ホームマーケット経済指標解説2016年6月調査 日銀短観・企業の物価見通し

2016年6月調査 日銀短観・企業の物価見通し

2016年7月4日

―不透明な経済環境の下、総じてみると、企業の景況感はやや下振れ―
―大企業・製造業・業況判断DIは横這い―
―GDPの概念に近いベースの全産業・全規模の設備投資は16年度+4.3%で底堅い―
―物価全般見通し平均は3月調査と比べ、3年後で変わらなかったが1年後と5年後で低下―

●6月調査日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIは6月調査と同水準の+6となった。大企業・製造業の業況判断DIは鉱工業生産指数の動きと相関性が高く、鉱工業生産指数の前期比が概ね横這い圏であることと整合的な結果になった。

●新興国の景気減速や円高の進展などで輸出・生産にマイナスの影響が出ている。このため2ケタのプラスにはならないが、13期連続で「良い」超を意味するプラスを維持できたことで、底堅さも確認できたと言えよう。但し、想定為替レートが111円41銭であることから、調査機関の最終局面で生じた英国国民投票でのEU離脱決定にともなう円高の影響はほとんど含まれてはいないようだ。内訳をみると、素材業種は3月調査から3ポイント改善し+6になった。加工業種は3月調査から1ポイント悪化し+6になった。3月調査で12月調査の0から▲22まで急落した中国景気減速の影響を大きく受けたとみられる鉄鋼は中国景気の落ち着きもあり6月調査では▲12と3月調査から幅がプラス10ポイントとなった。

●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は15年6月調査・9月調査・12月調査とも7%だったが、円高急進などがあった16年3月調査で10%に上昇した。今回6月調査でも10%だった。

●今回6月調査の調査期間は5月30日~6月30日である。

●6月調査の大企業・製造業の業況判断DI+6は3月調査の「先行き」見通しが+3に悪化するとみていたのに対し、3ポイント上回る数字になった。足元の景況感が予測よりやや良かったということになる。

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、15年9月調査・12月調査は+25と91年11月調査の+33以来約24年ぶりの高水準だったが、16年3月調査で+22と3ポイント低下し、6月調査で+19とまた3ポイント低下した。しかし、依然+20前後の2ケタのプラスを維持した。

●6月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは20期連続のプラスである。これは、最近は中国人の爆買いの動きが鈍化するなどの要因からやや悪化したものの、内需の底堅さを反映したしっかりした動きが続いていることを示唆していよう。

●6月調査の大企業・非製造業・業況判断DI+19は、12月調査の「先行き」+17を2ポイント上回る数字で、景況感が思ったより良かったことを示唆している。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は15年6月調査・9月調査・12月調査で同じ4%であったが、16年3月調査では1ポイント上昇し5%に、今回の6月調査でも1ポイント上昇し6%と、じりじりと悪化している。

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+6と「最近」の+6と同水準のDIが見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では10%だが、「先行き」では4ポイント減って6%になる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では16%、「先行き」では12%で変化幅が4ポイント減だ。このため「さほど良くない」と答えた割合は「最近」では74%だが「先行き」では82%へと変化幅が8ポイント増加している。依然、世界経済の先行きに対する様々な不安感が広がっていることが感じられる内容だ。

●大企業・非製造業では「先行き」は+17と「最近」の+19から2ポイントの悪化が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では6%だが、「先行き」では2ポイント減って4%になる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では25%、「先行き」では21%、変化幅が4ポイント減だ。このためDIは悪化見通しになる。但し、非製造業では「先行き」見通しがかなり悪化するパターンはよくある現象だ。

●中小企業・製造業の業況判断DIは3月調査で▲4と6四半期ぶりにマイナスになったあと6月調査では▲5と1ポイント悪化した。なお、6月調査の「最近」▲5は3月調査の「先行き」見通しが▲6に悪化するとみていたのに対し、1ポイント上回る数字になった。足元の景況感が予測よりやや良かったという結果になった。

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになった。今回6月調査で0と3月調査より4ポイント低下したものの11四半期連続マイナスになっていない。3月調査時点の「先行き」▲3を3ポイント上回った。予測よりは良かったということになる。雇用吸収力がある業種が多い非製造業のDIが久し振りにプラスまたはゼロ継続となっていることは、5月分の有効求人倍率が1.36倍と24年7カ月ぶりの高水準になっていることと整合的だろう。

●中小企業・製造業の「先行き」業況判断は▲7と「最近」▲5から2ポイント悪化する見通しである。また、中小企業・非製造業は▲4と「最近」より4ポイントの悪化見通しである。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回9月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性が大きいのではないかとみられる。

●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。消費税率引き上げ直前の14年3月調査では91年11月の+12以来の水準である+12まで改善していた。消費税率引き上げにより悪化し14年9月調査で+4になっていたが、その後横這いを含みつつ改善し15年9月調査で+8、12月調査で+9と2期連続改善した。しかし、前回3月調査で+7と2ポイント低下、今回6月調査で+4と3ポイント低下した。なお、全規模・全産業という全体の景況感は13期連続してプラスの水準だ。景気が底堅いことを示唆する数字だろう。

●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+2と、「最近」+4から2ポイント悪化する見通しである。企業の景気の先行きには不透明感が強いことを示唆していよう。

●今回6月調査では、2016年度の想定為替レートは1ドル=111円41銭と3月調査の1ドル=117円46銭から円高方向になったものの、6月末の水準が1ドル=103円程度となっている。その分収益見通しなどは実際は下振れる可能性があろう。1ドル=103円は、内閣府の1月時点の調査での輸出企業の採算為替レートである。

●大企業・製造業の仕入れ価格DIは6月調査では▲2になった。3月調査の▲8から6ポイント上昇しマイナス幅が縮小した。最近の国際商品市況の前月比での上昇などを反映していよう。大企業・非製造業の仕入れ価格DIは6月調査では+8で3月調査の+5から3ポイント上昇した。また6月調査の中小企業・製造業の仕入れ価格DIは+7で3月調査と同じだった。中小企業・非製造業の仕入れ価格DIは6月調査では+13で3月調査の+9から4ポイント上昇した。

●6月調査の販売価格判断DIは、大企業・製造業では▲12と3月調査の▲15からは3ポイント上昇した。大企業・非製造業では0で3月調査▲1からは1ポイント上昇した。中小企業・製造業では▲12で3月調査の▲11からは1ポイント低下した。中小企業・非製造業では6月調査では▲7と3月調査と同じだった。4つのカテゴリーで仕入れ価格DIは上昇したが、販売価格判断DIはまちまちで、企業収益に及ぼす影響は4つのカテゴリーごとに異なっているとみられる。

●6月調査の2016年度の大企業・全産業の設備投資計画は前年度比+6.2%になった。製造業は+12.8%の伸び率で、非製造業が+2.7%の伸び率である。過去30年間の平均では製造業が+5.7%、非製造業が+2.0%であることからみると、まずまずの結果と言えそうだ。2016年度の中小企業・全産業の設備投資計画は前年度比▲14.9%になった。製造業は▲17.8%で、非製造業が▲13.5%のマイナスの伸び率である。過去30年間の平均では製造業が▲12.7%、非製造業が▲15.3%であることからみると、こちらは製造業が15年度に+11.5%伸びた反動もあり弱い数字だが非製造業はまずまずと言えそうだ。中小企業の設備投資計画は例年3月調査が弱く、その後は調査の度に改善していく傾向がある。6月調査の2016年度の全規模・全産業の設備投資計画は前年度比+0.4%になった。

●一方、GDPの設備投資の概念に近いソフトウェアを含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資は2015年度は前年度比+3.9%の実績となった。2016年度の計画は前年度比 +4.3%の伸び率で比較的底堅い計画になっていると言えよう。

●資金繰り判断DIや金融機関の貸出態度判断DIは、09年6月調査以降、横ばいの時期もあったものの、概ね改善傾向が続いてきた。6月調査では、全規模・全産業で資金繰り判断DIが14で、前回3月調査から1ポイント「楽である」超になった。一方、全規模・全産業の金融機関の貸出態度判断DIは23で、こちらは3月調査と同じ「緩い」超幅であった。総じてみれば、金融環境は良好な状況になっていると言えよう。

●7月4日に発表された「企業の物価見通し」によると、全規模・全産業ベースの販売価格見通しの平均は、1年後が+0.2%と3月調査から0.1ポイント低下した。3年後と5年後の販売価格見通しの平均はともに0.2ポイント低下し、各々、+0.8%、+1.1%になった。

●全規模・全産業ベースの物価全般の見通し平均は、1年後が+0.7%と3月調査から0.1ポイント低下した。3年後の物価全般の見通し平均は3月調査と同じ+1.1%、5年後の物価全般の見通し平均は0.1ポイント低下し、+1.1%になった。

●この調査が始まった2年3カ月前と比べると、全規模・全産業ベースの物価全般の見通し平均は、1年後が0.8ポイント低下した。3年後は0.6ポイント低下、5年後が0.6ポイント低下になった。日銀の超緩和的な金融緩和政策が実施されてきたにもかかわらず、原油価格の大幅低下、足元の円高の動きなどもあり、企業の予想インフレ率は低下傾向であることを示唆する結果となっている。マーケットで一段の金融緩和への期待が高まる内容であろう。

●今回の短観は、全規模・全産業ベースの「最近」業況判断が3月調査に比べ3ポイント低下し、+4になり、「先行き」が+2に低下するなど、不透明な経済環境の下、企業の景況感がやや下振れていることを示唆する結果になった。しかし、DIがプラス圏を維持していること、6月調査の「最近」業況判断は3月調査の「先行き」見通し+1にくらべ3ポイント上振れ、事前の予想よりは良かったことなど、底堅さも感じられる。