宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

9月のトピック「家計調査など弱い統計も散見される微妙な局面。先行き持ち直し示唆する指標も」

2014年09月03日

 足もと経済指標は弱含みのものも散見され、景気の先行きには不透明感が漂っている。日本の4~6 月期実質GDP 成長率が前期比年率▲6.8%と大幅なマイナスで8 月13 日に発表されたあたりから、7~9 月期も景気は弱いのではないかという悲観的見方も強まってきているようだ。

 鉱工業生産指数・7 月分速報値・前月比は+0.2%と2 ヵ月ぶりの増加になったものの、前月比▲3.4%と大幅に落ち込んだ6月分の反動の増加としては回復力が弱いとされても仕方ない。7 月分の生産を業種別にみると、15 業種のうち増加が8 業種、減少が6 業種、横ばいが1 業種だった。コンベヤや半導体製造装置など輸出向けの受注生産が多かった、はん用・生産用・業務用機械工業や、石油・石炭製品工業、繊維工業等が増加した。一方、自動車などが減少した輸送機械工業、パソコンや携帯電話などが減少した情報通信機械工業、化学工業(除.医薬品)等が減少した主な業種だ。軽自動車を中心に自動車関連は下振れ傾向にあるようで懸念材料ではある。但し、統計上の問題もあるかもしれない。東日本大震災直後に電力制約が生じたことなどで夏季の生産パターンが変化したようで、季節調整値でみた月々の動きを読みづらくしている面もあるようだ。

 家計調査の弱さを指摘する向きも多い。7月分の二人以上世帯の実質消費支出は前年同月比で▲5.9%の減少だ。6月の▲3.0%より減少率が拡大した。消費税率引き上げの負担増が効いているという解釈がなされている。しかし、他の統計と比べると家計調査は弱すぎる感じがする。供給側の統計では7 月分の商業販売額・小売業は前年同月比+0.5%と4 ヵ月ぶりの増加となった。また7 月分の生産統計では、耐久消費財出荷指数の前年同月比は3 カ月連続減少だが、非耐久消費財出荷指数の前年同月比は2 カ月連続の増加である。家計調査は項目別の日次データがわかるなど、極めて有用なデータであるものの、サンプル数の少なさから振れやすい統計である。また同じ世帯が6 ヵ月間しか回答しないため、1 年後に前年同月比を比較する際には全く別の世帯と比較するという問題がある。最近の回答世帯では比較的低所得層が多いのではないかと考えられる内容である。家計調査は支出に注目が集まるが、勤労者世帯の収入のデータもある。足元では収入の悪化が目立つ。いわゆる税込み収入であり,世帯員全員の現金収入を合計したものである「実収入」は名目ベースの7 月分前年同月比は▲2.1%の減少だ。世帯主の収入は名目の前年同月比で見ると、定期収入が▲1.9%の減少、臨時収入・賞与も前年同月比▲2.9%とマイナスだった。今年はボーナスが前年より伸びたところが多いと報じられている状況とは全く異なる内容である。

 9 月2 日に発表された7 月分の毎月勤労統計(速報)によると、労働者1 人当たりの平均賃金を示す「現金給与総額」は前年同月比+2.6%で、5 カ月連続の増加となった。これまで+1%以内で推移していた伸び率が+2%台になったのは04 年11 月分以来、約10 年ぶりのことだ。残業代などの「所定外給与」は同+3.3%で16 ヵ月連続の増加。ボーナスや一時金の「特別給与」は+7.1%の増加だった。また、春闘でのベースアップの影響で基本給などの「所定内給与」は同+0.7%となり、2 ヵ月連続で増加となった。毎月勤労統計との比較でも家計調査の収入面の弱さが目立つ。

 なお、5 月分で前年同月比▲3.8%と大幅減少になったことが注目された規模5 人以上の企業の実質賃金は、7 月分で▲1.4%までマイナス幅が縮小した。また5 月分で前年同月比▲3.2%の減少だった規模30 人以上の企業では7 月分ではゼロに回復した。

 大手百貨店5 社が9 月1 日発表した8 月分の売上高は揃って前年同月比増加となった。高額品の回復に加え、秋物衣料が伸びたようだ。5 社そろってプラスになるのは消費増税前の今年3 月以来だ。8 月前半は台風や豪雨の影響で振るわなかったが、後半に持ち直した。

 生産指数など景気動向指数・一致系列・採用指標の動きから判断して「景気の山は1 月」説を唱えるエコノミストが、ESPフォーキャスト調査8 月分では二人新たに出てきた。実際には認定されることはないだろうが、過度な悲観論が足元の民間の経済行動に水をかけることがないかどうか注視したい局面だ。但し景気動向指数・先行CI が6 月分に続き9 月5 日発表の7月分も上昇になりそうなことなど先行きの持ち直しの兆しも現れている。

 微妙な経済指標の代表は機械受注だろう。6 月分機械受注(除く船舶電力の民需)の前月比は+8.8%と3 ヵ月ぶりの増加となった。前月の大幅減少の後だけに力強さが感じられない。内閣府は基調判断を2 ヵ月連続で下方修正した。「一進一退で推移している」の表現は12 年6~8 月以来だ。4~6 月期の機械受注(除く船舶電力の民需)の見通しは前期比+0.4%であったが、実績は▲10.4%になった。実績が見通しを下回ったのは10 年以降の5 年間で4 回目となった。7~9 月期の見通しは+2.9%だが、4~6 月期の大幅減少からみると弱いという印象。製造業の見通しがマイナスである。但し、09 年以降の5 年間ではすべて7~9 月期は実績が見通しを上回っていて、今年もそうなることを期待したいところだ。明るい材料は、代理店の受注が3ヵ月連続で伸びていることだ。中小企業の設備投資は、足元底堅いと言える。7~9 月期見通しは▲1.1%と小幅マイナスだが、計算に使った達成率が95.4%なのでプラスに転じる可能性もある。9 月5 日発表予定の7 月分の景気動向指数・一致CI では設備投資関連データの投資財出荷指数がしっかり増加したことがプラスに寄与しそうだ。民間企業の設備投資意欲は各種計画調査や、実稼働率の水準などからみて、しっかりしていると思われ、先行指標の機械受注も先行き増加の方向になろう。

 アベノミクス第3 の矢の成長戦略は、日本の潜在成長率を高め、経済の可能性を開花させるのが主目的だろう。「ESP フォーキャスト調査」で約1 年前の13 年7 月特別調査で、アベノミクスの短期と長期の効果についてエコノミストの意見を調べたことがある。1 年以内の短期では、金融政策・財政政策の効果で、成長率の押し上げ、物価上昇、失業率改善、円安、株高になるといった見方が約9 割以上でコンセンサスとなっていた。しかし、1 年超の長期に関しては、そうした見方は6 割程度に低下し、どちらとも言えないという意見が3 割強になっていた。長期の効果に影響を与える成長戦略は、民間の経済主体が政策による環境整備を自分の問題として前向きに捉え活用して初めてプラスに働くことになる。

 13 年は異次元緩和でマネーストック(通貨供給量)が順調に伸びた。13 年のマネーストックの代表的な指標のひとつとされるM3 の年平均残高は+2.9%と現行統計で暦年の伸び率がある05 年以降で最大の伸びだ。ただ14 年に入り、少しブレーキがかかっている点が気懸かりだ。前年比でみたドル円レートの円安効果の弱まりや大口案件(電力など)の一服といった要因もあるのだろうが、銀行・信金計の貸出の前年同月比伸び率が今年に入って+2.2%前後で落ち着いていて伸びを高めていない数字をみると気になる。日銀の異次元緩和への認知度が金融資本市場などの関係者だけにとどまっていてはダメだろう。異次元金融緩和をきっかけとした物価上昇で、現在は実質金利がマイナスに転じている。つまり、お金を借りるのが有利な状況にある。こうした認識が幅広く浸透していくことが設備投資の裾野の拡大に必要だろう。

 7~9 月期の実質GDP の実質個人消費は相当しっかりしたプラスの伸び率に戻りそうだ。8 月18 日発表の消費総合指数では6 月分が前月比+0.6%と5 月分の同+1.6%に続き、2 ヵ月連続増加になった。このため、消費総合指数の7~9 月期へのゲタは前期比年率で+3.9%になる。4~6 月期の平均よりも6 月単月のデータが強ければ、7~9 月期は「プラスのゲタ」を履くと表現され、前月比がゼロだとしても、統計上はゲタの分だけプラスの伸び率を確保したことになる。GDP の実質個人消費が消費総合指数の月次の動きと同様と考えると、ゲタだけで7~9 月期の実質GDP 成長率は前期比年率約+2.3%も押し上げられる計算だ。

 身近な社会現象は景気の補助信号である。これらは消費増税後も消費がしっかりしていることを概ね示唆している。

 日曜夕方の放送の「笑点」視聴率が、今年は「その他の娯楽番組」で第1 位になる週がほとんどなく、日曜の夕方には出かけている人が多いことを示唆している。さらに7 月・8 月は一度も首位にならず、7~9 月期の消費の底堅さを示唆している。

 消費の背景となる雇用情勢は堅調だ。5 月分失業率3.5%と16 年5 ヵ月ぶりの低水準(7 月分は3.8%に上昇。景気が良くなり職探しをする女性の増加が目立つ)になった。2 年連続で3 万人割れの自殺者は消費税率引き上げ後の4~7 月も減少、月を追うごとに前年同月比で減少率が拡大している。昨年4 件発生した7 月の金融機関店舗強盗は今年20 日まで0 件。生活が苦しく包丁を持って郵便局に押し入る人は減っているようだ。22 年ぶりの高水準1.10 倍を6・7 月分で記録した有効求人倍率の先行指標・雇用動向の現状水準判断DI7 月分も60.8 と60 台の高水準を維持している。

 夏の個人消費にマイナス要素として働くと思われたエルニーニョ現象だったが、直近で大きな変化がみられた。今夏に5 年ぶりの発生が予想されていたエルニーニョ現象は、7 月10 日の気象庁「エルニーニョ監視速報」で、秋に発生する可能性が高いとの見通しに変わった。さらに、8 月11 日の「監視速報」で、「秋から冬にかけてエルニーニョ現象が発生する可能性は、これまでの予測よりも小さくなり、平常の状態が続く可能性と同程度」となった。冬にかけてもエルニーニョ現象が発生しない可能性が出てきた。エルニーニョ現象が夏に発生すると日本は冷夏に、また冬に発生すると暖冬になりやすく、個人消費に水をかけるが、通常の夏や冬になると夏物・冬物などの季節ものの需要がしっかり出てきやすい。景気への悪材料のひとつが消滅しそうだ。

 もっとも8 月は東北4 大まつりのようにカレンダー要因と雨による中止の影響などで人出が鈍ったものもある。8 月の降水量は四国で平年の3.7 倍となるなど、異常な状況である。天候要因が景気にどう影響を及ぼすか要注視という局面であろう。