ホームマーケット身近なデータで見た経済動向5月のトピック「3月時点の漠然とした不安感に、4月の熊本地震、金融政策不変を受けた円高株安が追加下押し要因に」

5月のトピック「3月時点の漠然とした不安感に、4月の熊本地震、金融政策不変を受けた円高株安が追加下押し要因に」

2016年5月2日

4月下旬のFOMC、日銀金融政策決定会合とも、金融政策の変更はなかった。マーケットは、日銀の金融緩和観測が出ていた反動から、円高・日本株安に大きく振れた。4月末の106円台は今年の円の対ドルレートの最高値だ。

最近は概ねニューヨーク市場で大きな流れが決まるドル円レートと日本の株価

今年のドル円レートの為替変動の震源地を分析すると、4月下旬の一部外資系通信社の日銀金融政策に関する憶測報道による4月22日の円安、4月28日の円高という変動を除いて、ニューヨーク市場で大きな流れが決まっている。1月初めから107円台をつけた4月11日までの日々の変化の累積は、ニューヨーク市場が7円56銭の円高で、東京市場の4円89銭の円高を上回った。また、円高一服の流れが出た4月12日から27日まではニューヨーク市場での累積は2円85銭円安で、東京市場58銭円安を上回った(図表1)。

プラス要因のはずの原油安は、安全資産の円買いを通して、日本の景気のマイナス要因

海外投資家の日本株投資とそれに絡んだ為替ヘッジの動きがあり、ドル円レートと日本の株価の相関性が高い状況が続いている。また本来、日本経済にとってプラス要因と考えられるはずの原油安による交易条件の改善の動きも、原油安は安全資産としての円買いをもたらし、円高・株安の流れにつながっている。一時30ドル台だった原油価格・WTIは4月末では需給改善見通しなどからやや上昇し40ドル台半ばになっているが、昨年同期の50ドル台は下回っている(図表2)。実質GDPは直近では15年4~6月期と同10~12月期が前期比マイナスの伸び率になっているものの、交易条件改善効果で実質GNIは14年10~12月期から15年10~12月期まで5四半期連続してプラスの伸び率になっていることは、マーケットではあまり注目されていないように思える。

次回4月「景気ウォッチャー調査」では2月同様、金融資本市場の不安定な動きが景気のマイナス要因か

ニューヨーク市場でドル円レートと日本の株価の大きな流れが決まることに表れているように、海外の投資家の行動に左右されることが大きい金融資本市場の不透明な動きが、日本の景況感に不透明さをもたらしている。景気に敏感な立場にある2050人が対象で回答率が9割強と高い、内閣府「景気ウォッチャー調査」は、変化をいち早くつかめ、コメントから景況感の変動要因が分析できる有用な調査だ。調査期間は毎月25日から月末だ。5月12日発表の次回4月調査では4月28日からの円高・株安の影響が多少は生じよう。若干の悪材料となりそうだ。前回2月調査では金融マーケットに関するコメントが多く、現状判断では「株価」について71人、「為替」については38人が、先行き判断では「株価」について118人、「為替」について89人がコメントした。1月末から2月前半のマーケットの大幅な変動が景況感の悪化材料になった。内閣府は「今月の動き」として調査結果をまとめているが、2月調査では「景気は、円高、株安といった金融資本市場の不安定な動きの中、消費動向等への懸念により、このところ弱さがみられる」としていた。

3月「景気ウォッチャー調査」では漠然とした不安感示唆するコメント増加、景気のマイナス要因に

「景気ウォッチャー調査」の直近3月調査ではいつもと違う変化がみられた。1858人のコメントをみると、「良い材料が見当たらない」、「今後は良くならない」、「不透明感が強い」などの漠然とした不安感を示したコメントがかなり目についた。

3月調査では、マーケットの影響は軽微だった。3月25日から31日までの調査期間中、日経平均は1万7千円前後、ドル円レートは112~113円台と落ち着いていたからだ。現状判断では「株価」、「為替」とも15人が、先行き判断では「株価」についてコメントした人は38人、為替について41人だった。2月調査から大幅に人数が減り、影響度が小さくなった。3月調査の内閣府のまとめは「景気は、消費動向等への懸念により、このところ弱さがみられる」となった。2月調査にあった「金融資本市場の不安定な動き」という部分が削除された。

しかし、「景気ウォッチャー調査」の景況感は、金融資本市場の不安定な動きが消えた3月になっても、もたついていた。3月の現状判断DI・原数値は、2月よりやや改善したものの、季節調整値では悪化した。もたつきの要因を探るために、景況感に影響を与えそうな様々なキーワードの分析をしてみたが、2月から3月にかけては、これといった要因は見当たらない。

「マイナス金利」導入の思わぬ効果は、一般の人の金融政策に対する認知度の高まり

「マイナス金利」に関しては2月・3月調査の景気ウォッチャーでは、景気の悪材料とみる向きが多いが、3月のコメントは現状判断25人、先行き判断41人と2月の半分程度に減っている。

なお、「マイナス金利」導入の思わぬ効果は、一般の人の金融政策に対する認知度が高まったことだろう。16年3月調査の「生活意識に関する世論調査」によると、例えば日銀の「消費者物価の前年比上昇率2%の物価安定目標」を見聞きしたことがない人の割合は26.4%で、「マイナス金利」導入前の15年12月調査の39.0%から大幅に低下した(図表3)。また、日銀が3月25日にHPに掲載した「5分で読めるマイナス金利」のアクセス数は相当多いということだ。ネーミングの負の響きから一般の人には誤解や不安も生じている可能性があるが、「マイナス金利」導入後、金融政策や物価目標への人々の関心は高まったようだ。正しく認識してもらえればやがてそれなりの政策効果も出るだろう。「マイナス金利」ではなく「借得金利」など効果がわかる前向きなネーミングをなるべく使うようにしたほうがよいかと思われる。

足元、消費者物価指数前年比は、総務省コア、日銀コア、内閣府コアともマイナス幅拡大傾向か

デフレ脱却を目指し、2%の物価目標を掲げている日銀だが、目標となる全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合(コア)の前年同月比は3月分で▲0.3%と5カ月ぶりにマイナスに転じた。目標達成時期の見通しは後ずれしている。デフレからの脱却への懸念が高まってしまいそうな環境だ。東京都区部・コアの4月中旬分速報値の前年同月比は▲0.3%で一見3月分と同じだが、小数点第二位までみると▲0.08ポイントマイナス幅が拡大している。大阪市・コアでは4月分の前年同月比は0.0%で3月分から0.3ポイント低下している。4月分全国消費者物価指数コア指数前年同月比はマイナス幅が拡大しそうだ。さらに、日経ナウキャストS指数の4月の前年同月比が1.29%となり3月の1.81%から低下したことから、日銀算出の消費者物価指数・生鮮食品・エネルギー除く総合の前年比も3月分+1.1%から鈍化し、4月分では+1.0%に鈍化か、あるいは1%を割り込むと予測されることも不安感につながっている。

日銀は、GDP確報値と相関が高い、マクロでみた消費の実勢を表す指標として「消費活動指数」を開発

なお、内閣府も独自のコア指数をこれまで「月例経済報告」の中で、公表してきたが、3月から総務省の発表日にHPに掲載するようになった。内閣府流のコア指数は、消費者物価指数・生鮮食品を除く総合から、石油製品、電気代、都市ガス代、米類、切り花、鶏卵、固定電話通信料、診療代、介護料、たばこ、公立高校授業料、私立高校授業料を除いたものだ。内閣府流コア指数(固定基準)2月分の前年同月比は、日銀のコア指数と同じ+1.1%だったが、3月分は+1.0%と0.1ポイント鈍化した。

独自の指標を作成する動きは続いており、日銀はマクロでみた消費の実勢を表す指標として「消費活動指数」を開発した。GDP確報値やマインド指標と相関が高いという。振れの大きい家計調査などの需要側統計を使用していないなどの特徴がある。訪日外国人消費のインバウンド消費を除いた消費活動指数や、新たな消費活動を柔軟に取り込む実質消費活動指数+(プラス)も提供している。コンテンツ配信業に関する統計を取り込んでいる「実質消費活動指数+(プラス)」は足元も幾分底堅そうだ(図表4)。

足元の身近な社会現象は景気底堅さを示唆、熊本地震の影響は要注視

5月1日の中央競馬・天皇賞の売上が前年比+5.4%となるなど、足元の身近な社会現象は景気底堅さを示唆するものが多い。3月分有効求人倍率が1.30倍と約24年3カ月ぶりの高水準になったことに代表されるように雇用面はしっかりしている。昨年18年ぶりに2万人台前半まで低下した自殺者数は、今年1~3月でも前年を8%下回って減少している。実質賃金は統計サンプルの影響がなくなり2月分で前年同月比+0.3%とプラスだ。企業収益改善→雇用所得改善→需要増のメカニズムは弱いながらも何とか生きている。

熊本地震の影響は終息時期も含めまだ不透明だ。揺れが強かった地域を中心に工場・店舗等の被害や従業員等の被災により、企業活動に大きな制約が出ている。生産面、消費マインドにマイナスの影響がある。熊本には半導体や自動車の産業集積地域があり、当初はサプライチェーンを通じて他地域の生産にも影響がみられた。当面の鉱工業生産指数などの下押し要因になり、マイナスの影響に十分留意する必要があろう。一方で、交通インフラ等は復旧しつつあり、九州新幹線や高速道路といった九州を南北につなぐ大動脈が、4月中には復旧した。熊本産商品を購入する被災地支援の動きも出ている。必要以上に、人々の漠然とした心理が強まり、財布の紐が締まることがないよう期待したい状況だ。先行きは政府の対策をはじめ、復旧・復興の動きが景気にはプラスに寄与しよう。

今年は、ラニーニャ現象発生の可能性もあり、夏場の消費を支援しよう。今後、発表される政府の政策効果などと合わせ、年後半の景気持ち直しを期待したいところだ。