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2019年3月調査 日銀短観

2019年4月1日

―大企業・製造業・業況判断DI+12で2期ぶり悪化。非製造業は+21で2期ぶり悪化。―
―中小企業・製造業・業況判断DI+6で2期ぶり悪化。一方、非製造業は+12で改善―
―19年度ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベース全産業・全規模の設備投資+0.4%―

●3月調査日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが+12と12月調査の+19から悪化となった。悪化は2期ぶりである。悪化幅は2012年12月調査以来、25期ぶりの大きさとなった。この結果は関連データのQUICK短観やロイター短観の悪化から事前に予測した+11とほぼ同じ、予想通りの結果となった。中国景気の減速などで足元の輸出や生産が弱含んでいることが影響したとみられる。先行き判断は4ポイント悪化の+8とみており、先行き不安は引き続き根強いことがわかる。但し、13年6月調査以降24期連続して「良い」超のプラスであり、景況感の底堅さが継続していることを示唆する数字であるとも言えよう。

 
●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は16年3月調査・6月調査とも10%だったが9月調査で9%、12月調査と17年3月調査で7%に、6月調査・9月調査で5%に低下し、17年12月調査で4%まで低下した。しかし、18年3月調査・6月調査で5%に戻り、9月調査・12月調査では6%になった。今回19年3月調査では8%に悪化した。

●なお、「悪い」と答えた割合は「最近」では8%だが、「先行き」では7%だ。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では20%、「先行き」では15%で、こちらは変化幅が5ポイント減だ。先行き不透明感から「さほど良くない」に変えた企業が多いことがわかる。


 

●3月調査の調査期間は2月25日~3月29日である。

●3月調査の大企業・製造業の業況判断DI+12は12月調査の「先行き」見通し+15より3ポイント悪化した。足元の景況感が予測より悪かったということになる。

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+8と「最近」の+12から4ポイントの悪化が見込まれている。3月調査の19年度下期想定為替レートは108円97銭で、足元の実際の為替の動き(4月1日朝:1ドル=111円前後)より円高水準に置いている。このため、為替レートの今後の動向次第では業況判断DIが上振れることも予想される。

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、17年12月調査は15年9月調査・12月調査と並ぶ+25で91年11月調査の+33以来の高水準だったが、18年3月調査で+23と2ポイント低下した。6月調査+24、9月調査+22、前回12月調査+24、今回19年3月調査で+21と一進一退が続いている。

●19年3月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは31期連続のプラスである。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は17年9月調査・12月調査・18年3月調査・6月調査で4%だったが、9月調査で1ポイント上昇し5%になった。前回12月調査では1ポイント低下し再び4%になったが、今回19年3月調査で5%に戻った。

●大企業・非製造業では「先行き」は+20と「最近」の+21より1ポイント低下が見込まれている。但し、「悪い」と答えた割合は「先行き」は4%で「最近」から1ポイント低下している。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では26%、「先行き」では24%で変化幅が2ポイント減だ。先行きの不透明さが「先行き」悪化の要因であることがわかる。

●中小企業・製造業の業況判断DIは16年9月調査で▲3と3四半期連続マイナスになったあと16年12月調査では+1とプラスに転じ、17年12月調査で+15と9月調査より5ポイント改善した。+15は91年8月調査+20以来の水準である。18年3月調査でも+15で変わらなかったが、6月調査で+14とやや低下し、9月調査でも、前回12月調査でも+14と同水準であった。今回19年3月調査では8ポイント悪化し+6になった。3月調査の「最近」+6は12月調査の「先行き」見通しが+8になるとみていたのに対し、2ポイント下回った。足元の景況感が予測より悪化したという結果である。

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになっていた。18年3月調査では17年12月調査の+9から1ポイント改善し91年11月調査+13以来26年4カ月ぶりの水準である+10となったが、6月調査では+8に低下した。そこをボトムに9月調査では+10と再び2ケタのプラスに戻り、前回12月調査では+11になった。今回19年3月調査では+12と2期連続改善した。これで22期連続マイナスになっていない。+12は12月調査時点の「先行き」+5を7ポイント上回る水準で、予測よりはかなり良かったということになる。内需の底堅さや、雇用吸収力のある業種の底堅さを示唆する結果であろう。

●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は▲2と「最近」+6から8ポイント悪化し11期ぶりにマイナスに転じる見通しである。また、中小企業・非製造業は+5とこちらは「最近」+12より7ポイントの悪化見通しであるもののプラスの数字になった。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回6月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性が大きいとみられる。

●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。その後は消費税率引き上げによるもたつきなど様々な動きがあったが緩やかに改善し18年3月調査では+17になった。しかし、6月調査では+16、9月調査では+15と1ポイントずつ悪化していたが、前回12月調査で+16に1ポイント改善した。しかし、今回19年3月調査では+12に悪化した。しかし、全規模・全産業という全体の景況感は23期連続してプラスの水準だ。景気が底堅いことを示唆する数字だろう。

●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+7と、「最近」+12から5ポイント悪化する見通しである。全体としてみた、企業の景気の先行きには不透明感が強いことを示唆していよう。

●18年度の売上高計画は、12月調査に続いて、大企業・中堅企業・中小企業、製造業・非製造業の、組み合わせ6つのすべてのカテゴリーで増加率がプラスになったことは明るい数字と言えよう。19年度の売上高計画は、大企業・中堅企業・中小企業、製造業・非製造業の、組み合わせ6つのすべてのカテゴリーで中小企業・非製造業を除いて5つのカテゴリーで増加率がプラスになっている。

●雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は人手不足感が強いを示唆する数字となった。18年9月調査で大企業・全産業の雇用人員判断DIは▲23で92年2月調査の▲24以来26年7カ月ぶりの水準になった。前回12月調査も▲23、今回19年3月調査も▲23である。中小企業・全産業は前回18年12月調査で▲39と91年8月調査の▲40以来27年4カ月ぶりの水準をつけた。今回19年3月調査も▲39である。バブル景気の「山」直後の人手不足感である。

●19年3月調査の18年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+13.9%。一方、18年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲0.7%だった。18年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は+10.4%になった。

●また、GDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2018年度計画・前年度比は、大企業・全産業で+10.0%。一方、18年度の中小企業・全産業で+2.3%だった。18年度の全規模・全産業では+9.1%になった。

●19年3月調査の19年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+1.2%になった。非製造業は▲1.6%で過去の平均並みだが、製造業が+6.2%と例年よりも高めの計画となった。一方、19年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲14.9%だった。こちらも非製造業は▲20.1%で過去の平均並みだが、製造業が▲6.1%と計画がまだかたまらずに2ケタマイナスのことが多いこの時点で例年よりも高めの計画となった。19年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は▲2.8%になった。

●また、GDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2019年度計画・前年度比は、大企業・全産業で+2.1%。一方、19年度の中小企業・全産業で▲2.1%だった。19年度の全規模・全産業では+0.4%と3月調査時点としては底堅い数字になった。

●「上昇」-「下降」の割合を示す、販売価格判断DIは、大企業・中小企業、製造業(うち素材業種)・製造業(うち加工業種)・非製造業の、企業規模・業種6つのカテゴリーで、前回からの変化幅で見て、拡大したものが中小企業・製造業(うち加工業種)、中小企業・非製造業の2つ、縮小したものが4つで、物価上昇圧力が止まった感じがする内容だと思われる。仕入れ価格判断DIは企業規模・業種6つのカテゴリーで前回からの変化幅で見て、拡大したものが0、中小企業・非製造業だけが横這い、残りは縮小5つと原材料安の影響が感じられる数字である。

●4月2日に発表される「企業の物価見通し」の内容が注目される。

●今回の日銀短観は、事前の予想通り、中国景気鈍化などの影響で製造業中心に景況感が大幅に悪化するという厳しい内容になった。但し、非製造業、とりわけ中小企業・非製造業の底堅さも感じられる内容だった。雇用判断は引き続きしっかりしており、19年度の設備投資計画は3月調査としてはまずまずの結果となった。次回6月調査で、今回の3月調査の先行き見通しから景況感などが上振れることが出来るかどうか、先行きの景気を占う上で注目される状況だ。