ホームマーケット身近なデータで見た経済動向1月のトピック「天気の良さ、先行き不透明さで初詣の人出増か。最大級のエルニーニョの影響に要注目」

1月のトピック「天気の良さ、先行き不透明さで初詣の人出増か。最⼤級のエルニーニョの影響に要注⽬」

2016年1月5日

生産指数11 月は「一退」だが、先行きは増加基調へ

 昨年末に発表された鉱工業生産指数・15 年11 月分速報値の前月比は▲1.0%となった。3 カ月ぶりの減少である。11 月分の生産は、15 業種のうち減少が10 業種もあった。はん用・生産用・業務用機械工業など減少基調にある業種があるところに、このところ生産をリードしてきた電子部品・デバイス工業などの落ち込みが加わり、全体的な悪化が示された。経済産業省の基調判断は、15 年9 月分から11 月分まで3 カ月連続して「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」であるが、足元は一進一退の「一退」と言える状況だ。

 ただ、在庫は11 月分前月比にこそ一時的な在庫積み上がりの動きがみられるものの、出荷と在庫の前年比から測る在庫サイクルから大きな流れをみると、在庫調整がいよいよ終了しそうな気配だ。15 年10~11 月分では、出荷の前年比が▲0.1%、在庫が同▲0.5%とどちらの前年比もマイナスだが、在庫の減少率が大きくなった。在庫調整終了の兆しは製造工業生産予測指数の12 月分・1 月分の増産見通しとも整合的だ。製造工業生産予測指数を踏まえれば、生産は先行き緩やかに伸長しそうだ。

16 年の箱根駅伝の関東地区テレビ視聴率は前年より低下

 15 年秋のプロ野球・日本シリーズは、ソフトバンク対ヤクルトというカードだった。ソフトバンクがパ・リーグ人気ランキング1位であるのに対しヤクルトがセ・リーグ5位で、人気ランキング合計6 は、景気がはっきりしない足踏み状況であることと整合的だ。人気度ランキング合計2~5 は日本シリーズ開催時期が景気拡張局面に、合計7以上は「下剋上日本一」のケースを除き景気後退局面になることが多い。

 今年の初詣の正月3 が日の人出は最も多い明治神宮が317 万人で前年比3 万人増、成田山新勝寺が309 万人で前年比1 万人増、川崎大師307 万人で前年比1 万人増となった。苦しい時の神頼みではないが、景気の先行きに対する不安心理が強い面があるのかもしれない。足もとの景気足踏み状態と整合的だ。

 青山学院大学の39 年ぶりの完全優勝&連覇となった今年の箱根駅伝だが、関東地区のテレビ視聴率は往路28.0%、復路27.8%で、前年に比べて各々▲0.2%、▲0.5%の下落となった。正月三が日の天候が良く、外出した人が多かったのだろう。この点からみると、初詣の人出の増加は、天気が良く暖かかったこともかなり影響しているとみられる。

景気の底堅さを示唆する身近なデータ

景気に関連性がある身近な社会現象は、一部に踊り場を示唆するものもあるが、景気の底堅さを示唆するものが多い。

 JTB 調べによると、年末年始の国内・海外合わせた総旅行人数は国内旅行者が牽引し3058.8 万人と過去最高となった模様だ。訪日外国人旅行者数は増加した。1~11 月前年比+47.5%で昨年の数字を伸ばすと1978.5 万人。当初2020 年の目標だった2000 万人に早くも手が届くところまできた。インバウンド消費は好調だ。小売業などの年末年始商戦は堅調の模様で、百貨店は福袋などが売れたようだ。

 豊洲移転のため、今年が最後になった築地中央卸売市場のマグロの初セリでは、1400 万円で200kg の大間産クロマグロを「すしざんまい」が5 年連続競り落とした。13 年は1kg 当たり70 万円と過去最高だった。14 年に板前寿司&久兵衛が落札レース参加を見送ってからの3 年間では、今年の1kg 当たり7 万円は14 年3.2 万円、15 年2.5 万円を上回る。景気の底堅さを示唆しているようだ。

 2015 年「今年の漢字」は「安」だった。2007 年のような「偽」ではなく、ひと安心となった。中央競馬の売上(売得金)はシルバーウィークで+3%台まで上昇し、1年間の累計は+3.6%となった。4 年連続増加した。

景気は底上げ、バブル崩壊直後以来のデータも多い

 日本経済は景気の底上げがなされてきた。約19 年ぶり(金融危機前以来)や約24 年ぶり(バブル崩壊直後以来)という節目のデータが多い。完全失業率15 年5 月分3.31%は18 年ぶり、10 月分3.12%は20 年ぶりの低水準(95 年7 月3.13%、95 年6 月3.09%、15 年11 月分は3.29%)。15 年1~11 月分の自殺者前年比は▲6.2%。18 年ぶりの2.5 万人割れになった模様だ。

 日銀短観12 月調査、大企業・業況判断DI は、製造業・非製造業とも9 月調査と同水準。大企業・非製造業・業況判断DI・9 月・12 月調査の+25 は、91 年11 月調査の+33 以来23 年10 カ月・24 年1 カ月ぶりの高水準だ。雇用吸収力が大きい非製造業の業況判断DI が良いことは、11 月分の有効求人倍率1.25 倍(92 年1月・1.25 倍以来23 年10 カ月ぶりの高水準)、11 月分の新規求人倍率1.93 倍(91 年11 月・1.94 倍以来24 年ぶりの高水準)と整合的だろう。

 過去20 年間なかったからと言って、政府経済見通し2016 年度の名目成長率+3.1%は全くありえないと現時点で決めつけるのは早すぎると思われる。25 年前の91 年度は+4.9%で、それ以前は高めの伸び率が当たり前だった。

目先、賃金や設備投資の動向に注目

 賃金や設備投資は企業収益ほど伸びていない。10 月16 日の経済財政諮問会議で麻生財務大臣が提出した資料には「経営陣には過去最高水準の企業収益を、更なる収益力の向上に向けた投資や従業員の給与などに振り向けることが求められているのではないか」と記されていた。景気の好循環が続くために、目先の賃金や設備投資の動向が注目される。

 設備投資の先行指標・機械受注(船舶・電力を除く民需)前期比は、8 月に生じた中国ショックの影響が出たのであろうか、7~9 月期は弱く実績は5 四半期ぶりに減少した。しかし、10~12 月期は再び増加に転じる見込みだ。

 テレビドラマでも「下町ロケット」「あさが来た」など企業経営者を応援するタイプのテレビドラマが高視聴率だ。中小企業の設備投資と関連深い、代理店受注は10~12 月期まで3四半期連続増加見込みだ。

2016 年の金融政策は現状維持か

 日銀は15 年10 月30 日の金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決定した。決定会合は12 時17 分に終了した。展望レポート発表と一緒の決定会合の終了時間は黒田総裁になってからの過去5 回では、最短が13 年4 月26 日の12 時30 分、最長が14 年10 月31 日の13 時39 分なので、かなり早い。追加緩和の本格的検討には至らないということだったのだろう。なお、日銀は12 月18 日の金融政策決定会合で補完措置を導入した。資産買入れの円滑化と緩和効果の浸透のための措置だ。但し、量は不変で追加緩和ではない。ESP フォーキャスト調査の16 年末のマネタリーベースの予測平均値は436.7 兆円で、15 年末の356.1 兆円を80 兆円程度上回る見通しだ。金融政策は現状維持が16 年中も続くというのが平均的な見方のようだ。

エルニーニョ現象の消費への影響が懸念材料、但し桜の開花が早まると景気に明るいムードが

 12 月の上旬・中旬のエルニーニョ監視速報の基準値偏差は+3.0℃で、98 年1 月の+3.2℃以来の+3℃台である。97~98 年は20 世紀最大級のエルニーニョ現象が発生していた時期だ。エルニーニョ現象は14 年夏から発生しているが、15 年は7 月に台風11 号が四国・中国地方を通ったため、海面前線が押し上げられ関東甲信の梅雨明けが7 月10日と沖縄・奄美地方に次いで早いという異例の状況になった。このため8 月上旬まで気温は高く、冷夏による消費の落ち込みは回避された感がある。

 しかし、11・12 月はエルニーニョ現象の影響で暖かい日が続き、冬物衣料などの売れ行きにマイナスの影響を及ぼしたようだ。足もとの個人消費のもたつき要因のひとつにエルニーニョ現象がなってしまっているようだ。気象庁によると16 年夏までには平常状態に戻る見通しだ。

 但し、暖冬だと桜の開花が早くなる可能性があろう。1953 年以降観測記録がある東京の桜の開花日で平年より5 日以上早い10 回は景気後退局面に1 度もなっていない。今年も早く桜が咲けば、経済指標の改善時期と重なって、景気に関し明るいムードが高まると予想される。