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2017年9月調査 日銀短観

2017年10月2日

―大企業・製造業・業況判断DI+22は4四半期連続改善、10年ぶりの高水準―
―中小企業・製造業・業況判断DI+10は、06年12月以来10年9カ月ぶりの2ケタ高水準―
―雇用判断DI・大企業・全産業▲18で92年2月調査の▲24以来25年7カ月ぶりの水準―
―雇用判断DI・中小企業・全産業▲32。こちらも92年2月調査の▲32以来の水準―
―「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベース全産業・全規模の設備投資」の17年度+6.7%―

●9月調査日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが+22と6月調査の+17から5ポイント上昇した。大企業・製造業・業況判断DI+22は「いざなみ景気」の07年9月調査以来の水準である。

●大企業・製造業の業況判断DIは18期連続で「良い」超のプラスとなった。前期から改善するのは4期連続だ。関連データのロイター短観やQUICK短観の前期比の動向を大きく上回る変化となった。9月後半にかけてドル円レートが円安方向に変化したことなどが影響したのであろう。景況感が上向きの動きが続いていることを示す内容となった。

●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は16年3月調査・6月調査とも10%だった。9月調査で9%、12月調査と17年3月調査は7%に低下し、前回17年6月調査は5%と前年同期の半分になっていた。今回17年6月調査も5%だった。
 
●なお、「悪い」と答えた割合は「最近」では5%だが、「先行き」では2ポイントだけ減って3%になる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では27%、「先行き」では22%で変化幅が5ポイント減だ。

●9月調査の調査期間は8月29日~9月29日である。
 
●9月調査の大企業・製造業の業況判断DI+22は6月調査の「先行き」見通し+15より7ポイント改善した。足元の景況感が予測よりかなり良かったということになる。

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+19と「最近」の+22から3ポイント低下が見込まれている。9月調査の17年度下期想定為替レートは109円12銭と上期の109円46銭より若干円高に、また足元の実際の為替の動き(10月2日9時1ドル=112円69銭)より円高に置いている。このため、17年度下期企業の経常利益の見通しも弱含みになっている。こうしたところに、企業の慎重な見方が感じられる結果となった。
 
●「先行き」業況判断DIの内訳をみると、素材業種が「最近」より7ポイント低下、加工業種が「最近」より2ポイント低下となっている。

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、15年9月調査・12月調査は+25と91年11月調査の+33以来約24年ぶりの高水準だったが、16年9月調査・12月調査で+18まで低下したのち17年3月調査では+20と2ポイント改善した。前回6月調査では+23と3ポイント改善した。今回9月調査は横這いの+23だった。

●9月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは25期連続のプラスである。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は16年6月調査・9月調査・12月調査で6%だったが、17年3月調査で5%に低下、前回6月調査で3%となった。しかし、今回9月調査では1ポイント上昇し4%になった。
 
●大企業・非製造業では「先行き」は+19と「最近」の+23から4ポイントの悪化が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では4%だが、「先行き」は3%である。何か大きな悪材料があってDIの悪化が見込まれているわけではないことがわかる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では27%、「先行き」では22%で変化幅が5ポイント減だ。先行きの不透明感からDIは悪化する見通しになっていることがわかる。

●中小企業・製造業の業況判断DIは16年9月調査で▲3と3四半期連続マイナスになったあと12月調査では+1とプラスに転じ、今回17年9月調査で+10と6月調査より3ポイント改善し4期連続プラスになった。+10は06年12月調査+10以来の水準である。なお、9月調査の「最近」+10は6月調査の「先行き」見通しが+6になるとみていたのに対し、4ポイント上回る数字になった。足元の景況感が予測より改善するという結果になった。

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになった。今回17年9月調査では6月調査の+7から1ポイント改善し+8となり、16期連続でマイナスになっていない。6月調査時点の「先行き」+2を6ポイント上回った。予測よりは良かったということになる。+8は消費税引き上げ直前の駆け込み需要が出た14年3月調査+8以来の水準である。

●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は+8と「最近」+10から2ポイントだけ悪化する見通しである。先行きに関し比較的底堅い見方をしている。また、中小企業・非製造業は+4と「最近」より4ポイントの悪化見通しであるもののプラスの数字になった。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回12月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性が大きいのではないかとみられる。

●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。その後は消費税率引き上げによるもたつきなど様々な動きがあったが緩やかに改善している。今回17年9月調査では+15で17年6月調査より3ポイント改善した。全規模・全産業という全体の景況感は18期連続してプラスの水準だ。景気が底堅いことを示唆する数字だろう。

●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+11と、「最近」+15から4ポイント悪化する見通しである。全体としてみた、企業の景気の先行きには不透明感が強いことを示唆していよう。

●17年度の売上高計画は、大企業・中小企業、製造業・非製造業の、組み合わせ6つすべてのカテゴリーで増加になっており、明るい数字と言えよう。但し、下期の売上高計画は中小企業・非製造業で慎重なものになっている。

●雇用判断DI(「過剰」-「不足」)は人手不足感が一段と強まってきていることを示唆する数字となった。大企業・全産業では▲18で6月調査の▲16より2ポイント不足超が拡大した。92年2月調査の▲24以来25年7カ月ぶりの水準である。一方、中小企業・全産業では▲32で6月調査の▲27より5ポイント不足超が拡大した。こちらも92年2月調査の▲32以来25年7カ月ぶりの水準である。

●17年9月調査の17年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+7.7%。一方、17年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲14.1%だった。17年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は+4.6%になった。

●一方、研究開発投資額は、2017年度計画・前年度比は製造業・非製造業と大企業・中堅企業・中小企業を掛け合わせた6カテゴリー全てで増加となっている。

●このためGDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2017年度計画・前年度比は、大企業・全産業で+7.5%。一方、17年度の中小企業・全産業で▲7.9%だった。17年度の全規模・全産業では+6.7%になった。

●「上昇」-「下降」の割合を示す、販売価格判断DIは17年3月調査では、大企業・中小企業、製造業・(うち素材業種)・(うち加工業種)・非製造業の、企業規模・業種8つのカテゴリーで、全てで「上昇」超幅が拡大していたが、前回6月調査では、拡大したものが5つ、縮小したものが1つ、変わらないものが2つと、8つ全てが縮小した3月調査に比べ、一服感が感じられる内容だった。今回9月調査では、拡大したものが4つ、縮小したものが1つ、変わらないものが3つと、引き続き一服感が感じられる内容だった。

●明日10月3日に発表される「企業の物価見通し」の内容が注目される。

●オールジャパンのエコノミストを対象にする「ESPフォーキャスト調査」の8月調査・特別調査として、「半年から1年先に景気上昇を抑えるかもしれない要因」を3つまでの複数回答で答えてもらった。最も多かったのは、「中国景気の悪化」で、同質問に答えた42名中、27名が答えた。次いで「円高」22名、「米国景気の悪化」17名、「国際関係の緊張や軍事衝突」と「IT部門(電子部品など)の悪化」の各々15名が続いた。最近では世界の政治や国際関係の緊張などで市場が混乱するたび、円が逃避通貨として買われることが多いことも「円高」が懸念材料として2番目に挙げられているようだ。「国内政治の不安定化」は9名と一桁にとどまるなど、国内要因の懸念材料を挙げたエコノミストは少なかった。

●今回の日銀短観では、6月調査に続いて、企業の景況感の堅調さが感じられる一方、企業の先行きへの見方は海外要因の不透明さを考慮すると、どうしても慎重にならざるをえないことも同時に示された内容と言えよう。