宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

10月のトピック「⾜元までは景気の底上げが確認される、先⾏き中国など不透明材料の実際の影響に注⽬」

2015年10月02日

7~9 月期実質GDP 成長率見通しマイナス成長とみるのは拙速

 鉱工業生産指数・8 月分速報値前月比は▲0.5%となった。2 ヵ月連続減少だ。前回の製造工業生産予測指数8 月分前月比は+2.8%増加だったが、実現率は▲4.2%と下振れた。予測調査提出期日は10 日で、8 月11 日からの人民元の基準値切り下げ、天津の大爆発、中国発世界同時株安の影響が含まれていなかった。中国ショックの影響は大きかった。中国景気に対する不安は、資源需要の後退を受けた国際商品安とともに、投資家心理の悪化材料として意識されている。7~9 月期の鉱工業生産指数前期比は2 四半期連続マイナス成長がほぼ確実になり、7~9 月期の実質GDP 成長率もマイナス成長だという見通しが蔓延したが、この見方は拙速だろう。

 10 月2 日発表の8 月分の家計調査で、実質消費支出(二人以上世帯、除く住居等、季調値)が前月比+1.5%と、7 月分同+1.1%に続いて増加した。内需は底堅く、9 月分次第ではあるが若干のプラス成長は可能だろう。8 月分の二人以上の世帯の実質消費支出の前年同月比は+2.9%と3 カ月ぶりの増加。内訳をみると、住宅リフォームなどの住居が+15.2%、教育が+13.3%、交通・通信は+8.6%と増加した。観光地のデータからみても夏休みの旅行などが好調だった。上旬の猛暑効果で、エアコン(+81.6%)が伸びた。耐久消費財の裏データである東京二十三区清掃一部事務組合の粗大ごみ量も8 月分前年同月比は+1.8%と増加している。

 8 月分の家計調査では勤労者世帯の可処分所得が名目・前年同月比+2.1%、実質・前年同月比+1.8%と、4 月分以降名目・実質とも5 カ月連続で増加した。春闘の賃金アップや夏のボーナスが良かったことが反映されていよう。

整合性がとれない不思議な賃金や出荷関連データ

 日銀の金融経済月報(2015 年9 月)の13 ⾴で毎月勤労統計のデータに触れた「この間、6~7 月の特別給与は、前年比で大きめのマイナスとなっている」という記述の脚注5 が注目される。そこには「前年比マイナス幅が大きいのは、本年1 月に調査対象サンプルの入れ替えが行われた30 人以上の事業所である。6~7 月の特別給与の前年比を計算すると、30 人以上の事業所は▲5.2%となっている。一方、5~29 人の事業所については+1.9%とプラスとなっている。なお、法人季報における1 人当たりの賞与の前年比(4~6 月)は、全産業全規模で+10.4%となっている。また、主要な民間のアンケート調査をみると、夏季賞与は前年比で+2~3%の増加となっている。」と記されている。

 最近の統計の不思議な現象は他にもある。中小企業製造工業生産指数の8 月分速報値は10 月1 日に発表された。8 月分速報値の中小企業製造工業出荷指数は前月比+1.3%と大幅な増加である。しかし鉱工業出荷指数の前月比は生産と同じ伸び率の▲0.5%で、こちらも2 ヵ月連続の減少になっていた。内数のはずの中小企業の数字が真逆に動いた。中小企業製造工業生産指数も減少ではなく前月比0.0%と横這いだった。東日本大震災の前後で生産指数などの季節パターンが変わった可能性が大きいとみられることなどから、季節調整値を判断する場合はしばらくの間は幅をもってみた方が良さそうだ。

中国景気減速は実態が見えにくいため「先行きの懸念材料」として景況感に与える影響が大きい

 日本経済は、企業収益の増加が雇用環境の改善・賃金の上昇に結びつき、全体的に底上げされてきている。しかし、マインド面を中心に中国発世界同時株安などの海外要因によって水を差されてしまった感じがする。8 月25 日から31 日が調査期間の「景気ウォッチャー調査」(8 月調査)は、中国の問題が発生した直後のデータだったので、注目された。

 現状判断DI が前月差2.3 ポイント低下の49.3、先行き判断DI は前月差3.7 ポイント低下の48.2 となった。現状判断DI が7 ヵ月ぶりに、また先行き判断DI も8 ヵ月ぶりに景気判断の分岐点である50 を下回ったことで、中国景気減速、世界同時株安がマイナスに働いたと大きく報じられた。

 但し、現状の景気認識に関しては、季節調整値でみると違った姿が見える点には要注意だ。方向性で回答している現状判断DI の季節調整値は3 ヵ月ぶりに上昇し、指数水準は分岐点の50.0 ちょうどとなった。現状判断に関しての足元の悪化は原数値だけにとどまっていることから、季節要因によるところが大きいとみられる。一方、先行き判断DI の季節調整値は7 月の51.1 から2.6 ポイント低下の48.5 と3 ヵ月連続で下落した。原数値だけでなく季節調整値も50 割れという弱い数字となった。

 「中国」関連のコメントは7 月調査では現状判断で18 人、先行き判断で45 人だった。中国関連DI をつくると、各々47.2 と47.8 で全体からどちらも4 ポイント程度低い水準にとどまっていた。8 月調査では現状判断34 人、先行き判断176 人とコメントする人が増えた。中国関連DI をつくると、各々43.4 と37.4 で、全体からの乖離は、現状判断では5.9 ポイント低い1 桁にとどまったが、先行き判断では10.8 ポイントと2 桁に拡大した。中国景気減速は実態が見えにくいため「先行きの懸念材料」として景況感に与える影響が大きいようだ。

足元の業況判断は底堅かった9 月調査日銀短観

 9月調査日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DI が、中国経済など海外景気の減速を反映して、6 月調査の+15 を3 ポイント下回る+12 になった。但し、10 期連続で「良い」超を意味するプラスであり、9 期連続で2 ケタのプラスであることから底堅いとも言えよう。

 大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は9 月調査では7%だが6 月調査と同じである。業況判断DI の悪化は「良い」と答えた割合が22%から19%に低下し、「さほど良くない」と答えた割合が71%から74%に上昇したからだ。企業の不透明感が強まったことが影響した。

 一方大企業・非製造業・業況判断DI では、9 月調査は+25 と6 月調査の+23 から2 ポイント改善した。4 期連続の改善であり、17期連続のプラスである。+25 は91 年11 月調査の+33 以来23 年10 カ月ぶりの高水準だ。雇用・所得環境が改善していることに加え、訪日外国人のインバウンド消費の増加などがプラスに働いていよう。

 中小企業・製造業の業況判断DI は、6 月調査に続いて9 月調査でも0 になった。これは鉱工業生産指数が4~6 月期、7~9 月期と2 四半期連続前期比減少見込みであることと整合的だろう。一方、中小企業・非製造業の業況判断DI は、13 年12 月調査で+4 と92年2 月の+5 以来21 年10 ヵ月ぶりのプラスになり今回15 年9 月調査の+3 まで1 回0 があったものの概ねプラス基調を維持している。雇用吸収力がある業種が多い、非製造業のDI が久し振りにプラス継続となっていることは、8 月分の有効求人倍率が1.23 倍と92 年1 月分の1.25 倍以来23 年7 ヵ月ぶりの高水準になっていることと整合的だろう。

 9 月調査の2015 年度の大企業の設備投資計画は前年度比+10.9%と市場予想のレンジを上回る高い伸び率になったことも、更新投資などが必要とされる局面で設備投資の底堅さを示唆する数字となった。

物価面でも23 年ぶりのデータ

 企業間で取引するサービスの価格水準を示す企業向けサービス価格指数の8 月分前年同月比は+0.7%の上昇となった。6 月分の+0.5%、7 月分の+0.6%から少しずつ伸び率が上昇し、13 年7 月分以来26 ヵ月連続の前年同月比プラスとなった。14 年度中は消費税引き上げ分もプラスに寄与しているが、その分を除いても企業向けサービス価格指数・前年同月比はプラスであった。26 ヵ月連続して前年同月比が上昇したのは86 年8 月から93 年9 月まで86 ヵ月間連続で上昇した時以来、22 年11 ヵ月ぶりのことである。

 最近は約18 年ぶり(金融危機前以来)や約23 年ぶり(バブル崩壊翌年以来)という節目のデータが多い。

 日本チェーンストア協会の8 月分スーパー売上高(既存店ベース)は前年同月比+2.0%と5 ヵ月連続で増加したが、5 ヵ月以上連続しての増加は92 年5 月までの26 ヵ月連続増加以来23 年3 ヵ月ぶりだ。雇用の先行指標となる新規求人倍率は8 月分で2 カ月連続改善し1.85 倍になった。1991 年11 月(1.94 倍)以来23 年9 カ月ぶりの高水準だ。バブル崩壊翌年以来の状況が戻りつつあることを示唆する数字だろう。

一時弱含んだ身近なデータも回復

 身近な社会現象は、8 月まで概ね景気底堅さを示唆していた。但し、8 月下旬の世界同時株安の直後9 月入りしたところで一時弱含んだ笑点の視聴率のようなものもあったが、その後持ち直し傾向にある。9 月6 日までの週で、「笑点」の視聴率は19.0%と高くその他娯楽番組のジャンルで第一位であった。しかし、13 日までの週以降低めの視聴率に戻った。

 訪日外国旅行者数の増加が続いている。1~8 月の前年比+49.1%で昨年の数字を伸ばすと2000 万人になる。鈍化懸念があった中国人の前年比は8 月分で+133.1%と1~7 月分+117.0%から上昇した。

 中央競馬売上(売得金)は年初から9 月27 日まで累計+3.3%とシルバーウィークで3%台まで上昇した。大相撲秋場所の懸賞は15 日間1979 本と、過去最多だった夏場所の1776 本を更新した。好調な企業収益下、広告費増も続いている。