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2019年6月調査 日銀短観

2019年7月1日

―締め切りは6/28。米中貿易摩擦激化で大企業・製造業・業況判断DI+7と2期連続悪化―
―大企業・非製造業・業況判断DIは+23で2期ぶり改善。内需の底堅さを示唆する内容―
―中小企業・非製造業・業況判断DI+10で4期連続2ケタのプラス―
―19年度ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベース全産業・全規模の設備投資+5.7%―

●6月調査日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが+7と3月調査の+12から悪化となった。悪化は2期連続である。+7は16年9月調査(+6)以来の低水準となった。調査期間が5月28日~6月28日だったので、今回の短観には6月29日の米中首脳会談の結果は織り込まれていない。第4弾の追加関税が発動されるかもしれない中での回答結果であり、米中貿易摩擦の激化などがより強く影響したとみられる。しかし、そのような環境の中でも、先行き判断DIは最近と同じ+7とみており、先行き一段と不安感が強まる事態は回避されていることがわかる。なお、13年6月調査以降25期連続して「良い」超のプラスであり、景況感の底堅さが継続していることを示唆する数字であるとも言えよう。

●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は16年3月調査・6月調査とも10%だったが9月調査で9%、12月調査と17年3月調査で7%に、6月調査・9月調査で5%に低下し、17年12月調査で4%まで低下した。しかし、18年3月調査・6月調査で5%に戻り、9月調査・12月調査では6%に、19年3月調査では8%に悪化した。今回6月調査では9%に悪化した。

●今回6月調査で「悪い」と答えた割合は「最近」では9%だが、「先行き」では6%だ。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では16%、「先行き」では13%で、どちらも変化幅は3ポイント減だ。

●6月調査の大企業・製造業の業況判断DI+7は3月調査の「先行き」見通し+8より1ポイント悪化した。足元の景況感が予測よりやや悪かったということになる。

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIは+7と「最近」の+7と同水準のDIが見込まれている。6月調査の19年度想定為替レートは109円35銭で、足元の実際の為替の動き(7月1日朝時点:1ドル=108円台)よりやや円安水準に置いている。このため、為替レートの今後の動向次第では業況判断DIが下振れる可能性もある。

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、17年12月調査は、15年9月調査・12月調査と並ぶ、+25で91年11月調査の+33以来の高水準だったが、18年3月調査で+23と2ポイント低下した。6月調査+24、9月調査+22、12月調査+24、19年3月調査+21、今回6月調査で+23と一進一退が続いている。内需の底堅さを反映していよう。また、6月調査では改元に伴うプラス効果が出たとみられる。

●19年6月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは32期連続のプラスである。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は17年9月調査・12月調査・18年3月調査・6月調査で4%だったが、9月調査で1ポイント上昇し5%になった。12月調査では1ポイント低下し再び4%になった。前回19年3月調査で5%になったが、6月調査で4%に戻った。

●大企業・非製造業では「先行き」は+17と「最近」の+23より6ポイント低下が見込まれている。但し、「悪い」と答えた割合は「先行き」は4%で「最近」と同じである。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では27%、「先行き」では21%で変化幅が6ポイント減だ。先行きの不透明さが「先行き」悪化の要因であることがわかる。

●中小企業・製造業の業況判断DIは16年9月調査で▲3と3四半期連続マイナスになったあと16年12月調査では+1とプラスに転じ、17年12月調査で+15と9月調査より5ポイント改善した。+15は91年8月調査+20以来の水準である。18年3月調査でも+15で変わらなかったが、6月調査で+14とやや低下し、9月調査、12月調査でも+14と同水準であった。前回19年3月調査では8ポイント悪化し+6になり、今回6月調査で▲1と11期ぶりにマイナスに転じた。但し、3月調査の「先行き」見通しが▲2になるとみていたのに対し、6月調査の「最近」は▲1で、1ポイント上回った。足元の景況感が予測よりはやや良かったいう結果である。

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになっていた。18年3月調査では17年12月調査の+9から1ポイント改善し91年11月調査+13以来26年4カ月ぶりの水準である+10となったが、6月調査では+8に低下した。そこをボトムに9月調査では+10と再び2ケタのプラスに戻り、12月調査では+11に、前回19年3月調査では+12へと3期連続改善したが、今回6月調査では+10に低下した。但し、4期連続して2ケタのプラスで、23期連続マイナスになっていない(14年12月を新しい調査対象企業でみる)。+10は3月調査時点の、「先行き」+5を5ポイント上回る水準で、予測よりは良かったということになる。内需の底堅さを示唆する結果であろう。

●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は▲5と「最近」▲1から4ポイント悪化し2期連続マイナスになる見通しである。また、中小企業・非製造業は+3とこちらは「最近」+10より7ポイントの悪化見通しであるもののプラスの数字になった。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回9月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性が大きいとみられる。

●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。その後は消費税率引き上げによるもたつきなど様々な動きがあったが緩やかに改善し18年3月調査では+17になった。しかし、6月調査では+16、9月調査では+15と1ポイントずつ悪化していたが、12月調査で+16に1ポイント改善した。しかし、前回19年3月調査では+12に悪化し、今回6月調査では+10に悪化した。しかし、3月調査の先行き見通し+7より3ポイント良い水準である。

●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+4と、「最近」+10から6ポイント悪化する見通しである。全体としてみた、企業の景気の先行きには不透明感が強いことを示唆していよう。

●雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は人手不足の強まりに関し一服感がある数字となった。18年9月調査で大企業・全産業の雇用人員判断DIは▲23で92年2月調査の▲24以来26年7カ月ぶりの水準になった。18年12月調査も▲23、19年3月調査も▲23である。今回6月調査では▲21になったが、先行き見通しは▲22だ。中小企業・全産業は前回18年12月調査で▲39とバブル景気の「山」直後である91年8月調査の▲40以来27年4カ月ぶりの水準をつけた。19年3月調査も▲39であったが、6月調査では▲36となったが、先行き見通しは▲41だ。

●19年6月調査の18年度の大企業・全産業の設備投資・前年度比は+7.3%。一方、18年度の中小企業・全産業の設備投資・前年度比は+2.6%だった。18年度の全規模・全産業の設備投資・前年度比は+6.6%になった。

●また、GDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2018年度・前年度比は、大企業・全産業で+4.5%。一方、18年度の中小企業・全産業で+5.0%だった。18年度の全規模・全産業では+5.1%になった。

●19年6月調査の19年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+7.4%になった。一方、19年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲9.3%だった。マイナスのことが多いこの時点では過去平均よりも高めの計画となっている。19年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は+2.3%になった。

●また、GDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2019年度計画・前年度比は、大企業・全産業で+8.2%。一方、19年度の中小企業・全産業で▲4.2%だった。19年度の全規模・全産業では+5.7%と底堅い数字になった。

●「上昇」-「下降」の割合を示す、販売価格判断DIは、大企業・中小企業、製造業(うち素材業種)・製造業(うち加工業種)・非製造業の、企業規模・業種6つのカテゴリーで、前回からの変化幅で見て、中小企業・非製造業だけ横這いで残りの5つが縮小した。物価上昇圧力が止まった感じがする内容だと思われる。仕入れ価格判断DIは企業規模・業種6つのカテゴリーで前回からの変化幅で見て、拡大は大企業・非製造業だけで1ポイントの拡大、横這いは中小企業・非製造業だけ、残りは縮小4つと原材料安の影響が感じられる数字である。

●7月2日に発表される「企業の物価見通し」の内容が注目される。

●今回の日銀短観は、事前の予想通り、米中貿易摩擦の激化などの影響で製造業中心に景況感が引き続き悪化するという厳しい内容になった。但し、6月29日の米中首脳会談の結果は織り込まれていない。一方、非製造業には底堅さが感じられる内容だった。19年度の設備投資計画は6月調査としてはしっかりした結果となった。次回9月調査で、今回の6月調査の先行き見通しから景況感などが上振れるのか、下振れるのか、先行きの景気を占う上で注目される状況だ。