宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

11月のトピック「指標解釈難しい局面。10 月は台風の影響が菊花賞・笑点など身近な指標にも。但し、景気はアベノミクス効果もあり堅調。建設工事受注・民間分等に設備投資持ち直しの兆し。」

2013年11月01日

 10 月前半の米国政府機関の一部閉鎖は、足もとの景気を判断する根拠となる経済指標に発表日の遅延や、内容の解釈をはじめ様々な難題をもたらした。FRB のテーパリングの開始時期にも大きな影響を及ぼしたようだ。米国景気は基調としてしっかりしていると筆者は考えているが、政府機関の閉鎖の影響のため、10 月分・11 月分の経済指標は立場により様々に解釈がなされよう。おそらく、米国の議員でこうした点まで考慮し行動した人は少ないのだろう。

 米国と違い日本の経済指標は問題なく着実に発表されているが、こちらも解釈上はいろいろ問題がある。例えば、鉱工業生産指数では2010 年基準になる時の見直しのひとつとして、季節調整の見直しを行い改善した。リーマン・ショックの影響の処理がなされていないという指摘などに対応した面もあろう。この結果、季節調整の対象期間をこれまでの7 年間からうるう年を2 回含む形で8 年間に延長し、異常値の検出を毎年実施するなどの改善がなされた。ただ、季節調整の対象期間の延長は、東日本大震災以降の企業の生産パターンの変化を反映しにくくさせているようだ。今年5 月から9 月分まで鉱工業生産指数の前月比が交互に増加・減少を繰り返している。このことが最近、生産指数を採用系列のひとつとする景気動向指数・一致CI の前月差が上昇・下降を繰り返していることにも結びついていよう。経済統計を読むときにはデータを均してみるなどの工夫が必要な状況だ。

 11 月14 日に発表される7~9 月期の実質GDP 成長率は前期比年率+4%前後だった1~3 月期、4~6 月期に比べ、伸び率が半減する見通しだ。外需と個人消費が弱いからだ。個人消費は前期比+0.1%程度というのが平均的な見通しだが、これで7~9 月期全体の消費動向が弱いと表面的に解釈すると判断を間違うだろう。GDP 統計の実質個人消費とほぼ同じ伸び率になる月次データの消費総合指数は、株価が5 月の高値から調整した6・7 月分で弱含んだ。乗用車販売も7 月が底になった。個人消費関連指標は8 月分以降持ち直したと見られるが、前期からのマイナスのゲタと今四半期最初の7 月分の弱含み水準が、7~9 月期実質個人消費の前期比弱含みをもたらしてしまうからだ。四半期の前期比の場合、最初の月(この場合7 月)の前月比が最後の月(9 月分)の前月比の3 倍、7~9 月期の前期比に影響することは意外と知られていない。

 日米の経済指標の解釈が難しい局面が目先続くと思われるいくつかの理由を挙げたが、それでは、実際の日本の景気動向はどうなっているのだろうか。10 月は、真夏日の遅い記録が更新され、台風が51 年以降で最多数接近するなど天候要因が景気に悪影響を及ぼした。景気と関連性の高い身近な社会現象では、10 月の天候不順の影響で「笑点」の視聴率(関東地区)が10 月全ての週でその他娯楽番組の中で第1 位となった。また10 月20 日に京都競馬場で行われた中央競馬のGI レースの菊花賞では、レース直前までの雨により売上高・入場者とも前年比減少した。通常年では秋晴れに当たることが多い同レースは1987 年以降56 年ぶりの不良馬場での開催となった。また、10 月中旬まで真夏日が出たことで、10 月前半の百貨店売上高などは秋物が売れず、芳しくなかったようだ。また台風は10 月として発生数はやや多い程度だが、接近数6 は統計が存在する51 年以降最大である。なお、10 月には1 つも上陸しなかったことは不幸中の幸いであった。

 しかし、景気の基調自体はしっかりしていると考えられる。アベノミクスの第1 の矢の金融政策により、過度な円高が修正されたこと、9 月分の全国CPI コア前年同月比が+0.7%で、コアコア前年同月比は0.0%となり08 年12 月以来4 年9 カ月ぶりにマイナス圏を脱するなどデフレからの脱出の目途が立ってきたこと、金利水準が抑制される中で予想物価上昇率が上昇し実質金利が低下傾向にあること、第2 の矢の財政政策が足もとの景気をサポートしていることなどの政策効果が見られる。

 最近の経済統計をみると、鉱工業生産指数・9 月分速報値は前月比+1.5%と、2 カ月ぶりの増加になった。製造工業生産予測調査によると、10 月分は前月比+4.7%である。この前月比を使って生産指数を延長すると、10 月分の指数は103.1と東日本大震災直前の11 年2 月分を上回り、リーマン・ショックが発生した直後の08 年10 月の107.4 以来の水準に戻ることになる。10~12 月期の鉱工業生産指数は4 四半期連続の前期比増加になる見込みだ。景気動向指数・一致CI を使った景気の基調判断は7 月分・8 月分が「改善」で、7 日発表の9 月分でも景気が拡張局面の可能性が高いことを意味する「改善」となろう。

 実質GDP7~9 月期第1 次速報値では外需・個人消費が成長率押し下げ材料になるが、アベノミクスの効果が着実に出ている分野はしっかりした伸び率が予測される。公共投資はかなり高い前期比が予測され、住宅投資、設備投資も前期比増加が期待される。また3 四半期連続前期比マイナス寄与だった民間在庫投資が4 四半期ぶりに前期比プラスに寄与し意外に成長率を押し上げそうだ。

 日本銀行の「生活意識に関する世論調査・9 月調査」で、「日本銀行が、消費者物価の前年比上昇率2%の『物価安定の目標』を掲げていることをご存知ですか?」という問いに対し、21.7%が「見聞きしたことがない」、40.7%が「見聞きしたことがあるが、良く知らない」と回答した。また、「日本銀行が、量・質ともに次元の違う金融緩和(量的・質的金融緩和)を行っていることをご存知ですか?」という質問には26.8%が「見聞きしたことがない」、43.1%が「見聞きしたことがあるが、良く知らない」と回答している。日銀の金融政策に関して世間の認知度はいまいちだ。

 11 月1 日から12 月5 日が募集期間である13 年「今年の漢字」に私は「倍」で応募した。「倍返し」という台詞がすっかり有名になったドラマ『半沢直樹』は最終回に42.2%(関東地区)という高視聴率を記録し、今年の社会現象になった。マネタリーベースを2 倍にする金融政策と、アベノミクスを推進する総理大臣の苗字が「安倍」であることなども「倍」がふさわしい理由だ。「今年の漢字」に「倍」が選ばれれば、様々な報道により、金融政策に興味がない人々をも啓蒙することが出来よう。認知度向上を通じて、期待に働きかける金融政策の効果を高めることにつながると思う。

 身近なデータでは明るいものの方が多い。JR 東日本の8 月に開催されるポケモンスタンプラリーの参加数は、「いざなみ景気」の最終年の07 年以来6 年ぶりに前年比で増加した。雇用環境の改善とともにホームレスの減少は続いており、東京23 区内のホームレスは1057 人と統計史上最低で、過去最高である5798 人の2 割弱となった。毎月勤労統計によると夏の賞与は事業所規模5 人以上のデータで3 年ぶりの前年比増加となった。大相撲秋場所の懸賞は4 場所ぶりに前年比増加に転じ、広告費の持ち直しを示唆した。日経消費DI では10 月調査で業況判断DI が06 年4 月調査以来の「良い超」を意味するプラスになった。プロ野球日本シリーズは巨人対楽天というセ・パともに人気球団同士の対決になった。これは景気にプラスであろう。今年度の経済成長率が2%台後半の見通しであることと整合的だ。ちなみに米国MLB のワールドシリーズはレッドソックスとカージナルスの対戦になったが、両チームとも優勝した年の実質GDP 成長率は、73 年以降昨年まで40 年間の平均を下回るチームである。昨年の+2.8%を大きく下回る+1%台が見込まれる今年の実質GDP 成長率見通しと整合的である。

 10 月1 日安倍首相は来年4 月から消費税率を3%引き上げて8%にすることを正式に表明した。同時に、増税に備えて企業向け減税に加え、5 兆円規模の経済対策を策定することも表明した。財政健全化のために消費増税は必要な対応だが、同時に経済再生を達成するためには、先端設備を導入した企業、賃金を上げる企業を優遇する税制などで、アベノミクスの3 本の矢により生じる景気の好循環をより確かなものにする必要がある。産業競争力強化法案なども法制化され、いよいよ成長戦略が実行される基盤が整う。長い間、デフレ慣れし萎縮してしまっている現状を打破出来るかどうか。チャンスを活用するという、企業経営者の決断が注目される局面である。

 「ESP フォーキャスト調査」10 月調査の総合景気判断DIは、駆け込み需要が見込まれる13 年7~9 月期と10~12 月期は100、14 年1~3 月期は95.1 の高水準予測であるが、消費税引き上げ直後の14 年4~6 月期は11.0 でほとんどのエコノミストが景気は下向きであると回答している。しかし、翌7~9 月期の総合景気判断DI は74.4 に回復し、14 年10~12月には87.8 に達する見通しで、景気は一時的落ち込みの後、再び上向くと予想するエコミストが大半を占める。13 年度の実質GDP 成長率平均見通しは+2.80%だが、そのうち駆け込み需要は+0.5%程度、また14 年度の成長率は+0.73%の見通しだが、経済政策効果は+0.49%の見通しだ。

 「景気ウォッチャー調査」によると9 月調査の現状判断DI は原数値も季節調整値も前月に比べ1 ポイント以上上昇した。発表日の終値で日経平均株価を売り買いする模擬売買では、9 月調査発表日の10 月8 日に買いシグナルが点灯した。現在、その日の終値だった13,894 円で買い建てている状況だ。

 11 月13 日に発表される機械受注統計では7~9 月期の前期比が2 四半期連続増加となり、先行きも機械の設備投資増加を示唆しそうだ。また、10 月31 日に発表された9 月分の建設工事受注の国内民間分では前月比+65.3%・前年同月比+127.1%という凄い伸び率が出た。7~9 月期の前期比は+24.6%となり建物の設備投資もこれから出てきそうだ。