宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

7月のトピック「相場の乱高下は景気にあまり影響せず、景気拡張続く」

2013年07月02日

 金環日食があった昨年5 月21 日の日経平均株価の終値は8633 円だった。戦後、金環日食の1 年後の株価は上昇するというジンクス通り5 月22 日には終値ベースで1 万5627 円の今年最高値を付けた。上昇率は81%であった。しかし、日経平均株価は翌5 月23 日に1143 円も下落した。バーナンキFRB議長が量的緩和の早期縮小に言及したことや、中国の経済指標が弱かったことなどが下落要因になった。最近の株価動向は気懸りなところだが、急上昇の反動といった面が大きい。

 5 月下旬からの日経平均株価やドル円レートなどの乱高下は、企業の景況感にはあまり影響していないようだ。7 月1日発表の6 月調査日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが3 月調査のマイナス8 から12 ポイント改善しプラス4になった。2 期連続の改善で、2011 年9 月調査以来7 四半期ぶりにDIがプラスに転じた。今回6 月調査の調査期間は5月28 日~6 月28 日で、5 月下旬から日経平均株価やドル円レートなどが乱高下した時期と重なるが、そうした金融市場の動向は企業の景況感にあまり影響しなかったと言えそうだ。

 大企業・非製造業・業況判断DIでは、6 月調査はプラス12 と前回3 月調査のプラス6 から6 ポイント上昇した。8 四半期連続のプラスで、2 ケタのプラスになったのは2008 年6 月調査以来5 年ぶりだ。非製造業は底堅い結果が続いていると言えよう。賃金が伸びていないものの、内需が堅調である背景には、アクティブなシニア層が活発に消費していることに加え、復興支援の動きも影響していたと考えている。景気ウオッチャー調査で震災復興を景況感の判断に挙げているコメントを集計してDIを作成すると、昨年12 月まで全体DIを上回って推移し、景況感の押し上げに寄与していた。アクティブシニアの動向では、姫路城の入城者数が概ね前年同月比2 ケタの伸びを続けていることに表れている。金融緩和の継続や財政も補正予算が実行され、これからアベノミクスの効果が出てくることが予想される。そうなると、建設業や不動産関連が活発化し、これらの業種では消費税の引き上げ前の駆け込み需要もあって、非製造業の景況感を押し上げると見込まれる。

 大企業・製造業の景況感持ち直しの背景としては輸出が持ち直していることが大きい。これまで大企業・製造業の業況判断DIがマイナスだったのは、過度な円高や世界経済が不透明だったことが背景だ。足元でも、中国経済などで不透明感は続いている。米証券会社が中国の成長率に関して、2020 年には3%台後半にまで鈍化するとのレポートを出し、市場の不安心理に影響しているようだ。しかしながら、「ESPフォーキャスト調査」では、13 年の中国の成長率は7%台後半である。7%台ならそれほど問題ないのではないか。中国当局の発言などからは、過熱気味だった景気を抑制しようとする姿勢がうかがえる。これまでの不正やシャドーバンキングなど、経済のダークな面を解消しようといった取り組みを進めていると考えられる。中国当局はシャドーバンキングなどの問題点を理解したうえで、短期金融市場で流動性を絞っているとみられ、その過程で成長率が鈍化しているとみられる。

 また、米国経済は底堅く推移する可能性が高そうだ。もっとも、リーマンショック以降続いている、冬の指標が強く夏の指標が弱いといった季節調整の影響により前月比の指標は足元弱く出る可能性がある。実際、最近の米国指標をしっかり見ると、3 月までは思ったよりも強い内容が多かった。しかし、米国の鉱工業生産や設備稼働率、住宅着工件数などは、3 月を過ぎると4~5 月は弱くなっている。ISM製造業景況指数も5 月分で6 カ月ぶりに50 を下回るなど、もたつき感が出ている。それでも米国経済の全体感としては回復に向かっており、日本の輸出企業にとっては好材料だ。円高是正も製造業の景況感を押し上げた。ドル・円相場が70 円台では景況感を押し下げていた。しかし、90 円台の現状なら製造業の景況感にはプラスに働く。欧州経済も底打ちの兆しを見せており、日本の輸出が出やすくなっている。日銀が発表している実質輸出入では、1~3 月平均に比べ、4~5 月平均は輸出が2.8%増加し、輸出の持ち直しを示している。

 日本の1~3 月期実質GDPは前期比年率4.1%増の高成長だった。個人消費が前期比0.9%増と高い伸び率だったことなどが背景だ。4~6 月期も伸び率は鈍化するものの個人消費が前期比で増加しよう。プラスは維持すると見込まれる。民間住宅は消費税引き上げ前の駆け込みなどから強い伸びを続けよう。民間設備投資は5 期連続でマイナスを続けているが、そろそろ増加に転じて、底を打つと予測する。政府最終消費と公的固定資本形成については、いずれも1~3 月期が前期比0.4%増と伸びが低かった。12 年度の補正予算の効果が期待され、4~6 月期には伸びが加速すると見込んでいる。公共投資が人手不足でできないと報じられているが、人手不足な程に増えているのならば、公共投資は1~3 月期よりも伸び率が高まりそうだ。「年内に資産買い入れペースを縮小させる可能性について」6 月19 日の会見でバーナンキFRB議長が言及し米国の金融政策が出口に向かうことが取り沙汰されている中でも、ドル・円相場は100 円台を回復していない。マンデルフレミングモデルで考えると、金融緩和を行えば円安になるが、財政出動を行うと円安が止まる効果があり、それが表れているのではないかと考えている。このほか、実質輸出入を見ると、輸出が増加して輸入が減少していることから、外需のプラス寄与が予想される。経常収支が赤字だった月を見ると、昨年11 月~今年1 月まで3 カ月連続で経常赤字となり、その時期には円安進展が連想されやすかった。しかし、3 月以降は経常黒字が回復しつつある。特に4 月は原数値で7500 億円、季調値では8527 億円の経常黒字となっており、サービスまで含めると外需がしっかりしていることを示唆する。

 総合的に景気局面を判断する景気動向指数における一致CIを使った判断では、7 月5 日に発表される5 月分の一致CI指数が前月差で0.1 ポイント以上の上昇になれば、5 月分で「下げ止まり」から「上方への局面変化」に上方修正される公算が高い。また、3 カ月後方移動平均が昨年12 月以降、4 月まで5 カ月連続で上昇しているため、6 月の前月差も上昇を続ければ、「改善」に必要な3 カ月後方移動平均が3 カ月連続で上昇という条件を満たし、6 月分で「改善」に上方修正されることになる。6 月の景気動向指数は8 月6 日に発表予定であり、一致CIの判断が「改善」に達すれば、政府は「景気拡張」という意味の言葉を景気判断で使うことができるようになろう。景気動向指数も足元の景気堅調を裏付ける指標だ。

 「ESPフォーキャスト調査」5 月調査の総合景気判断DIは、13 年7~9 月期と10~12 月期と2 四半期連続して100という回答になった。オールジャパンのエコノミストが3 カ月前に比べて景気は、下向きではなく、横這いということもなく、上向きであると予測していることを意味する。これは3 月調査~6 月調査まで4 回連続してのことで、調査開始後初めての現象である。14 年1~3 月期の予測は92.5 と高水準であるが、消費税引き上げ後の14 年4~6 月期は16.3 でほとんどのエコノミストが景気は下向きであると回答している。GDP成長率も前期比年率5%超のマイナスを予想している状況だ。しかし、翌7~9 月期の総合景気判断DIは75 に回復し、3 カ月前に比べて景気は上向くと予想しているエコミストが大半を占めている。14 年7~9 月期は14 年4~6 月期よりも景気が良くなるとの予想がされ、悪くない。もし、14 年7~9 月期も3 カ月前に比べて景気は下向くと予想するなら、景気は2 期連続で悪くなっていることを示唆し、景気後退の可能性も高まる。しかし、踊り場で済むとの予想の下では、消費税の引き上げが行われる可能性が高いだろう。

 アベノミクスの第3 の矢である成長戦略に関する安倍総理の3 度の講演のキーワードは、1 回目は「女性の活用」、2 回目は「世界で勝つ日本」、3 回目は「民間活力の爆発」だった。「爆発」は故・岡本太郎さんの「芸術は爆発だ」に因んだものだ。メニューはたくさん並んだが、メニューのタイトルは、過去の政権下で6~7 回発表された成長戦略でも採り上げられてきたことであり、目新しさがないといった反応が株式市場などで見られた。しかし、民間設備投資の促進を目的とする成長戦略の成果が実現するためには、メニューの中から企業が自分たちに生かせることはないかと考えることも大事だろう。何かを政府にやってもらおうと頼りすぎているようにも思える。設備投資のトレンドを示すジュグラーサイクルを民間設備投資の対名目GDP比率で見ると、13%程度まで低下し、1960 年代以降での低水準圏にあり、循環的には民間設備投資が出てきてよい局面だ。ドル・円相場が70 円台の円高水準ならば、工場が海外に逃げる可能性があるが、90 円台に戻しており、国内生産で何とかしようといった動きにつながるかもしれない。アベノミクスの1 年目の効果は、成長率の押し上げ、物価上昇、失業率改善、円安、株高になるといった見方が「ESPフォーキャスト調査」で示され、市場のコンセンサスとなっている。しかし、1 年超の長期に関しては、まだ見方が分かれている状況だ。こうした中、11 日公表予定の7 月の「ESPフォーキャスト調査」でもアベノミクスの経済への影響が調査されることになっている。出そろった成長戦略や株価の急落を経て、エコノミストがアベノミクスをどう評価するか注目している。

 全国の生鮮食品を除くコア消費者物価指数の季調値を見ると、今年5 月は99.7 だった。昨年6 月は99.6 であり、今年5 月の水準が6 月も続けば、コアCPIはプラスに転じる。このほか、入着原油価格は4 月下旬以降に上昇に転じ、5 月以降は昨年に下がった水準との比較になるため、上がりやすい。足元ではガソリン価格も上がり始めており、デフレ基調が変わり始める局面になっているようだ。物価下落が止まり、上昇し始めると何が起きるだろうか。日銀の展望レポートの資料によれば、食料とエネルギーを除いたコアコアCPIと時間あたり賃金の後方3 四半期移動平均の前年比を合わせたグラフが重なっていて、コアコアCPIが上昇してから約4.5 カ月後に賃金が上昇する関係が示されている。このため、年央に消費者物価が前年比プラスになれば、過去のパターンからは年末には賃金が上がり始めることが予想される。

 また、消費者物価を縦軸、失業率を横軸とするフィリップス曲線は、90 年以降、08 年の原油価格の乱高下でフィリップス曲線が上下にシフトしたとみられる時期を除き、右肩下がりの推移を続け、物価下落と失業率の悪化が進んでいた。しかし、最近では右下から左上方向に持ち直している。そして、消費者物価がプラス圏に転じると、失業率が3%台に低下する姿が見えてくる。3~5 月分の失業率は4.1%で、高止まっている。この背景には、女性の失業率の上昇があり、景気が持ち直していることを反映して職探しを行っている女性の増加がありそうだ。

 景気補助信号である身近な社会現象が昨年12 月頃から持ち直し、国内景気の底堅さを示唆している。昨年15 年ぶりに3 万人を下回った自殺者数が、今年に入っても2 月以降5 月まで前年比で減少を続けており、限界的な雇用指標は悪くないと言えそうだ。また、中央競馬の売得金の前年比推移は、6 月30 日までで0.2%増と15 年ぶりの増加に転じた昨年に引き続き、プラスに転じてきている。株価が下落しても百貨店の美術品・宝飾・貴金属の売上高も5 月分も好調で、4 月分の前年同月比18.8%増を上回る23.3%増になった。外国人観光客の百貨店売上高は2 月以降、前年比50%増以上が続いており5 月分は前年同月比122.7%増の大幅増加だった。円安効果も持続し、消費関連は良好に推移しそうだ。また、NHKの朝の連続テレビ小説「あまちゃん」の視聴率は20%台の高い視聴率を続けている。前向きに頑張るヒロインを応援しようとする人々のマインドが表われている格好だ。

 アベノミクスの政策対応による経済環境の変化を、各経済主体が前向きに活かすことで景気に前向きの動きが出て欲しいと思う。