ホームマーケット経済指標解説2018年6月分鉱工業生産指数・速報値について

2018年6月分鉱工業生産指数・速報値について

2018年7月31日

-6月分鉱工業生産指数前月比▲2.1%2カ月連続減少。前年比は20カ月ぶり減少-
-納期の後ろ倒しが生じた、半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置などの想定外の低下が響く-
-4~6月期鉱工業生産指数は前期比+1.2%で2四半期ぶり前期比増加-
-6月分景気動向指数一致CI前月差連続下降も、判断は21カ月連続「改善」に-

(鉱工業生産)

●鉱工業生産指数・6月分速報値・前月比は▲2.1%と2カ月連続の減少になった。2010年を100とした季節調整値の水準は102.2である。一方、前年同月比は▲1.2%で20カ月ぶりの減少になった。

●鉱工業生産指数の先行き試算値では、6月分の前月比は最頻値で▲0.1%、90%の確率に収まる範囲で▲1.1%~+0.9%となっていた。前月比▲2.1%は、先行き試算値90%の確率に収まる範囲の下限を1ポイント下回る数字である。

●6月分速報値の生産指数をみると、電子部品・デバイス工業、鉄鋼業、輸送機械工業の3業種だけが前月比増加、はん用・生産用・業務用機械工業、化学工業(除.医薬品)、金属製品工業等の12業種が前月比減少となった。

●6月分の「はん用・生産用・業務用機械工業」は、生産予測調査の「汎用・業務用機械工業」、「生産用機械工業」ともに前月比プラス計画と当初は増加見込みだったが、それが最も減少寄与の大きくなったことについて経済産業省がHP上で以下の通り、分析している。

●「想定外に生産が低下したのが、まさに「はん用・生産用・業務用機械工業」だったということになります。6月の計画上では、生産のけん引役であった半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置などの想定外の生産低下が響いたということになります。これらの品目については、大きな納期の後ろ倒しが生じていたようです(7月、8月と生産計画が前月比で連続プラスとなっている)」

●6月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比▲0.2%と生産に比べると小幅ながら2カ月連続で減少した。前年同月比は▲0.7になり、20カ月ぶりにマイナスとなった。

●6月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比▲1.8%で2カ月ぶりに前月比減少となった。鉱工業在庫指数の前年同月比は+2.5%と9カ月連続の増加となった。

●6月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比+2.4%で2カ月連続前月比上昇となった。業種別にみると、電子部品・デバイス工業の在庫率指数が前月比+7.2%と大幅に上昇し152.0になったことは、最近のスマホ需要が一服していることの影響ではないかと懸念される。但し、IoT等の新たな需要などのプラス面もあるので今後の動向を注視したい。また、同じく在庫調整局面にある化学工業(除、医薬品)の在庫率指数は前月比+8.9%と2カ月ぶりに上昇している。

●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体で縦軸に在庫の前年比を、横軸に出荷の前年比をとった在庫サイクル図をみると、17年1~3月期では出荷の前年比が+3.6%、在庫が同▲4.0%と、1~3月期まで生産が増加しやすい「意図せざる在庫減局面」に入っていた。17年4~6月期では出荷の前年比が+5.2%、在庫が同▲2.8%になり、在庫サイクル図からみて、「在庫積み増し局面」に入った。17年7~9月期では出荷の前年比が+3.8%、在庫が同▲2.5%だった。17年10~12月期では出荷の前年比が+3.1%、在庫が同+1.9%と「在庫積み増し局面」だった。

●18年1~3月期では出荷の前年比が+1.5%、在庫が同+3.9%と「在庫積み上がり局面」に入っていたが、18年4~6月期も出荷の前年比が+2.0%、在庫が同+2.5%と、「在庫積み増し局面」に戻れずに「在庫積み上がり局面」のままになった。

●鉱工業生産指数の先行き試算値でみると、7月分の前月比は最頻値で+0.2%。90%の確率に収まる範囲で▲0.8%~+1.2%となっている。

●先行きの鉱工業生産指数7月分を先行き試算値最頻値前月比(+0.2%)で、8月分を前月比(+3.8%:製造工業予測指数の前月比)で延長し、9月分を前月比0.0%とした場合は、7~9月期の前期比は+1.3%になる。

●また、先行きの鉱工業生産指数7月分と8月分を製造工業予測指数の前月比(+2.7%、+3.8%)で延長し、9月分を前月比0.0%とした場合は、7~9月期の前期比は+3.9%になる。2ケースとも7~9月期の生産は2四半期連続の前期比増加になることを示唆している数字だろう。

●なお、先行きの生産動向の懸念材料として、トランプ大統領が保護主義的な政策を打ち出していることや、夏場の豪雨、台風などの天候要因などが指摘されよう。

●経済産業省の基調判断は16年11月分では前月までの表現から「緩やかな」がとれて「総じてみれば、生産は持ち直しの動きがみられる」という判断に上方修正された。16年12月分~17年10月分でも「総じてみれば、生産は持ち直しの動きがみられる」という同じ判断になっていた。17年11月分では「生産は持ち直している」に12カ月ぶりに判断が上方修正された。17年12月分でも2カ月連続同じ判断だった。

●しかし、18年1月分では「生産は緩やかに持ち直している」に判断が下方修正された。基調判断の引き下げは、15年8月に前月の「一進一退」から「弱含み」に判断が下方修正されて以来、2年5カ月ぶりのことだった。

●18年2月分以降、今回6月分までは、「生産は緩やかに持ち直している」という判断が継続となっている。

(6月分景気動向指数予測)

●6月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差▲1.8程度と3カ月ぶりの下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列で、新規求人数、マネーストックの2系列が前月差プラス寄与に、最終需要財在庫率指数が前月差寄与ゼロに、鉱工業生産財在庫率指数、住宅着工床面積、消費者態度指数、日経商品指数、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの6系列が前月差マイナス寄与になると予測した。

●6月分の一致CIは前月差▲0.5程度と2カ月連続の下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な7系列中、耐久消費財出荷指数、商業販売額指数・小売業、有効求人倍率の3系列がプラス寄与に、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・卸売業の4系列が前月差マイナス寄与になると予測した。

●景気動向指数を使った基調判断は、16年10月分でそれまでの「足踏みを示している」から「改善を示している」に上方修正された。その後16年11月分~18年5月分まで同じ最高の基調判断で推移してきている。6月分の一致CI前月差は下降とみるが、一致CIの3カ月後方移動平均の前月差は+0.10程度と3カ月連続の上昇になると予測する。このため21カ月連続して「改善を示している」という同じ判断が続くことになろう。景気の基調はしっかりしているとみられる。

●6月分の先行DIは44.4%程度と3カ月ぶりに50%を下回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、最終需要財在庫率指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数の4系列がプラス符号に、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、新設住宅着工床面積、消費者態度指数、中小企業売上げ見通しDIの5系列がマイナス符号になると予測した。

●6月分の一致DIは57.1%程度と予測する。3カ月連続して景気判断の分岐点の50%を上回ることになろう。速報値からデータが利用可能な7系列中、鉱工業生産財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の4系列がプラス符号に、生産指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数の3系列がマイナス符号になると予測した。