ホームマーケット身近なデータで見た経済動向9月のトピック「中国発の株安乗越え、緩やかな拡張継続、8 月観光地の人出は好調のところ多い」

9月のトピック「中国発の株安乗越え、緩やかな拡張継続、8 月観光地の人出は好調のところ多い」

2015年9月2日

中国株安は直ちに、世界景気腰折れには結びつかず

 中国人民銀行による8 月11 日~13 日の基準値の大幅な元安設定をきっかけとする、中国景気に対する不安は、資源需要の後退を受けた国際商品安とともに、投資家の心理を悪化材料として意識され株などのリスク資産が売られた。市場実勢に合わせた基準値の元安設定は将来SDR の構成通貨に入るためにIMF からの要請に応えたものだと言われたが、FRB の利上げが9 月にも実施という見方が市場で強まっていた時期であったため、さらなる輸出の落ち込みを回避する狙いがあるとみられた。中国のGDP は2005 年に世界の5%だったものが14 年には13.4%へと大きくなった。影響が大きい割に、4~6月期の実質GDP が前年比7%と発表されても、電力使用量や鉄道貨物輸送量など他の統計が弱いことから、統計精度に不信を持たれてしまう。このような状況下、元安をきっかけに中国の景気の実態の悪さがクローズアップされた。また、元高基調という見方が崩れ、中国からの資本逃避加速が懸念されるという見方も強まった。8 月12 日の天津での大爆発事故も悪影響を与えた。李克強首相の天津入りが事故から4 日も経っていたことも、さまざまな流言につながった。

 株安は中国だけにとどまらず世界同時株安となった。8 月21 日発表の財経・製造業PMI8 月分速報値が47.1 と6 年5 カ月ぶりの低水準になったことをきっかけに、NY ダウは21 日と24 日と2 営業日続けて下落幅ランキング10 位以内に入る500 ドル台の大幅下落となった。

 但し、中国の株安が直ちに世界景気の腰折れに結びつくとみるのは行きすぎであろう。中国の株式市場は個人の参加者が多いが家計資産全体に占める割合は5%程度という推計もある。中国株が、リーマン・ショック時のサブプライムローンのように、様々な金融商品に組み込まれているわけではない。昨年11 月頃までは上海総合指数は安定推移で景気との相関性はあまり見られなかった。中国では、株価下落後に金融緩和策が実施されたことをはじめとして、政策対応がなされるものと考えられよう。

 8 月には、2 万円台にあった日経平均株価も一時1 万7 千円台まで下落した。9 月初は1 万8 千円台で推移して、まだまだ予断を許さない状況だ。なお、景気ウォッチャー調査による日経平均の売買シグナルは6 月調査発表日に19737 円64 銭で売り建てとなっている。7 月調査での改善は小幅改善にとどまった。8 月調査以降で現状判断DI が前月差で1 ポイント以上上昇することが、買いシグナルとなる。

足踏み示唆する景気動向指数

 こうした状況下、足元、日本でも景気のもたつきを示唆するデータが散見されている。4~6 月期の鉱工業生産指数は前期比▲1.4%と減少。同期の実質GDP 第1 次速報値も前期比年率▲1.6%とマイナス成長だった。景気動向指数による機械的判断も「足踏み」で、最も早くて12 月上旬に10 月調査が出るまでは「足踏み」判断が続く。

 15 年4~6 月期実質GDP 成長率・第1 次速報値は個人消費や輸出が減少したことを主因に、3 四半期ぶりのマイナス成長になった。約6 割のウエイトがある最大の需要項目の実質個人消費の4~6 月期は前期比▲0.8%で4 四半期ぶりの減少となった。税制が変わった軽自動車の購入減少や、バーゲンの時期が6 月から7 月にずれ込んだことなどもマイナス要因になった。しかし、7~9 月期の個人消費は、前期比で緩やかなプラスの伸び率になる可能性が大きいと7 月分のデータからは言えそうだ。個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の7 月分の対4~6 月平均比は反動増で+3.7%の増加になった。需要サイドの関連データでは、家計調査・二人以上世帯・実質消費支出(除く住居等)の7 月分の水準が4~6 月平均と同じになり、8・9 月の前月比増加が素直に7~9 月期の前期比増につながる状況だ。

 また、投資財出荷の7 月分はしっかりした水準のスタートで、設備投資は良さそうだ。外需(純輸出)の前期比寄与度は▲0.3%と2 四半期連続のマイナス寄与になった。実質輸出は前期比▲4.4%と6 四半期ぶりの減少になった。なお、もともと15 年度の経済見通しは官民とも内需主導となっていて、外需は、政府見通し・内閣府年央試算ではともに寄与度は+0.1%にとどまり、ESP フォーキャスト調査・8 月調査では同0.0%にとどまっている。

「景気ウォッチャー調査」でも観光需要がプラスに

 「景気ウォッチャー調査」7 月分・調査結果に示された、景気ウォッチャーの見方に関する内閣府の総括判断では、「景気は、緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、物価上昇への懸念等がみられるものの、観光需要、プレミアム付商品券への期待等がみられる」とまとめている。「緩やかな回復基調」という景気判断が継続している。

 期待材料として6 月調査に出ていた「外国人観光需要」が、7 月調査では「観光需要」に変わった。国内の観光客も動いているのだろう。景気の先行きを「やや良くなる」と判断した、東北の高級レストランの支配人は「祭りなどのイベントが多い時期であり、他県からの観光客による消費を見込んでいる」とし、北陸のタクシー運転手は「春先に来た観光客も再訪したいと話していることから、これから秋にかけても観光客が増加する。また、9 月の大型連休もあり増える」とコメントした。

 観光名所に多くの人出があるというデータをいくつか挙げると、3 月に北陸新幹線が開通した金沢では、兼六園の入園者が高い伸び率となっており、8 月分の前年同月比は+76%の増加だった。8 月上旬に行われた今年の東北四大祭り(青森ねぶた、秋田竿灯、仙台七夕、山形花笠)は全てのまつりで人出が前年を上回った。仙台七夕は東日本大震災後最多の人出であった。四大祭り合計で725 万人、前年比+11%の増加になった。他でも8 月分の人出が増加した観光地が多い。例えば吉野ケ里歴史公園は前年比+37%の増加、長良川鵜飼い観覧船の乗船客は前年比+12%の増加となっている。

 景気ウォッチャー調査のDI は5 段階の回答に1~0 まで0.25 刻みで点数を与え、回答数で過重平均計算するシンプルなものだ。全体のDI と注目される事象に関してコメントだけから算出したDI を比べることで、その事象の影響を判断することが出来る。マーケットに大きな影響を及ぼした「ギリシャ問題」についてコメントした人が、6 月調査では、現状判断で5 人、先行き判断で22 人いた。ギリシャ関連コメントDI はどちらも全体のDI を10 ポイント強、下回った。「ギリシャ問題」が景況感にマイナスに作用したことがわかる。しかし、7 月調査になると「ギリシャ関連」コメントDI は現状判断で60.0%、先行き判断50.0%で、悪影響がほぼ終息した。ちなみに7 月調査で中国関連コメントを計算してみると、現状判断では18 人が回答し47.2、先行き判断では45 人回答で47.8 となり、全体DI を4 ポイント強程度下回った。若干の懸念材料というところだ。8 月調査でどれだけ悪化するか注目される。

最近の気象状況は個人消費にプラスか

 気象庁は8 月10 日発表のエルニーニョ監視速報で、「エルニーニョ現象が続いている。今後、冬にかけてエルニーニョ現象が続く可能性が高い」と、7 月時点と同じ判断をした。基準値を上回る目安が+0.5℃のエルニーニョ監視指数の基準値偏差は、6 月は+1.6℃と98 年4 月の+1.7℃以来の水準になり、7 月では+2.0℃まで上昇、98 年3 月の+2.1℃以来の高水準となった。8 月上旬・中旬では+2.1℃だ。

 今夏はエルニーニョ現象が発生していることから当初は冷夏の可能性が言われていたが、7 月19 日から8 月16 日まで東京で最高気温が30℃以上の真夏日が29 日間連続した。これは140 年間の観測史上7 位タイの記録だ。そして最高気温が35℃以上の猛暑日は7 月31 日から8 月7 日まで8 日連続となった。これまでの4 日間連続の記録を大幅に更新した。今年の関東甲信の梅雨明けは7 月10 日頃と平年よりかなり早く、九州南部の7 月14 日頃より早いという異例の事態である。1951 年から2014 年までの64 年間で関東甲信の梅雨明けが平年より早い年は35 回、そのうち景気拡張局面は26 回で74%の確率だ。一方、梅雨明けが遅い年は21 回で、拡張局面である確率は58%と低い。梅雨明け時期は景気にはプラスとなったようだ。猛暑はエアコン、ビールなどの夏物商品の消費需要にプラスに働く。屋外のレジャー施設の集客などマイナス面が出る業種もあるものの、全体としてみて個人消費にはプラスに働いただろう。

 そして、8 月下旬になると気温が低下した。2010 年や1994 年など9 月に入っても真夏日が長く続くような残暑も厳しかった年では夏物は売れても秋物は売れずに秋の消費が落ち込むケースがあるが、今年は本来のエルニーニョ現象影響なのか、残暑厳しくなっていない。消費にはプラスに働く可能性があろう。

金融危機前以来の18 年ぶりデータ散見

 中国初の世界同時株安などの不透明要素はあるものの、アベノミクスの成果などにより、ここに来て明るい動きも出ている。企業収益増加が賃金上昇・消費増加、また設備投資増加につながるという好循環の動きが出て、デフレ脱却に向け着実に前進している。最近は約18 年ぶり(金融危機前以来)や約23 年ぶり(バブル崩壊翌年以来)というデータが多い。

 雇用の限界的なデータと言える自殺者数は、今年1~7 月分の前年比で▲3.0%であり、このペースでいけば今年は97 年以来18 年ぶりに2 万人台前半になりそうだ。5 月分完全失業率は3.31%と、97 年4 月の3.24%以来の低水準になった(女性が職探しに出てきたため、6 月分は3.36%、7 月分は3.33%だが)。「日経消費DI」調査の売上DI は15 年7 月+38 と14 年の消費税引き上げ前の駆け込み時の+31 を除くと、96 年4 月+30 以来18 年ぶりだ。

 7 月分の有効求人倍率は1.21 倍で23 年ぶりの高水準だ。新日本プロレスの夏の祭典「G1 クライマックス」は今年25 回目を迎えた。8 月16 日に決勝戦が行われ、棚橋弘至が8 年ぶり2 度目の優勝を果たした。8 年前はプロレス人気もどん底状態だったが、最近は、新日本プロレスの親会社のICT 戦略などもあって人気が回復している。今回のG1 クライマックスの全大会の観客動員数は7 万0413 人で、大会数は違うものの93 年の7 万6700 人以来22 年ぶりの7 万人超えだ。