱による円高基調の影響などが織り込まれた数字である。今回の結果は英国のEU離脱による円高基調の影響が足元の生産にそれほど悪影響を及ぼさないと受け止められるが、予断を持つことなく見守りたい局面だ。

●6月分速報値の鉱工業出荷指数・前月比は+1.2%と2カ月ぶりの増加になった。鉱工業在庫指数は前月比0.0%と横ばいになった。鉱工業在庫率指数は116.2で前月比▲1.4%と2カ月ぶりの低下になった。

●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体での縦軸に在庫の前年比をとった在庫サイクル図をみると14年1~3月期では、出荷の前年比が+7.4%、在庫が同▲1.2%、と45度線を下回っていた。しかし、14年4~6月期では、在庫が前年同期比増加に転じ、出荷の前年比が+0.9%、在庫が同+3.1%、と45度線を上回ってしまい、在庫積み上がり局面に入った。15年10~12月期では、出荷の前年比が▲0.8%、在庫が同0.0%、と近づいたものの45度線をやや上回った。16年1~3月期でも出荷の前年比が▲2.4%、在庫が同+1.8%だった。4~6月分では、出荷の前年比が▲2.2%、在庫が同0.0%と45度線を上回ったままとなっている。

●経済産業省の基調判断は14年12月分で「総じてみれば、生産は緩やかな持ち直しの動きがみられる」に3カ月ぶりに上方修正された。15年1月分・2月分・3月分・4月分でも「総じてみれば、生産は緩やかな持ち直しの動きがみられる」で据え置きだった。しかし、5月分では「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」に11カ月ぶりに下方修正された。「一進一退」の表現は14年11月分以来6カ月ぶりだった。6月分に続き7月分でも判断は「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」に据え置かれた。8月分では14年8月分以来の「弱含み」に下方修正され、表現は「総じてみれば、生産は弱含んでいる」となった。

●その後、15年9月分では「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」と上方修正され、7月分までの判断に戻るという明るい結果になった。10月分・11月分・12月分・16年1月分・2月分・3月分・4月分に続き、前回5月分でも「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」という判断で据え置きだった。今回6月分では「総じてみれば、生産は一進一退で推移しているが、一部に持ち直しがみられる」という判断で10カ月ぶりに上方修正となった。

(4~6月期のGDP予測)

●個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の4~6月期前期比は▲1.2%の減少になった。逆に非耐久消費財出荷指数は同+0.6%の増加だ。同じく供給サイドの関連データである商業動態統計・小売業販売額指数の4~6月期前期比は+0.1%の増加だ。一方、需要サイドの関連データでは、家計調査・二人以上世帯・実質消費支出(除く住居等)の4~6月期前期比は+1.6%の増加だ。乗用車販売台数の4~6月期前期比は+5.1%の増加だ。GDP統計の実質個人消費と関連性が高い消費総合指数(月次ベース)の4~5月分平均比対1~3月分平均比は+0.4%の増加だ。予断を持つことなく見る必要はあるが、総合的に判断すると、4~6月期第1次速報値では個人消費の前期比が1~3月期のうるう年効果の反動を乗り越えてプラスの伸び率になる可能性が大きいだろう。

●設備投資の関連データである資本財出荷指数の4~6月期前期比は+4.2%の増加になった。資本財(除.輸送機械)は同+3.2%の増加である。また、建設財は同▲0.2%の減少になった。供給サイドから推計される4~6月期第1次速報値の実質設備投資・前期比はプラスの伸び率になる可能性が大きいとみられる。

●実質輸出入の動向をみると輸出の4~6月期前期比は+1.1%の増加になった。輸入は同▲1.4%の減少になっている。モノの動向だけからみると、4~6月期第1次速報値の外需はプラス寄与になりそうだ。

●8月15日に発表される4~6月期の実質GDP第1次速報値・前期比は、プラスの伸び率になる可能性が大きいだろう。

(6月分景気動向指数予測)

●6月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差+0.1程度と2カ月ぶりの上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列で、7月29日午前9時時点で数値が判明しているのは、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの8系列で、鉱工業生産財在庫率指数、消費者態度指数、中小企業売上げ見通しDIの3系列が前月差プラス寄与に、最終需要財在庫率指数新規求人数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数の5系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る新設住宅着工床面積の前月差はマイナス寄与になると予測した。

●6月分の一致CIは前月差+1.3程度と2カ月ぶりの上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列で、7月29日午前9時時点で数値が判明している、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の7系列のうち、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業の5系列が前月差プラス寄与に、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の2系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る、中小企業出荷指数1系列は前月差プラス寄与になる可能性が大きいとみた。

●一致CIを使った景気の基調判断は6月分でも、景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」の判断が継続しそうだ。

●基調判断が景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」に戻るには、「当月の前月差の符号がプラス。かつ原則として3カ月以上連続して3カ月後方移動平均が上昇する」ことが必要だ。5月分一致CIの3カ月後方移動平均前月差が速報値では+0.17だったものが確報値では▲0.03と2カ月ぶりの下降になってしまい、3カ月後方移動平均前月差の3カ月連続上昇は、6月分をスタートとして、いちからやり直しになる。なお、6月分が予測通りで過去の数字が変わらないとすると、7月分の前月差が+0.9、8月分が同+0.1となれば、10月7日発表の8月分で「改善」に戻ることができる。

●一方、景気の基調判断が「下方への局面変化」に悪化するには、「当月の前月差の符号がマイナス。かつ7カ月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1カ月、2カ月、または3カ月の累積)が1標準偏差分(0.84)以上」であることが必要だ。4月分一致CIの7カ月後方移動平均前月差はプラスだ。このため、万一、6月分の一致CI前月差が予測に反し逆符号の▲1.3になったとしても、7カ月後方移動平均前月差2カ月の累積が▲0.84以上になることはなく、景気の基調判断の下方修正はない。

●6月分の先行DIは88.9%程度で2カ月連続して景気の分岐点である50%超になると予測する。4月分は50.0%であり、景気の先行きの明るさを示唆する統計と言えそうだ。速報値からデータが利用可能な9系列中、7月29日午前9時時点で数値が判明しているのは8系列で、そのうち最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、中小企業売上げ見通しDIの7系列が前月差プラス符号に、東証株価指数1系列がマイナス符号になることが判明している。先行DIは77.8%以上88.9以下が既に確定している。残る、新設住宅着工床面積はプラス符号になると予測する。

●6月分の一致DIは62.5%程度になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列で、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、有効求人倍率の4系列がプラス符号に、生産指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業の3系列がマイナス符号になることが判明している。一致DIは50.0%以上62.5%以下が既に確定している。残る、中小企業出荷指数はプラス符号になると予測する。