宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

12月のトピック「来年4月の消費増税の落ち込みは一時的で、緩やかな回復が継続しよう。64年東京オリンピック開催が決まった59年に『ワールドリーグ戦』を企画しプロレス人気を復活させた力道山の発想に学びたい。」

2013年12月02日

 昨年11 月を谷とした景気拡張局面が続いている。ESP フォーキャスト調査(11 月調査)の総合景気判断DI では、13年10~12 月期は100.0 である。これは全員が景気は上向きとみていることを意味する。14 年4 月の消費税率8%への引上げ前の駆け込み需要が見込まれる1~3 月期は97.5 だ。13 年度中はオールジャパンのエコノミストのコンセンサスとして、景気は順調に上向きで推移するものとみられる。消費税率引き上げが実施される14 年4~6 月期は8.8 とさすがに一時的に大きく落ち込む。1~3 月期の実質GDP 成長率は予測値総平均でみて前期比年率+4.59%と高い予測だが、4~6 月期は▲4.82%と急落する。しかし、その後は1%台後半で緩やかに成長する見通しだ。総合景気判断DI は14 年7~9 月期に75.0、10~12 月期は91.3 と緩やかな回復を示唆している。落ち込みは4~6 月期の一時的なものとみられる。また、景気後退に落ち込む確率は27.2%にとどまるというのが、エコノミストのコンセンサスだ。

 昨年11 月からの景気回復にアベノミクスの第1 の矢・金融政策、第2 の矢・財政政策が動いていることは確かであろう。第3 の矢・成長戦略や第1 の矢の効果で実質金利が大きく低下していることを活かして、民間企業が設備投資を増やしたり、賃金を引き上げ消費回復に資するという動きをするかどうかが注目される。

 先行指標は今後の設備投資の増加を示唆している。機械受注は4~6 月期、7~9 月期と2 四半期連続前期比増加となっている。建設工事受注(国内民間分)は1~3 月期が前期比+0.1%のあと、4~6 月期は+14.0%、7~9 月期は+24.6%と2四半期連続2 ケタの伸び率になっている。消費者物価指数(コア)前年同月比は6 月分以降上昇に転じている。コア、コアの前年同月比も10 月分で+0.3%と5 年ぶりの上昇になった。98 年8 月の+0.7%以来の伸び率だ。物価が下落するデフレの時代にはプロダクト・イノベーションよりプロセス・イノベーションが重視されたようだが、環境は明らかに変わってきている。

 9 月7 日に2020 年の夏のオリンピックが東京開催と決まったことは、7 年後の新たな中期的な目標を日本人が持つことになり、景気にとってプラスに働きそうだ。

 景気ウォッチャー調査の現状判断DI は9 月は52.8、10 月は51.8 だが、東京オリンピックに関してコメントした人だけでDI を作成すると、33 人がオリンピックに言及した9 月は59.8、6 人がコメントした10 月では58.3 と、それぞれ全体のDI より7.0 ポイント、6.5 ポイント高めの数字となり、東京オリンピックがマインド上プラスの効果をもたらしていることが確認できる。意外と近畿地方の人のプラス期待が大きいようだ。オリンピックの経済効果については3 兆円から150 兆円まで様々な数字が公表されているが、どこまでの範囲で経済効果を考えるかで変わってこよう。東京都のホームページに掲載されている招致委員会の経済波及効果の数字が3 兆円(2 兆9609 億円)である。これは施設整備費や大会運営、観戦客の消費支出などの合計に、産業運用表を用いて乗数効果を加味したものである。道路や鉄道等のインフラ整備費は対象外だ。しかし、関連するインフラ整備費は巨額だと考えられる。例えば、オリンピックが決まったことで圏央道の完成は早まる可能性が大きい。圏央道が完成すれば首都圏の物流も大きく変わろう。また羽田空港や成田空港を東京駅と結ぶ新たな鉄道建設構想も浮上しているようだ。リニア新幹線の完成はまだまだ先だが、オリンピックまでに一部分でもオープンし、試乗できないかというアイディアもある。パラリンピックと併せて開催されるので、東京のバリアフリー化が進もう。

 12 月にはユネスコ無形文化遺産に和食が登録されるという。オリンピック招致にあたり、流行語大賞候補である「お・も・て・な・し」がキーワードのひとつになった。日本文化に対する海外の注目は一段と大きい。日本への関心を高めるチャンスであるとともに、日本独自の良いものを輸出するチャンスでもある。和食やアニメなどのクールジャパンの分野の他にも、温水洗浄便座などへの注目が高まることが考えられよう。

 オリンピックが決まったことで新たにスポーツを始める人も増加しそうだ。スポーツ用品などの売り上げが増えるかもしれない。オリンピックに出場する選手が愛用するグッズへのニーズも高まろう。高齢者の人も元気で長生きしようというニーズが高まり、健康産業などが伸びそうだ。オリンピックに絡んで様々なアイディアが出てこよう。

 1964 年の東京オリンピックが決まったのは1959 年のミュンヘンIOC 総会で、その年から日本プロレスでは、力道山が世界各地域の強豪プロレスラーを来日させ、総当りのリーグ戦(日本人同士は対戦せず)を行うという世界初の企画であるワールドリーグ戦が始まり、下火になっていたプロレス人気を回復させた。ワールドリーグ戦は高度成長期末の72 年まで14 回開催され人気を博した。力道山5 回、豊登2 回、ジャイアント馬場6 回、アントニオ猪木は1 回と日本のプロレス史に名を刻む日本人レスラーが世界の強豪を倒して優勝した。ちなみに戦後すぐの50 年代前半のプロレスは力道山が体の大きい外国人を倒すという構図であったが、1964 年のオリンピックが決まった59 年の翌年60 年にはジャイアント馬場・アントニオ猪木という身長2 メートル前後の大型レスラーがデビューした。外国人と体格差で全くひけをとらない時代がやがて幕を明けることになったのである。現在は公式スポンサーの関係で「オリンピック」というそのものずばりの名前を商売には利用できないものの、かつての「ワールドリーグ戦」のようにオリンピックに絡めたアイディアで盛り上げることは可能であろう。2020 年東京オリンピックを第4 の矢にするためにも、プロレス人気を復活させた力道山の発想に学びたい。

 バッハIOC 会長は2020 年の東京オリンピックで野球・ソフトボールの開催の可能性にも最近言及している。サッカーと並んで野球などの予選を被災地などを含む地方で開催すれば、復興をアピールすることも出来よう。東京オリンピックはアベノミクスの第4 の矢になる可能性がある。

 ちなみに、1964 年の東京オリンピックの決まった1959 年5 月末の日経平均株価は前月比+7.7%上昇した。1959 年5月は1958 年6 月の景気の谷から1 年弱であり、その後の景気拡張は61 年12 月の山まで約2 年半続いた。今回2020 年の東京オリンピックが決まった2013 年9 月末の日経平均株価は前月比+8.0%上昇した。2013 年9 月は2012 年11 月とみられる景気の谷から1 年弱である。景気局面や株価の動きは似ている。今回は、消費増税による一時的落ち込みを乗り越え、前回同様息の長い景気拡張が続くことを期待したい。

 消費増税による一時的落ち込みを乗り越えるのに、今年売れなかった秋物に対する需要が来年出ることが役立つかもしれない。今年10 月前半は真夏日もあり、百貨店では秋物衣料品が売れなかった。10 月の全国百貨店売上高は前年同月比で3 ヵ月ぶりに減少した。10 月の消費が落ち込んだのには台風も影響した。統計が存在する1951 年以降、10 月として台風接近数6 は最多記録を更新した。台風関連のコメントを出した景気ウォッチャー98 名の回答だけで現状判断DI を作ると41.1 となり全体の51.8 から10.7 ポイントも低くなる。そして全体の現状判断DI の前月差1.0 ポイント低下の半分強の0.6 ポイント程度を、この台風要因で説明することができる。しかし、その反動が来年の個人消費の底上げ要因になるというプラス面もある。消費税引き上げ直後の落ち込みから消費が持ち直すのにひと役買いそうだ。

 景気の予告信号である身近な社会現象は天候不順の悪影響をいち早く伝えていた。「笑点」のテレビ視聴率(関東地区)が10 月は全ての週で「その他娯楽番組」の中で第1 位となった。日曜日の夕方、買い物に行かず、レジャーに出かけなかった人が増えた可能性を示唆する数字だ。幸い「笑点」の第1 位は11 月3 日までの週で止まった。続く11 月10 日、17 日までの週と24 日までの週では、3 週連続して他の番組が第1 位となった。気温も下がり冬物需要も高まったとみられる11 月分では、百貨店売上高は、前年同月比増加に転じる可能性が大きいと予測されるが、「笑点」の視聴率もそれを裏付けそうだ。

 11 月には被災地復興につながる動きがいろいろとみられた。朝の連続テレビ小説「あまちゃん」は9 月で放送が終了した番組の中で、11 月20 日にドラマアカデミー賞最優秀作品賞を受賞した。あまちゃんの舞台は岩手県だ。プロ野球日本シリーズはパリーグの人気球団のひとつ東北楽天イーグルスが初優勝を果たした。3.11 の悲しみの涙が11.3 歓喜の涙に変わった。優勝パレードを21 万4 千人のファンが見守った。楽天の本拠地は宮城県だ。また、今年のB-1 グランプリは「なみえ焼そば」、11 年・12 年の連続4 位からの優勝となった。福島県からの優勝だ。来年の開催都市は郡山市に決まった。被災地の復興はフロー面では進みつつある。しかしストック面ではまだ道半ばと言える。そうした状況下で11 月の3 つのイベントは復興支援につながるものとみられる。