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2017年12月調査 日銀短観

2017年12月15日

―大企業・製造業・業況判断DI+25は5四半期連続改善、11年ぶりの高水準―
―中小企業・製造業・業況判断DI+15は91年8月(+20)以来26年4カ月ぶりの水準―
―世界景気拡大に伴う輸出増や円安による収益環境の改善が景況感を押し上げ―
―「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベース全産業・全規模の設備投資」の17年度+7.5%―

●12月調査日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが+25と9月調査の+22から3ポイント上昇した。大企業・製造業・業況判断DI+25は「いざなみ景気」の06年12月調査以来11年ぶりの水準である。

●大企業・製造業の業況判断DIは19期連続で「良い」超のプラスとなった。前期から改善するのは5四半期連続だ。為替相場の安定と世界景気の拡大を背景に輸出企業が好調だったことや、商品市況の回復による非鉄金属、鉄鋼、化学などの業種の景況改善などが影響したのであろう。戦後2番目の長さになる景気拡張が続く中、全体として景況感が上向いている動きを示す内容となった。

●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は16年3月調査・6月調査とも10%だったが9月調査で9%、12月調査と17年3月調査で7%に、6月調査・9月調査で5%に低下し、今回17年12月調査で4%になった。

●なお、「悪い」と答えた割合は「最近」では4%だが、「先行き」でも変わらず4%だ。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では29%、「先行き」では23%で変化幅が6ポイント減だ。

●12月調査の調査期間は11月14日~12月14日である。

●12月調査の大企業・製造業の業況判断DI+25は9月調査の「先行き」見通し+19より6ポイント改善した。足元の景況感が予測よりかなり良かったということになる。 

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+19と「最近」の+25から6ポイント低下が見込まれている。12月調査の17年度下期想定為替レートは109円66銭と上期の110円69銭より若干円高に、また足元の実際の為替の動き(12月15日9時1ドル=112円38銭)より円高に置いている。このため、17年度下期企業の経常利益の見通しも弱含みになっている。また、北朝鮮情勢など国際関係の緊張への不安も高まっていることもあり、先行きに対する、企業の慎重な見方が感じられる結果となった。 

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、15年9月調査・12月調査は+25と91年11月調査の+33以来約24年ぶりの高水準だったが、16年9月調査・12月調査で+18まで低下したのち17年3月調査では+20と2ポイント改善した。前々回6月調査では+23と3ポイント改善した。前回9月調査・今回12月調査はともに+23で、3四半期連続同水準になった。 

●12月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは26期連続のプラスである。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は16年6月調査・9月調査・12月調査で6%だったが、17年3月調査で5%に低下、6月調査で3%となった。しかし、前回9月調査では1ポイント上昇し4%に、今回12月調査でも1ポイント上昇し5%なった。2回連続の上昇は気懸かりな点だ。 

●大企業・非製造業では「先行き」は+20と「最近」の+23から3ポイントの悪化が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では5%だが、「先行き」は4%である。何か大きな悪材料があってDIの悪化が見込まれているわけではないことがわかる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では28%、「先行き」では24%で変化幅が4ポイント減だ。先行きの不透明感からDIは悪化する見通しになっていることがわかる。
 
●中小企業・製造業の業況判断DIは16年9月調査で▲3と3四半期連続マイナスになったあと12月調査では+1とプラスに転じ、今回17年12月調査で+15と9月調査より5ポイント改善し5期連続プラスになった。+15は91年8月調査+20以来の水準である。なお、12月調査の「最近」+15は9月調査の「先行き」見通しが+8になるとみていたのに対し、7ポイント上回る数字になった。足元の景況感が予測より大きく改善するという結果になった。

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになっていた。今回17年12月調査では9月調査の+8から1ポイント改善し+9となり、17期連続でマイナスになっていない。9月調査時点の「先行き」+4を5ポイント上回った。予測よりは良かったということになる。+9は91年11月調査+8以来26年1カ月ぶりの水準である。
 
●但し、業種ごとに見ると、小売が12月調査で▲11と9月調査の▲5より悪化しているのは気懸かりだ。台風の影響による来店客の減少、人手不足などによるコスト増など様々な要因が考えられよう。
 
●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は+11と「最近」+15から4ポイント悪化する見通しである。また、中小企業・非製造業は+5とこちらも「最近」より4ポイントの悪化見通しであるもののプラスの数字になった。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回3月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性が大きいのではないかとみられる。
 
●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。その後は消費税率引き上げによるもたつきなど様々な動きがあったが緩やかに改善している。今回17年12月調査では+16で17年9月調査より1ポイント改善した。9・10月の台風の影響などが大きかったものの、それを跳ね返しての改善だ。全規模・全産業という全体の景況感は18期連続してプラスの水準だ。景気が底堅いことを示唆する数字だろう。
 
●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+11と、「最近」+16から5ポイント悪化する見通しである。全体としてみた、企業の景気の先行きには不透明感が強いことを示唆していよう。
 
●17年度の売上高計画は、大企業・中堅企業・中小企業、製造業・非製造業の、組み合わせ6つすべてのカテゴリーで増加になっており、明るい数字と言えよう。但し、下期の売上高計画は中小企業・非製造業前年同期比+0.2%の微増と慎重なものになっている。
 
●雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は人手不足感が一段と強まってきていることを示唆する数字となった。大企業・全産業では▲19で9月調査の▲18より1ポイント不足超が拡大した。92年2月調査の▲24以来25年10カ月ぶりの水準である。一方、中小企業・全産業では▲34で9月調査の▲32より2ポイント不足超が拡大した。こちらは91年11月調査の▲38以来26年1カ月ぶりの水準である。バブル景気の「山」直後の人手不足感になっていることがわかる。

●17年12月調査の17年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+7.4%。一方、17年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲6.4%だった。17年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は+6.3%になった。
 
●一方、研究開発投資額は、2017年度計画・前年度比は製造業・非製造業と大企業・中堅企業・中小企業を掛け合わせた6カテゴリー全てで増加となっている。

●このためGDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2017年度計画・前年度比は、大企業・全産業で+7.4%。一方、17年度の中小企業・全産業で▲2.5%だった。17年度の全規模・全産業では+7.5%になった。
 
●「上昇」-「下降」の割合を示す、販売価格判断DIは17年9月調査では、大企業・中小企業、製造業・(うち素材業種)・(うち加工業種)・非製造業の、企業規模・業種8つのカテゴリーで、前回からの変化幅で見て、拡大したものが4つ、縮小したものが1つ、変わらないものが3つで一服感が感じられる内容だったが、今回12月調査では、拡大したものが6つ、変わらないものが製造業加工業種の大企業・中小企業の2つだった。緩やかながら物価上昇圧力が出てきている感じがする内容だと思われる。なお、仕入れ価格判断DIは17年12月調査では、企業規模・業種8つのカテゴリ全てで前回からの変化幅が全て拡大している。コスト増の影響は着実に表れているので、いかに販売価格に転嫁できるかどうかが注目される局面だ。
 
●12月18日に発表される「企業の物価見通し」の内容が注目される。
 
●今回の日銀短観では、引き続き企業の景況感の堅調さが感じられる一方、企業の先行きへの見方は海外要因の不透明さや、人件費の増加、仕入れ価格の販売価格への転嫁の問題などを考慮すると、どうしても慎重にならざるをえないことも同時に示された内容と言えよう。