宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

9月のトピック「マネタリーベース2倍の金融緩和でCPIコア前年比プラスに。人気ドラマの台詞「倍返し」もあり、年末発表の今年の漢字は「倍」の可能性も。9/9ジブリ法則発動するかに注目。」

2013年09月03日

 景気は昨年11 月頃を谷として、現在は戦後第16 循環の拡張局面にある可能性が大きいと考える。
 8 月21 日に開催された景気動向指数研究会で12 年4 月が景気の山であったことが暫定的に決定された。来年、認定されるとみられる景気の谷はおそらく12 年11 月になるとみられる。09 年3 月を谷とする第15 循環の景気拡張期は37 ヵ月間で、戦後の第14 循環までの拡張期間の平均36.2 ヵ月にほぼ近いものとなった。後退期間は平均の16.8 ヵ月に対し7ヵ月間という戦後2 番目に短いミニ後退となろう。景気動向指数・一致CIを使った景気の基調判断も9 月6 日発表の7月分で前月差が上昇すれば「改善」になり、CI一致指数による判断からも景気は拡張局面にあることが確認されよう。鉱工業生産指数・7 月分速報値は前月比+3.2%と、2 ヵ月ぶりの増加になった。先行きの鉱工業生産指数を8・9 月分の予測指数の前月比で延長すると、7~9 月期は前期比+2.4%と3 四半期連続の増加になる。

 4~6 月期実質GDP成長率第1 次速報値は前期比+0.6%、前期比年率+2.6%の伸び率になり、3 四半期連続のプラス成長となった。但し、3%台という市場の事前予想よりはやや弱めの数字となった。設備投資が前期比▲0.1%、実質民間在庫投資の前期比寄与度が▲0.3%であった。しかし、9 月2 日に発表された4~6 月期の法人企業統計の設備投資・在庫投資の内容からみて両者ともに上方修正され、公共投資の上方修正などと相俟って、9 月9 日の実質GDPは前期比年率4%程度になるものと予測される。

 なお、11 月14 日に発表される7~9 月期の実質GDP第1 次速報値については現在のところ、高い成長率にならない可能性が出てきているのが気懸かりだ。消費総合指数の4~6月期から7~9 月期へのゲタは前期比▲0.3%とマイナスである。実質輸出の7 月分の4~6 月期分平均比は前期比▲3.7%と大きく低下している。7~9 月期は外需の寄与度に期待が持てそうにないスタートとなっている。但し、早めに判明している8 月分のデータで主要百貨店5 社の売上は全社で増加し、高額品の堅調な地合いも崩れていないようだ。消費などのもたつきは一時的な面もあろう。

 日経平均株価は直近では5 月をピークに下落し調整しているが、急上昇した反動という一時的な面が大きいと考えられよう。金環日食があった昨年5 月21 日の日経平均株価の終値は8633 円だった。戦後、金環日食の1 年後の株価は上昇するというジンクス通り5 月22 日には終値ベースで1 万5627 円の今年最高値を付けた。上昇率は81%であった。4 月末時点の半年間の日経平均株価の上昇率は+55.2%で、1953 年1 月の+80.3%、52 年11 月の+55.8%に次ぐ約60 年ぶりの高い伸び率であった。

 景気ウォッチャー調査現状判断DIを使った日経平均株価の模擬売買では、7 月8 日発表の6 月分で、1 ポイント以上の前月差下落という売りシグナルが点灯した。昨年12 月10 日に9533 円75 銭で買い建てたので4575 円の利益が生まれたことになる。今度は7 月8 日に1 万4109 円34 銭で売り建てていることになり、その後日経平均は概ね1 万3000 円台での推移である。7 月分の実質輸出などの一部の他の経済指標の弱さも影響しているかもしれない。直近7 月分の景気ウォッチャー調査のもたつきは企業動向関連、雇用関連のDIは改善しており、家計部門のDIが低下要因である。今後、1ポイント以上現状判断DIが上向き、買いシグナルが点灯すれば、日経平均株価も再び上昇傾向となろう。次回8 月分の景気ウォッチャー調査公表日は、4~6 月期実質GDP成長率第2 次速報値と同じ9 月9 日である。

 株価に影響するイベントとしては9月7日に決まる2020 年夏季五輪の開催都市が日本に決まるかどうかも注目される。1959 年5 月26 日ミュンヘンでのIOC総会で64 年の東京五輪開催が決まったが、59 年4 月末の日経平均株価に比べ開催が決まった5 月末は前月比+7.7%上昇した。また59 年は景気拡張局面であったが景気の山を迎えるのは61 年12 月とかなり先のことであった。

 宮崎駿監督が長編映画から引退すると発表したことから、日本テレビは急遽9 月6 日の金曜ロードショーで「紅の豚」の放映を決めた。9 月6 日はFRBの金融政策の動向にも絡んで市場が注目する8 月分米国雇用統計の発表日でもある。9月6 日から翌週月曜日の9 月9 日は大きな材料が目白押しだ。金曜ロードショーでジブリ作品が放映されると翌週初めの株価が大きく変動するという、「ジブリの法則」のジンクスが発動するかどうか注目されよう。

 4 月4 日の金融政策決定会合で「2 年間で消費者物価指数コア前年比2%の物価目標実現のために、マネタリーベースを14 年末に2 倍に、長期国債買い入れの平均残存期間を2 倍以上に延長」する量的・質的金融緩和が実施された。アベノミクスの第一の矢である。マネタリーベースの拡大ペースや物価上昇率の目標値が米国など他の国と平仄を合わせたことで円高修正が起こり、株価が上昇した。「生活意識に関する世論調査」では日銀の政策がわかりやすくなったという意見が少し増えている。思い切って「2」という数字を印象付けたことが功を奏したようだ。なお、マネタリーベースを2 倍にするなどの金融政策に加え、高視聴率のドラマ、半沢直樹のセリフ「倍返し」、13 年度の実質経済成長率が12 年度の1.2%の2 倍強の2%台になるとの見通しなどから、今年の漢字の有力候補に「倍」の字が入ってこよう。

 6 月分の全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合(コア)前年同月比は+0.4%と14 カ月ぶりのプラスになった。続く7 月分では同+0.7%とさらに伸び率を高めた。コアの季節調整済み指数は12 年6 月分~10 月分が99.6、12 年11 月分~13 年3 月分が99.5(2010 年=100)と安定していた。13 年7 月分が100.2 であるので、前年同月比のプラスはしばらく継続しそうだ。一方、食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数(コア・コア)の季節調整済み指数は7 月分が98.4であるが、12 年9 月分~13 年6 月分が98.3 以下であったことから、まもなく前年同月比プラスに転じる可能性が大きいと言えよう。

 物価上昇率を決める、主因の需給ギャップ(GDPギャップ)は内閣府の試算によると13 年4~6 月期は▲1.9%と1~3 月期の▲2.3%から縮小している。過去最大の09 年1~3 月期の8.1%減からは大幅に縮小してきている。また、物価上昇率を決めるもうひとつの要因である予想物価上昇率も上向き傾向にありそうだ。BEIや消費者アンケートなど様々なものが足元上向きとなっている。一例を挙げると、「ESPフォーキャスト調査」では6 月と12 月に特別調査として、2~6 年度先の予想物価上昇率を尋ねているが、12 年12 月調査で+0.7%だった予想物価上昇率(平均)が、異次元金融緩和実施を経て13 年6 月調査で+1.2%になった。エコノミストの平均的な中長期の予想物価上昇率が+0.5%上昇した。2年で2%の目標達成は難しいが、楽観的にみると1%台半ばは展望できる状況だ。

 最近の雇用の数字も改善している。消費者物価コア指数の前年比と完全失業率との間には逆相関の関係があり、フィリップスカーブとしてグラフに表すことができる。08 年に原油物価が急騰・急落してカーブ自体が上下にシフトしたと考えられる時期を除くと、0%台半ばの消費者物価上昇率なら3%台の完全失業率が対応する関係にある。6 月分の消費者物価の前年比が+0.4%とプラスに転じ、6 月分の完全失業率は3.9%と08 年10 月分の3.8%以来の3%台に低下した。7 月分では、消費者物価+0.7%に対し完全失業率3.8%となり、フィリップスカーブに沿った動きがあった。

 6 月分の有効求人倍率は0.94 倍で1 に近づいている。史上最低だった09 年8 月分の0.42 倍から大きく上昇してきている。有効求人倍率が07 年10 月の1.01 倍以来の1 倍台乗せになるのも間もなくだ。雇用環境の改善は賃金の改善にも結びつこう。

 警察庁によると今年1~7 月分の自殺者数は前年比1.3%減で、昨年が2 万7858 人だったことから2 年連続3 万人割れに向けて着実に改善している。限界的な雇用の数字がしっかりしていると言える。

 実質金利の低下、トービンのQの上昇、アベノミクス第三の矢の成長戦略などを民間が活用し13 年4~6 月期時点で12.9%まで低下している設備投資のGDP比率を上昇させていくことなどが期待される。4~6 月期の機械受注(船舶・電力を除く民需)が前期比+6.8%と5 四半期ぶりにプラスの伸び率になるなどここにきて設備投資の先行指標にも明るさが出てきている。アベノミクスの成否は第三の矢にかかっていよう。

 身近なデータをみると、景気の良さを示唆する身近なデータは引き続き多い。栄養価があり値段が安く節約食材の代表と言える、もやし購入額は、家計調査によると6・7 月分と連続して低水準になった。購入金額だけでなく、購入数量も前年比で低下している。

 姫路城の入場者は7 月分の前年同期比が+26.3%と2 ケタの伸び率で、アクティブシニアの消費が相変わらず底堅いことを示唆している。JTBの「夏休みの旅行動向調査」では国内旅行は過去最高の人数になる見込みである。円安なので5~7 月分の外国人観光客の百貨店売上高も前年同月比2 倍前後の伸びになっている。

 初動50 万枚突破のシングルCDがあると景気は上向き傾向と言えるが、初動133 万枚など50 万枚超になったAKB48「恋するフォーチュンクッキー」が発売された。

 7~9 月クールの連続ドラマはかつて98 年に大ヒットしドラマアカデミー賞最優秀作品賞を受賞した「ショムニ」など強い女性を主人公にしたリバイバル作品が多い。強い女性が主人公のドラマがヒットすると景気後退局面という傾向があるので視聴率の動向が注目されたが、「ショムニ2013」は第3 回7 月24 日放送分で関東地区の視聴率が9.9%、第5 回8月14 日分9.3%、第7 回8 月28 日放送分が8.8%と1 ケタ台になるなど不振である。08 年の放送で最高19.6%を出した「斉藤さん2」も第5 回の8 月17 日放送分は関東地区の視聴率が9.7%と1 ケタを記録した。今は、強い女性が主人公のドラマは視聴者にあまり支持されていないと言える。代わって「半沢直樹」は第7 回9 月1 日放送分が30.0%を記録する大ヒットである。朝ドラの「あまちゃん」も8 月24 日に23.9%の視聴率が出た。朝から日本国民に元気を与えている。岩手経済研究所によると岩手県内の経済効果は32 億円という試算もある。小泉今日子が役名の天野春子として発売した劇中歌「潮騒のメモリー」は8 月25 日現在12.9 万枚を売り上げた。また、9 月3 日の新聞報道によると「潮騒のメモリー」に加え他の劇中歌などを収録した「あまちゃん歌のアルバム」が初動売上7.4 万枚となり9 月9 日付オリコン週間ランキングで初登場第1 位になったという。このように大きな「アマノミクス」効果が出ている。